第五十一話:父の真相
「――京都でスーツは目立つからの。着替えは用意しとるから、今後のことは支部の者に従うがよい」
京都の長、麻呂麻呂さんとの顔合わせは終わった。
しっしっしっと犬のように俺たちを追い払う彼女。少し失礼だと思ったので目を細めて見つめると、「ひゃぅっ!?」とか声を出して平さんの後ろに隠れた。面白い。
「あぁ姫さん、そういやシオンの坊ちゃんに話があったのでは?」
「えぇー、なんかもうやだでおじゃるよ!? だってコイツ怖いし!」
怖くないんだが? 意味わからんこと言わないでほしいんだが?
「俺は善良な一般市民なんだが?」
「いやどこがでおじゃるか……! 真緒とかいう年若いくせに乳だけデカいカノジョといきなり変なプレイ始めるし、妾にも手を出そうとしてくるし、なんか目が死んでるし、それに資料によると大妖魔・九尾と融合してて、蘆屋家の跡取りをボコグチャにしてて、入隊翌日に英霊型妖魔を無傷で屠ってて……いやなんだこいつぅ……?」
化け物を見る目で俺を見てくる麻呂麻呂さん。なんだと言われても俺は俺だが。
「まぁよい。貴様に聞きたかったのは、『四条』という名字についてだ」
「なに?」
俺の名字がどうかしたのか? ほしいのかな?
「なら使用権をやろう。四条麻呂麻呂と名乗っていいぞ」
「って嫌じゃボケェ! あと貴様名字わけあたえる意味がわかってるでおじゃるか!?」
なぜか顔を赤くしてしまう麻呂麻呂さん。いやまったくわからないんだが。
「俺の社会の知らなさを舐めないでほしいな」
「なんで偉そうなんじゃ……。ともかく、貴様の『四条』という名字はかなり特別じゃ。なにせ、公家の古き一族のモノじゃからのぉ」
「くげ」
なんだそれぇと首を捻る俺に、平さんが耳打ちしてくれた。
曰く、天皇様に仕える超偉いお家のことらしい。マジすか。
「じゃから一応、四条の者に『シオンという末裔の子はいるか』と手紙を出してみたんじゃがなぁ。普通に『そんな西洋かぶれな変な名前のやつはいない』と返されたでおじゃる。そりゃそうじゃと思ったわ」
「西洋かぶれで変なのか、俺の名前……」
それはちょっと知りたくなかった……。
数少ない俺の持ち物なだけに、なんかへこむなぁ。
「父さん、なんでこんな名前をつけたんだろ……」
「知らんわ。というか、その父親の名前はなんでおじゃるか? もしもソイツまで四条家に縁もゆかりもない者なら、勝手に公家の名字を名乗ったということでちと面倒なコトになるが」
えぇ……よくわからんが怒られるんだろうか。それはかなり避けたいところだ。
そう思いながら、俺は父の名前を告げることにした。
「もうとっくに死んでいるが――四条鳴命という名だったな」
「ッッッ……!?」
瞬間、麻呂麻呂さんは小さな身をこわばらせた。
さらに平さんまでもが口元を引きつらせ、「おいおいマジかよ……」と呟きながら目を細くする。
「どうしたんだ、二人とも? 父がどうかしたのか?」
「いや、どうしたも何もなぁ……」
気まずげに俺を見る麻呂麻呂さん。
やがて彼女は、ぽつりと告げた。
「四条鳴命は、京都支部の裏切り者でおじゃる」
――妖魔の女を連れて逃げた大罪人。
それがヤツだと、麻呂麻呂さんは言った。




