第五十話:謎の計画
「なんじゃぁ貴様は!? いきなり撫でてきおって! ころッ――むぐぅ!?」
小さくて変な子供・近衛麻呂麻呂さんが何か言おうとしたことで、平さんが彼女の口をふさいだ。何言おうとしたんだ?
「いやァウチの姫様が騒がしくて悪いねェ。こちらが支部長の近衛麻呂麻呂、まだ十歳そこらのクソガキだよ」
「クソガキじゃとォッ!?」
クソガキらしい麻呂麻呂さん。長谷川さんみたいに見た目アレなおっさんじゃなくて何よりだ。
それにしても。
「支部長というのは偉い立場なんだろう? 十歳で就任など、できるのか?」
俺の大好きな土御門統括なんておじいちゃんだ。
故郷の村長も年老いてたし、やはり上の立場というのは多くの経験を重ねた人物がなるモノじゃないのか。
そう疑問に思う俺に、麻呂麻呂さんはフフンッと鼻を鳴らしてきた。
「問題ないのじゃ。なにせ近衛家は特殊でなぁ、“先祖の知識”を引き継ぐ巫装を生まれながらに発現するのじゃよ」
そう言って、フリフリな袖からちっちゃい片手を突き出してきた。
その手の甲には、明るい水色の玉が埋め込まれていた。これ痛くないのかなぁ?
「つんつん」
「ってつつくなァッ!? やはり妾を舐めているだろう貴様! ブッころ――むぐッ!?」
再び何か言おうとしたところで、平さんがまたも彼女の口をふさいだ。
「そんなワケで、姫さんは生まれながらに耳年増なわけよ。だから業務は問題ないけど……まぁ引き継がれるのは知識だけだからねェ。精神年齢は年相応のクソガキなわけさ」
「またクソガキって言ったァーーッ!? おい平ァッ、妙な計画を立ててきたことといい、貴様最悪でおじゃるぞッ!?」
平さんの脛をゲシゲシ蹴る麻呂麻呂さん。
妙な計画というのは何だか知らんが、二人とも仲良さそうで何よりだ。
「はぁークソまったく……! ともかく、妾が京都で一番偉大な人物だと覚えておけばよい。妾のことを舐めてたらマジで後悔するからの? 部下たちみんなに言って、そいつ無視してやるからの? わかったかえ? ふひひひひひ!」
「すンません姫さん、偉大さの欠片もない発言はやめてください。京都の恥です」
「京都の恥!?」
ガーンッと固まる麻呂麻呂さんを放置し、平さんは話を進める。
「坊ちゃんたちには今日から京都の警備を行ってもらう。表向きな立場は、京都の女衒屋ってところだ。女性陣のほうは、悪いけど遊女さんってことでヨロシク」
ぜげん? ゆうじょ?
首を捻る俺に、真緒が顔を赤くしながら「女衒っていうのは、女性を売る人のことだよ。それで遊女っていうのは……アレする女の人のこと……!」と説明してくれた。
ふぅむ、アレってなんだ? そこぼかされたらわからないんだが。俺は勉強中の身なので学ぶ姿勢でいくぜ。
「なぁ真緒、アレとはなんだ? 教えてくれよ」
「えっ、それは、男女で恥ずかしいことをする人のことで……!」
「恥ずかしいことってなんだ? 詳しく、はっきりと、口に出して教えろよ」
「はぅうううううっっっ!?」
――そうして問い詰めてると、麻呂麻呂さんに脛を蹴られた。痛い。
「きっ、貴様、妾の前で変なプレイを始めるなッ!」
「プレイ? プレイってなんだ、教えろよ詳しく。口で言えないなら実践でもいいぞ?」
「ってひぁああっ!? 妾にも毒牙向けてきたぁーーーっ!?」
なぜか叫ぶや、平さんの後ろに隠れてしまう麻呂麻呂さん。
やっぱり変わった人だなぁって俺は思った。




