第三十七話:愚かなる名案
「大妖魔衆『天浄楽土』。アレらは着実に、この国を侵食している」
国家最強の特等陰陽師らに向け、清明は語る。
「やり口は極めて慎重。『大首領』なる者の術により、部下共は組織の情報を一切吐かないようされている。おかげで敵の総数すら分からない」
これが非常に厄介だ。
どんな争いにも、“相手をどれだけ倒せば勝ち”という判断基準が必要になる。
されどそれさえ判別つかないとなれば、いくら戦果をあげようが、陰陽師側はまるで安心できない。
「まぁつい先日知らされたと思うけど、敵方に『七大幹部』なる連中がいるってことだけは、僕の新しい陰陽札でわかったんだけどねー」
得意げな顔をする清明。
幹部数の判明については、“清明新開発の札の効果で、敵の魂から情報を一部抜き出してわかった”ということにされていた。
だが実際は、彼の部下であるシオンが『妖魔食い』を行い、敵の意識を取り込んだことで明らかになった情報である。
そのため清明の得意げな顔は“僕の部下すごいよね~!”という意味なのだが、それを知らない者たちからしたら自画自賛しているようにしか見えない。
「――はいはい、アナタはたしかに凄いですよ。その才覚の何割かを、人間力に割いてくれると嬉しいんですけどね」
眼鏡を持ち上げながら言ったのは、特等陰陽師“第三席”『天草什造』である。
清明と同じく『八咫烏』東京本部に属するこの男。そのぶん清明の適当な言動に振り回されることが多いため、かの天才に対しては割と辛辣だった。
「その札は量産できないのですか? 我々にも配ってくださればいいのに」
「あぁすまない。なにせ、偶然生まれた代物でね。たった一枚しかない、切り札なんだよ」
――大妖魔・九尾と融合した少年、四条シオン。その稀有な存在を、清明は暗に仄めかす。
「ともかく、ソレのおかげで『天浄楽土』の情報が探れるようになった。ならば後は、重要な情報を持っている者をどう釣り上げるかだ」
胸元から一枚の札を取り出す清明。それを大机の中心に投げると、札は光の粒子となって霧散し、日本列島の図を空中に作り上げた。
「って清明、これは一体!?」
「『幻燈札』だよ。ある技術者と共同開発中の陰陽札で、まぁ撮影機のスゴイ版と思ってくれればいい」
「ある技術者って……それは……」
時代を先鋭し過ぎた代物を前に、天草の脳裏に一人のふざけた少女が浮かぶ。
そんな彼にフッと笑いながら、清明は「話を戻そう」と視線を図に向けた。
「まずはこれを見てほしい。『天浄楽土』に属する妖魔が、これまで襲撃してきた場所だ」
指を鳴らす清明。すると日本地図のあらゆる個所に、赤い点が浮かび上がった。
気味が悪いほど万遍がない。その蜂の巣の穴のような等間隔ぶりに、天草は薄ら寒いものを覚えた。
「これは……」
「こうして見ると凄いよねー。奴らは活動を始めたと思しき十五年前から、一切の偏りなく日本中に現れている。おかげで、どこに本部があるかも予想できない始末だ」
敵の総数もわからず、本部――つまりは敵の首領がいる場所も不明。
これは地味に詰んでるよと、清明は特等陰陽師らに告げた。
「将棋でいえば、敵駒の数も動きも王将がどこかもわからない状態だ。このままじゃ嬲り殺しだよ」
敵は終始、一般人の捕食に徹しているため、陰陽師側に際立った被害は出ていない。
されどそれは今だけの話だ。敵が全力の攻勢に出たら、果たしてどうなるものか。
「敵の首領とやらは凄いね。妖魔ってのはヒトへの害意で暴れ散らかすモンだが、上手く自分を律してやがる。そして部下を巧みに操り、練兵に徹し続けている」
妖魔はヒトの恐怖より生まれた存在。ヒトの血肉と、何より恐れを養分とする生物。
それゆえ人間を傷付けたいという衝動に理性が溶け、迂闊な行動を取って狩られる者は後を絶たない。
そんな生物学的欠陥を抑え、闇に潜み続けているのが『大首領』である。
「おそらくはかなり名の知れた武将で、なおかつ“悲願を前に夢破れた者”って感じかな。人徳と戦略性と慎重さが半端ないよ。……ウチの土御門統括と入れ替わってくれないかなー」
「――フッ、それなら遠慮なく殺せるな……!」
清明の冗談に、赤髪の女傑・サヤエが微笑んだ。
なお冗談の面白さを笑っているのではなく、本気で“そうだったら楽しそうだ”と思っているがゆえの笑みだが。
「ともかく、敵の動きは全く読めないってことだ。これじゃ、重要な情報を持った幹部級妖魔はいつどこで出会えるかわからないよね~。サヤエさんどうする?」
「私が知るか。おい清明、名案があるならさっさと言え。五秒以内に言わなきゃ殺す」
「えーッ!?」
天草と違い、サヤエは清明の言動に惑わされる気は一切なかった。
炎の宿った剣を抜き、本気で死への秒読みを始める。
「ごー、よん、さん……」
「あれ、『殺す』に『秒読み』……なんかトンデモないことを忘れてるような――って待った待った! 言うから待った!」
ストップストップッと騒ぐ清明に、サヤエはチッと舌打ちしながら剣を収めた。
「どうせ私ごときには殺されんくせに……。いいからはよ言え」
「はいはい。それじゃあ言うけど……ぶっちゃけコレは名案じゃなくて、むしろ逆だよ」
「なに?」
訝しむサヤエ。他の天草や平たちも首を傾げる中、最強の陰陽師は彼らに告げる。
「いっそのこと――馬鹿になってみる気はないかい?」
※蘆屋くんはあと4日くらいで死にます。
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