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薄紫の花への我儘

 3月もそろそろ下旬に差し掛かった。

 お互いの心を曝け出したあの日以降、彼女は日に何度か可愛らしい我儘を言うようになった。


 「髪の毛梳かして♡」

 「あーんして♡」

 「ぎゅってして♡」

 

 「………(天使かな?)」


 望む通りのことをしてやると、彼女は花が咲いたような笑みを浮かべてくれる。俺にとっては彼女の笑みこそが何よりの報酬であるし、そもそも彼女のメンテナンス(お世話)は俺の仕事で俺が望んでいることだ。そのため、彼女が持ちかけてくる取引は、俺にとってメリットしかないのである。

 しかしながら彼女はこのことについてあまり快く思っていないようで、彼女の怒りは今朝の朝食後に噴出した。


 「私は今怒っています」

 「ごめん……」

 「ちょっと!!何も聞かずに謝らないでよ!!」

 「親父は何かにつけて俺の細かい粗を探すのに長けていてな……何が原因で怒られてるのか偶にわからなかったから、怒られたらとりあえず謝るのが自分の骨身に沁みてるんだよ」

 「ちょっ、やめてよそんな新事実明かすの!!怒れなくなっちゃうじゃん!!」


 「大丈夫?怖くなかった?」と憐れんだ彼女に頭を撫でられた。最近彼女は事あるごとに俺の頭を撫でてくる。あんまりやられすぎると母性を見出しそうになるので、彼女には程々に頭を撫でてほしいところである。

 ありがとうと彼女に軽いハグをし、食器を片付ける。

 「うん……」と、しばらくの間優しい目をして俺のことを見守っていた彼女は、俺が4枚目の皿をスポンジで泡立てていた頃になってようやく本来の用件を思い出した。


 「いや違う、違うよ。私が怒ってるって話だよ」

 「そうだった。……髪の毛お団子にするのはやっぱりまずかった?」

 「それは最高だよ!!大好きだよ!!」

 「ありがとう」

 「じゃなくてェ!!!!」


 今日の彼女はテンションが高い。元気が良いのはいいことだった。


 「……じゃなくてね。私が怒ってるのはね」

 

 そこで彼女は俺に向かってびしっと指を差した。


 「春人君がぜんっぜん我儘言ってくれないことだよ!!」

 「…………?」

 「そこ首傾げない」

 「いや……結構言いたいことは言ってるつもりだから、ちょっとお前が何言ってるかわかんないんだよ」

 「え〜〜?」


 これに関しては一切嘘をついていないのだが、どうやら彼女は信じてくれないらしい。


 「お前が言ったのは、言いたいことあったら遠慮なく言うみたいな話なわけでしょ?それは無理に我儘言わないといけないっていう話じゃなかったはずだ。だろ?」


 早々に皿を洗い終わり、エプロンを丁寧に畳んでから、彼女が立っているテーブル近くの椅子に座る。所詮2人の朝食なのだから、皿洗いにそこまで時間をかける必要はなかった。


 「そりゃそうかもしれないけどさぁ……」


 彼女は口を尖らせながら、身体を所在なさげに震わせた。

 その身体の動きに合わせて、髪のお団子がゆらゆらと揺れる。

 その光景が若干面白かったので、結わえたお団子を人差し指で弄んだ。


 「うあー」

 「こういうのは俺の我儘に該当するだろ、髪の毛弄ったりとか。それで満足してくんないのか?」

 「ん~、私に対して良いことしかないしぃ……」

 「なーに言ってんだいお前は」

 「ふみゅ」


 髪を弄るのをやめ、両手で彼女の頬をサンドする。


 「俺はお前の世話をするのが結構楽しいんだ。髪梳いたりとか拭いたりとか色々な。……別に、相手が必ず不利益を被るのが我儘の全てじゃないだろ。存分に俺にお世話されてろ」

 「そう、それだよッ!!」

 「うわ急に叫ぶなよ」


 彼女が急にグラスアイをカッと輝かせて勢いよく叫んだ。

 なんでこいつの感情に呼応して瞳が発光するんだ?


 「なんか私だけめちゃくちゃ春人君に尽くされてるじゃん!!このままじゃ私春人君を扱き使ってるだけのすごい嫌なやつになっちゃうじゃん!!」

 「別に周りに知られるもんでもないんだからいいじゃん」

 「私がヤなのぉ!!私だって春人君に尽くしたいもん!!尽くさせろぉ!!」

 「うーん我儘」


 だが気持ちはわからないことはない。余りにも世話を焼かれると申し訳ない気持ちになって、自分も何かしないとまずいんじゃないかというような気分になるのは、往々にしてあり得ることだ。

 それこそ俺は例の義母に世話を焼かれ続け、似たような焦燥感に陥ったことがあった。それゆえ料理や運動など、彼女の手をなるべく借りなくて済むように心を砕き、腕を磨いたたものである。


 「………」


 とはいえ彼女は人形。現実問題としてとてもじゃないが身の回りのあれこれを自分で出来るようには設計されていない。人形とは一人では生きることのできないか弱き生物なのだ(?)。

 つまりそれは、俺と同様の手段ではその焦燥感から脱却することはできないことを意味していいるのである。

 やだやだー私も何かしてあげるのぉーと人形がじたばたするので、四肢がぺしぺしと俺の二の腕に当たり若干痛い。()()が俺の二の腕を赤くする前に、俺は彼女の暴走状態を鎮める必要があった。

 

 ……()()


 「そうだ」

 「はえ」


 俺は動きを止めた彼女にずいっと近寄った。


 「あったぞ。お前へのお願いだ」

 「なによ。言っとくけど尽くしメーターが100になるまで今日一日私面倒臭い女になるからね。よっぽどのこと言わないと100行かないから」

 「もうすでにそこから面倒臭い」


 謎の概念を持ち出して再び騒ぎ出そうとする彼女を両手で持ちあげて黙らせ、俺は彼女に向かって口を開いた。


 「いいか、お願いの前提としてよく聞け……。俺はお前とはまだ知り合ってばかりの関係だ。お前のことはまだよく分かってない所がいっぱいある」

 「う、うん」

 「だがな……正直俺はお前のことを本当の家族だと思っている。最早ただの人形として見られないぐらいだ」

 「えっ、えぇぇえ!?」


 彼女と仲直りをしたあの日、俺は倉良場店長や†黒百合†さんに対して、人形のことを「妹」と呼称した。だがそれは決して彼女らに対する誤魔化しではなかったのだと、今であればわかる。今や俺にとって彼女の存在は、妹もしくは姉とでも呼ぶべきものへと昇華していたのであった。

 ちょっ、え、なんで急にそんなと、陶器のような顔を真っ赤にしてわたわたと振動する人形には構わず、俺は言葉を続ける。


 「そう、お前は俺にとってたった一人の家族……。それぐらいにお前のことが大切な存在になったんだ。……お前も、そう思ってくれるか?」

 「ひゃ、ひゃい!!なりますっ!!春人君の(モノ)になりますッッ!!」

 「今お前を人形(モノ)には見えないって話をしてたはずなんだけど……?」

 「え、結局私、脱げばいいんですか……?」

 「なんで……?家族にいきなりそんなこと求めないよ……?」


 明らかな興奮状態で着物をはだけさせようとする彼女のことを、俺は必死になって宥めた。

 彼女は思いのほかすぐに興奮を冷ましたが、今度は左手を頬に添えながら、机にのの字を描きだした。


 「えー、もー春人君が思ったより肉食でびっくりしたぁ……。ときめきゲージがもう100越えちゃってるよぉ……」

 「ここにきて新要素追加すんのやめてもらっていい?まだ本題話してないし」

 「えっ……いいよ……。今なら私なんでも聞いちゃう……」

 「そりゃ助かる。確認だが、お前さっき同意してくれたんだし、お前も俺のことを家族だと思ってくれてるんだよな?」

 「そ、それはもう!!春人君のこと大好きです!!ちゅっちゅ!!」

 「お、おう。そういうことなら話が早い。お前に対するお願いなんだが―――」


 俺は一旦呼吸を整え、真剣な表情で彼女の瞳を見つめる。俺の真剣な気配に釣られたのか、なぜか唇と尖らせていた彼女も、居住まいを正して俺の眼をまっすぐに見つめ返してきた。

 いざ改まってこのことについて言及するのはこっぱずかしいことこの上ないのだが、互いが互いを家族であると認識しているのであれば、このお願いは避けて通れない話なのであった。


 「――――お前を、名前で呼ばせてほしいんだ……」

 「………え?今までの壮大な前振りに対して、それ?」

 「い、いやいや。重要な話だろ。名前だぞ名前」

 「名無しの私に名前の重要性を説かないでよ」

 「……は?リカちゃんとか、メルちゃんとかあるんじゃないのか……?」

 「呪いの人形だよ?」

 「そうだった……」


 彼女と親密になりはじめた段階で薄々感じていたことがあった。

 それは、いつまで経っても彼女のことを名前で呼ばないのは人としてまずいのではないか、という焦燥感と罪悪感の煮凝りである。

 最初の頃、すなわち初めてドールショップに足を運んだ時分なぞは、彼女に段々と特別な感情を抱いていた段階であったものの、俺にとってはあくまで彼女は人形という「物体」であった。それゆえに彼女を「人形」と呼称することには何ら抵抗が無かったし、実際に俺は彼女をそう呼んでいた。

 しかしいつの日か、彼女を大切な存在であると認識するにつれて、俺の中で彼女を「人形」と呼ぶことに対する抵抗感が発生するようになった。何人も当人の大切な人に対して「人間」などと呼称することがないように、俺はたとえ独白であろうと彼女を「人形」と呼称することを嫌うようになっていた。

 ただ一つの問題として、俺は彼女から名前を聞き出す機会を完全に失っていた。本当は最初の方に勇気を出して彼女に聞いていれば良かったのだが、親密になればなるほど、改まって彼女から名前を聞くことが、俺にとってひどく恥ずかしいと感じられることになっていったのだ。

 そんな状況下で、彼女に何かおねだりをしろ尽くさせろと要求されたことは、俺にとって僥倖だった。それゆえ長い前振りで自分の羞恥心に決着をつけ、満を辞して彼女に名前を聞いたというのに、待っていたのは名無しという予想外の結末であった。

 と、頭を抱えた俺を見かねたのか、彼女がおずおずと口を開いた。


 「……そんなに私を名前で呼びたいならさ、春人君が私の名前考えてよ」

 「……俺が……?生まれてこの方まともな名前なんてつけたことないのに……?」

 「いいよ別に。どんな名前つけてくれても。…そ、それに私だってダーリン(春人君)からは特別な名前で呼ばれてみたいし……ね」

 「ま、まあそういうことなら……」


 再びいじいじとのの字を描き出した彼女を見て決心を固める。彼女の名付け親になるという決心である。


 「……ま、早急に決めなきゃだよな。例えば万が一雑踏ではぐれた時に、人形人形って呼びまわすわけにもいかねえし」

 「あー、それは確かにあるね。じゃーあ、人前でも呼べるかわいい名前でよろしくね」

 「……そうだな。お前は()()()()()()()()()、ちゃんとかわいい名前をつけないとな」

 「………あ゛?」


 彼女の口からこの世のものとは思えない重低音が聞こえた。


 「……今なんてった?」

 「ちゃんとかわいい名前をつけないとな」

 「その前」

 「妹みたいなもんだし」

 「……ときめきゲージマイナス100億点だよッ!!……それはそれとして妹だと思ってくれるのは嬉しいけどねぇ!!!?」


 きっと俺と彼女の間に何かの認識齟齬があるのだろうとは思ったが、俺はそのことについて考えることを意図的に避けた。その理由は自分でもよくわからなかった。


 それはそうと、彼女の声色は嬉しいと思っているやつの出すものではなかったと思う。






 「そんな、何とかわかりませんか」

 『無理だよ、だってアタシまだ未婚だもん。名付けのコツとかわかるわけないじゃん』

 「……っ、ダガーさん……」

 『クロユリだもん……』


 素人の浅知恵で名前を決めること程愚かしいことはない。

 そう判断した俺は、端末の中に入っている数少ない大人達に意見を求めることにした。

 現状一番頼りになる女、倉良場店長への電話はなんと留守録により失敗し、今はスペアの†黒百合†さんに意見を仰ごうと通話を行っている。

 が、その結果は惨憺たるものであった。


 『もっとさぁ、アタシ以外に頼れる大人いないわけ?』

 「倉良場店長に聞いたら……電話に出てくれなくて……」

 『あー……まぁ野菊ちゃんはそりゃ今仕事中だから出るの難しいでしょ。ていうかあの人結婚もしてなけりゃ子どももいないから参考にならない気がする……しょっ』


 あれだけ年上風吹かせているものだから家庭のある人なのかなと勝手に期待していたのだが、よく考えたら彼女は年中眼帯ゴスロリだった。世間一般的にはちょっと結婚するのは二の足を踏まれる人だった。

 

 『いやつーかさ、名付けるのって君の持ってる人形ちゃんなわけでしょ?好きに名前つけてあげたらいいじゃない……ほっ』

 「そういう訳には行きません。名前ってのは大事なもんです。一度つけたものは簡単には覆せない。……俺は彼女に後悔のない名前をつけてあげたいんです」

 『うーん、まあ名前―――――同感だけど―――ぇ』

 「めっちゃ電波悪くないですか」

 『大丈夫大丈―――』

 「もうそれがすでに大丈夫じゃないもん」


 思えば時々彼女の息が漏れていたので、もしかしたら彼女の仕事中か何かに電話をかけてしまったのかもしれない。


 「あの、お忙しいんだったら切らせてもらいますけど」

 『…あー、そろそろお客さんが来るからねぇ。そっちの方がありがたいかなー』

 

 失礼しますと告げ、こちらから着信を切った。仕事中だというのに通話に応じてくれるとは、†黒百合†さんは妙なところで義理堅い所がある人だと俺は思った。

 

 「いややっぱダメだよ…。今平日の10時だもん…。誰にかけても絶対出ないよぉ……」

 「店長はいつも暇だから別にいいって言ってたし、†黒百合†さんに至っては夜勤って聞いてたんだけどなぁ…」


 一応俺なりに気を遣ったつもりだったのだが、2人ともことごとく忙しいようだった。俺は若干の申し訳なさを覚えた。

 携帯端末の連絡先をスワイプしていく。一度勢いよく親指を滑らせるだけで連絡先は最下層まで行き着いた。改めてみても俺の連絡先にはロクな大人がいない。


 「なあどう思う。イギリスに行った時ガイドしてくれたマルコさん。いきなり国際電話かけたら着拒されるかな?」

 「通話料あほあほになっちゃうからやめた方がいいよ…」


 それもそうかとマルコの文字をタップするのを取りやめる。そのままゆっくりと画面を上方向にスライド。た行に差し掛かった所で動かしていた親指を止めた。


 戸山栞。

 唯一のタ行。

 唯一の幼馴染。


 未だ上原栞とも義母ともしなかったのは、俺の中に僅かながらの未練があったからなのかもしれない。

 あまり自分から彼女に対してアクションを取るのは消極的であったのだが、今回のケースに限って恐らく彼女は適任だ。

 何せ彼女は妊婦だ。もうすぐママだ。少なくとも俺の端末内に入っている連絡先の中では、1番名付けというものに一家言ある女性のはずであった。

 そうと決まれば俺にためらいはない。大切な人のためであれば、俺は泥でも食らって見せよう。


 「なあ」

 「ど、どうしたの春人君」

 「今から俺のことを全力で応援してくれ」

 「えぇ………」


 若干丸めたチリ紙をポンポン代わりに、彼女は関節部が許す限りのハイキックで俺をチアする。

 引き気味だった声と裏腹に相当ノリの良い、可愛い自慢の妹だった。


 『も、もしもし』

 「あぁ、俺だけど」

 『ハル君……』


 2コール程で聞こえた久しぶりの義母の声は、若干疲れているようだった。いつもの溌剌さというものが無かった。ただ、彼女のキンキンとした声は耳障りだったので、トーンダウンしている彼女の今の声は、俺にとって非常にありがたかった。


 「……どうしたの、体調悪い?」

 『いや、そんなことはないんだけどね……』

 「絶対悪いだろ。産婦人科行った?」

 『大丈夫。ホントにそういうのじゃないの』


 義母は妊娠から5、6ヶ月ほどが経過している。そのため、身体に何らかの変調が起こっていてもおかしくはない。そう思ったので、俺は彼女の様子を伺ったのだが、彼女の口調からしてどうやらそういうことではないらしかった。

 そこまで考えてから、彼女と最後に話したのが、三流巫女と共に自宅へと訪問してきたあの時であったことを、俺は思いだした。思えばあの時から、義母に対して定期的な連絡を入れることを俺は怠っていた。それは単に忘れていたからというのが理由なのであるが、義母のローテンションにはもしかするとこのことが関係しているのかもしれなかった。


 「ごめん、最近電話してなくて」

 『あ、う、ううん。いいよ。こっちも、ごめんね。この前急に押しかけて。……怒ってる、よね』


 厳密には、急におしかけてきたことよりも、俺の大切な家族のことを好き勝手言ったから怒ったのであるが、そんなことを義母に説明しても無駄である。それに、今日の俺は過去にはたらいた義母の非礼について話をするために電話をかけたわけではなかった。そういうわけで、早急に用事を済ませることにする。


 「いや、もう怒ってないよ。いつまでも前のことを引き摺るほど餓鬼じゃない」

 『………ッ、ほんと……!?……よかったぁ……』

 「おう、それでな。栞さんに聞きたいことがあるんだ。いいか?」

 『う、うん!!なんでも聞いて!!』


 本当は全く根に持っていないわけではなかったのだが、話がややこしくなる気がしたので便宜上義母のことを許す姿勢を見せておくことにした。幸い、その姿勢が上手くはたらいたのか、彼女は非常に協力的な態度だ。


 「人の名付け方について意見を聞きたいんだ。今度子どもができる友達から、一緒に名前を考えてくれって言われてな」


 もちろん嘘である。


 『え、名付け方か……。私、参考になるかな?』

 「俺よりはマシだろ。子どもが出来てるんだし」

 『ま、まあそれはそうなんだけど……』


 あくまで私の場合だから、参考になるかどうかわからないけど、と前置きしてから彼女は続けた。


 『思うに、自分がそうあってほしいと思う名前をつけるのが正解だと思うの。ハル君もそんな感じなんじゃないの?』

 「俺は春に生まれたからってだけだぞ。あとは11画ってなんか縁起いいらしいのもあるけど。とにかく俺の場合は全く参考にならん」

 『そ、そうなんだ。……私だと『栞』に道しるべって意味があるから、人を末永く導いてあげるような優しい子になってほしいって願いを込めて、お母さんがつけてくれたの』


 親父はとんでもないところに導かれたんだなという言葉を口に出すのは、ティッシュを振り回してゼエゼエ言っている愛すべき小さな妹の姿を見ることでなんとか踏みとどまった。とりあえず彼女にはもう休憩していてくれと手でジェスチャーをしておく。


 「それで、結局栞さんは俺の義弟になんて名前を付けようとしてるんだ?なんだかんだ聞きそびれてたしな。参考までに教えてくれよ」

 『あっ、うん!!この子にはね、私がそうなって欲しいなって思う大好きな二人の名前を取ることにしたの』

 「うん」

 『春忠―――――、』

 「あ、ごめん電波が」


 反射的に電話を切る。俺の背筋には冷や汗が滴り、口角はぴくぴくと痙攣していた。


 「………あのクソ女、とんでもないキメラを造ろうとしてやがった」

 「………え!?何があったの!?」


 そりゃあ栞がなって欲しいというのは性格とかそういうものを指すのだろうが、あえて言わせてもらうなら、産まれてくる子どもが幼馴染に脳破壊された後に教え子に手を出すような人間にはなってほしくない。

 と、端末の画面を厳しい顔で眺める俺の様子を伺いながら、彼女はおずおずと口を開いた。


 「春人君…。いいよ、あんまりうまくいかなかったんでしょ?だったら、自分が思った通りの名前をつけてよ。私、春人君がくれるものならなんでも嬉しいんだよ?」

 「やめろよ健気すぎて泣いちゃうだろ」

 「うにぃ」

 

 なぜか伸びる陶器のような彼女の頬を引っ張る。


 「黒百合さんにも言ったことだが、名前っていうのは付けられたやつの今後が決まる大事なものだ。ましてやそれが俺にとって大切な人であれば……一切の妥協はしたくない」

 「なんで私の頬むにむにしながらかっこいいこと言うんだろこの子……」

 「それに俺のネーミングセンスは良くないらしくてな……。直感で決めると不幸が待っているかもしれない」

 「え、別にそんなの私―――」

 「ゴマ太郎」

 「は?」

 「ゴマ太郎。いきもの係だった時、兎につけた名前だ。体表の色が似てたって理由でつけた。会心の名前だと思ったんだが……栞含め、クラスの連中には猛反対された」

 「……私の名前、じっくり考えてね」

 「任せろ」


 梅干し食った時みたいな顔をしている彼女を見るのはこれが初めてだった。


 とはいえ、助言の候補が尽きてしまった。「自分がそうあって欲しいと思う名前をつける」と言った義母の言葉は至極真っ当な意見だとは思うが、恵まれた発想から飛び出したクソみたいな名前をつけようとしている以上、彼女の意見のみを聞いて動くのは中々に癪だった。目立つ不祥事を起こしたバンドの曲を俺は聞かないタイプの人間である。

 と、そんな俺の苦悩を察したかのように、突如俺の携帯端末が着信を受けた。ディスプレイに表示された名前は………倉良場店長。

 俺は間髪いれずに端末のボタンを指で押した。未婚で子無しだと†黒百合†さんは言っていたが、何かの問題を解決することについては、俺は店長に対して絶対的な信頼を持っていた。


 「もしもしッ!!」

 『えっ、どしたの?』


 珍しく平日に来た客に対応していたという店長に、俺は電話の要件を簡潔に伝えた。

 粗方の事情を聞き終えた彼女は、フッという笑い声を電話口で漏らした。その声は、決して嘲りの色を含んでいるものではないような気がした。


 『まさか君がそこまで自分の子に熱を上げるとはね。十数日前とは大違いだよ』

 「それはそうですね。俺もここまで入れ込むなんて、当時は思ってもいませんでしたよ」

 『いや少なくとも片鱗は見えてたよ間違いなく』


 いやその話は今はどうでもいいか、と彼女は続ける。


 『名前ね。うん、君の考えは悪くないよ。ドールだって自分の子どもといっても過言じゃない。命名に頭を捻ることは悪いことではないさ。ただ、頭を捻り続けるのも良くない。考えすぎてヘンな名前になることもあるからね』

 「な、なるほど。……とはいえ、やっぱりそう簡単には思いつかず……」

 『まあ、そうじゃなきゃ悩んでないよね。……うーん、じゃあ一定のテーマを決めて考えてみたらどうだい?』

 「テーマ、ですか?」

 『うん、そう。範囲があまりにも抽象的すぎると、考えがこんがらがってどうすればいいのかわからなくなる。そんな時、何かのテーマを決めておくと、絶対にその中から選ばないといけなくなるから、思考が纏まりやすい。……論文と同じだよ、先生とかに教えてもらわなかった?』

 「ええもうバリバリ」


 なお、俺は論文指導を受ける前に持病が発覚したので大学を辞めている。平日に出入りしていることをあれこれ詮索されるのは面倒なので、倉良場店長には自分のことを大学生で通していたことを今更ながらに思い出した。


 『まぁこういう場合オーソドックスなのは花とかだね。知ってる、花言葉?』

 「あー……『薔薇』が『愛』、みたいな」

 『そうそう。花には花言葉として色々な思いがこめられてるからね。その思いを込めて花の名前を人につけることがあるわけさ。姉もそうだったし、私だってそうだ。野菊の花言葉は「清爽」だからね。その通りに生きられてるかわからないけど』

 「いや、店長の店はいつも綺麗ですよ」

 『それ多分「清掃」だね』


 まあがんばりなよ、なんていつものような泰然とした様子で彼女は通話を打ち切った。人が少ないとはいえ業務中に折り返しをしてくれる辺り、相当律儀な人だと俺は思った。


 さて、倉良場店長が述べた「花の名前を彼女につける」という方策は、非常に有効であると俺は思った。花言葉は「そうあってほしいという願いを込める」と言った義母の言葉に通ずるものがあるし、この我が新しい家族は、実はとある花と関連している。

 ちら、と彼女に視線をやる。俺の真剣な眼差しに気恥ずかしさを覚えたのか、彼女は自分の着ている赤の着物をかき抱くようにサッと自分の身体を抱きしめた。

 その着物には、紫色の花が描かれている。


 仮に倉良場店長の言う通り、花には思いが込められているとするのなら。

 彼女が最初から身につけていたこの着物に描かれた花は、きっと彼女がそうあるような願いが込められた花言葉を持っているはずなのである。





 彼女の赤い着物に描かれている花をよく観察すると、外側は紫色の花びらで、中央が黄色い。

 ……それしかわからないので、花を取り扱うサイトにアクセスする。文字を読むのが得意でないとはいえ、かろうじてカタカナ程度ならまあすぐに読める。俺は該当の花の写真がないか液晶画面を睨み、時折彼女の着物を至近距離で観察しながらページを飛ばし続けた。


 「カンザキアヤメ。でも違うかなぁ、全く形が…」

 「………」

 「クロッカスだって。でもちょっと長細すぎるかも」

 「………っ」

 「でもこれ若干菊に似てるんだよなぁ。でも菊って真っ黄色だよなぁ」

 「……〜〜っ!!」

 「あのさ―――」

 「近ァい!!」

 「ごめん」

 「近いよ!!私をドキドキさせてどうするんだよ!!」

 「ごめん」

 

 パーソナルスペースの侵犯についに耐えきれなくなったのか、彼女は「こんなのときめきゲージ急上昇じゃん…」などと不可解な言葉を吐きながら俺のことを睨みつけた。


 彼女に怒られてしまったので、仕方なく彼女を横目でチラチラと見ながら画像との比較を行った。

 そうはいっても一向にそれらしき花が見つからない。と、俺が首を捻っているところに、


 「実は存在しないのかも」


 と彼女がため息をつく。


 「その花がか?そんなことないだろ」

 「これ私が物心ついた時から着てたやつだよ?製作者不明の謎着物だもん」

 「最初から着てるものだからこそ、その着物はお前自身を表しているものかもしれない。お前の精神性がその花に表れてる、とか」

 「うーん、じゃあ碌な花言葉じゃないかも」

 「なんで」

 「呪いの人形だから」


 諦めたような顔をして、彼女は笑う。


 「私の呪いは…人間の食事や睡眠みたいなもの。望まなくても()()()が来たなら呪いをかけずにいられない。どうしようもないんだよ、私は」


 その時とは、俺の死後、呪いの対象として次の誰かを定める時ということだろう。


 「………」


 ページを捲るスピードが速くなる。

 彼女の言っていることは恐らく合っているのかもしれないが、今俺は無性に彼女の言を覆したい衝動に駆られていた。

 そしてそのちっぽけな反証の手掛かりは、きっとその花にこそあるのだとも思っていた。

 

 紫色の花でダメならキク科の花で調べるまでだ。確かに着物の花は菊のように見える。であれば、俺は俺の直感を信じるまでである。


 「頭の中の声に、確かに私は逆らえる」


 ……ああ、前聞いた。


 「でも私自身が確かに誰かを呪わなきゃって思ってる。だから私は誰かを呪い続けるの」


 ……確かにその通りなのだろう。

 でもだからって、お前の素はとても呪いの人形なんかじゃないよ。


 「そんな私の精神性、ロクなものじゃ―――」

 「―――アズマギク」

 「―――はえ?」

 「いやだから、その花。着物についてるやつ」

 「え、うそ、本当にあったの……?」

 「ほらみて」

 「ほんとだアズマギクだこれ……」


 キク科の花で検索をかけた結果、思いの外すぐに目当ての花は見つかった。その正体はアズマギク。キク科ムカシヨモギ属の多年草である。らしい。ネットの情報が正しければ。

 

 「……花言葉は『しばしの別れ』『しばしの憩い』、それと」


 彼女の目をまっすぐ見る。

 

 「―――『尊い愛』」

 「………っ」


 その言葉を聞いた彼女は遠目からでもわかるほどはっきりと顔を歪めた。


 愛の反対は無関心なんて言説が最近は囁かれている。愛を向けられることが最も嬉しいことならば、その対極である辛いことは誰からも関心を向けられない無関心であるというのだ。

 俺はその言説を頭から否定するつもりはないが、こと誰かが誰かに対して感情のベクトルをぶつける行為に限るなら、きっと愛の反対は憎しみ、恨み、()()であると俺は思う。

 そして彼女のあの顔を見るに、彼女はきっと俺と同じことを考えている。愛の反対が呪い、呪いの反対こそが愛であると。


 そして彼女はこうも考えているのだ。


 呪いの化身たる自分が、なぜ呪いの対極たる愛を象徴する花を身に纏っているのか、と。


 「まあつまり、お前は結構ロクなやつだったってことだよ。俺の思ってた通りだ」

 「い、いやッ!!これは何かの間違い!!そ、そう!!これアズマギクじゃない、とか」

 「さっきお前アズマギクって認めてた」

 「い、いやそれはそうだけど……。じ、じゃあ、別に花の模様は私にあんまり関係ないとか……」


 それを突かれると痛い。彼女の着物の花はただの飾りで、彼女の精神性になんの関係性もない。…という説を覆す証拠を俺は一切持ち合わせていない。


 「それはその通りだ。もしかしたらお前とアズマギクは何の関係もないのかもしれない」

 「そ、そうだよね!!だったら―――」

 「でも俺は関連づける」

 「えっ」

 「お前は俺が今まで見てきた多くの人間よりよっぽど人間らしい。お前は俺にとっての憩いになっているし、何より愛がある。お前が俺のことを気遣ってくれるのは、きっと人に対してきちんと愛を持っているからなんだって思うよ」

 「……だからこの花が私みたいだって?そう言いたいの?」

 「そう」

 「そんなの……おかしいもん。私、私本当に呪いの人形なんだよ?愛、なんて……」

 「お前俺のこと大好きなんだろ」

 「そ、れは、言った、けどぉ……」


 歪めた顔のまま、白磁のような色がサッと朱色に染まる。その姿は見ていてとても愛らしい。


 「…別にな、お前が呪いの人形であることを否定するつもりはないんだ」

 「……えっ?」


 彼女の表情は先程から打って変わって困惑の色を見せた。俺は今まで彼女の善性を訴えていたというのに、急に悪性を認める発言をしたのだ。彼女の困惑も当然のことと言えるだろう。


 「きっとお前は、俺の知らない所で多くの人間を呪ってきた。俺はその事実を無かったことにはしない。お前は呪いの人形で、誰かを呪わずにはいられない。そんな部分もあるんだろう」

 「……そ、そう。だから私は―――」

 「―――その上で…お前には人の心があるって俺は思う。この花みたいに尊い愛を持ってるって、俺は思う」


 彼女は呪いの人形で、きっと誰かを傷つける存在なのだ。彼女は俺が死んだ後も、誰かを呪い、傷つけ、そしていつか然るべき報いを受けることになるのだ。俺はそうなってしまう彼女の悪性と運命から目を背けるつもりはない。だって目を背けてしまえば、彼女の全てと向き合うことにはならないからだ。俺は彼女の家族として、彼女の全てと向き合いたかった。

 だが同時に俺は、彼女にだって善性があることを、他ならぬ彼女自身に知ってもらいたかった。彼女にだって慈しみがあるということを、その慈愛によって一人の人間を救ったことを、彼女自身に知って欲しかった。


 「……さっきから春人君のいってること、矛盾してる。私を呪いの人形って認めてる癖に、私に愛があるって言う。そんなの、おかしいよ」

 「おかしくない。……そもそも人は一面だけで判断できるほど単純にできちゃいない。お前は呪いの人形かもしれないが、その部分だけを切り取ってお前を評価するのは間違ってる」

 「私人形だし。人間じゃないし」

 「なめんな。泣いて怒って笑って。そんなやつをただの人形として思えるかよ」

 「………」


 言い返せなくなったのか、彼女は黙り込む。

 それでも彼女は目線を所在なさげにチラチラと動かし、納得がいかないような様子を見せた。

 彼女が納得いかないのも無理はない。なぜなら、俺の言葉には説得力があまりないからだ。


 「まあ実の所、『人間の一面だけを見て評価しちゃダメ』っていうのは一応の建前だ。本当はそんなことあんまり思っちゃいない。どれだけ良い人であっても、俺に対して悪いことをしたならそいつはもれなく悪いやつだ。俺はずっとそう思ってきた。親父とか栞がいい例だ」

 「だったら、やっぱり私は悪いやつでしかないよ。春人君を呪った私に……人の心なんてないよ……」

 「何言ってんだ、あれはもう許してる。…それに俺はまだ肝心なことを言ってない。……あのな、俺に対して悪いことをしたら、そいつはどんな良い奴だろうと俺にとっては悪いやつだ。……でもな、逆に言えば、俺に対して良いことをしてくれた人がいたら、そいつはどんな悪いやつでも俺にとっちゃ良い人なんだよ。……わかるか?お前は俺を救ってくれたんだ。お前が来てから、俺は心から笑えるようになった。俺に良いことをしてくれたんだ!!」

 「……っ!!」

 「だから俺はお前の善性を訴え続ける。お前は俺を救ってくれた。だから悪いことしてようと良いやつだ。俺にとっての家族だ。……俺にとっては、それだけで十分だ」

 「……そんなの、ダメだよ。春人君にそう思ってもらえるのは嬉しいけど、でも、それは、そんなの春人君の……」


 そこまで言った彼女が、何かに気付いたように目を丸くして俺の方へと顔を向ける。

 半信半疑の表情。

 でもきっと彼女のそれは正解だ。


 きっと彼女の言っていることは合っていて、彼女の過去をほとんど知らない俺が彼女の悪性を否定することはできないのだ。だからこそ、彼女の悪性を善性で以て論破することはできないし、それを行うつもりも俺にはなかった。

 ただ、俺が主張しようとしたのは、ほんのささやかな―――、


 「―――我儘」

 「そうだ。お前が俺に言ったんだろ。我儘を言ってくれって」


 詰まるところ、俺は彼女にずっと我儘を言っていた。彼女には愛があると、善性があると認めさせたかったのは、ただの俺の我儘。

 論破なんて考えていない、事実なんてどうでもいい、ただの剝きだしたエゴ。

 それでも嘘偽りのない俺の想い、俺のことを救ってくれた彼女への想いがそこにあったのだ。


 「俺は俺の我儘で、お前にも良い所があるってわからせてやる」

 「は、春人君……」

 「俺を救ってくれたお前が、少しでも自分のことを好きになれるように」

 「私……」

 「だから俺は―――」


 そう言いかけた所で、彼女は俺の胸に顔を埋めてきた。

 ふんわりとした黒髪が、俺の鎖骨に当たった。

 反射的に彼女の身体を慌てて受け止めた俺を尻目に、彼女はそのまま口を開いた。


 「私、私今ね……すっごい恥ずかしいんだ」

 「えっ」


 予想外の彼女の発言に今度は俺の顔が朱に染まる。

 言われてみれば、我儘を建前に相当恥ずかし気な台詞をほいほいと口に出した気がする。今更になって俺は自分の発言を思い出し、柱に頭をぶつけたい衝動に駆られた。

 そんな俺の様子を見て察したのか、彼女は慌てて次の言葉を繰り出した。


 「い、いや春人君のことじゃなくて私の!!自分のことで恥ずかしいと思ったんだよ!!……私が何気なく言っちゃった呪いの人形の話を聞いて、春人君はここまで『我儘』を言ってくれたんでしょ?」

 「ま、まあ」

 「うん、そうだよね。……私、春人君があそこまで言ってくれて、嬉しかった。『愛』があるなんて、そんなの誰にも言われたことなかったから」


 そう言って彼女は俺の身体に背中を回した。

 彼女の手の感触が、背中を通して俺に伝わってきた。


 「だからつい、恥ずかしくなっちゃって、春人君に色々言い返しちゃった。ほんとはものすごく、嬉しかったのに。そしたら余計に嬉しいこと言っくれるから、どんどん何も言えなくなっちゃった」


 そうして彼女は、ようやく俺の方に顔をむけた。

 顔を真っ赤に染めた彼女は、それでも視線を俺から外すことはなかった。


 「私、がんばる。私は呪いの人形だけど、でも。春人君の前では、自分のことが好きになれるように、春人君の自慢の家族になれるように、私がんばるから」


 そう言い切った彼女は、俺に向かって花が咲いたような笑みを浮かべた。

 写真で見たアズマギクのような、可憐に咲いた笑顔だった。


 「…………アズ」

 「……?」

 「いや、お前の名前。……ちゃんと決めてなかったから」

 「えー?アズマギクだからアズ?ちょっと安直じゃない?」


 自然と口から出た名前は、俺の壊滅的なネーミングセンスをしっかりと踏襲していたらしい。

 アズマギクだから、アズ。なんとも単調である。

 

 「駄目か……?」

 「んーん」

 「ほんとか?」

 「うん」


 若干肩を落とした俺を見かねたのか、彼女は仕方ないとでも言うように優しげに笑う。


 「……ほら、ちゃんと呼んで。私の、名前」

 「………アズ」

 「うん」

 「アズ、今更だけど、俺を助けてくれて、ありがとう」

 「うん。どういたしまして。―――おにーちゃん?」


 悪戯っぽく笑う彼女―――アズは、それでもアズマギクのように可憐だった。

 

 

 

 実はキーワードを変更して「鬱展開あり」というものを追加しています。

 詳細は活動報告に書いておりますので、気になる人は見てください。気にならなかったら別に大丈夫です。


 改めてうちのアズちゃんをよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに人形ちゃんにアズという名前がついたところ。 一気に恋人、とは行かずとも家族として徐々に深まっていく関係もそうだけど、奇跡的に歯車がかみ合ってうまれた関係性から、彼女が持つ愛を「我儘」…
[良い点] とうとう彼女に名前がっ! アズちゃんの可愛さは加速度を増すばかり! にしても、主人公くんがアズちゃんに入れ込みすぎだしていて、今までなかったこの世への未練としての存在感が確固たる地位を得て…
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