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冷酷な黒帝〜旅する人型兵器〜  作者: 峯こうめい
イースト大陸編
5/5

強者の国・ベルガー王国2

 容赦なく攻撃を繰り返す黒雨。無属性の魔素で刀を防ぎ続けるネオン。

 一般人では、ギリギリ目で追えているくらいだろうか。


 一度距離を離せず、このままの状態で試合が進めば、ネオンの敗北はほぼ決まったも同然。


 激しい近接戦が続くが、ついに、ネオンの体に一つ傷がついた。


「やばっ!」


 さらに焦り始めたネオンは、続く攻撃を何とか避けながら、力を溜め始める。溜め終えたネオンは、目の前に、魔素のバリアを出した。


 黒雨は瞬時に、バリアを壊さんと、刀身を上にして……


「黒雨斬・黒炎!」


 思い切り振られた、黒い炎を纏った刀は、容易くバリアを粉々に粉砕した。


 ネオンはその間に溜めておいたのか、青い波動を三弾飛ばす。

 さすがに警戒していたのか、黒雨は一弾目を避け、残りの二弾を刀で弾く。


 黒雨が避けた波動が、コロシアムの結界に当たると、いとも容易く砕け散った。


「結界を張ってもらって正解だった」


「さすがエル様ね」


 結界はすぐに張り直された。裏で魔術師か誰かが待機しているのだろう。


 さて、試合の方だが……。


 ネオンは先程よりも距離を離したが、依然、不利なことに変わりはない。


「ネオンよ……そろそろ終わりにしよう」


「そうだねー……終わりにしよっか」


 黒雨が刀を天に掲げたと同時に、ネオンは腕を天に向かって伸ばした。


 刀に黒い炎が纏い始める。

 ネオンは目を瞑り、深呼吸をしている。


 集中している……?

 何かする気なのだろう。


「黒雨斬・黒炎!」



 勝負あり……か。

 黒雨が刀を振ろうとして、そう思った瞬間、黒い炎が消えた。


「何だ!?」


 驚きを隠せない黒雨は何度も何度も、黒炎を発動しようとする。しかし、炎は少しも出てこない。


「ふっふっふー……魔術は発動できないぞー」


「何故だ……!」


「結界内のすべての魔素を、あたしの体内に吸収したからな! 結界は、魔素を通さないという効果があるから、外から新しく入ってくることもないぞー」


 なるほど……。さっき集中していたのは、このためだったという訳か。

 素晴らしい、一気に形勢逆転だ。


「最後に、今集めた魔素を全部プレゼントするからな。降参するなら今のうちだぞ?」


「降参など恥だ。受けよう」


 ネオンが前に腕を伸ばす。黒雨に向けられた手のひらから、半透明の玉が生成された。


 結界内の魔素が全て凝縮されたもの。どれだけ結界内の魔素が薄くとも、超強力だろう。


「来い……!」


 刀を鞘にしまって、両手を広げて覚悟を決める黒雨。

 ネオンは笑顔のまま、魔素の塊を放った。


 物凄いスピードで塊は飛んでいき、すぐに黒雨の胸のあたりにぶつかり、重厚な鎧を纏っている黒雨の体を後ろに押し出していく。


「うぉぉぉっ……!!」


耐える黒雨。決して後ろに倒れない。

 そのまま四、五メートル押し出した後、塊は弾けて消えた。


 数秒の沈黙が流れ、黒雨が膝から崩れ落ちて、その場に倒れた。


 夢中になっていた実況者が慌てて、ネオンの勝利だと、大声で言い放つ。


 コロシアムは歓声に包まれ、その熱は、しばらく冷めなかった。


 その後、控室で黒雨が起きるのを待ち、起きた後に宿屋を探した。その道中、大勢の人に囲まれて大変だった。

 見つけた宿屋は、大部屋が一部屋空いているということだったので、その部屋に六人で泊まることにした。


「まずはお疲れ、ネオン、黒雨。見応えのある試合だった」


「反省点はいっぱいだけど、勝てたから良し!」


「我も、反省点ばかりだ。鍛錬しなければ」


「二人とも凄い試合だったけど、明日もきっと見応えがある試合になるね」


「エルとロゼリアの試合か」


「魔眼の力を全て解放して、全力でやらせてもらうわ、エル様」


「俺も手加減はしないぞ。なんせ、久々に本気で戦えるんだからな」


 明日は疲れるだろう。早めに寝ておこう。


 五人としばらく話して、早めに就寝した。


 翌朝、コロシアムへと向かう。

 相変わらず、観客席を全席埋めてしまう程の人が集まっている。


 昨日と同じように受付を済ませて、俺とロゼリアは控室へ。


 そこそこ広い部屋に、他の参加者が六人待っていた。


 テーブルには、トーナメント表が書かれた紙が置かれている。


「最後にエル様と戦えるように、うまく分かれているわね」


「そうだな……」


 他の参加者をさっと見て、大体の力量を測る。

 体格、武器、表情、人間の実力は、極めれば意外と簡単に予測できる。


 互角に戦える相手は……いないか。


 唯一気になるのは、短い金髪を、整髪料で後ろに固めた青年だ。

 俺と、特にロゼリアのことをジロジロと見ている。


 彼も、実力を予測しているのだろうか。

 更に気になるのは、ロゼリアを見るとき、少し頬が赤らんでいることだ。


 控室の外から、実況者の声が聞こえる。始まりの挨拶だ。

 そして、俺と、屈強な大男が呼ばれる。


「さて、ロゼリア戦(ボス)の前の、準備運動だ」











 俺、オニキス・ライト含めた観戦組は、観客席で試合の始まりを待っていた。


 エルと大男が決められた距離を取り、向かい合っている。

 数秒して、実況者が試合開始を宣言した。


 エルと大男の実力の差は圧倒的だ。一瞬で終わるだろう。


 しかしその時、大男が地雷を踏んだ。


「随分細くてチビだが、本当に戦えるのか?」


 チビ、その言葉を聞いた瞬間、エルの顔つきが変わった。

 エルは、背が小さいことを気にしているのだ。


 これでは、例えではなく本当に一瞬で終わってしまう。


「あらら、あの人、言っちゃったね」


 サラが抑揚なくそう言った次の瞬間には、大男は倒れていた。


 黒帝で一番の反射神経を持つ黒雨でも反応できないであろう速度で向かっていったエルは、通り過ぎ様に手刀で気絶させていたのだ。


 観客、実況者、コロシアムにいる黒帝以外の全員が、何が起こったのか理解できずに困惑している。

 当然の反応だ。


 数秒の沈黙の後、やっと実況者が口を開いた。それを追いかけるように歓声が響く。


 その後、二回戦目、三戦目は、昨日よりレベルが高い人間が集まったのか、白熱した試合だった。


 そして四戦目、ロゼリア対弓矢使いの男。

 呆気なく終わった。攻撃を防ぐのではなく避けることしかできない弓矢使いでは、あまりにも相性が悪かった。


 次の試合は、エル対エレドという青年。


 エレドは、金髪を整髪料で後ろに整え、鉄製の防具を身につけた騎士だ。

 二回戦目で、なかなか良い動きをしていた、成長が期待できる人間だ。


 両者が距離を取って向かい合う。


「試合が始まる前に一つ!」


 エレドが大声をあげた。


「今日、このトーナメントに参加している、ロゼリア・E・エルメールに伝えたい! 俺が、圧倒的格上であろう、エル・キニウス殿に勝利したら、結婚を前提に付き合ってほしい! 以上だ!」


「何を言っているんだあの男……」


 思わずそう呟いてしまった。


「けっこん……て?」


 ネオンが首を傾げている。


「一生を共に過ごすということを誓い合うことを結婚って言うんだよ。人間はみんな、結婚したがってるらしいけど……」


 人間がみんな結婚したいと思っているかは別だが、サラの説明はおそらく合っている。


 ロゼリアは人間から見たら確かに美しいだろう。だから、エレドのような人間がいてもおかしくない。

 一番驚きなのは、エルのあの動きを見て、条件として勝利を提示したことだ。


 何か、考えがあるのだろうが……。


「あの男の覚悟、まさに騎士だな」


 黒雨の言葉とともに、実況者が試合の始まりを告げた。


「さあ、来いっ!」


 エレドはエルのことを真剣な顔つきで見つめ、剣を構えている。


「ちゃんと見てろよ……」


 エルがそう言うと、物凄い速度でエレドに向かっていく。


「オール・オーバー!」


 エレドの体が淡く赤い光に包まれる。


 強化魔術か。レベルはそこそこ高い。


 次の瞬間、超高速で向かっていくエルの短刀と、エレドの剣がぶつかり合い、カキンッと音が鳴った。


 よろけるエレド。体制を戻そうとするが、その時には蹴りで剣を吹き飛ばされ、背後から首元に短刀が添えられていた。


「くそっ……降参だ……」


 エレドの敗北でこの試合は終わった。

 しかし、やはり成長が期待できる。エルの攻撃を一発防いだのだ。


「なんか複雑な気持ち……。あの人間に勝ってみて欲しかった気持ちもあるし、勿論エルにも勝って欲しかったから……」


 サラの言う通り、エレドが勝っていたらどうなっていたのか、気になるところだ。


 さて、次の試合はロゼリア対魔術師の中年。

 先程よりもロゼリアに注目が集まっていたが、それ以外は特に何もなく、余裕でロゼリアが勝利を収めた。


 そして、少し早めだが、昼休憩の時間となった。

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