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冷酷な黒帝〜旅する人型兵器〜  作者: 峯こうめい
イースト大陸編
3/5

自然の国・ユグドラ王国2

 運ばれてきたのは、サンドイッチ。見た限り、野菜だけでなく、パンも挟まっているハムも変わったもののようだ。スペシャルと名に付いているだけある。

 どちらにも、細かくされた葉が練り込まれている。何より香りがとても良い。


「おお! 大きいぞ、このサンドイッチ!」


 興奮して上半身をテーブルに乗せるネオン。それを抑えているサラも、目を輝かせて見ている。


 みんな食事は初めてだ。味がするかは分からないが、俺たちは限りなく人間に近く作られている。きっと大丈夫だろう。


「頂くとしよう」


 相変わらず冷静なオニキスの発言で少し興奮が収まる。

 俺含め、みんなサンドイッチを手に持つ。温かく、トーストされているのかザラザラとした手触りだ。


「確か、食べる時の挨拶は……いただきます、だな」


 俺の言葉に続くように、他の五人も「いただきます」と言って、ようやくサンドイッチを口に運んだ。


 味が……する!

 口に入れた瞬間、香辛料、おそらくパンとハムに練り込まれた葉の香りがふわっと香る。香辛料が苦手な人間でも大丈夫な程の、ほのかだが味に消されない風味。

 挟まれた数種類の野菜はどれも瑞々しく、新鮮さが伝わってくる。特製ソースはピリ辛で、濃いめに作られているのか、野菜たちの瑞々しさに味が消されることはない。


「これが……美味い、という感覚か……」


 食事をこれまでしてこなかったのが勿体ない限りだ。


「素晴らしいな」


 普段は感情を表に出さないオニキスも、驚いているのが伝わってくる。


「うむ、驚きだ。旅の目的の一つに組み込んでも良い程だな」


 どうやって食べているか分からない黒雨が、いつもより少し早口で言う。


「どの国もこれ位のレベルなのかしら……」


「どうだろう。でも、どこの国の料理もこれくらい美味しいなら、嬉しい」


 上品に少しずつ食べているロゼリアとサラの横で、ネオンが無言で夢中になって食べ進めている。


 こうして、黒帝初の食事は、見事良い記憶として刻まれた。


 食べ終えた俺たちは、もう一個食べたいと暴れるネオンを黒雨が抱えた状態で、金を払い店を出た。

 いつもはサラがネオンの面倒を見ているが、ネオンの力で暴れられては、サラの力では抑えられない。結果、一番パワーがある黒雨が抱えることになるのだ。


「うー、もう一個食べたかったぞー。なんでお金払っちゃうんだ!」


 さっきまで抱えられながら暴れていたネオンが、やっと大人しくなった。文句はまだ言っているが……。


「時間が限られてるんだ、我慢してくれ。遅くなる前に国の散策を終えて、宿を確保しないといけないんだ」


「うー……納得できないぞー……」


 こんだけ賑わっているのだ。俺たちのような旅人もまあまあいるだろう。そうなると、宿が埋まってしまう可能性がある。

 明日の花祭りに参加するためにも、宿は絶対に確保しておきたい。


 食事にそこそこの時間を費やしてしまった。少し速足で散策するか。


「少し急いで散策しよう」


 後ろにいる五人にそう伝えて、速めに足を動かす。


 散策を始めて四時間ほど経った。街だけでなく国の領地全てを歩くとなると、やはり時間が足りない。しかし、仕方ないだろう。そろそろ、宿屋を探して確保しなければ。


「街の人間に、宿屋の場所を聞いてみるか」


「あそこの人なんか良さそうじゃない? 丁度道教えてるみたいだし」


 サラが指差した方向には、一人の少女がいた。ギリギリ成人していない位の顔立ちで、間違いなく美少女と言われる類だ。

 確かに丁度、旅人らしき人物に道を教えているようだ。


 終わったのを見計らって、話しかける。


「あ、その格好、旅人さんですね。ようこそ、ユグドラ王国へ。それで、どこへ行きたいんですか?」


 まさに花のような笑顔、そして周りを明るくするような雰囲気だ。


「宿屋を探しているんだ。できれば、広めの部屋があるところを教えてほしい」


「それだったら、この国で一番大きい宿屋さんが良いと思いますよ。案内します、近道知ってるので」


「ありがたい、では頼む」


「どーんと任せてくださいっ」


 少女と共に歩き始める。


「申し遅れました、私、フローリアと申します。家名はルルティアナです」


「俺はエル・キニウス」


 俺に続いて、五人も順番に名乗っていく。


「みなさん、ご丁寧にありがとうございます。みなさんは、なぜ旅を?」


 この質問に対して、どう答えれば良いのだろうか。考えていなかった。


「まあ、あれだ。自分探しの旅……というやつだ」


 中々良い答えではないだろうか。自分を変えるきっかけを探すための旅、という意味では間違っていないだろう。


「羨ましいです。私も、旅をしてみたい……」


 本当に、心底羨ましそうな表情で、フローリアはそう言った。

 何か、旅をして叶えたい夢でもあるのだろうか。


「さて、見えました。あの建物ですよ」


 フローリアが指差した建物は、立派なものだった。相変わらずカラフルなのは変わらないが、城以外の建物だったら、おそらくこの国で一番立派な建物だろう。

 パッと見る限り、五階建てだ。


 少し歩き、入り口前まで近付く。


「私は、ここでお別れです。ゆっくり寛いでくださいね」


「助かったよ、フローリア」


「ありがとなー、フローリア」


「どういたしまして、エルさん、ネオンちゃん。じゃあ、さようなら」


 フローリアは相変わらず花のような笑顔で去っていった。


 その後、俺たちは無事部屋を借りることができ、夜まで話して就寝した。


 記念すべき、旅で初めて訪れた国での一日目が、何事もなく終わったのだ。ネオンが暴れ出したのはあったが、些細なトラブルだ。素直に喜ぼう。


 翌朝、街中に響き渡っているのではないかという、大声で目が覚めた。


「どうしよーう!!」


 間の抜けた声だが、この声は昨日聞いたな……。……思い出した。


「フローリアか」


 フローリアの声で起きなかったネオンとロゼリアを起こして、宿屋を出る。


 すると、フローリアが通りかかった住民という住民に声をかけている。


「フローリア!」


 呼び寄せて、話を聞く。


「実は……花祭りで毎年お披露目する花束を確認したら、一種類だけお花が足りなくて……。何もないなら森に私一人で摘みに行くんだけど、魔獣が出るんだよね、そこ。だから、戦える住民に頼んでたんだけど、花祭りの準備でみんな手が空いてないって……」


 どうしよう、どうしようと、敬語を忘れるほど慌てふためくフローリア。


「我々が共に行こう、エル」


「エル様、旅を始めた時言っていたものね。なるべく人助けをするって」


「そうだな、行くか」


「本当に!? ありがとう、本っ当にありがとう、みんな!」


 俺たち六人の手を順番に握ってお礼を言うフローリア。大袈裟だな……。


「じゃあ、早速、出発しよう」


 フローリアが先頭に立ち、街を西から出て森に入る。ユグドラ王国の領地である、さまざまな種類の花が咲き乱れている森だ。


「足りないお花は、この森の最奥に咲いているの。大体、一時間ちょっとかかるかな……」


 話を聞きながら、警戒を怠らない。いつ魔獣が出てきても、すぐに対処できるようにだ。


 五分ほど経った頃、高い草が茂っている右側からガサガサと音がした。


「気をつけろ、魔獣かもしれない」


 突然音が止まったかと思うと、通常の狼の二倍ほどの大きさの獣が飛び出してきた。

 さっと懐から拳銃を取り出すが、その動作をしている途中で、銃声が鳴り響く。


 隣にいたオニキスが、背中にかけていた狙撃銃で魔獣の頭を至近距離で撃ち抜いたのだ。

 頭に開けられた穴から血を流して、魔獣は倒れた。


「さすがオニキス。早いな」


「一応、早撃ちも得意だからな」


 その後、何事もなく、目的の場所に辿り着いた。今まで狭い一本道だったのが、目的地は開けており、円形の広場のようになっている。

 そこには、花弁が透明な花が地面一面に咲き誇っていた。わずかに差し込む日の光の影響で、虹を地面に映し出している。


「綺麗でしょ?」


「透明な花弁。こんなお花があるなんて知らなかった」


 フローリアとサラの言葉に頷く。


 綺麗だと思う気持ちは正直分からない。心があれば、感動できたのだろうか……。


「じゃあ、摘んだら帰りましょ」


 そう言ったフローリアが花が咲き誇る場所に近付くと、周りの草むらから、さっきの魔獣が八匹飛び出してきた。

 喉を鳴らしてこちらを威嚇している。


 縄張りにしているのか……。


「フローリアは気にせず摘んでいろ。魔獣は俺たちがやる」


「気にせずって、無理でしょ! 怖いもん!」


 オニキスが狙撃銃を構えると同時に、俺含め全員が構える。

 一人は三体殺さなければいけないが、黒雨かネオンがやってくれるだろう。


 数秒の沈黙が流れた後、痺れを切らした魔獣が飛びかかってくる。

 

 飛びかかってきた魔獣のうち一体に突っ込んでいき、俺の速度に反応しきれていないうちに短刀で首を掻っ切る。

 切られた部分から血が吹き出して、魔獣は倒れた。


 他の五人も、問題なく倒せたようだ。やはり、ネオンの前に三体倒れている。


「すごい……! みんな強いんだね……!」


「まあ、それなりに。……さあ、花を摘んで帰ろう」


 その後は何の問題もなく、街に戻ってきた。もうそろそろ花祭りが始まる時間だからか、昨日よりも一層賑やかだ。


 フローリア、花束に透明な花を加えるため、城の方へ走っていった。


 しばらくして、街の住民たちがカウントダウンを始めた。住民のゼロの声と同時に、空から、色とりどりの花びらが降り始める。

 湧き出る歓声。空の青色を背景に舞い落ちる花びら。幻想的だ。


「エル、ここを最初に選んで良かったな」


「そうだな、オニキス。本当に良かった」


「エル様、少し笑ってる」


「本当だー。初めて見たぞー」


 ロゼリアとネオンに言われて気付いた。無意識のうちに笑みが溢れていたようだ。


 これが、楽しいという気持ちなのだろうか……。

自然の国・ユグドラ王国、完!です。

少し長くなってしまいました。

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