黒帝
周りに流されることなく、自分が書きたい作品を書くことが一番だと学びました。なろうはこういう作品が人気になれるよ、という作品ではなく、自分が書いていて楽しい作品を書いていきます。稚拙な文章ですが、どうかよろしくお願い致します。
こんなことがあって良い訳がない。こちらは約千人の大隊だぞ。それなのに……それなのに……。
「もう一度繰り返します。グンザース大隊長が率いる大隊が、敵軍のうち、六人で構成された一班に全滅させられました」
左耳につけた無線の通信機から、そう、信じられないような内容が淡々と告げられる。
「それは確かなのだな……?」
「はい、間違いありません」
「了解した。それで、上は俺たちの隊はどうすればいいと言っている?」
「その班をただちに消せと、そう言っています」
「ははっ……まあ、そんなことだろうと思っていたよ」
「健闘を……祈っております」
通信機の通信がぷつりと切れる。
「クソっ! クソっ、クソっ!」
机に何度も何度も拳を打ち付ける。
「グンザースの隊が危なくなったら連絡が来ると言っていたのに、全滅してからということは……一瞬で、ということじゃないか……」
母国であるリスティーゼ王国を守れるまともな大隊は俺の隊しか残っていない。
常に冷静な判断を下すことができ、いつも隊員たちを正しい判断に導いてきた、あのグンザースが始めて負けた相手。
「こう嘆いていても仕方がない。せめて、勝てなくとも、一人か二人減らしさえすれば良い。そうすれば、他国が勝手にやってくれるかもしれない……!」
後方待機所のテントから出て、待機している隊員を全員集める。
そして、状況と作戦の説明をした。
「我らが母国、リスティーゼ王国を全力で守るため、相手がいかなる強敵であろうとも、決して諦めずに突撃するのだ! では、作戦通り、三つのチームに分かれて、散開っ!」
魔術を装填した靴を起動させ、一斉に空へ飛び上がる。灰色の空が広がっており、風が頬を撫でても、とても良い気持ちにはなれない。
グンザースの隊がいたのは、南方。靴の出力を最大にして、高速で向かう。
俺のチームが一番最初に敵班を足止めし、他のチームが背後と横から挟んで討つ。普段なら、もっと凝った作戦も浮かぶが、今は何より時間が無い。
「そろそろ、敵班が見えてもいい頃だが……」
そう呟いた瞬間、
「おっと、待った待った。これ以上は行かせないぜ」
黒づくめの男が下から、目の前に現れた。
「何者だ!」
「俺は、エル・キニウス。聞いたことないかな、"黒帝"って。俺はその黒帝のリーダー」
「黒帝だと!? まさか、敵班というのは、化け物班と言われる、黒帝だっていうのか!?」
敵になればその時が最後だと言われる、化け物六人。
返り血の狩猟豹、エル・キニウス。
銃弾の誘導者、オニキス・ライト。
雨粒切りの黒鎧、コクウ。
拷問姫、サラ・アステシア。
影使いの捕食者、ロゼリア・E・エルメール。
朱殷の向日葵、ネオン・リリセルカ。
「知ってくれているのは嬉しいけど、化け物っていうのはちょっと酷くないか?」
「大隊長!」
「なんだ……」
「囲まれています、いつの間に……!」
周りを一周見渡す。たしかに、六人の男女に囲まれていた。
どうなっているんだ! 気配なんて全く感じ取れなかった。本当に、いつの間に囲まれるなんて……。
全員が黒い衣服を着ている。エルという男が言っていたことは、脅しではなく本当のことのようだ。
こいつらは間違いなく黒帝だ……!
「お疲れさん、みんな。さて、俺の仲間が全員帰って来たってことは、あんたらと別行動してた二チームはどっちも全滅しちゃったわけだ。できれば、大人しく死んで欲しいんだけど」
さっきから不気味な表情だ。まるで人間ではないような、不自然さがある。
正直……とても怖い。しかし、大隊長として、リスティーゼ王国を守る者として、諦めるわけにはいかない。
「我々、リスティーゼ王国の軍人は決して諦めない! ここでお前らを殺すっ!」
「できないことは宣言しない方がいい。恥をかく」
「うるさい! リスティーゼ王国に勝利をもたらすのだ!」
こちらは五百人。それに対して、相手は六人。普通の相手なら、瞬殺できるが、相手が相手だ。瞬殺されるとしたら、こちら。
「行くぞ! みんな!」
隊員たちは天に響くような叫び声を発しながら、黒帝の六人に向かっていく。
しかし……一瞬で、血の雨が降り注ぎ、肉片が地面に落下していった。
恐る恐る周りを見渡すが、隊員は誰一人としていない。自分だけ、傷一つつけられることなく残されたのだ。
「お前ら、一体何をした……?」
「四百九十九人を一瞬で殺した」
冗談でも言うかのような戯けた表情でエルは答えた。
「悪魔か……お前らは……」
「悪魔じゃない、兵器だ。戦争用魔術装填人型兵器、それが俺たち。一対一だけでなく、大人数を一気に殺すことにも特化した、殺人兵器。素晴らしいだろ?」
「クソっ…………最後に、一つだけ聞きたい」
「どうせ死ぬんだ。何でも答えるぜ」
「お前らは、どこの国で作られたんだ……?」
「カルメステリナ王国だ」
「なるほど、昔からあの国の魔術具の開発技術は素晴らしかった。納得だ」
もっと言葉を発して、気を逸らさなければ。せめて、今の情報だけでも伝えて、少しでも母国に貢献するのだ……!
耳につけた通信機のスイッチを入れようと、無理矢理喋りながら、ゆっくり手を動かす。
よし……スイッチを押して……。
「おっと、俺が気付いてないと思ったか? 情報は流させねぇよ」
通信機と人差し指の間に短刀を挟まれる。
「目に見えない速度で……間合いを詰められただと……?」
「スピードが俺の一番の自慢なんでね。……で、さっきからペチャクチャ口を動かしてたが、もう喋りたいことは充分喋ったよな?」
エルが左手に持っている拳銃の銃口が、俺の額に押し当てられる。
冷や汗が体中から噴き出る。
俺は、ここで死ぬのか……。
「あっははははっ! 良い顔だ! 隊員を全員殺され、一人絶望に歪む顔! お前だけ残した甲斐があった!」
やはり悪魔だ……こんな奴ら、野放しにしてはいけないというのに、何もできないまま死ぬなど……。
せめて、最後に、妻と娘に会いたかった。
この戦争は、いつ終わるのだろうか……。もう一度、平和な世界を見たかった。
「じゃあな、大隊長さん。最後に面白いもん見せてくれてありがとう。お礼に、苦痛なく一瞬で殺してやる」
引き金にかけているエルの人差し指に力が入るのが分かる。
怖い……怖い怖い怖い怖っ…………パンッ!
銃声が鳴り響いたと同時に、一瞬で意識が暗闇に沈んだ。