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魔導人形の記録

作者: おーじ

思いつきで書いたので、お目汚しで、失礼します!

これはある魔法狂いの男が自分に似せて作った人工魔導人形の記録。

彼は命に限りのある人間の体では限界があると悟り、作り出した人形に自分の知識、思い、夢を教え込んだ。人形はそれを記録し続けた。やがて人形を作り出した男は死に、人形は彼の死を死と認識するのに数年の時を経て、所々白骨化している彼をもう動くことはないと判断した人形は「彼」となって世界へと旅立つ。


彼となった人形は、元の彼のように魔法を十全に扱えるわけではなかった。しかし永遠の命という有り余る時間を持っていた。

そして彼は人間と出会い、戦いの中に巻き込まれ、その中で彼の持つ知識が数々の難局を乗り越える助けとなり、いつのまにか「賢者」と言われる存在になっていた。そしてその戦いの全てを記録していく。


しかし、彼の正体が人間ではないとバレると、たちまち捕縛されかつて仲間と言っていた者達から何度となく実験を受けた。

結局彼の身体の謎が分かることはなく、都合の良い労働力として鎖に繋がれ奴隷として働かされる毎日を送る。



そこでは日々誰かが「死」を迎えていた。

全員が絶望を顔に浮かべて、周りのことより自分を優先して生きていた。そんな中で1人の勇敢な男がクーデターを計画し、奴隷を扇動し、反乱を起こした。勇敢な男は彼の経歴に気付くと仲間へと引き入れ彼の知識を当てにした。

クーデターは成功しかけるが、直前で国一番の騎士に勇敢な男が撃たれ、総崩れとなりその場に残っていた彼を知る国一番の騎士は「賢者と言われた貴方が・・」

悲しげに放った言葉のあと捕縛され、一生を牢に繋がれることとなった。

この反乱により多くの記録が国から失われたが彼はその全てを記録していた。

そして彼は長い時を地下の奥深くの牢に繋がれることになる。





半世紀ほど経ったころ、変わらない日々に変化が訪れた。牢の外から声をけられる。それは幼い少女だった。側には護衛の騎士を数名引き連れ、少女は目を見開き彼を見ていた。

それから数日後、彼は牢から出され、あの時の少女の執事となっていた。

少女は姫と呼ばれ、豪華な服を着て、様々な人に傅かれていた。そんな少女は執事となった彼に色々なことを要求した。


「お前が逃げ出さないように手を繋いでやる」

「私と同じテーブルに座る栄誉をありがたく受け取りなさい」

「お前が寂しくないように寝る時は手を握っていなさい」


少女は彼にどんな思いで接していたのかは分からないが、彼は記録を続けた。



やがて少女は姫として美しく成長を遂げ、その側には執事として彼が居続けた。


そして少女だった彼女に婚約者が決まり、その夜、彼を呼んだ少女はいつものように彼に要求し、彼を屈ませると唇を重ねた。一筋涙を流し、「忘れなさい」それだけ言うと彼を退室させた。



そして数年後、彼女は姫として婚約者と結婚した。彼はその後も執事として彼女の側に仕えた。


彼女は新たな命を育み、子供を産み、そして老い、病床に臥していた。



泣きつく子供や孫を退室させると、執事である彼に語りかけた。


「あなたは本当に変わらないのね。最初に出会った暗い牢屋の中で、美しいと思ったあの時と。

私は、死ぬは、いづれ私のことなんて誰も覚えていなくなる。だけど忘れないで、あなたには覚えていてほしいの。」


彼女は久々に執事に要求した。手を握っていてほしいと。


そして彼女は死んだ。彼女の体温が無くなっていくのが分かった。冷たくなった彼女に追い縋る彼女の家族を見て、彼女の全てを記録して、彼はその場から姿を消した。


それから時は流れ、数々の戦争が起こり、幾つもの国が生まれ、そして滅んだ。そんな中、一つの物語が語り継がれていた。それは「賢者」と言われた者の話し。かの大国を勝利に導き、そして滅亡まじかまで追い込み、姿を消したと言われる御伽話の存在。人ではなく、恐ろしい見た目をした化け物であり、知識の代わりに命を要求してくるという。最後には美しい姫に心を打たれ、その心を入れ替えたという。今では誰も信じないただの御伽話。



☆☆☆☆



彼はひたすら歩き、歩いた。何処を目指していた訳ではなかった。そして人々から「魔の森」と恐れられる魔物が蔓延る森にたどり着いていた。


彼はただ大きな森を見つけ、ここなら人間はいないと考えた。


そして奥へ奥へと進み、時折魔物に襲われるが、千切れても治り、食われても治る彼に飽きた魔物は彼に興味を無くした。


大きな開けた岩場に出たそこで、竜と出会った。


竜は彼を見て笑った。面白いものが来た。と、竜は彼を「客」として迎えた。


長い時を生きる竜はそれこそ彼以上にこの世を見てきていた。しかし、いづれ自分も淘汰され死にたえるだろうと話した。


彼は自分と同じように永遠に近く生きる竜が何故死ぬのか分からなかった。竜はその質問に数々の生きとし生けるものがそうなのだから自分もいづれそうなる。と言った。

その答えに彼は自分もそうなのだろうかと問い返すと、竜は分からんと言った。


「自分は長い時間考えて答えを得た。お前も時間をかけて考えればいい」


彼はこの竜との会話をしっかりと記録した。

それから彼はこの森に居座った。竜と話し、竜の知識を知り、思いを知った。


「十分に生きたとはまだまだ言えないが、色んなことを知ることができた。お前とこうして話し、聞いてもらえる幸福にも恵まれた。久方ぶりに楽しさを感じているよ。」


そう言って竜は笑った。


何度かこの森に人間が攻め込んでくることがあったが、その全てを竜は追い払った。

そしてどれくらいの時をそうして過ごしただろう。ある日.竜は深く傷つき戻ってきた。どうしたのか?と問えば、人間にやられたと言う。


今回も追い返しこそしたが、次はどうか分からないと言う。


あなたも死ぬのか?そう彼が問えば、竜は笑った。


「なんだ、死なないとでも考えていたのか?」


彼は黙った。


「皆いずれ死ぬ、順番が違うだけだ。死は怖い、死は別れだ。だが必要なことだ。お前は我のことを覚えてくれていてくれるだろう、それで満足だ。」


竜はニヤリと笑った。


そして飛び立った竜は二度と帰ってこなかった。

魔の森と言われた森は焼き払われ、荒地となった。

その荒地となった地からムクリと起き上がり彼は考えた。


生きとし生けるものはいづれ死ぬ。


彼を作った男も、戦争で戦った者達も、奴隷となった者達も、自身が仕えた姫も、永遠に近い時を生きる竜も、天田の命が死んでいく。


自分はどうなのだろう?彼等の通った道を彼等の想いを記録している。彼等の最後を記録している。


自分には死はあるのだろうか?


何故死ぬのだろうか?


分からない。そして荒地から動くことが出来ず時が流れ、緑が戻り、彼は自然に飲み込まれていた。




☆☆☆☆




「助けて!誰か助けて!」


声を聞いた。


どこかで聞いたことがある声、深い思考の中から立ち上がり、それに合わせてパチバキと、体に絡みつく枝葉が折れ千切れる。


彼の目の前ではケモノに追われ泣きながら逃げているかつての幼い少女の姿があった。

彼は彼女の元に駆け寄りその身を庇い、そして獣を魔法で追い払った。


幼い少女はかつて自分を初めてみた時と同じように目を丸くして「キレイ」とつぶやいた。


彼は思った。彼女は死んだ訳ではなかったんだ。だってこうして生きている。きっと他の死んだと思った者達も何処かで生きているのかもしれない。


彼は覚えている。彼等を記録している。出会えば必ず分かる。だから探そうと決めた。





彼にかつての幼い少女は色々と世話を焼いた。彼の汚れた身体を丁寧に洗い、彼の服を調達し、彼の食事も用意した。


彼がそんなことをしなくていい。と言うと少女は泣きながら彼に追い縋った。

見捨てないでと、幼い少女は奴隷として過ごし、逃げて来たのだと言う。


彼に傅き、追い縋る姿はかつての彼女の記録にはない。


何故自分に彼女がこんなことをするか彼は分からなかった。あの時の様に自分に言えばいいのではないか。

そう考える。だがせっかく会えた彼女を置いて行ってまた彼女がいなくなるのは嫌だった。また探さないといけなくなる。


彼は彼女を連れて旅だった。しかし、彼がかつてみた世界とは様子が異なっていた。


魔法は廃れ、「機械」が代頭し、街は夜でも明るく、人々は昼も夜もなく動き続けていた。

しかし、少し街から外れればゴミダメの様な区間が広がり、浮浪者がそこら中にたむろしていた。


ビクビク震えながら彼の後ろに隠れて歩く幼い少女。彼は記録にない彼女にどうしてそんなに怯えているのか、と問えば。ごめんなさい、ごめんなさいと謝られる。


彼はかつて自分を作った男の知識から人探しの魔法を使い探し始める。


しかし、ここにはいない様だった。だが彼は考えていた。自分には時間がある。だから見つかるまで探すだけだと。


そして、彼女を連れて彼は各地を回った。様々な国を周り、様々な地域を飛び回った。しかし、少女の身体には負担が大きかったのか彼女は倒れ、病床に臥した。


彼に、ある記録が思い出される。彼女が病床で冷たくなっていくあの時の記録。彼女がまた自分の前からいなくなる。それは嫌だと思った。


彼は手を尽くし、そして彼女は病床から回復した。目を開けた彼女はまた救ってもらいました。と弱々しく笑顔を浮かべた。


また彼の記録にない彼女だった


彼女は自分とは違い動き続けることができないことを知り。彼女の様子を細かく観察するようになった。ジッと観察し続けると顔を赤くして、顔を隠し、目を離せば逆に此方を見ている。

どうしたのか、と問えば、何でもないと言われる。





そして時は流れ、かつての記録の者達に会えないまま彼女との旅は続き、少女は大人となり、彼へのスキンシップは増えていく。


そしてある夜、彼はいつものようにただ部屋の中で考えていた。記録にある者達のこと、今の彼女のこと。これから会う者達の事。


そうして考えている部屋でモゾモゾと動いた彼女が起き上がり、ペタペタと彼に近寄り、いつものように顔を赤くしながら、それでいながら目をギラギラさせて彼を見つめていた。


「今日は覚悟を決めていました。だから覚悟して下さい。」


そう言う彼女はかつての記録の彼女に何処か似ていた。


彼女は彼に覆い被さり、唇を重ね、彼を押し倒した。




一矢纏わぬ姿で横で穏やかに眠る彼女は記録にはない。だが、嫌ではないと思った。




そして時は流れる。彼の旅は続いたが、全く成果がなかった。魔法だけではなく人を使って探してもみたが、見つからない。そんな日々が続いていた。


だが彼には時間がある。だから彼は探し続けた。


しかし、彼の横に連れそう彼女はそんな彼に不満があった。もっと自分を見てほしい、もっと2人でゆっくりしたい。そしてその不満を彼にぶつけた。


彼は直ぐに頷いた。しばらく何処かで滞在しようと、自分には時間があるからと彼は考えた。


それから彼女との生活が続いた。彼女はよく笑った、かつての記録以上に、幸せだと言って笑っていた。


そしてまた、彼女は病床に臥した。


彼は嫌だった。せっかく見つけたのに、また居なくなる。


だから彼は前の様に彼女の回復のために手を尽くした。


だが前と違い、彼女は老い、回復は出来なかった。


「あなたは出会った時と何も変わらないのね。でもそんなに悲しそうな顔しないで、私はあなたといれて幸せでした。・・・あぁそうか、私は貴方と出会うために産まれてきたんだ。私を見つけてくれてありがとう。」


彼の顔に触れていた手がするりと落ちて、彼の手に落ちる。その手からまた彼女が消えていく。

彼女の手にポタリと何かが落ちた。そしてまた記録されていく。









読んで下さりありがとうございます!

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