弓月の失敗、魔女の力
無い!気がついた弓月は慌てた。
「ちさと?千沙都?何処!怖いってどうしたの?何処にいる?カタツムリをどうしたの!これが無いと、これが無いと!君を助ける事が出来ない!」
何が怖いの?どうして?どうすればいいんた!どうすれば。弓月は布団をバサバサ、部屋の中を彷徨き、カタツムリを探す。
何があるの?千沙都、ちさとちさと。狂しい程に名前を呼ぶ弓月。その時。
キィン!魔女の力の気配。弓月は再びあの世界に取り込まれた途端、叱責を受けた。
「お主!あれほど肌身離さずと言っておいたのに!人間とはやはり信じられぬ生き物!世界など滅ぼしてやる!」
背中からありありとわかる魔女の憤怒。弓月は何故このような事になったのか、わけが分からず呆然と立ち尽くす。
ああ……、あの日みたいだ。歩道橋の階段で、立ってただけの僕。
「ど、どうして?何故」
「縁を与えてしまったのじゃ!身に覚えがあろう?」
身に覚えがある。その言葉で思い出す。病室で眠る千沙都の胸の上に、ペンダントを置いた事実。
「も、もしかして目が覚めるんじゃ無いかって……、不思議な物だったから、だから。ご。ごめんなさい!ち、千沙都は?カタツムリは何処に行ったのですか?」
ふぅぅぅ……。気持ちを落ち着かせるために、息を整える魔女。熱く乾いた旋風がその場を駆け回った。魔女に部屋に残る気配を知らせる。
「愛しいカタツムリは優しいのだ。ワカル、共にいる。娘は生霊だな。器は別の場所生きておる、今のところはな、人間の器は魂が出ていく時間が長いほど、脆くなるぞ、心の臓に宿る力が半分になるからじゃ」
「脆く、半分。それって、身体は死んでしまうって事ですか?」
ザァァァァ。血の気が引いた弓月。背後の魔女は、
そうじゃ、察しがいいのぉと、変な感心をした時。
「おや。誰か来たようじゃ、また来る」
キィン。魔女が去り、青ざめた弓月が取り残された。
「ゆつき!ゆきくん!起きてる!起きてる?」
ココココン!ドアをノックする音、母親の声。はっと我に返った弓月。ふと時間が気になった。部屋の壁掛け時計を見上げる。夜光塗料に塗られた針が、朝を知らせていた。
「入るわよ!起きていたなら返事をして!こっち向きなさい!」
母親の声が彼の背に突き刺さる。なに?震えを堪え、背を向けたままその場で答えた。
「ちさとちゃんのお母さんから。具合が悪いから、しばらく来ないでほしいって、今電話が、どうする?どうする?ゆつき?」
どうする、どうする?溢れるゴチャゴチャとしたモノ襲われ、軽くパニックを起こしそうになる弓月。
落ち着け、落ち着け、考えなきゃ。
「ど、どうするっても、め、面会時間じゃないと、入れない……」
腑抜けな答えが出てしまった。息子のそれに、ああ、そうね。と我に返った母親。
「そ、そうね。そう……、うん。分かった。お母さん、仕事に行くけれど、何かあったら、携帯に入れてきなさい、面会に行くのなら暑いから気をつけるのよ」
パタン。ドアが閉まる。ヘナヘナとしゃがみ込む弓月。ヒック。ちさと。涙がポロポロ滴り落ちる。フルフル、フルフルと身体は細かく震えていた。
……、ジレジレとした時間が過ぎた。何時もよりも早く、家を出る。シャンシャン、シャンシャン、蝉が鳴いている。
行っても部屋に入れてもらえないかもしれない。どうしたらいい?このままだと、千沙都の身体は死んでしまう。
何処にいるの?カタツムリと一緒みたいだ、見つけたら、何とかなるのか。どうすればいい?怖い。何が怖いの?千沙都。何時もいい夢見ている、気がしていた。
穏やかな寝顔を思い浮かべつつ、たどり着いた病院。街で一番大きなそこ。面会時間を頭の中で確認をした。少し早いけど……、正面玄関から入り、エレベーターに乗る。
ウィィィィィィン……、ピンホーン。
消毒薬の匂い、静かなようでサワサワした気配。足音に気を使い、見舞い者名簿に名前を書くために、ナースステーションに顔を出すと。
「ああ、幸村君だっけ、うーん、ちさとちゃん、少し具合が良くないの、面会は控えてね」
顔馴染みの看護師さんが、気の毒そうに教えてくれた現実。
はい……。その場を離れた。帰る気にならなかった弓月は、同じフロアの一角にある談話室に向かう、そこには部屋の前にも、ソファーと飲み物の自販機があったからだ。
トボトボ。トボトボ。頬を筋引く。手で涙を拭う。鼻を啜る。誰かに見られても、病院だからいいか、泣き泣き歩いていると。
キィン!聞き慣れた音と気配。弓月の周りのセカイが変わる。
「男のキンパチが泣いてる場合か!ユキムラ ユツキ、これも縁。お前にチャンスをやる、受け取れ!ン!チュッ♡」
魔女は弓月に向かって投げキッスを飛ばした。
♡〜 ♡〜 ♡〜
弓月の頭上を通り、ふわふわと彼の目の前に浮かんできた、ハートの形をした小さな光の粒。
「ソレを額に貼り付けろ、力がほんの少し宿る、ソレを使って、カタツムリを見つけろ!そこには必ず娘がいるはず」





