エピローグ〜他愛のない未来を数える。
作中にある、♪マークから下は、仙道企画その1音源をBGMに世界を書いてます。
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チョコバナナ、たこ焼き、カキ氷、いちご、ブルーハワイ、クレープ、焼きそば、ポテト、焼きイカ、串タコ、からあげ、たい焼き中身はカスタード、ジュース。
千沙都は膝の上に乗せたスケッチブックを、ペラリとめくる。リハビリにと書いていたページを開いた。イラストと文字。覗き込む弓月。
「せめて屋上に行きたかった」
「来年な、お前のそれ欲望リストか?、ジュースならほら。林檎ジュースをどうぞ、ブシュってならない様にストロー、さしといてやる。てか室内じゃないと、会話、まだ不便だろ」
ストローを挿した紙パックを、車椅子に乗せられた千沙都に、背後から差出し見せる弓月。
「ふう。先生に、リハビリになるから、できるだけ喋ろと言われてるけど、どこもここも、筋力不足、体力不足」
今日の為に書いていたページを開く千沙都。トントン、ページを叩く。
カタツムリに聞いたけど、何でも願いがかなうなら、過去に戻ってやり直しとか、うきちゃん思いつかなかった?
「あー、その手があったか。思いつかなかった、わりぃ、そっちは考えもしなかった」
病院の屋上には、打ち明け花火を待ちわびる人達。部屋の窓辺には千沙都の様に、真夏の夜に開く花を待つ笑顔、そこから見上げる夜空。
「えへへ」
笑い声。弓月は目が熱くなるのを隠す様に、ぶっきらぼうに話す。
「なんだよ、気持ち悪いな、リハビリ、頑張ってるんだろ。おばさんに聞いた」
キュ……、ポン。マーカーの蓋を、ゆっくり開けた千沙都、サラサラと新しいページに、ゆっくり文字を綴る。
うきちゃんと遊びに行きたいから、がんばってる 立つ練習もしてる カタツムリに入ってたからかな 回復が早いって うきちゃんが後ろだなって 反対
軽く身をよじり彼を見上げ、無邪気な笑顔。書かれた端から読み取ると思い出し、苦笑いの弓月。
「ほんとにな、風呂場で何やってんだか」
パッ。風呂場、それに反応した千沙都が前を向く。目をパチパチ。すました顔。
……、あ?ハッ!こ、コイツ、ま、まさか!
グッと持ち手を握りしめると、身をかがめ素知らぬ風を装う彼女に顔を寄せた弓月。
「お前、見た、な」
ブンブン。首を振る千沙都。
ドドーン!パッ!シャララ……
大輪に開く光の花、小さな星たちがキララに広がる。
上がった!窓の外を指差す千沙都。
「話を逸らすな、みたな、お前、見たんだな」
「うふふ」
ドドーン!パッパッパッパッ
真夏の夜に開く、花。星が散る散る。
余白に、一言記す。
花火、きれい。金色 たまた~まや~♡
「はっ?き!たまた~まや~?ハートの形⁉、やっぱり見たな!見たな!誰にも言うなよな!」
ドドーン、ドドーン!パパッパパッ!
「来た時、毎回泣いてたの、知ってるけど、秘密にしとく」
時々に、小さな声で話す千沙都。
「は?な、毎回って!て!そっちかよ」
見舞いに行って彼女の母親が気を遣い席を外した後、何時もグズグズ泣きべそをかいていたのを、知られていた事に弓月は狼狽える。
「うふふ、たくさん知った、うきちゃんの事」
ドドーン、ドドーン。パッ、サァァァ。柳の様に垂れる星達の流れ、余韻、蕩けるように消える。
筆談の為に部屋の灯りは落としていない、サラサラと新しいページに書く千沙都。
たくさんたくさん、知った。毎日ありがと、毎日、外の話をしてくれて、音楽聞かせてくれて、たくさん泣いてくれた。
身体を捻じり、後ろを見上げる千沙都。
「ありがと」
ドドーン。パッ!、パラララ。
花火が開くタイミングに合わせ、彼を見上げる笑顔がまばゆい。それに撃ち抜かれ、ドギマギとした弓月、心臓がバクバク音立てて全力疾走。
「う、うん。あの……、ごめん、見舞いに来ても自分の事ばっかりだったなって、思うんだ。怖かったんだよな、目が覚めるの、なのに、大丈夫だよぐらい、言ってたら」
答えながらジワリと涙が滲ぶ。溢すのは駄目だと歯を食いしばる。胸の中が熱く熱く膨らんだ弓月。
カタツムリを、規則正しく動く千沙都の胸の上に置いた。自分がやりたかったから、肌身離さず、魔女との約束を破り、カタツムリを離したあの時。
目を覚ますのが怖かった千沙都。動けないかもしれない、元の身体に戻れないかも……、とはいえ、夢の中ではあの日のを繰り返す。怖くて苦しくて、にっちもさっちもいかない渦の中にいた彼女。
うーん。首を傾げて何かを考える千沙都。スケッチブックをめくる、サラサラ、サラサラ。
うん。怖かった、カタツムリになって、まじょにたのんで時々 会いにこれたら、それでもいいかな、って逃げたの、でも、うきちゃんがむかえにきてくれた。うれしかった、だからがんばった
「ううん、ごめん、僕がもっと気を使ってたら、良かったんだ」
ドドーン、ドドーン、パララパララ。
サラサラ、サラサラ、マーカーの音。
でもね、そのおかげで。うきちゃんの 全て♡♡を見たからいい。およめさんにしてくれる?
ドドーン、ドドーン。ヒュゥゥゥ。
「おい?全てを見た?♡マークなに!やっぱり見たな。見たな?見たって言え!で、よ、嫁?やっぱり見た!歯欠けクッキーのお前が!」
むかしの話しないでよ、リハビリでね、お料理もするんだよ、クッキー、やいてあげるね。アイスクリーム食べたい 売店あいてる? 見てない
「たぶん」
文字に付け足した千沙都の言葉。
「閉まってるよ。たぶんって何!見た?気になるだろ、見た?風呂場で、さ……、見てないの?どっち!」
夜空に次々に開く花火。空を響かせ光で軌道を描く。
二人して戯れ合いながら、それを眺める夏の終り。
「先生が、無理しない程度に、好きな物食べなさいって、うきちゃん、たこ焼きと綿あめ買ってきて」
ジュースをひとくち含んだ後で、声を出す千沙都。
「おま!こっからあそこまで、どれだけあると思ってんだよ!行って戻ったら花火が終わってるし!面会時間ギリギリになる!」
「お母さんに渡したら大丈夫、お母さん、ちょっとおそくまでいるから」
「来年!来年行こうな、大学生だからバイトも出来るから、なんでも食わせてやる」
ドドーン、ヒュゥゥゥ、パラパラチカチカ
何でも!その声に喋るのでは追いつかないとばかりに、千沙都が徒然に書いていた、
『退院したらやりたいことリスト』
ページを開く。
はあ?弓月はそれを読みあんぐりとした。
お花見!お買い物!街をぶらぶら歩きする、美味しいお店に行きたい、うきちゃんと!トマトのパスタに、ローストビーフ丼、焼肉、イチゴのケーキ食べたい!ホールで!ハンバーガー食べたい!バニラシェイクにフライドチキン、ポテト!アイスクリームの三段重ね!駅前のフルーツパーラーで、特性ジャンボパフェ!退院祝!
ジャンボパフェはイラストが描かれていた。
映画、海、夏祭り、プール、花火大会、スケート、テーマパーク、お化け屋敷、うきちゃんと一緒、プラネタリウム、うきちゃんと一緒!学校!絶対卒業をする!勉強がんばる。
「ほとんど食うことばっかり……、てか!あのジャンボパフェって予約だろ?パフェのくせに、旬の国産フルーツと、国産生クリームにこだわった究極の逸品!めちゃくちゃお高いやつ」
「うん!退院したらご馳走してね」
笑顔が弓月を射抜いた。二人で眺める夏の終りの花火大会。
一年前、見に行く約束をしていた光の共演。
♪
あの日以来、雨はさっぱり降らない。節水制限も引き上げられたまま。上流域にあるダムは、沈んだ村役場の建物が見え始めている。
土も空も空気も、カラカラに乾いた世界で。
はしゃいで騒いで、窓の向こう側には打ち上げ花火、他愛のない無邪気な未来を指折り数え上げ、甘い小さな幸せを噛み締めている。
その事が嬉しくて、嬉しくて泣きそうになっている弓月と、そんな彼の様子を知りつつ、知らぬ顔をしている千沙都。
ドドーン、ドドーン、ドドーン、パパッパパッドドーンドドーン!パララパララ、サァァァ。
次々上がる花火は終わりが近い印、赤、青、白、黄色オレンジ、ピンクのハート、次々上がる真夏の光の花達。
車椅子に座る千沙都に背を合わせ、花火を見上げる弓月。笑顔が花咲く様に溢れる千沙都。耳元で、意を決した弓月が何かを囁いた。
「ふぐぅ!う!うきちゃん!」
「少女漫画でさ、こんな時こう言うんだろ、ちゃんと言ったぞ、これからは、うきちゃん卒業。ちゃんと、彼氏として名前呼びな!ちさと」
手で真っ赤に染まった頬を覆う千沙都。
涙がぽろりと出そうなのを堪えた弓月。
夜空の色が深くなる。鮮やか次々開く大輪の花達。
世界は通ず。
狭間では、醜い乾き魔女が愛しのカタツムリと共に、空気を振動させて開く、真夏の夜の花と思いきや、甘々世界の二人を水晶玉の投影装置で、空間一杯に映像を広げ、手を叩いて喜んでいた。
「ククク。良いもの見せてくれたねぇ。キュンキュンだよ。すっかり潤ったよ。それにしても、優しい事ですぐ泣く子だね。縁も結べた事だし、元の姿に戻れた愛しいカタツムリには、それで十分。お前の雨雲には不自由しないだろう。そうだね。気が向いたら雨乞いでもしようかな、愛しのカタツムリ、どう思って?」
クリスタルの様に透き通った殻のカタツムリがいる。その上には柔らかな雨雲。弓月が先程、千沙都を想い胸いっぱいになり、滲み出た涙で産み出されたそれ。
サァァァ……、絹糸の様に柔らかな雨が、愛しいカタツムリに優しく、甘く柔らかに降り注ぐ。
愛しいカタツムリは、それもいいねと、深く響く声で乾きの魔女に甘く囁いた。
終。
弓月が千沙都に囁いた言葉は。
二人だけの秘密。
だけど魔女にはしっかりと、聴こえていた事は。
二人には、ナ、イ、ショ。
お、わ、り。
お読み頂きありがとうございました。割烹で作品の説明をちょこっとしております。