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エピローグ〜他愛のない未来を数える。

作中にある、♪マークから下は、仙道企画その1音源をBGMに世界を書いてます。




↓仙道アリマサ様のマイページ


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2082320/blogkey/2832790/



 チョコバナナ、たこ焼き、カキ氷、いちご、ブルーハワイ、クレープ、焼きそば、ポテト、焼きイカ、串タコ、からあげ、たい焼き中身はカスタード、ジュース。


 千沙都は膝の上に乗せたスケッチブックを、ペラリとめくる。リハビリにと書いていたページを開いた。イラストと文字。覗き込む弓月。


「せめて屋上に行きたかった」


「来年な、お前のそれ欲望リストか?、ジュースならほら。林檎ジュースをどうぞ、ブシュってならない様にストロー、さしといてやる。てか室内じゃないと、会話、まだ不便だろ」


 ストローを挿した紙パックを、車椅子に乗せられた千沙都に、背後から差出し見せる弓月。


「ふう。先生に、リハビリになるから、できるだけ喋ろと言われてるけど、どこもここも、筋力不足、体力不足」


 今日の為に書いていたページを開く千沙都。トントン、ページを叩く。


 カタツムリに聞いたけど、何でも願いがかなうなら、過去に戻ってやり直しとか、うきちゃん思いつかなかった?


「あー、その手があったか。思いつかなかった、わりぃ、そっちは考えもしなかった」


 病院の屋上には、打ち明け花火を待ちわびる人達。部屋の窓辺には千沙都の様に、真夏の夜に開く花を待つ笑顔、そこから見上げる夜空。


「えへへ」


 笑い声。弓月は目が熱くなるのを隠す様に、ぶっきらぼうに話す。


「なんだよ、気持ち悪いな、リハビリ、頑張ってるんだろ。おばさんに聞いた」


 キュ……、ポン。マーカーの蓋を、ゆっくり開けた千沙都、サラサラと新しいページに、ゆっくり文字を綴る。


 うきちゃんと遊びに行きたいから、がんばってる 立つ練習もしてる カタツムリに入ってたからかな 回復が早いって うきちゃんが後ろだなって 反対


 軽く身をよじり彼を見上げ、無邪気な笑顔。書かれた端から読み取ると思い出し、苦笑いの弓月。


「ほんとにな、風呂場で何やってんだか」


 パッ。風呂場、それに反応した千沙都が前を向く。目をパチパチ。すました顔。


 ……、あ?ハッ!こ、コイツ、ま、まさか!


 グッと持ち手を握りしめると、身をかがめ素知らぬ風を装う彼女に顔を寄せた弓月。


「お前、見た、な」


 ブンブン。首を振る千沙都。


 ドドーン!パッ!シャララ……


 大輪に開く光の花、小さな星たちがキララに広がる。


 上がった!窓の外を指差す千沙都。


「話を逸らすな、みたな、お前、見たんだな」


「うふふ」


 ドドーン!パッパッパッパッ

 真夏の夜に開く、花。星が散る散る。


 余白に、一言記す。


 花火、きれい。金色 たまた~まや~♡


「はっ?き!たまた~まや~?ハートの形⁉、やっぱり見たな!見たな!誰にも言うなよな!」


 ドドーン、ドドーン!パパッパパッ!


「来た時、毎回泣いてたの、知ってるけど、秘密にしとく」


 時々に、小さな声で話す千沙都。


「は?な、毎回って!て!そっちかよ」


 見舞いに行って彼女の母親が気を遣い席を外した後、何時もグズグズ泣きべそをかいていたのを、知られていた事に弓月は狼狽える。


「うふふ、たくさん知った、うきちゃんの事」


 ドドーン、ドドーン。パッ、サァァァ。柳の様に垂れる星達の流れ、余韻、蕩けるように消える。


 筆談の為に部屋の灯りは落としていない、サラサラと新しいページに書く千沙都。


 たくさんたくさん、知った。毎日ありがと、毎日、外の話をしてくれて、音楽聞かせてくれて、たくさん泣いてくれた。


 身体を捻じり、後ろを見上げる千沙都。


「ありがと」  


 ドドーン。パッ!、パラララ。


 花火が開くタイミングに合わせ、彼を見上げる笑顔がまばゆい。それに撃ち抜かれ、ドギマギとした弓月、心臓がバクバク音立てて全力疾走。


「う、うん。あの……、ごめん、見舞いに来ても自分の事ばっかりだったなって、思うんだ。怖かったんだよな、目が覚めるの、なのに、大丈夫だよぐらい、言ってたら」


 答えながらジワリと涙が滲ぶ。溢すのは駄目だと歯を食いしばる。胸の中が熱く熱く膨らんだ弓月。


 カタツムリを、規則正しく動く千沙都の胸の上に置いた。自分がやりたかったから、肌身離さず、魔女との約束を破り、カタツムリを離したあの時。


 目を覚ますのが怖かった千沙都。動けないかもしれない、元の身体に戻れないかも……、とはいえ、夢の中ではあの日のを繰り返す。怖くて苦しくて、にっちもさっちもいかない渦の中にいた彼女。


 うーん。首を傾げて何かを考える千沙都。スケッチブックをめくる、サラサラ、サラサラ。


 うん。怖かった、カタツムリになって、まじょにたのんで時々 会いにこれたら、それでもいいかな、って逃げたの、でも、うきちゃんがむかえにきてくれた。うれしかった、だからがんばった



「ううん、ごめん、僕がもっと気を使ってたら、良かったんだ」



 ドドーン、ドドーン、パララパララ。


 サラサラ、サラサラ、マーカーの音。



 でもね、そのおかげで。うきちゃんの ()()♡♡を見たからいい。およめさんにしてくれる?


 ドドーン、ドドーン。ヒュゥゥゥ。


「おい?全てを見た?♡マークなに!やっぱり見たな。見たな?見たって言え!で、よ、嫁?やっぱり見た!歯欠けクッキーのお前が!」


 むかしの話しないでよ、リハビリでね、お料理もするんだよ、クッキー、やいてあげるね。アイスクリーム食べたい 売店あいてる? 見てない


「たぶん」


 文字に付け足した千沙都の言葉。


「閉まってるよ。たぶんって何!見た?気になるだろ、見た?風呂場で、さ……、見てないの?どっち!」


 夜空に次々に開く花火。空を響かせ光で軌道を描く。

 二人して戯れ合いながら、それを眺める夏の終り。


「先生が、無理しない程度に、好きな物食べなさいって、うきちゃん、たこ焼きと綿あめ買ってきて」


 ジュースをひとくち含んだ後で、声を出す千沙都。


「おま!こっからあそこまで、どれだけあると思ってんだよ!行って戻ったら花火が終わってるし!面会時間ギリギリになる!」


「お母さんに渡したら大丈夫、お母さん、ちょっとおそくまでいるから」


「来年!来年行こうな、大学生だからバイトも出来るから、なんでも食わせてやる」


 ドドーン、ヒュゥゥゥ、パラパラチカチカ


 何でも!その声に喋るのでは追いつかないとばかりに、千沙都が徒然に書いていた、


『退院したらやりたいことリスト』


 ページを開く。


 はあ?弓月はそれを読みあんぐりとした。


 お花見!お買い物!街をぶらぶら歩きする、美味しいお店に行きたい、うきちゃんと!トマトのパスタに、ローストビーフ丼、焼肉、イチゴのケーキ食べたい!ホールで!ハンバーガー食べたい!バニラシェイクにフライドチキン、ポテト!アイスクリームの三段重ね!駅前のフルーツパーラーで、特性ジャンボパフェ!退院祝!


 ジャンボパフェはイラストが描かれていた。


 映画、海、夏祭り、プール、花火大会、スケート、テーマパーク、お化け屋敷、うきちゃんと一緒、プラネタリウム、うきちゃんと一緒!学校!絶対卒業をする!勉強がんばる。


「ほとんど食うことばっかり……、てか!あのジャンボパフェって予約だろ?パフェのくせに、旬の国産フルーツと、国産生クリームにこだわった究極の逸品!めちゃくちゃお高いやつ」


「うん!退院したらご馳走してね」


 笑顔が弓月を射抜いた。二人で眺める夏の終りの花火大会。


 一年前、見に行く約束をしていた光の共演。



 ♪



 あの日以来、雨はさっぱり降らない。節水制限も引き上げられたまま。上流域にあるダムは、沈んだ村役場の建物が見え始めている。


 土も空も空気も、カラカラに乾いた世界で。


 はしゃいで騒いで、窓の向こう側には打ち上げ花火、他愛のない無邪気な未来を指折り数え上げ、甘い小さな幸せを噛み締めている。


 その事が嬉しくて、嬉しくて泣きそうになっている弓月と、そんな彼の様子を知りつつ、知らぬ顔をしている千沙都。


 ドドーン、ドドーン、ドドーン、パパッパパッドドーンドドーン!パララパララ、サァァァ。


 次々上がる花火は終わりが近い印、赤、青、白、黄色オレンジ、ピンクのハート、次々上がる真夏の光の花達。


 車椅子に座る千沙都に背を合わせ、花火を見上げる弓月。笑顔が花咲く様に溢れる千沙都。耳元で、意を決した弓月が何かを囁いた。


「ふぐぅ!う!うきちゃん!」


「少女漫画でさ、こんな時こう言うんだろ、ちゃんと言ったぞ、これからは、うきちゃん卒業。ちゃんと、彼氏として名前呼びな!ちさと」


 手で真っ赤に染まった頬を覆う千沙都。

 涙がぽろりと出そうなのを堪えた弓月。


 夜空の色が深くなる。鮮やか次々開く大輪の花達。


 世界は通ず。


 狭間では、醜い乾き魔女が愛しのカタツムリと共に、空気を振動させて開く、真夏の夜の花と思いきや、甘々世界の二人を水晶玉の投影装置で、空間一杯に映像を広げ、手を叩いて喜んでいた。


「ククク。良いもの見せてくれたねぇ。キュンキュンだよ。すっかり潤ったよ。それにしても、優しい事ですぐ泣く子だね。縁も結べた事だし、元の姿に戻れた愛しいカタツムリには、それで十分。お前の雨雲には不自由しないだろう。そうだね。気が向いたら雨乞いでもしようかな、愛しのカタツムリ、どう思って?」


 クリスタルの様に透き通った殻のカタツムリがいる。その上には柔らかな雨雲。弓月が先程、千沙都を想い胸いっぱいになり、滲み出た涙で産み出されたそれ。


 サァァァ……、絹糸の様に柔らかな雨が、愛しいカタツムリに優しく、甘く柔らかに降り注ぐ。


 愛しいカタツムリは、それもいいねと、深く響く声で乾きの魔女に甘く囁いた。




 終。



 弓月が千沙都に囁いた言葉は。

 二人だけの秘密。

 だけど魔女にはしっかりと、聴こえていた事は。


 二人には、ナ、イ、ショ。


 お、わ、り。

お読み頂きありがとうございました。割烹で作品の説明をちょこっとしております。

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仙道企画その1 バナー制作 猫じゃらし様
― 新着の感想 ―
[良い点] 潤う! これは、潤いますね!! ふとしたことで結ばれる絆や、しっかり怖い(そしておちゃめな)魔女。おとぎ話を読んでいるかのようなファンタジー感と、ニマニマさせられる現代あまあまラブ展開の両…
[良い点] やったぜーー! ハッピーエンド! やっぱこうでなくっちゃね! だが……これから二人の行く道は……リア充街道……くっ!
[一言] 良かったです。 リハビリ大変だけど、目標があるから頑張れるよね。 花火も見ることができたし、これから美味しいものいっぱい食べて取り返さなきゃです。 そして、そろそろ恵みの雨も欲しいところ…
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