4.美少女メイドとの出会い
「…………?」
だが、いつまで待ってもエリンギのトドメも、スライムに取り込まれることもなかった。どころか、気配が消えた。
ようやく整ってきた息で、顔を上げると、そこには横たわるエリンギ四匹の姿があった。その身体には小さなナイフが深々と突き立っている。
「あ、あのー……大丈夫ですか?」
顔を上げると、木に隠れるようにして顔を覗かせているメイドがいた。しかも今日日お目にかかれないような可愛い子だった。
「なんとか、生きてます……」
その声に安心したように、メイド少女は姿を見せた。メイド服はエプロンドレスのもので、私にも見覚えがあった。アキバの街角で立っているようなヒラヒラしたものではなく、シンプルなデザインだ。
ショートボブの髪型と、小柄な体型、私とそんなに大差のない胸の盛り上がり、ちょっとドジっこの気配を感じさせる人見知り系メイドだ。とても私の好みです。
「あ、あのー、あんまりじっと見ないでください……?」
「エリンギ、倒してくれたんだよね。ありがとう……あれ、スライムは?」
「ス、スライムも片付けましたっ。エリンギ……ゴーストキノコですか」
「そう、エリンギっぽいよね、ゴーストキノコ、って言うんだ。ゴーストキノコ……ゴーストキノコ?」
はて? どこかで聞いたような。脳内検索をかける。キノコ……手足があって、顔があって……なーんか既視感があると思ったんだけど……まさか!
「そうだ、『モンスタークエスト』のゴーストキノコ! まさか、ここって……東京じゃなくて、モンクエの中、ってこと?」
「モンクエというのが、その、何なのかはわかりませんが、ご無事で何よりです」
倒れたゴーストキノコたちを見る。突き立ったナイフたち。彼女がこれをやったんだ。
「改めて、助けてくれてありがとう。私は最上由佳。名前を訊いてもいいかな?」
「あたしは、ラ、ラディア・ランプルです。どうぞラディアと呼んでください。オルニックの領主、ブリアン・オルニック様のお屋敷で働いてます。よろしくお願いします、モガミさん」
「私のことは由佳、って呼んで。えっと、ファーストネームがラディア、でいいのかな? よろしくね、ラディア」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、由佳さん」
どうやら外国人のようだ。お客さんに海外の人が結構いたから、実は私、英語もイケる。でも、この子すごい流暢に日本語話すね。
「それで、由佳さんは、その、見慣れないお姿ですが……ここで何をされていらっしゃったのでしょうか?」
「むしろ私が聞きたいことだらけなんだけど。ここ、東京なの?」
彼女は、少し困った表情になってしまう。
「いえ、トウキョウ、というのがどちらかは存じ上げませんが、オルニックは大陸の中でも西に位置する街です」
もちろん日本は島国だ。大陸という単語は普通に生きていれば無縁のはず。それに、オルニックなんて国も街も知らない。拉致された、なんていう非現実的なものよりも、
「その様子だと、日本も知らないよね。ってことは、モンクエの世界、って考える方が自然かなあ」
どちらが現実的かと言われると、答えに窮してしまいそうだけど。
「……ニホン? いま、ニホンとおっしゃいましたか?」
「ほぇ、日本を知っているの?」
予想を外れたリアクションが返ってきたことで、つい間抜けな声を出してしまった。
「知っていると言いますか、古くからの言い伝えで『魔王が復活する時、極東の国ニホンより勇者が現れる』と……由佳さんは、まさか、」
「ちがう」
機先を制しておく。
「勇者なのですか!」
ガン無視された。
「ちがう」
うっ、キラキラとした眼差しで私を見ないで。違うと言ってるでしょ。
「勇者、ではないよ。さすがに。その……いまはニートだけど……前職は焼肉屋、と言うか……なんというか」
勇者と比べるのは、さすがに、ちょっと。見劣りすると言いますか。いえ、職業に貴賤があるなんてことは思っておりませんが。
「ヤキニクヤ、とは強そうな職業ですね。あの、ニホンからの勇者はみなユニークスキルを持っていると聞いたんですが、本当ですかっ!」
さらに身を乗り出してくるラディア。近い近い。鼻息荒い。唇ぷるっぷるだな。男だったら迷わずチューしてたね。引っ込み思案な女の子だと思ったけれど、こうして興味のあることだと饒舌になるらしい。こっちのほうが可愛くていい。
「あー、ごめん。まだ目が覚めたばかりで、何にもわかんなくて。ユニークスキル……そんなものが私にあるのかなあ? 気づいてないだけかもしれないけど」
「でも、こうしてニホンからオルニックに来たということは、討伐依頼の件でお越しになられたということですよね。でしたらぜひ一度お屋敷へ来てください」
「え、なに? 討伐依頼? 私なにも知らないけど」
「知らないのならこれから知ればいいのです。それに、宿もないご様子。屋敷には空室もございますので、本日はひとまず一緒に参りましょう」
結局、半ば押し切られる形で、私はついていくことにした。
実際のところ宿はないし、食事のあてもなければ、この世界のこともわからない。
本当にモンクエの世界なのか、それとも私の脳が休暇を欲するあまり見せている幻覚なのか。今のところは判然としないけれど。
確かなことは、逃がすまいと私の手を引く彼女の温もりだけは、紛れもなく本物だということだ。
閲覧ありがとうございます。
森の中で美少女メイドと出会いたいです。