第一章4 『騎士団前団長』
「予想外の事が起きて取り乱してしまいましたが、気を持ち直して再び質問をしていきたいと思います」
「貴方は魔法が使えますか?」
「なんというか、自分が魔法を使えるかわからないんですよ…」
チーン、
その場に音が鳴り響いた。魔法など使えるはずないと理解していたのに、心のどこかで『もしかしたら』という淡い期待を抱いてしまったせいだ。
「すみません、やっぱ魔法は使えないです」
「別に魔法が使えないからといって恥ずかしがることはない、騎士団にだって魔法が使えないが強い人はいる」
「はあ…嘘発見機が目の目にあるとわかっているのに嘘をつかないで下さい。魔法が使えないということは、ユウキさんの称号はナイトですね」
「ナイトってどんな事するんですか?」
「この騎士団には三つの所属があります。最前線で戦い、敵の注意を引きつけるナイト、ナイトを後ろから魔法で支援し、時には最前線で戦うマジックナイト、後方からナイトやマジックナイトを援護するウィザードの三つです」
「ナイトは囮のようなものか… それにしても最前線かよ、これは本格的に助けて貰わないとやばいなぁ」
「ユウキがナイトか…これは本格的に面倒を見なければならないなぁ」
「同じ事考えてる奴いたー!」
「ちなみにエリスの称号はなんなの?」
「私の称号はマジックパラディンといってな、少し特殊なんだ」
「エリス様の称号はマジックパラディンといってマジックナイトの中でも特に優れている方に与えられる称号です。他にもナイトの上位のパラディン、ウィザードの上位のスペリアルウィザードの称号もありますが、この称号を持っている方は騎士団でもごく僅かな方しかいません」
「特別感があって格好いいな。もしも俺がピンチになったら助けてくれよ、マジックパラディン様」
「変な呼び方をするな!まあナイトを助けるのが私の役目だ、もしユウキがピンチになったら助けると約束しよう」
「それは心強いなぁ。任せたぜ!」
「では最後の質問です、ハムラ・ユウキさんは慈愛を授かっていますか?」
「慈愛ってなんですか?」
「慈愛とは、生まれた瞬間神から授けられる力とされている。物心ついた時には自分が慈愛を持っているかどうかわかるようになっているはずだ」
特に何も感じない。まさかまだ物心がついてない…ということは17歳の男子にとってあり得ないだろう。つまり慈愛というものなど持ってないということになる。
「多分持ってないですね。やっぱエリスは慈愛持ってんの?」
「残念ながら私は持っていない。慈愛を持つ者は世界の人口の約4割しかいないらしいからな」
「そうなのか。で、俺持ってませんけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です、これで質問は終わりになります。では試験を行うので私について来てください」
「試験って何するんですか?」
「模擬戦をやるんだ、実戦で戦えないと意味がないからな」
「模擬戦か…大丈夫かなぁ」
「最低限の事が出来れば恐らく大丈夫でしょう。ではついて来てください」
そう言われてユウキ達は大広間にある階段を下に降って行った。
「そういえば今日の担当は誰だったけな?」
「本日の担当はハイゲル前団長ですね」
「前団長!?そんな人が相手なのか!?」
「ハイゲルさんか…少し厳しい方ではあるが根は優しい方だ、そんなに構える必要はない」
「そうだといいんだが…」
会話するのも束の間、ある扉の目の前に到着した。
「ハイゲル様、リリシアです。騎士団に入団したいという者を連れて来ました」
そう言って扉を開けると目の前には学校の体育館のような大きい空間が広がっていた。
「今時騎士団に入りたいとはとんだ物好きがいるもんだな」
太くて重圧感のある声が遠くからしたかと思うといきなり目の前に人が現れた。身長が180cmぐらいだろうか、左目に眼帯をかけており左手がない。その赤髪の男の目の前に立っていると圧迫感で胸が潰れそうな感覚がする。
「久しぶりですハイゲルさん」
「これはエリスお嬢様、その美しいお姿を拝見でき恐悦至極に存じます」
そう言うと、その男は膝をつき深々と頭を下げた。
「今日は入団希望の者を連れて来たのでハイゲル様に見て頂きたいのです」
「どうもハムラ・ユウキと申します」
「ーーっ!」
俺のことを見とハイゲルと呼ばれるその男は驚いた様な顔をしていた。
「ハイゲル様、どうかされましたか?」
「いや心配には及ばない、その子の顔が昔の知り合いに似ていたもんでな。まあそんな事どうでもいい、俺の名前はハイゲル・ルグ・クライシス。これからお前の相手をする者だ」
「よ、よろしくお願いします」
「ユウキといったな、では早速始めよう。剣をとれ」
ハイゲルは自分の腰に掛かっていた2本木刀のうち一本を渡して来た。ユウキは木刀を握ったのは初めてだが思ったより重量感があり振りにくそうだ。
「ルールは簡単だ。お前の持っている木刀が俺の体のどこかに触れればお前の勝ち、もし時間制限以内に触れられなかったらお前は俺に殺される。制限時間は30分だ、ちなみに俺は一歩も動かない。リリシア、これを頼む」
ハイゲルはポケットから砂時計のようなものを取り出すとリリシアに渡した。
「制限時間内に触れられなかったら殺す!?流石に冗談ですよね!?」
「冗談かどうか知りたかったら俺に勝つことだな。さあ全力で来い!」
あの目はマジの目だ、このままだと本当に殺されるかもしれない。気のせいかエリスやリリシアのこちらを見る目が「ご愁傷様」と伝えている気がする。
「この試験ちょっと待ったぁぁ!」
ハムラ・ユウキの最終入団試験の幕が開かれた。