第一章1 『その少女の名は』
ーーうおぇっ
辺り一面に漂う悪臭のせいで頭がどうにかなりそうだ。
状況は最悪だ。異世界に転生されたものの着いた場所は辺り一面がやけ野原だった。地面を見ると所々に剣や槍が捨てられており、何より大量の血があちこちにばら撒かれている。
「一旦状況を整理しよう。ここは異世界で間違いなさそうだ。そして周りの状況を見るにここで戦いがあったと思われる。血の状態からして戦いが終わってから余り時間は経っていないようだな」
「それにしてもこれからどうするかぁ、異世界に来たが、あの自称天使によると俺はチート能力を持ってないらしい。それに場所が場所だ、辺りを見渡しても何もない。今の時間帯は夕方か。もうすぐ夜になりそうだし街とかに行けたらいいが、これではどこに向かって歩けばいいかわからないぞ」
そうして悩みながらぼーっとしてると、いきなり遠くの方で小さく灯りが付いたのが見えた。
「いきなり灯りが付いた!誰かがいるのかもしれない、行ってみるか」
歩いて20分だろうか。もう日が沈みかけていて辺りは暗い、そのせいかその灯りはだんんだん明るく大きなものとなってきた。灯りの方に行くにつれ悪臭も強くなっており、頭が痛くなる。俺はこの時点で向こうでなにが行われているかおおよそ察しがついた。
歩くこと約40分、ユウキは目的の場所にたどり着いた
ーーうっ
それは見るに耐えない死骸の山だった。おそらくこの死骸は戦死者なのだろう。想像以上大きく死骸の数はざっと100を超えるかどうかだ。死骸は炎に包まれ、まだ時間が経ってないせいか原型が残っていてかなり生々しい。ここにくる途中なにが行われているか察しはしてたものの現場に着くと、悪臭による嗚咽感がいきなり襲ってきた。いわゆる火葬というやつだ。
「俺もあの後こんな感じだったのかな」
ふと呟いた言葉にどのような感情を抱いていたかはユウキ自身もわからなかった。
ハムラ・ユウキは人生で一度だけ火葬の現場を見た事がある。彼がまだ10歳の時、父方の祖父が亡くなってしまいその際に火葬現場に立ち会った。祖父の亡骸は棺桶に収められているのを見て、自分も死んだらこうなるのかなぁ…と楽観的な考えをしていた。
だが今は違う、戦地に棺桶などあるはずがない、この世界の兵隊1人の命なんて木に生えた葉っぱ1枚と同じ価値なのだろう、戦死した者は皆こうしてまとめて焼かれていく、これが現実だ。そう考えると急に恐怖心がユウキを襲った。
ーー怖い、戦いたくない、死にたくない、逃げたい。
恐怖で足が竦んで倒れかけた瞬間、
「大丈夫か!」
「え、あ、うん。ありがとう。」
「よかった。なぜまだここに人がいる、団は撤退したはずだが?」
そう言って声を掛け俺の崩れそうな身体を支えてくれたのは、全身を鎧で覆い、真っ暗な世界を輝かせるような長い金髪をなびかせ、俺より少し身長が低い可憐な女の子だ。まさに異世界ファンタジーを彷彿させる。
「見たことのない顔だな、お前は騎士団の者か?」
「違うけど…」
「そうか」
話は通じるようだ。
「私の名前はエリスだ。よろしく」
この出会いが2人の運命の歯車を狂わせていくことはまだ誰も知らない