48 レミーナ
本文にイラストが入っております^_^
和やかに三人でランチを食べた後、レミーナはメリルとまた時々一緒にランチをしましょう、と約束をして食堂を出ると別れた。
「さて、レミーナさまは背丈も私とそんなに変わらないから私の予備の侍女服を着れば大丈夫そう。控え室に置いてあるので、そちらに案内しますね」
「はい、わかりました」
リアナは気さくに笑いながら、普段は何をされているの、とか、離塔にいるからお見かけしなかったのね〜、などと話題にことをかかない。
話しながら歩いた廊下の端にある階段を上がっていくと、二階なのに壁は濃紺ではなく乳白色のままだった。
「二階なのにここは壁がそのまま白いのですね」
レミーナが不思議そうに周りをみていると、リアナは切れ長の目をすこし見開いてまぁ、と可笑しそうにはにかんだ。
「ふふっ、レミーナさまは本当にあまり王宮内を歩いていらっしゃらないのですね。こちらは同じ二階でも王太子殿下がいらっしゃる南棟ではなく北棟になりますので、壁は一階と同じ色なのですよ」
「そうだったのですか」
いつのまに南棟から北棟に移っていたのだろう。話しながらリアナについて歩いていたので、方向音痴なレミーナは自分がいったいどこにいるのかさっぱり分からない。
リアナがこちらへ、と案内してくれた小部屋に入ると、背中合わせでないと通れない通路の両側にずらりとお仕着せの服が並んでおり、奥には着替えのスペースとして間仕切りできる衝立が置いてある。
「普段私たちは一階にある控え室で着替えをしますが、緊急で着替えないといけない時にはこちらを使うのです。なんらかの原因で服を汚してしまっても、すぐに着替えてお仕えが出来るように」
要人を待たせることが無いように考えられていて、レミーナは素直にすごいと思った。細い木で加工されたハンガーには番号札がかかっていて、きちんと管理されている。
「はい、こちらが私の予備です。サイズは大丈夫だと思いますが、合わなければ同僚のと変えますから遠慮なくおっしゃって下さいね」
リアナはさささっと三点ほどをセットにして渡し、着替えスペースのカーテンを閉めてくれる。
レミーナはわかりました、と頷き、少しドキドキしながら深緑の制服を脱いでいった。
黒の前ボタンをあけて下からがばりと着て袖を通すとすぐにボタンを締める。
白いエプロンを腰から下に巻きリボン結びにすると、同じく白いカチューシャを頭にかけて、備え付けの姿見の前に立った。
黒と白のシンプルな侍女服。文官服のプリーツスカートと比べると、侍女服のスカート丈は長く、くるぶしより少し上だ。
「いかがですか?」
これでいいのかな、と思っていると、リアナさんが絶妙なタイミングで声をかけてくれる。
「大丈夫だとは思いますが、丈があっているのかどうかわからなくて」
「はい、みますね、失礼いたします」
さっとカーテンが開かれて、リアナがレミーナを前、後ろ、横、と見てくれる。
「レミーナさま、大変申し訳ないのですが鏡に向かってお辞儀をしていただけますか? あ、文官の礼ではなく、手を胸の下辺りに組み、背筋を伸ばした状態で腰から曲げる形で、あ、はい、きれいです、恐れ入りますがそのままに」
レミーナが身体を斜めに倒した状態で止まると、その状態でリアナはまた前、後ろ、横、とレミーナの周りを回った。
「ありがとうございます、身体を起こしてくださいませ。お辞儀をした姿勢でも丈が床についていないので大丈夫です。ちょうど合ってよかったわ」
リアナが満足そうに頷いたので、レミーナもホッとする。そしてリアナが髪をお団子にまとめてくれたので、レミーナはどこから見ても侍女ですと言える形になった。
「レミーナさまは不思議と居丈高な雰囲気のない方なので、侍女服も似合いますわね」
「遠慮せず平々凡々だといってください。自分でもわかってますからー」
「まぁ、そんなことをおっしゃって」
レミーナが肩をすくめてにっこり笑うと、リアナはくすくすと声をたててくれる。
「お仕事の顔、ご令嬢の顔、と使い分けていらっしゃるのでは? アルフォンス殿下の前に立たれるとまたちがうお顔ですわよ、きっと」
「うーん、とてもそうは思えませんが……あ、う……?」
普段の殿下とのやりとりは、とリアナにブリザード王子っぷりを伝えようとしたら、ランチ前に殿下と息がかかるほど近づいてしまった事を思い出してしまった。
「あらあら、まぁまぁ! 仲良しさんなのですね、素敵!」
「あ、う、えっと、うぅ」
はいともいいえとも言えずに顔を赤らめて、も、もうこれ以上は、早く行きましょうと慌てて支度部屋を出る。
「アルフォンス殿下がレミーナさまの事をことの外気にかけていらっしゃると、こちらにも伝え聞いていたのです。本当だったのですね」
「う、あう、そう、だと、うれしく、おもい、ます」
「あらあらあら! 初々しくなられてしまうのですね。なんてお可愛らしい……!」
「いや、もうやめて、リアナさんっ」
顔の温度が上がったまま下がってこなくなっちゃうっ。
うつむき手でほてった頬を仰ぎながら涙目でもう勘弁してください、というと、リアナは切れ長の目を見開いて急によろめいた。
「ああぁ、レミーナさま、それは私にやってはいけない仕草ですわ。どうぞアルフォンス殿下へ……!」
「ええ?? リアナさん、どうされたのです?」
「む、無自覚……! これは強烈ですわね。殿下、お察し申し上げますわ」
よろめき壁に手をついて肩で息をしているリアナが心配になって顔色をみようと思った時、どこからか薄紫のカードがひらりと足元に落ちてきた。
ん? カード? とレミーナが思う間もなくリアナがさっとその小さな紙をひろう。
「わかっておりますわ。すぐに」
比較的大きな声を上げたリアナは、失礼しましたわ、とレミーナに目礼すると背筋を伸ばして歩き出した。
「あの、さきほどカードが見えましたが、どこから……?」
「はい、お教えいたしますのでまずは妃殿下のお部屋に。お待ちのようですので」
え? 待ってるって……もしかして妃殿下? イルミ妃殿下と会えるの?!
レミーナの記憶にある妃殿下は舞踏会で遠くから挨拶した時と、その後、小部屋を覗いた時にひきずられていった姿だ。
面と向かって会えるのは今回が初めてとなる。
アルフォンス殿下の義理の母であり、現ルイビス王国の王妃、イルミ・フェンナ・ルイビス。
「どんな方なのだろう……」
王家の肖像画と遠くバルコニーで手を振っていた可憐なお姿が印象深い、レミーナにとっては遠い存在だ。
ぽそりと小さく声に出してしまったレミーナのつぶやきに、リアナはくすくすと笑った。
「大丈夫ですわレミーナさま、びっくりするほど気さくな方ですのよ?」
「リアナさん、ほんとに?」
「ええ、レミーナさまとお会いできるのを楽しみにされているようですわ」
直毛の白金髪が美しい、淑やかな貴婦人は表の顔なの? やだ、緊張してきた。
エプロンの端をきゅっと掴んで小さく深呼吸する。
リアナはそんなレミーナを微笑ましそうにみて、さあ、こちらです、と廊下の突き当たりにあるつる草模様の意匠がきれいな金の取っ手を開いた。
こんばんは、筆がのったのでなんとか書けました。
次回はいよいよ妃殿下との回。どんな方なのか、私も楽しみです^_^
なん
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レミーナの侍女姿、どんな感じがかわいいかなぁと呟いておりましたら、加純さまがイラストに描いてくださいました!
加純さま、ありがとうございます! とてもかわいいっっ( *´艸`)




