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15 レミーナ

 



「殿下、すみません、ティアの様子を見にいってもいいですか?」


 レミーナは古い木目の廊下を歩きながら小声でたずねる。今出てきた子供部屋と同じ並びの一番端にコンスエロ先生の私室があり、ティアはきっとそちらで寝かされていると思われた。


「殿下がこちらでお休みになるなら、いまからお部屋を用意するのですが、先にあの子のようすを知りたくて」


 そう声をかけながら、廊下の真ん中にある階段の前で一度止まると、アルフォンス殿下はあなたが部屋を用意するのか? と驚いた顔をした。


「あ、もちろん、下にいるリサと一緒に支度します。 私が用意したら、シーツがあっちゃこっちゃとはみ出てないか心配ですから」

「ふむ、あなたならやりかねない、か」

「あの、だから、ちゃんと、侍女とやります!」


 レミーナはぷっと頬をふくらまして見上げる。すると殿下は、冗談だよ、と片眉を上げながら拳を口に当てて笑いをかみ殺していた。


 なんかこう、なんかこう! 殿下をぽかぽかしたいっ!!


 でもいまはティアが優先だ。

 むう、としながら口をつぐんで我慢をしていると、殿下は苦笑して頭をぽんぽんっと優しく叩いた。


「すまん、やはり私はあなたを怒らせてしまうな」

「ぽかぽかしたい気持ちでいっぱいです。でも」

「ああ、わかっている。私と遊んでいる時間はあまりないだろうね。私は一度戻るから部屋はいい。あなたはどうする?」

「そうですね、コンスエロ先生はきっとティアにつきっきりになると思うから……ティアも他の子たちも心配ですし、今夜は泊まります」

「わかった。では私が帰りにルスティカーナ家に寄ってその旨を伝えよう」

「殿下が、ですか?」


 伝達など、わざわざ王太子のやることではないんじゃないか、と今度はレミーナが目を見開くと、アルフォンスは特に気にした風もなく頷いた。


「実は二、三日休暇を貰っている。今は王太子というより、あなたの護衛騎士だと思ってくれればいい」


 こんな誰しも知っている人が、護衛騎士?! む、向かないと思う。


 レミーナは口をあんぐりと開けてしまった。


「うん? 剣は使えるから心配しなくてもいい」

「あ、いいえ、ええっと、はい」


 そこが気になった訳じゃないけれど、これ以上殿下をわずらわせちゃいけない。


 レミーナはあわてて頷いた。


 アルフォンス殿下は少し片眉を上げたが、気に留めないと決めたようだ。それから、と海空色の瞳をひたとレミーナの目線と絡めた。


「明日は午前にルスティカーナ家へ戻ってほしい。その後、あなたを連れていく場所がある」

「ティアが起きてから、でいいですか?」

「ああ、もちろん」

「ありがとうございます。あと、連れていく場所って?」

「あなたの憂いを取る為だ。詳しくは明日行き道で話す」

「え、それは決定事項ですか? 私、明日王宮に出仕する予定なのですが」


 レミーナの文官としての休みはこの週末までだ。明日は出仕日、ここから出勤はできないから、遅れて出仕する旨をルスティカーナ家から伝えてもらおうと思っていた。

 しかし、アルフォンスは軽く首を横に振った。


「体調不良ということで、休暇扱いにしてある。明日は私に付き合ってくれ。ではな」


 それだけを言うと、返事もまたずにさっと階下へ降りていってしまった。


「ご、ごういんーっ」


 残されたレミーナは叫び出しそうな気持ちを抑えて、両手で自分の寝間着をぎゅっとつかむ。すると肩にかけられた殿下のマントが落ちそうになった。


 あわててマントを掴んではおりなおす。

 そのマントは大きくて温かで、優しい肌触り。


 口とか、態度とか、すっごくいじわるなのに!


 手元に残るのはぬくもりなんて。


「殿下って、ぜったい二重も三重もクセがある人だわ。お付き合いする人、大変!」


 自分がその最有力候補というのはぶるぶると頭から振り落として呟くと、足早にコンスエロ先生の私室へと向かった。










こんばんは、今回少し短いので、明朝次話をアルフォンス視点で投稿したいと思います。


楽しんで頂けますように。



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