9 レミーナ
gaction9969さまよりとっても面白いレビューを頂きました! ノリノリな気分にさせてもらって、嬉しくて投稿です!
今日は日間96位!
毎日投稿できていないのに、本当にありがとうございます。
見てくださる方のおかげで、書く力、頂いています!
リビングの広い机の上にリサがアイボリーの布をしいて、その上に持ってきたバスケットを置く。するとミカーロがさっそく籠に手を出してきた。
「あっ、こら! ミカーロ! 先に手を出しちゃダメだよ」
「ちがうよ! お手伝いしようとしたんだ」
サラサラのマシュマロ頭をぶんと横にふって、ぷーと頬をふくらませるミカーロ。レミーナはほんとう? とミカーロの目の前まで顔を近づける。
「前の前に来たときに、そういって先にもぐもぐしてたの誰でしたっけー?」
じーっと大きなくりくりのうす紫色の瞳を見つめると、今日はお手伝いだけだもんっ、と小さな手をぐーぱーぐーぱーしながら机に肘をついて身を乗り出している。
レミーナはちょっと考えて、じゃあこうしよう、とミカーロにお願いをした。
「お手伝いだけならもちろん、お願いしたいよ? お菓子をのせるお皿を人数分出してくれる?」
「えー!! おやつをくばる係がいい!」
「ふーん、おやつ、みんなより先に食べないならいいよ?」
「うっ」
ミカーロはバスケットに溢れそうなほどたくさん入っているスノークッキーをみた。
うす紫色の目は、バスケットとレミーナの顔を行き来して、口元は食べたそうに開いてしまう。
「んー、やっぱりミカーロにお願いするには早かったかなぁ」
「あ、じゃ、僕がやろうか?」
ミカーロの代わりに、と横にいたシスタビオが手をあげる。
「あー!!!! やるやるやるっ!!!! ぼくがやる! できるっ」
それをみたミカーロは慌ててシスタビオより身を乗り出した。必死なその顔が可愛らしくて、レミーナは笑いそうになるのをこらえながら、じゃあ、お願い、と頷いた。
「アマリーナは身体が小さいから三つね。ミカーロは五つ。シスタビオとティアは身体が大きいから六つ。コンスエロ先生と私たちは四つあれば十分よ」
「え、えぇっと……」
ミカーロが指を折りながら数を数え出したのをみて、シスタビオが三と五。六が二つ、四が三つ、とミカーロに声をかけている。
あとは二人が一緒になってできるだろうと任せて、レミーナはリビングの脇にあるキッチンに入っていった。
中ではリサとコンスエロ院長先生が紅茶のお湯と子供たちのためのミルクを温めている。
小さなアマリーナもコンスエロ院長先生のエプロンを掴みながらコンロのそばにいた。
レミーナをみつけたとたん、ぱぁっと笑顔になってこちらかけより、ぽすんと足元のドレスに顔をうずめ、だっこをせがんだ。
「ミカーロにとってシスタビオがライバルなのね、院長先生」
「そうなのよ。喧嘩もたくさんしているけれど、それでもああやって一緒になにかできるから、お互い相性はいいのよ」
「そうみたい。シスタビオがちゃんとお世話してる」
「しすー、よしよししゅる」
「そうね、後でたくさんよしよしするわ」
「あまりーもよしよししゅる」
「あれ? アマリーナはなにかいいことした?」
んー、とアマリーナはレミーナの顔のそばで小さな頭をかしげた。
しばらくの間、んー、んー と考えていたが、突然にぱっと笑って首すじに抱きついてきた。
「にゃい! でもよしよししゅるっ!」
あまりに無邪気な訴えに、リサもレミーナもコンスエロ院長先生さえも笑ってしまった。
でもそれじゃあミカーロ達に申し訳ないから、とコンスエロ院長先生は人差し指を立ててアマリーナに言い聞かせるようにいった。
「ミカーロとシスタビオがみんなのお菓子を分けてくれているから、アマリーナがちゃんと二人にありがとう、を言えたらよしよししましょう」
「あかった! ありがと、いう!」
「そう、いつも感謝の心を忘れずにね」
「あいっ」
いいお返事をすると、レミーナの腕からおりるといって、リビングの方にとてとてと歩いていった。
その小さな後ろ姿をみながら、レミーナはほっと心が温かくなる。
「アマリーナ、だいぶ言葉が出てきましたね」
「ええ、ここ一ヶ月ですごくしゃべるようになったの。ここが自分のいる場所だと安心できたみたいでよかったわ」
レミーナの言葉を受けて、コンスエロ院長先生も深く頷いた。
ポステーラ養護院は訳あって両親と暮らせない子を預かる場所だ。
片親でその働き手の親御さんが体調を崩して戻るまで預かったり、不幸にもご両親が亡くなってしまった子を預かったり。
アマリーナは二ヶ月ほど前に、ポステーラ養護院にきた。お母さんが体調をくずして長く休むことになり、お父さんは行商に出ていて早くても一年経たないと戻っては来られない。
来た当初はお母さんが恋しくて一日中泣いていたが、だんだんと落ち着きを取り戻している。心配したお母さんが、普段使っていたショールを人を使って寄越してくれたのだ。
それをみたアマリーナは、ショールを抱きしめて眠るようになり、やっと泣きやむようになった。
「ティアは、まだ、みたい……」
レミーナがそっとリビングの方に顔をむけると、ミカーロとシスタビオがやいやいと言いながらお菓子をお皿にのせていく様子が見えた。
二人の後を追いながら、ありがとー、ありがとー、というアマリーナ、そして机の一番すみに静かに座っているティアがいる。
ティアはアマリーナと違って戻る場所はない。ご両親共に事故で亡くなったのだ。
ティアがこちらに来て三ヶ月になる。けれど、レミーナはティアの声をまだ一度も聞いたことがなかった。
「そんなにすぐに受け入れられる人なんていないわ。ゆっくりゆっくりでいいのよ、特にティアはね」
コンスエロ院長先生は優しく目を細めてティアを見つめている。そんな院長先生に、子供たちは救われているのだと思う。
そして、私も。
なかなか社交に気持ちを向けることが出来ないレミーナに、フローラは社交ではなくこちらに来ることを勧めた。
人と接することすら苦手に思うようになっていたレミーナにとって、問答無用に突進してくる子供たちのお世話は、いい意味で人間不信になりそうな心を回避してくれた。
「ティアも、私も、ゆっくりゆっくり、かも」
「あら? レミーナさまはそんなにゆっくりでなくてもいいのよ? 恋は突然、ぴしゃーんと来るらしいから」
「もー、コンスエロ院長先生はロマンス小説読み過ぎ! 実際はそんな都合よくいかないですよー! 忙しい方ですから、会っても二言三言です。そこから恋に発展するとは思えないですよー」
コンスエロ院長先生はにこにこしながら、そうかしら? と嬉しそう。
「そうです、まずは知ることから!」
「はいはい、そうでしたね」
「あ、コンスエロ院長先生、カスパル先生にはいは一回っておこられちゃいますよっ」
「あらあら、まあまあ。ふふふ、はい」
コンスエロ院長先生とカスパル先生は旧知の間柄みたい。
先生はお元気? とコンスエロ院長先生が紅茶のカップを出しながら聞いてきてくれる。
レミーナは、元気すぎなぐらい、相変わらずですよー、なんてちょうど湧いたお湯をポットにそそぎながら話していたら、リビングから大きな声が聞こえてきた。
「みーなせんせー! できたよー! はやくはやくーっ!!」
「だから、れみーなせんせーだし」
「みーちぇんちぇー、ありがと、いった!」
三人の元気な声に、ちょっとまってね! と返事をする。
リサを伺うと、こちらも準備できました、とゆるやかに湯気がたったミルクが人数分用意されていた。
レミーナはありがとう、と頷くと、今いくからお席についててねー! と声をかけ、こぼさないように紅茶のポットを気をつけて持ちながら、リビングに入っていった。




