突然の訪問
柊人さんに文芸部と文学部の話をしてもらった二日後の放課後のことだった。
いつものように俺、柊人さん、彩葉さんは小説を書き、優一は小説を読んでいた。そんな静かなひと時を、ドアを開く大きな音が壊した。
「はぁ、はぁ、き、恭弥、く、ん」
「な、奈々美っ!?」
なんと部室に入ってきたのは奈々美だった。そしてそのまま地べたに倒れていく。
「お、おい、どうした!?大丈夫か!?」
俺はすぐさま奈々美の元に駆け寄り声をかける。が、返事はない。顔をよく見ると、スヤスヤ寝息を立てている。どうやら疲れて眠っているみたいだ。
俺がホッと安心していると、
「恭弥、陽川さんは大丈夫そう?」
優一も近寄って心配している。奈々美は一応優一に認識されてるみたいだな。
「ああ、なんか寝てるみたいだ」
「そ、そっか。大丈夫そうなら良かったよ」
俺は奈々美が起きるのを待った。思えば、今日は奈々美と話していない気がする。朝は別々に登校して、休み時間も奈々美はずっと寝ていた。だから何があったか全く知らないのだ。
「ん、んん。あ、あれ、ここは…」
「ここは文学部の部室だぞ」
「にゃあっ!!きょ、恭弥くんかぁー。もう、驚かせないでよ」
「驚いたのはこっちの方だよ。急に部室に入ってくるんだから」
「うぅー、ごめんねー!ちょっと事情があってね」
「事情?」
「実は文芸部の人たちに追われててね、逃げてたんだ。ちょっとだけ匿ってほしくて」
「いや、なぜ文芸部に追われる?」
「なんか私を次の自作小説のヒロインのモデルにしたいらしくてね。少し取材をしたいって言われて、今日は用事があるから断ったんだけど、少しだけってしつこいから逃げてたんだ」
なんて強引な奴らだ。今度見つけたらボコっとくか。
「そんなことがあったんだね。陽川さんと言ったかな?いいよ、狭い場所だけどゆっくりしていって」
柊人さんが奈々美を匿うことを承諾してくれた。なんだかんだ優しい人なんだな。
「あ、ありがとうございます」
「すいません、柊人さん。決して邪魔はさせないので」
「全然いいよ。少しぐらい音があった方が集中できるしね」
「そうですか。彩葉さんもすいません」
俺は一応彩葉さんにも謝罪の言葉を言った。だが、返事はない。彼女は奈々美のことをジッと見ている。何かあるのか?
「あ、彩葉さん……?」
「あ、ああごめん。ボーッとしてた。私は柊人がいいならそれでいいから」
「わ、分かりました」
一体なんだったんだろうか。少し気になるが、今はひとまず気にしないでおくか。
俺はこの時スルーしてしまった。これがまさかあの事件に繋がるとは知らずに。
「ねえ、恭弥。僕に確認は?」
「お前に取る必要はないだろ」
「えぇー!!もう、ひどいなー!」
「ご、ごめんね、星野くん」
「全然いいよ!気にしないで!それより僕の話し相手になってくれないかな?」
(お、なんだかいい感じか?)
まさか優一の方から奈々美に話しかけるとは…。俺は複雑な気持ちになりつつも、その様子をしっかり確認していた。