文学部と文芸部
俺は放課後、柊人さんに小説の書き方を教えてもらっていた。時間があるときという条件付きだが、いろいろ教えてもらって確実に上達している気がした。
「こういう展開はどうでしょうか?」
「うーん、確かに面白いけど、これじゃ少し展開が早い気がするね。読者のことも考えないと」
「分かりました、もう少し変えてみますね」
こうやって小説のことを考えている時間はとても楽しい。だが、そう思っていられるのも少しだけ。俺にはやらなきゃいけないことがある。それは優一について色々と探ることだ。
まあ、最初に優一に近づいたのもそれ目当てだったのだが、意気投合してなんやかんやで今に至る。これは奈々美に頼まれたことだ。気乗りはしないが、奈々美には助けられてるし力になってあげたい。たとえ隣にいることが出来なくても。
「ボーッとしてていいのかい?」
柊人さんに声をかけられて思わずビクッとする。どうやら考え事をしているのを見抜かれていたみたいだ。
「す、すいません…」
「まあ急ぎすぎも良くないからね。幸い時間はあることだし、じっくり考えてよ」
どうやら怒ってはいないみたいだ。よかった、よかった。柊人さんは柔らかい感じがするが、こういう人こそ怒った時にとても怖いというものだ。
俺は休憩も兼ねて、前々から疑問に思っていたことを柊人さんに聞いてみた。
「そういえばこの学校って文芸部がありましたよね?なんで柊人さんたちは文学部に入ってるんですか?」
「ああ、そのことか。話せば長くなるけど…聞くかい?」
「ぜひお願いします」
「…そもそもこの学校には文芸部だけしかなかったんだ。僕も入学当初は文芸部に入ろうとしていた。あ、ちなみにその時は僕はまだ小説家じゃなかったよ」
へー、元々文芸部しかなかったのか。だとしたら何故文学部が生まれたんだろう…?
「初めて文芸部に見学に行った時に僕は悟ったんだ。ここは僕が力を発揮できる場じゃないとね」
「なんでそう思ったんですか?」
「あそこの部員たちは向上心がないんだよ。ただ書いて満足する。それ以上には絶対にいかない。それに呆れてうんざりしたんだよ。僕が入りたいのはこんな所じゃないってね」
なるほど…と全部納得できるわけじゃないけど、言いたいことは分かった。おそらく柊人さんはその時から小説家になろうとしていたのだろう。そんな人にとって向上心がない場所なんて、いる価値もなかったのだろうな」
「だから僕と彩葉と一つ上の先輩の三人で新たに文学部を作ったんだ。志を共にする仲間とね。そこから僕はすぐに小説家になって成功したよ。今もあの時の行動は正しかったと断言できるよ」
「そうだったんですか。柊人さんにも色々あったんですね。まあ、そこまで話は長くなかったですけど」
「あはは、そこは気にしないでくれ。ただ言ってみたかっただけだよ。これで満足してくれたかな?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ続き頑張ってね」
「オッケーです!」
俺は早速小説づくりに取り掛かった。まさか二日後、あんなことになるなど知らずに。