五年前〜前編〜
柊人さんに会った日の夜、俺は不思議な夢を見た。夢の中で、自分が夢を見ていることに気付いたのだ。
そこはとても見覚えのある景色。いや、忘れられないと言った方が正しいか。
(五年前の夢か……。嫌な夢だ)
五年前の俺は小学6年生だ。なんだか懐かしい気もするが、どちらかと言えば来たくなかった。
「恭弥くーん!」
聞き覚えのある声が俺を呼ぶ。後ろを振り返ると、そこには今より少し小さい奈々美がいた。
「奈々美か。どうした?」
話しているつもりはないのに、俺の言葉が聞こえる。所詮夢の中だから追体験しか出来ないのか。使えないな。
「今から美佳ちゃんの家に行くんだけど一緒に行かない?」
「悪いけど、少し用事があるんだ。だから一緒には行けない。ごめんな」
この時、俺は母さんのお見舞いに行こうとしていた。だから奈々美の誘いを断ったんだ。今思えば、ここで一緒に行っていれば、あんな事件は起きなかったのにな……。
「そ、そっか……。用事なら仕方ないね」
奈々美は悲しそうな笑顔を見せると、そのまま走り去っていった。俺も後ろを向いて、母さんのいる病院へと向かう。
◇
病院に着いた俺は、すっかり行き慣れた母さんの病室に向かう。病室に着くと、一応ネームプレートでちゃんと母さんの病室かを確認して中に入る。
「おはよう、母さん」
「あら、恭弥。今日も来てくれたの?お母さん、嬉しいわ」
「当たり前だろー。約束したじゃん。毎日行くってさ」
「それは嬉しいけど、友達ともしっかり遊ばないとダメよ?特に奈々美ちゃんは昔からのお友達なんだから、ね?」
「わ、分かったよ。ちゃんと遊ぶから」
「うふふ、いい子ね」
それから俺は母さんに色々なことを話した。学校でのこと、小説のこと、母さんへの話は尽きなかった。実際に俺が話してる訳ではないのだが、久しぶりに話せた気がしてとても楽しかった。
話し込んでいたら、気付いた時にはもう夕方になっていた。
「あら、もう夕方じゃない。暗くなる前に帰りなさい」
「うん、分かったよ。また今度来るね」
俺は病室を出ようとした。その時、母さんに呼び止められた。
「恭弥」
「ん?何、母さん」
「少し……早く帰った方がいいわ。何か嫌な予感がするの」
「嫌な予感……?」
「ええ、少し漠然としてるのだけど、お願いできるかしら?」
「う、うん、分かった」
母さんの嫌な予感は昔からよく当たる。俺は少し急いで家に帰った。