始まりの放課後
「ねえ、私好きな人ができたの」
「誰?」
「それはね・・・」
◇ ◇ ◇
俺の名前は如月恭弥。
どこにでもいる普通の高校二年生だ。
「ふーっ、今日もいい天気だな」
俺は毎朝、自転車で学校まで行っている。ここーーー有木町は俺の生まれ育ってきた町であり、夢への第一歩を踏み出す場所でもある。
「今回こそ絶対に・・・」
俺の夢は売れっ子の小説家になることだ。ジャンルは・・・まだ考えていない。が、俺はきっと次の新人小説家大賞で最優秀賞をとって、小説家になる。それが母さんとの約束だから。
「おーい、恭弥くーん」
「遅かったな。また寝坊か?」
「うーん、半分正解かな」
「もう半分は?」
「ふっふっふ、昨日は夜遅くまで新作のゲーム、『彼方のオーディーンV』をやってたんだよ!」
「結局寝坊じゃねーか。ほら、早く行かないと遅刻になるぞ」
「はっ、私の皆勤賞が〜〜!!」
この子は陽川奈々美。彼女とは家が近かったため、子供の頃から仲が良かった。いわゆる、幼なじみというやつだ。
奈々美は昔からよくモテていた。理由は顔が可愛くて、性格がいいからだ。
顔面偏差値は俺たちが通う高校である、市立柳ヶ丘高校の非公式美少女ランキングTOP3に入るくらい高い。
また、誰にでも優しくて面倒見もいいので、男どもはホイホイ寄ってきてしまう。
俺はそんな男共を奈々美に寄せつけないために、数々の邪魔をしてきた。そのせいで「姫の番犬」とかいうあだ名までつけられてしまった。
このあだ名は非常に不本意だが、それでも彼女のそばにいられるなら、それでいい。・・・俺は奈々美が好きだ。だが、この想いを伝えることはないだろう。俺は彼女とそんな関係になる資格はない、、、。
「ほーら、おいてくよー」
「あ、待てよ!」
ちなみに彼女は俺よりも運動神経がいい。
◇ ◇ ◇
「よし!ギリギリセーフ!」
「アウトだ、バカ」
「痛いっ!」
教室に遅刻して入ってきた奈々美は勢いよく担任に頭を叩かれた。
「はあ、はあ。奈々美、お前、速すぎるんだよ・・・」
俺は奈々美より遅れて教室に入った。
「お前はもっと運動しろ、如月」
うるせえよ。帰宅部に運動なんか必要ないだろ。
「そうだ、そうだ!だから遅刻するんだぞ!」
「お前もな」
「痛いっ!何で私だけなの!」
「なんとなくだ」
「ひどいっ!」
「ほら、二人とも早く席に着け。ホームルームを始めるぞ」
こうして普段の日常が始まった・・・はずだった。
◇ ◇ ◇
その日の放課後のこと。
「恭弥くん、ちょっといいかな」
「ああ、いいぞ」
俺は教室で奈々美に呼び出されて、屋上へと向かった。
「どうした?」
「私ね、今まで色々な人に告白されてきたの」
「お、おう」
まあ知ってるけど。
「でも全部断ってきた。私には好きとか、そういう気持ちが分からなかったから。だけど、最近ようやく分かったの。人を好きになるってことが、どういうものなのか」
ん?この展開ってまさか・・・。
「う、うん」
「恭弥くん、私ね、好きな人ができたよ」
「だ、誰?」
「それはね・・・」
俺の心臓の鼓動が早くなる。
「同じクラスの星野優一くん」
うんうん、そうそう・・・って誰?