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9.志村!うしろ!うしろ!

「畜生和也の野郎何考えてやがる。」


俺は廊下をずんずん進みながら一人憤る。

本来なら今自分の家に帰って両親と今後のことを相談しているはずの和也が何故かここにいるのである。

和也が窓の外で手を振る和也の姿を目にしたときは気絶するほど驚いた。

そして俺はとりあえず人目につかない廊下にやってきた。

自分の教室と同じ校舎の方角に面した窓を開け放つ。

「おい和也!このあたりにいるんだろ。」

できるだけ小さな声を上げて和也を呼び窓から身を乗り出してあたりを見回す。

和也の姿はすぐに見つかった。

手を振りながらこちらに向かってやってくる。


「テメエ!なにはしゃいでやがる!お前家に帰ったんじゃなかったのか?」


「まあ、そう怒ンなって。実はすごいことを思いついたんだ。」


「はあ?なんだよ。何を思いついたんだ?」


っていうかこんなところで食っちゃべって無いで早いところ帰ってほしいのだが……。


「コーヒーだよ。コーヒー豆だ。」


は?何言ってんだこいつ。こんな時にコーヒーだなんて?

もしかして飲みたいのか?何言ってんだこんな時に……。


「俺が女になった時、コーヒーを飲んでたんだ。」


「ふんふん!ふん?コーヒー?……。」


「ああ!コーヒーだ。」


「……。」


「……。」


思わず無言で見つめ合う。


「つまりお前はコーヒーのせいで、そのコーヒーを飲んだせいで女に性転換してしまったと思っているんだな。」


「そうだけど。」


「そんなわけあるかあ!」


全身から脱力して崩れ落ちた。


まずい。こいつはとにかく次に何をするのかわからない。

何かとりあえずこいつに言うことを聞かせる方法を考えなくてはいけない。

とりあえずこの学校から離れるようにさせなくてはいけない。

口を開きかけた時……。


「おい。何してるんだ?」


背筋が凍りつくかと思った。

振り向くと化学担当の鬼ヶ島先生がこちらにのっしのっしと歩いてくるところだった。


「鬼ヶ島先生。先生こそこんなところでどうしたんです?」


何とか話をそらそうとして質問をひねり出す。


「あ?いやもう次の授業が始まる時間だろうが。」


はっとして腕時計を見た。

今すぐ教室に行かないと次の授業に間に合わない時間になっていた。

今はそんなことを気にしている場合じゃないがここでそれを言うわけにはいかない。


「どうした?お前も早く教室に戻れ。」


ここで抵抗するのはいくら何でも不自然すぎる。

不自然だと思われ何か疑われたら女体化した和也が見つかってしまうかもしれない。

だからと言ってここから今離れたら和也が何をしでかすか分かったものではない。

俺は心の中で思わず十字を切った。

万事休すだ!

視界の端に和也が見えた角度的に鬼ヶ島先生の死角になっているが、こちらの様子をじっとうかがっている。

何やってんだよ!そんなことしてないでさっさと隠れろよ!


「どうしたんだ?」


俺の視線に気づいた先生が後ろを振り返ろうとする。


「ああ。あの実は今和也から連絡があって!」


慌てて先生に声をかけた。

ん?といった感じで先生がこちらに視線を移す。

あぶねえ。


「ああああの!あいつ今日休みじゃないですか。それで俺あいつと友達なんでそれでなんか今の体調とかそれがそれであれがこれで……。」


しどろもどろになりながら説明している。視界の端に映る和也がぷぷっと噴き出している。

あの野郎!!


「なに?和也の話?」


こんな時に声をかけられた。

なんだよ一体!

振り向くと……。


「ちょっとあんんた!またか和也から連絡来てんの?」


こんな時にカーストトップ女子軍団のリーダーA子だった。

あああ!もうなんでこんな時に!なんでこんな時に!

あまりのストレスに胃の底がよじれるかと思った。


「ちょっとテメェ答えろよ!」


「おいお前らもう授業が始まるぞ。」


詰め寄ってくるリーダーA子

止めに入ろうとする鬼ヶ島先生

窓の外でにやにやしながらこちらを眺める和也

何でこうなった?っていうか和也が一番むかつく!


カースト軍団A子が俺の胸倉をつかんだ。

「ちょっと落ち着いてくれA子さん。」


「は?」


A子がポカンとこちらを見ている。


は?

あ?

あ!ああああああ!


しまった―!つい心の中で付けたあだ名A

子で読んでしまった!


「テメエに馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえよ!」


うわあ!怒った!どうしよう馴れ馴れしく読んでしまった!ん?馴れ馴れしく?

ふと視界の端に映った和也が紙に『柏木 英子』と書いてこちらに掲げていた。


柏木英子?カシワギエイコ?A子?エイコ!


「ああ!英子さん!」


当たってた!奇跡的に俺の付けたあだ名が当たってた!

っていうかどうきゅうせいのなまえぜんぜんしらなかったあああ!


「テメェ!」


「ああ!ごめんごめん。柏木さん」


首を締め上げられながら必死に謝った。


「おい。もういい加減教室に戻れお前ら。」


まずい今戻ったら和也を一人取り残すことになる。


「ちょっと待ってください。」


「どうしたんだ?」


鬼ヶ島先生がこちらをじっと見つめる。

しかし何を言えばいいかとっさに出てこない。

そんな感じで俺があうあう言っていると、その時鬼ヶ島先生が何か気づかわしげな顔をして言った。


「お前顔色悪くないか?保健室に行ったほうがいいんじゃないのか。」


キター!その手があった!俺が保健室に行くといえばこのまま教室へ連行されることはない!

おまけに先生と柏木は教室に行かなければならない。

改めて和也を学校から追い出せばいい。


「おい柏木。お前保健委員だったよな。保健室まで連れて行ってくれないか?」


何?


「わかりました。」


何?何?

何でよりによって柏木は保健委員なんかやってるんだよ。

視線で人を殺せそうな顔の癖に!

このまま話が進めば保健室に連行されることになる。


「そうですね。授業に少しくらい遅れても保健室に行ったほうがいいですよね。」


俺はとっさに大きい声を上げた。

俺の突然の大声に二人は面食らった顔をしているが気にせずに続ける。


「少しくらい勉強が遅れても図書室で勉強すればいいだけですからね。あそこなら調べものもできるし、人もほとんど来ませんからね。」


俺は図書室、調べものもできる、人が来ないの部分を特に強調して声を張り上げる。


「どうした?突然?」


不審そうな顔をする先生に向かって俺はいやなんでもありませんと手を振ってこたえる。


そう俺は先生に何かを伝えたかったわけではない。ましてや柏木にでもない和也に対してのメッセージである。

図書室なら人がほとんど来ないうえに本棚が並んでいるため隠れることもできる。

また調べものをすることも可能だ。

俺は目の端で和也を確認するとビシッと親指を上げてこたえる。

どうやら伝わったようだ。

ほっと胸をなでおろす。


そして俺はおとなしく保健室へ連れていかれることとなった。

柏木が保健室から出て行ったら一度図書室によって和也に一度説教かましてやらないといけない。

保健室に向かいながら今俺は後のことを考えて憂鬱になった。


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