7.生きるのに必要な物それは衣食住
どんな時でも朝は来る。
たとえ親友が女体化して、夜中に自分のアパートに転がり込んできて、夜中まで事情説明に費やし、挙句に腹が減っているとほざいてせっかくの作り置きの料理を食い尽くしてさらに挙句にベッドを占領してグースカ寝始めて、さらにさらに挙句の果てに固い床で寝ている俺に寝相の悪いこいつがダイビンクニーを食らわして悶絶させて来ても朝はやってくるのである。
「さてこれからお前はどうするつもりなんだ?」
「とりあえず俺は今日は学校にいけないからここに待機したいと思う。」
和也は俺が作った目玉焼きとカリカリベーコンに舌鼓を打ちながらそう言った。
おい俺の分を残しとけよ。
っていうか俺のアパートなんですけど、お前俺に許可を取ろうとしろよ。
「昨日はしょうがないから泊めてやったけど、ちゃんと家に帰れよ。」
「ちゃんと連絡しといたぞ。ストーカーの女に付きまとわれてるからしばらく家に帰れないって言っておいた。」
こいつこういう時だけ気が回るな。
「もしかして、お前俺の家に居つく気じゃないだろうな。」
一番気になることを聞いてみた。
「もしかしてダメなのか?」
もしかしてバカなのか?
「おまえな!少しは解決しようとしろよ。病院に行くとか、変な病気だったらどうするんだよ。」
「これって病気なのかなあ?突然女になるなんてこんなことがあるのか?」
うつむいて不安そうに言う和也におもわず言葉が出なくなる。
確かにこんな病気は聞いたことがない。
むしろ呪いとか祟りとか言われたほうがまだしっくりくる。
おそらく本人は俺が考えるよりもはるかに不安だろう。
なのに俺ときたらついいつもの調子でつらく当たってしまった。
突然にぱっと笑って和也が言った。
「まあとりあえずここにいれば食いっぱぐれることはないからな。」
しかしこいつの面倒を見続けるかどうかはまた別だ。
「テメエは遠慮がなさすぎるんだよ。」
こいつの能天気は筋金入りだ。
シリアスな空気が一分も持たない。
そう言って俺は和也を追い出しにかかる。
「なんだよ。困ったときはお互い様だろ?」
和也がくそなめた事を言い出した。
こいつは俺が困った時に助けてくれたことなど一度もない。
「とにかく俺は学校に行くから、お前を一人家に残していくわけにはいかないんだよ。お前は学校に行かないんなら自分の家にいったん戻れ。家族に事情を全部説明してこい。病院に行くのか、お祓いするのかは家族と相談しろ。これからずっと俺の家に隠れてるなんてことできないんだからな。」
俺はそこまで一息に言い切って和也を家に帰した。