26.それは憂鬱な大団円
「今日は、藤子さん。」
「手を放しなさいよ。」
そう言って藤子さんは俺の手を振りほどいた。
まるで人を射殺すかのような目でにらんでくる。
こんな顔もするんだなと心のどこかで冷静に観察していた。
「今書いているものは何です?」
「!?ッあんたには関係ないでしょ!」
「それで和也を思い通りに操るつもりなんですか?」
藤子さんが驚いたように目を見開いた。
「知ってて聞いたんだ?姑息な男!あんたそんなんだから周りから嫌われるんだよ。」
「藤子さん。」
「根暗で友達なんかいないくせに、私の和也に付きまとって図々しい男!」
「頼むから俺の話を聞いて。」
「馴れ馴れしくしないでよ!いつもいつもアンタが話しかけてくるたびに虫唾が走ってたのよ!少し優しくしたからって勘違いして友達面するな!」
いつもの藤子さんとは似ても似つかない表情と口調だった。
あの藤子さんが心の中でこんなことを考えていたとは思えなかった。
目の前の出来事が信じられなかった。
「お願いだ。それを渡してくれ。」
俺が手を出すと藤子さんは魔方陣の紙を胸に抱くようにして後ずさる。
罵倒しているのは彼女なのになぜか俺が追い詰めているみたいだ。
体の内側がからからに干からびたように感情がマヒしてしまっているのにそんなことがどこか面白く感じた。
「ふざけないで!なんでアンタに指図されないといけないの?」
「頼むよ。それはとても危険な物なんだ。」
「おためごかしはやめてよ。わかったアンタもこれを使う気なんでしょ。誰に使う気?ねえ言ってみなさいよ!どうせ私に使うんでしょ。自分だってやろうとしてるくせに偉そうに説教しないでよこの偽善者!アンタだって私と同じ、他人をそうやって操らないと好きな人に振り向いてもらえないのよ!」
そんなこと言わないで。
「藤子さんはそんなことをしなくても十分魅力的だと思うよ。」
「ふっははあはははは!バカみたい!そっか!まだ気づいてないんだ?じゃあ見逃してくれたらご褒美をあげるわ。」
そう言って藤子さんが服をガバリと開いてはだけさせ、ブラを完全に露出させた
「ほら今のアンタにはよだれが出そうなご褒美でしょ。」
藤子さんはさげすむようにそう言った。
強がっているが藤子さんのその手は可哀そうになるほど震えていた。
ゆっくりと近づいて藤子さんに手を伸ばす。
「ヒッ!」
小さな悲鳴を上げて顔をそむける。
バカだな俺が藤子さんに酷いことをするはずがないのに。
藤子の手から魔方陣を取り上げた。
「なんで?なんでよ!アンタは私に操られてるんじゃないの?なんで言うことを聞かないのよ!」
違うよ。操られていたわけじゃないよ。
別の時間軸で和也が美少女の世界、そこでも俺は君のことが好きだったんだ。
言っても理解してくれないだろうけど、目の前に世界一の美女がいたとしても、きっと俺は君のことを好きになっていた。
呪いなんか関係なく君のことが好きなんだ。
「ふざけないでよ!」
藤子さんはポケットの中からボールペンを取り出した。
振り上げて俺のほうに振り下ろそうとした。
刺されると思ったとき声が割り込んできた。
「待て藤子!」
驚いた藤子さんはそちらを振り返った。
そこにいたのは和也だった。
あいつ見られたら行けないから非常時以外は出てくるなって言ったのに!
「お前なんで出てきた。」
「今は非常時だろうが!」
それはそうだけど……。
「誰よアンタ!」
藤子さんんが和也に向かって金切り声を上げた・
ほら見ろ、ややこしいことになったじゃねえか。
「善蔵!魔方陣を破ってください。」
緒花まで出てきやがった。
「くそったれ!みんな出てきやがった。何でそんなことをするんだよ。」
「説明は後よ。早く。」
俺は藤子さんが書いた魔方陣を左右に引き裂こうとした。
固い?
普通の紙とは思えないほど固い。
藤子さんが飛びかかってきたがそれを和也が止める。
魔方陣にさらに力を籠める。
魔方陣が淡い光を放ちなじめた。
まるで魔方陣自身が破られまいと抵抗しているかのように感じた。
さらに力を籠めると魔方陣が真っ二つに裂けてしまった。
「いやあああ!」
藤子さんは悲鳴を上げてその場に倒れてしまった。
「どうしたんだ?おい緒花どういうことだ!」
「ふっふっふ。魔方陣とは多かれ少なかれ術者の魂を吸ってしまうものなのですよ。それを破られてしまったせいでそのショックで気絶してしまったのよ。」
「そんな得意げに……。なに?大丈夫なのかこれ?」
「大丈夫です!……多分。」
「おい聞こえたぞ。っていうかなんか藤子さんのキャラまで変わってたぞ。」
「多分呪いを行使した影響でしょうねえ。純粋でまじめな性格ほど影響を受けやすいんですよ。私なんて何も変わりませんよ。」
まあ元々イカレてたからな。
「まあこれで真犯人も見つかってめでたしめでたしね。」
どこがだ?問題だらけだろうが!
「大丈夫なのか?藤子さんの性格は元通りに戻るのか?」
「さあ。わかりませんねえ。」
緒花が能天気な声を上げた。
ひっぱたいてやりたい。
「まあ時間がたてば徐々に戻るはずですよ。」
本当だろうな?戻らなかったら絶対泣かせてやる。
「呪いをかけていた張本人である藤子さんが見つかったわけだがこれで和也は戻るのか?」
「?戻るわけないですよ。」
「不思議そうな顔をするな!どこがめでたしなんだ!」
「??どこが問題なの?」
「こいつ心底不思議そうな顔しやがって!和也は男になったり女になったりパラレルワールドに行ったり、大問題だろうが!」
「大丈夫。前にも言いましたがあなたが和也さんをトキメカセ続ける限り男に戻れます。和也さんが女遊びをやめて彼の女達が別の男を捕まえて和也さんのことを忘れたら呪いも解けますよ。」
和也が女遊びをやめる?
「「ありえないな。」」
俺の声に和也の声がハモってきた。
お前は少し反省しろよ、和也!
しかも緒花はしれっと俺と和也がラブコメ展開になることを既定路線にしようとしてやがる。
勘弁してくれ、その話が本当なら俺と和也がいい雰囲気になればなるほど和也が男に近づくという地獄の苦行じゃないか。
ああ。このまま俺たちの戦いはこれからだエンドになるのか?
はしゃぐ和也と緒花を見ながら裕綱気持になった。
若いうちの苦労は買ってでもしろという言葉がある。
俺も賛成だ!賛成だがちと大きすぎる苦労は御免こうむりたい。
改めて聞くがみんなはどう思う?
これは適度な苦労と言えるだろうか?
一応本編はこれに手終わりです。




