22.男女切り替えスイッチの行方?
『和也が見つかった。今どこへいる?』
『おい。』
『返事しろ。』
『既読スルーするなら明日揉みしだきの刑だぞ』
『今自宅です。』
『それでいい人間素直が一番だ。』
『脅しておいて何言いますか?』
『それで?お前の考えを聞かせてもらおうか?』
『無視?』
『早くしろ手遅れになっても知らんぞ。』
『何が手遅れになるんですか?』
手遅れになるかもしれない、いやもう手遅れかもしれない。
何がって?俺のナニかがだよ。
「ほれほれどうした、どうした?嬉しいんだろう?もっと喜んでもいいんだぞ。」
何故か、和也が俺にしなだれかかるようにして抱き着きながら頬を指でつついてきやがっている。
「やめろ、わかったからもうやめろ乳を押し当てるな。柔らかすぎる。」
「そーかそーか。乳が気になるか?んー?」
和也は何故かご機嫌だ。
やめろ。顔を覗き込んでくるな、キラキラ笑うな、胸をぎゅっと寄せてあげるな。
なんでこいつこんなテンションなんだろうか?
正直とっても嬉しい。
学校でこいつが和也に戻ってから今日の事のいきさつをすべて説明した。
俺のアパートに戻ってきてからずっとくっついている。
「お前谷間が見えているぞ。」
「お前も好きだねー。このエロガキが!」
何故嬉しそうなのか?
「はしたないぞ。その乳を隠せ。」
和也がぷうっと頬を膨らました。
「なんだよそれ、サービスしてやってんだろ。嬉しくないのか?」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「このドスケベ。」
「うるせえ。」
こいつは自分が少し美少女になったからって調子に乗りやがって!
もし男だったら速攻で部屋からたたき出しているのに。
早いところこいつを男に戻す方法を見つける必要がある。
『おい早く和也が男に戻る条件を教えろ。』
『携帯でそんな断片的な情報を貰っただけで原因がわかるわけがないでしょう。』
『明日マジで揉みしだくぞ。』
『すぐに探させていただきます。』
すぐに素直にそう言えばいいのに。
「おい。いつまで携帯をポチポチしてるんだよ。こっちを見ろ。」
むにと頬を引っ張ってくる。
なんか仕草がいちいち可愛いな。
やきもち焼きの彼女みたいだ。
「今お前の為に情報を集めているんだ。静かにしてろ。」
「こっち見ろよ。今なら谷間、見放題だぞ。」
見たら俺のリビドーが暴走してしまう。
『早くしろ。』
「見なくていいのか?」
耳もとで囁いてくる。
いい匂いもする。
見なくてもリビドーがやばい。
『早くしろ。手遅れになっても知らんぞ。』
「お前は一体どうしたんだ?なんか変だぞ。」
「ありがとな。」
「別に礼には及ばねえよ。助けるって約束しちまったからな。」
「それだけじゃないんだ。お前の話を聞いて俺思いだしたんだ。昔さお前と会う前のことだ。」
「何の話だ?」
「俺さお前に合う前めっちゃ嫌な奴だったんだよ。家は結構金持ちだし、勉強もスポーツも俺に勝てる奴なんて一人もいなかった。いつも女にはキャーキャー言われてたしな。正直周りの事なんて見下してた。」
それこそ正に和美の事だった。
「でもお前にあってさ。なんか暗いやつだなと思ったけど不思議と馬が合ってさ。」
問答無用に絡んできたよなこいつ。
「あの頃、俺荒れてたんだよな。家は金持ちだけど居場所なんてなかったし、友達は多かったけどずっと肩ひじ張ってて心が休まることなんてなかったんだ。でもお前とつるむようになって救われたんだ。お前なんかいいやつだし、いつもぼーっとしてるし、馬鹿だし、でもやっぱりいいやつだった。」
「褒められてんだか、けなされてんだかわからねえな。」
「俺お前と友達になってなかったらきっと和美と同じようになってた。なんか俺、お前ならきっと助けてくれるって心の底から信じられるんだ。」
こいつは俺の事をそんな風に考えていたのか。
親友のその言葉は嬉しかった。
俺もこいつの助けになっていたんだなと思うと、胸の中がポッと暖かくなった。
なんだかものすごくドキドキする。
さっきまでと当社比で1.5倍可愛く見えてきた。
まずい緒花早くこいつを男に戻す方法を連絡してこい。
このままだと俺の理性が活動限界を迎えてしまう。
いいのか?このままいっていいのか?
俺は今日大人になってしまっていいのか?
大人の男の仲間入りしてしまってもいいのか?
キスは?キスしたらまずいのか?
そもそもこんな無防備なとこを見せるってことはこいつも俺を誘っていると考えていいはずだ。
「か、かかか和也!」
ガバリと和也に覆いかぶさろうとした。
「ぐー。」
寝てやがる。
こいつマジか?ここまでいい雰囲気で寝るか普通?
それとも何か?こいつは俺を何とも思ってなかったってことか?
ガクッと肩を落とした。
まあもしここで間違いが起こってその後、男に戻ったらかなり気まずいことになる。
これでよかったのかもしれない。
その時俺の携帯に着信音が響いた。
見てみると緒花からだった。
『待たせしました。一つアイデアを思いついたのでお知らせします。』
『サンキュー。明日は揉みしだきの刑は勘弁してやるよ。』
『ひそかにそんな計画が進行してたの?私が解決方法を思いつかなかったら揉みしだかれてたの?。』
『早いとこ教えてくれ。』
『本当にやめてよね。それで本題だけど呪いを解くことは私にはできないわ。』
『できないってどういうことだ。あいつは一度男に戻っているんだあぞ。』
『そこです。問題は一度男に戻ってるということです。一つだけそんな現象が起こる可能性を思いついたの。』
『教えてくれ。』
『それはときめきよ。』
『は?』
『彼の呪いについては知ってるわね。女遊びの激しい彼はその今まで泣かせてきた女たちの嫉妬と恨みの感情によって女体化してしまったの。』
『無茶苦茶な話だけどまあ分かるよ。』
『それでその呪いの負のパワーを正のパワーで弱めることができれば男に戻るわけ。』
『それがときめきか。』
『そうよ。』
『でもあいつは女になってたんだぞ。しかもずっと俺と一緒にいた。流石に女をときめかせるチャンスはなかったと思うぞ。』
『きっとときめいたのは和也君です。』
……は?
『は?』
『ほかの女の子をときめかせるよりも女の子になった和也君がときめくほうが効果絶大なはず。』
『ちょっと待て。』
『そしてきっと和也君をときめかせたのは一人しかいません。善蔵しかありえないです。』
『どういうことだ?』
『ええいこの鈍感系主人公め。要するに和也さんは善蔵に惚れてるってこと!』
『ええ。だってあいつとオレはただの友達だぞ?』
『ええいまどろっこしい!構いませんすぐに爛れたことをおっぱじめてください。』
俺にもたれかかってきて無防備に眠る和也を見た。
俺の人生であったこともない美少女が俺の横にいる。
さっきよりも激しくドキドキする。
おそるおそるサラサラの髪の毛をなでた、滑らかな頬をなで柔らかい唇に触れた。
「んんっ。」
和也が色っぽい吐息を漏らした。
それだけで心臓が破裂しそうになった。
もう和也から目を離すことができなくなってしまった。
『お前やっぱり明日お仕置きだぞ。』
俺は緒花にそれだけ送っておいた。
その後携帯に何度も着信音がしたが和也から目を離せなかった。
俺は銅像だ、お地蔵さまだ、ありがたい大仏だ。
そう自分に言い聞かせて朝が来るまでまんじりともできなかった。




