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20.こんにちは好きな人

しかも部室の場所はなんとオカルト研の隣だった。

びっくり!

文芸部員は俺と藤子さんの二人だけだった。

なるほど仲良くなるにはちょうどいい環境だ。


「はい!これが探していた本よ。実は私が持っていた本なのです。」


藤子さんが持っていた本に感動しながらも、差し出された本を受け取る。

お?タイトルは何て読むんだこれ?

はる、こと、たえ?

まずタイトルが読めないし作者も知らない人だし、読める気がしない。

しかしそんなことは言えない。

ここは藤子さんにかっこ悪い姿を見せるわけにはいかない。


「ありがとう。」


余裕の笑顔を浮かべながら彼女に話しかけた。


「フフッ。なんか今日の善蔵君いつもと違うみたい。」


藤子さんなんかさっきから距離が近くないですか?

いやそれは当然だ。俺はずっと彼女に気に入られるために努力してきたんだ。

毎日毎日冷たくされたのにもかかわらず話しかけ続けて……。

それを和也の奴に邪魔されてしまったがために運命を狂わされたんだ。


「え?そうかな、自分ではわからないけど……。」


「なんか今日は落ち着きがない感じ、でもなんか楽しそうでいいと思うよ。」


いつもは大人な感じなんですか?そうですかこれからは気を付けないと。

ああでも今の俺もいいって言ってるし……。


「いつも俺ってどんな感じがする?」


「何それ。」


「知りたいんだ。教えてよ。」


んーと考えるようなそぶりをして話し始めた。


「そうだな。昔はなんか暗い人だなって思ってた。」


はじめて言われた。まあ明るいところはあまりないけど、俺はなぜかいつもうるさいやつとか言われていた。

彼女は話し続けた。


「でも文芸部に入りたいって話しかけてくれてから話すようになったのよね。本が好きだって言って入ってきたのに入部してから実は本を読んだことがないんだって言うから驚いちゃった。」


そりゃそうだ。俺は本なんてほとんど読んだことはない。

きっと彼女と話したくて無理をしたんだろう。


「今だから言うけどね、善蔵君って、人と話してるところなんて見たことがなかったし何考えているのかわからない人だと思ってた。」


この世界の俺は友達がいなかったのか?

いやかくいう俺も和也以外で友達と言える人はほとんどいない。

考えてみれば俺がクラスでうるさいと言われるのは和也と一緒にいるときだけだ。

思えば俺が人とうまく関われない時もあいつがぐいぐい引っ張っていってくれていた。

和也が隣にいた俺は、クラスで孤独を感じたことは一度もなかった。


「でも私部員一人で活動することになっちゃってどうしようかなと思ってたの。だから部に入ってくれて実はうれしかったわ。」


もしかしたら俺は彼女が一人で困っていたことも知っていたのかもしれない。

だから彼女を助けたくて文芸部に入ったのかもしれない。


「一緒に新入部員勧誘とかして助かっちゃった。」


もしかしたら俺も文芸部に入って、人とのつながりを持つことで自分を変えたかったのかもしれない。

かっこいいじゃないかこっちの俺は。


「善蔵君っていい人ね。」


いい人なのはこっちの俺だよ。


「ねえ善蔵君。私の事どう思う?」


藤子さんが俺の目を真っすぐに見つめてきた。


「は、はい?」


声が思わず裏返った。

なんだこの質問は?もしかしてもしかするのか?


「どういう意味?」


「善蔵君覚えてる?前に私が顧問の先生のことが好きだって相談した時の事。」


心臓が凍り付いた。

顧問が好き?何言ってるんだ?

だって藤子さんは和也の事が好きででもここには和也がいない。

いや違う。当たり前じゃないか和也がいないなら別の人を好きになる。

そんなの当り前じゃないか?

ははっ!結局こうなるのかよ。


「その時善蔵君、応援するって言ってくれたよね。いつでも相談に乗るって。それから毎日のように何時間も相談して、ずっと私に付き合ってくれたよね。」


藤子さんが俺の手に自分の手を重ねてきた?


「私が先生に告白して振られた時も、私が泣き止むまでそばにいてくれて、俺がいつもそばにいるよってそう言ってくれたよね、君が泣くときはいつもそばにいるって。ねえ、なんで私にそんなに優しくしてくれるの?」


言葉が出なかった。俺が藤子さんの恋の相談に乗った?

彼女の恋を応援していた?

誰の話だ少なくとも俺はそんなことしようなんて全く思わなかった。


「私、善蔵君に期待していいのかな。」


答えがとっさに出なかった。

好きだと言いたかった。

思いを伝えて彼女を抱き寄せてしまいたかった。

でもその権利があるのは俺じゃない。

それは彼女を思い続けたもう一人の俺にだけ許された特権だ。


「覚えてるかな。俺がハンカチを学校の噴水に落とした時の事。」


「え?」


しまった。ここは俺がいた世界とは違うんだ。


「何突然?そんなこともあったわね。」


ああここでも同じことが起きたのか。


「そう、その時藤子さんが拾ってくれたんだよな。その時からだよ。いつも藤子さんを目で追うようになったのは。」


藤子さんが期待に満ちたように目を見開いた。


「うれしいよ。本当にうれしいよ。藤子さんの気持ち……。でも待ってほしい。もう少しだけ。明日必ず返事をするから。」


「うん。わかった。信じてるから。」


俺は用事を思いだしたといってその教室を後にした。

この世界でも藤子さんはいい子だった。俺が恋に落ちたままの人だった。

そしてこの世界の俺もそんな藤子さんに愛される資格がある男だった。

そして和也もきっと藤子さんに好かれるだけの男だった。

認めるのは癪だけど、あいつに甘えてぬくぬくと生きてた俺よりもずっとずっといい男だった。

なのに俺は少し冷たくされただけであきらめていいいとこどりをしようとしていた。

畜生!これからどうするか和美は手ごわい相手だった。

少なくとも俺と話をしようなんて全く考えないやつだ。

でも行くしかない。引きずってでも緒花のところに連れて行って何とか呪いを解かないといけないのだ。


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