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17.燃えるな俺のリビドー

何も変わらない。

オカルト研の留戸緒花から呪いを解くための魔方陣の描かれた紙をもらったのだ。


「おい。本当にこれで男に戻れるんだよな?」


和也は何度目かわからない同じ質問をしてきた。


「何度も言ってるだろ。オカルト研で呪いをかけた張本人を見つけたんだって!いいからもう一度試すぞ。」


とは言いつつももう何度試してもうまくいかないことはわかってきてる。

魔方陣を手に当てて顔に当てて腹に当てて試してもダメだった。

和也の男に戻りたいという気持ちが足りないと思った。

「男に戻りたい。」と声に出させてノートに「男に戻りたい。」と100回書かせてもダメだった。

もしかして緒花が適当なことを言ったのかと思ったが、しかしひとつだけ確実に正しいということをオレ達は知っている。

このままいけばこいつは存在そのものが女になってしまうという事実だ。


「エロイムエッサイム。エロイムエッサイム。」


今和也は意味不明な呪文を唱えながら一心に祈っている。

まあ、あの呪文を唱えさせているのは俺なのだが。

くそ!緒花め!明日になったら揉みしだいてやる!

心の中でそう決意を新たにするが、しかし問題はこの呪いだ。

どの程度のスピードで呪いが進行するのか、全くわからないのだ。

下手すればすぐにでも俺の記憶が書き換わってしまうかもしれない。

そうなったらもうこいつを男に戻そうという発想すら浮かばなくなってしまう。

くそ緒花の連絡先を聞いておくべきだった。

いやそもそもあいつが本当にこの呪いを解けるのかどうかすら怪しくなってきた。

しかし頼みの綱は緒花だけで……ああもう思考が堂々巡りになってきた。

頭をガシガシとかく。


「おい大丈夫か善蔵?」


気が付くと和也が俺を下からのぞき込んでいる。

近い近い!近いよそして可愛いよ。


「なあ善蔵。」


何か媚びるような猫なで声で呼びかけられる。

和也の前髪が俺の鼻に触れるほど顔が近い。

鼻の頭がくすぐったい。


「な、なんだよ。」


なんだこの雰囲気は?

なんだかいけない気持ちになりそうだ。


「腹減った。」


体から力が抜けてがっくりと崩れ落ちてしまった。


「お前俺ががんばっている横で何言ってるんだ。」


「でもさあ。もう腹減っちまったよ。もう明日そのオカルト女に会ってみるしか手はないじゃん?じゃあ早く飯にしようぜ。」


そして気が付いたが俺もかなり腹が減っていた。

しょうがない飯にするか。


「ただし飯食い終わったらまたさっきの続きやるからな。」


後ろからの和也の抗議の声を聴きながら俺はキッチンに向かった。

まあ晩飯の用意と言っても鍋でインスタントラーメンを作るだけなのだが。

ラーメンに卵を落として完成の簡単なものだが和也はよほど腹が減っていたのかスープまですべて飲み切った。

それだけならいざ知らず風呂まできっちり入ってしまった。

いやおかしいだろ。


「あーさっぱりした。」


目の前でご満悦の和也。

濡れた髪をバスタオルでガシガシと吹いている。

しかもこいつ俺の部屋着をかってに来ている。


「お前なんで俺の服着てんだよ。」


「しょうがないだろ汗びっしょりかいてもう一度あの服着るのが嫌だったんだよ。」


そう言ってぶかぶかの服の袖を振る。

体が小さくなっているせいで彼シャツ状態になっている。


「服はパンツとかと一緒に今洗濯機にかけてるから、このあと乾燥機で乾かせば明日には乾くしな。」


そう言ってからからと笑っている。


「ちょっと待て。お前じゃあ今服の下に何履いてるんだ?」


和也はぐふふっといやな笑い方をする。


「このスケベ。」


「ば、馬鹿言うな。」


と言いつつ目が和也のズボンの方に目が行ってしまう。

あの下なにも履いてねえのか?

和也はぐふふと笑いながら俺のほうにすり寄ってきた。


「なんだお前、反応が童貞っぽいな。」


「どどどど童貞ちゃうわ。じゃなくてお前いい加減にしろ」


いくら何でもこれ以上は冗談にならない。俺は和也の肩を押しのけようとする。

その時気づいた、和也の肩が少しだけ震えている。


「和也?お前どうした?」


和也は俺の胸に顔を顔を埋めてきた。


「善蔵の匂いなんか落ち着く。もう少しこのままで頼む。」


「……しょうがねえなあ。」


和也の背中に手を回す。

和也が俺の胸にぐりぐりと顔を押し付けてくる。


「くすぐったい。」


「我慢しろよ。役得だろ?どうだ極上の美少女の抱き心地は?」


「すごく柔らかいです。」


「ほれご褒美だ。」


そう言って和也は俺の手を自分の胸当て、和也が声を上げた。


「ひゃん!」


「おい!」


俺が慌てて手を引こうとすると手を抑えられる。


「役得だろ?」


「役得過ぎるわ。」


どうしようこれはこのまま行っちゃってもいいんじゃないだろうか?

行っちゃう?イっちゃう?どこまで?

いやそもそも誘ってきたのはこいつの方だこれは何をしてもっていうか、ナニをしてもいいんだよな!


「俺のことを忘れるなよ。」


は?


「おふくろがさ、俺に笑いかけてきたんだよ。」


何の話だ?


「いつもはさあ、小言ばかりでいつも俺にうんざりした感じなんだ。喧嘩ばっかでさ、なんでこんな子になったんだとか育て方を間違えたとか、俺もいつも家に居づらくて毎日帰るのが憂鬱だった。」


「それはきっとお前のことが心配だったからで……。」


「わかってるけど!なんか今日は違ったんだ。あんな笑顔何年も見たことないって感じの笑顔でお帰りって『お茶にしましょうか?昨日お友達からクッキーをもらったの持ってくるからあなたは紅茶を入れて、和美ちゃん』だって。」


和也は自嘲気味に笑った。


「なんだそれ紅茶なんか入れた事ねえっての。なんか俺よりもこの世にいもしない和美のほうが俺よりも家になじんでるみたいで、お前なんかいらないって言われているみたいな気がして。」


俺は和也をぎゅっと抱きしめた。


「ひゃん。女の胸は優しく触れ。」


「あ、胸触ってたこと気づかなかった。」


嘘だ全神経が胸に触れる手に集中している。


「ん、くぅ。」


和也がまた変な声を上げた。


「触り方がやらしい。」


「おっとっと。うっかりうっかり……。忘れないから。」


「ん?」


「俺はお前のことを忘れないから。」


和也が俺の顔を呆けたように見つめる。


「だいたい。お前が女になったらそもそも友達になんかならなかっただろうしな。今更女になられても迷惑だ。だからお前には無理やりにでもずっと男でいてもらう。」


無茶苦茶な理屈だった。

和也の家族でさえ呪いの影響からは逃れられなかったのだ。

こんな言葉で何の慰めになるのだろうか?


「はは。お前女の前だと完全に不審者だもんなあ。」


でも和也は嬉しそうに笑った。


「うっせ。」


「でも俺は女になってもきっとお前と仲良くなるよ。だってお前以上にいい奴なんてほかにいないから。だから。だからもし俺が女になってもオマエもきっと俺と友達になってくれよ?」


和也の目からぽろぽろと涙が流れてきた。

俺は思わず和也を強く抱きしめた。

和也の髪に顔を埋めるとなんだかいい匂いがしやがる。

俺のシャンプーと同じ匂いのはずなのに。

和也は嗚咽を上げて泣き出してしまった。

俺は和也が泣き止むまでずっと背中をなで続けた。

もしかしたら今にも歴史が書き換わってしまうかもしれない。

そうなったらどうなるんだろう?

俺とこいつは友達のままだろうか?

それとも全くの他人になるのか?

だとしたら俺は犯罪者扱いされるんじゃないだろうか?

いやこいつが女だったらそもそも俺のうちに来ないから俺の部屋から消えてしまうんだろうか?



目覚ましのベルではっと目が覚めた。

まずい俺あれから眠っちまったのか?

思わず和也を見下ろすとそこにはまだ和也がいた。

ほっと胸をなでおろすと、そこで気が付いた。

俺和也が男だってこと覚えてる。

そうかまだ呪いの影響がまだ及んでないのか?


「おい!和也起きろ。おい和也!」


和也の肩をゆする。

あれこいつの肩なんかごつくね?


「ううん。なんだ?もう朝か?」


その声は野太い男の声だった。

起き上がって大きく伸びをする和也の姿は間違いなく男のものだった。

俺はあんぐりと口を開けたまま和也を見つめた。

とりあえず離れてくれませんか?

男とくっついてるとか気持ち悪いんで。


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