14.ありえないほどのご都合主義
「すいませーん。」
オカ研の教室の戸をノックしてみる。
反応なし。
いないのかな?きょうはやすみなのかな?
そう思って戸に耳を当てて中の様子を探ってみる。
物音ひとつしない
当てが外れたなと思いつつ、何とはなしに戸に手をかける。
ガラリと軽い手ごたえで開いてしまった。
鍵がかかってない?
不思議に思い中に入ってみる。
教室内は明かりがなく真っ暗だカーテンが閉め切られており足元がほとんど見えないほどだ。
しかしぽつぽつと豆電球の明かりがともっている。
目を凝らしてみるとそれはローソク型の卓上の電灯だった。
人がいるのかこの中に?
電気をつけようとスイッチに手を伸ばす。と同時に突然声をかけられた。
「電気をつけないで!」
突然声をかけられて思わずびくりと手をひっこめる。
「なんだ?誰かいるのか?」
声をかけるがまた沈黙。
なんなんだ?そもそも人がいるなら最初のノックの時に何か答えてもよさそうなものだ。
なんだ俺とは話したくないってか?
部屋まで暗くしやがってそこまでして居留守を使いたいってか?
腹がったてぱちりと明かりのスイッチをつけてやった。
「ひゃあ!なんでつけるの?やめてって言ったのに。」
抗議の声が聞こえたが当然無視だ。
よく聞いてみると女の声だ。
「お前はオカ研の部員だな!出てこい!」
相手が弱気だと思うとこちらの調子も上がってくる。
部屋の中を見回すと壁中に黒い布を張り付けて垂らしてある。
あたりにはなんだかいかがわしいオカルトグッズが並べられている。
置かれている本棚にはオカルト本が並んでいる。
「そうでふ。」
でふ?
コホンと咳払いが聞こえた。
「そうよ。」
今度は落ち着いた声になった。
「居留守なんか使っても無駄だぞ。」
「べべべべべ別に居留守を使ってるわけじゃ……。」
その女はそこで言葉を切ってまたコホンと咳払いをした。
「居留守を使ったわけじゃないわ。ただオーラの流れを乱さないようにしてただけ。」
そう言うとその女は一際ごてごてと飾り立てられて、例のろうそく電球が置かれている机の陰から飛び出していた。
それは見るからに根暗そうな女だった。
髪はロングというよりは伸ばしっぱなしと言う方があっている。
前髪は目が隠れるほど長く前が見えているのか心配になる。
なんか怪しげな占い師のような服を何枚も重ね着している。
しかしそれでもわかるほどの胸囲である。
おそらく女の和也よりもさらに大きいかもしれない。
厚着していても机の下から飛び出した勢いで揺れている。
「そうかじゃあ俺がここにいても問題ないな。」
そう言って俺は開いている椅子にどっかりと座りこんだ。
何やら恨めしそうな目でこちらをじっと睨んでくる
なんだこいつはいわゆるコミュ障ってやつだな!うん。
「とりあえずお前に聞きたいことがあるんだよ。早くこっちに来い。」
「なんて図々しい人?コホン。残念だけどあなたとお話ししている暇はないの。大事なお祈りの最中なの。さっさと帰ってくださる?」
下さる?ときやっがた。こいつコミュ障の癖にどうやらミステリアス美女を演じようとしているようだ。
さっきから目が泳ぎまくっているが本人はどうも本気らしい。
こいつこっちの要件も聞かんと追い出そうとしやがって!
しかしこいつの部室にずかずかとは上がり込んだのはこちらだ。
しょうがない少し俺が折れるか……。
「いや。おれさあ、実はオカルトとかに興味があってさあ。少し話を聞きたいと思ってさ。」
そう言うと女がこちらをじっと見つめてきた。いや前髪のせいでどこを見てるかわからないから多分だけどこちらを見ていると思う。
「へえそうなんだ。」
さっきより明らかにうれしそうな声になった。
分かりやすいやつだ。
まあオタクなんてものは自分の好きな分野の話ができるのが楽しくてたまらない人種だしな。
「そうなんだよ実は。やっぱり学校じゃあんまりこんな話をできるやつっていないからさあ。」
「そうよねこの学校の連中ときたらこの世界の神秘に全く無頓着なんだから。」
まあこの学校に限らず世間のほとんどは無頓着だろうけどな。
しかしそんなことは口にはしない。
「ごめんなさい。自己紹介が遅れたわね。私の名前は留戸 緒花。よろしくね。緒花とよんでくれていいわ。」
「よろしく。俺は香川善蔵だ。善蔵と呼んでくれ。」
いい感じだ。いきなり名前で呼んでいいらしい。
これは幸先がいい、このまま話がトントン拍子に進んで情報をもらえるかもしれない。
「それであなたはこの世界の神秘に触れたことがあるのかしら?」
は?
「あなたはティターニアの声を聴いたものなのかと聞いているのよ。」
おやおや?
「結局は低レベルな魂しか持たない人間は妖精の力を借りてしか世界の神秘に触れることが……。」
「待った待った。」
こいつはヤベエ!一体何をしゃべっているのかまるで理解できねえ。
やはり本物のオタク相手では知識の無さが露呈してしまう。
「実はな!俺がオカルトに興味を持ったのは最近のことなんだ。」
ここは正直に話したほうがよさそうだ。
うまい詐欺師の条件は9割の真実に1割の嘘を混ぜることだ。
自分で自分を詐欺師呼ばわりはつらいものがあるな。
「実はなあ。俺の友達の友達の先輩が実際に体験した話らしいんだけど……。」
ここは和也の名前を出すのは得策とは言えない。
俺と和也の事とは隠しつつ話を続けることとした。
「実はその先輩の友達が突然性転換してしまったんだ。」
自分で言っててとてつもなくばかばかしい話に聞こえる。
そりゃそうだ!なんだよ突然性転換って!
このまま話してもまじめに受け取ってもらえないかもしれない。
「へえ。せぜせ性転換しちゃったんだあ。」
おや?なんだか食いついてきているようだぞ。
前髪の隙間から見える目がらんらんと輝いている気がする。
「へえ。そうなんだあ。そそそそそれはあなたの知り合い?名前はわかるの?どんな状況でどんな風に女になったのかしら?」
なんだ鼻息が荒い、ちょっと怖い、不審者っぽいぞ。
「ああいや。名前は何だったかなあ。聞いてなかったなあ。」
おたおたと言葉を濁してごまかす。
まさかこんなに食いついてくるとは思わなかった。
とにかく食いついてくれてるってことは良いことだ何か情報をもらうなんだったら調べてもらうことにもなるかもしれない。
このまま相手の調子に合わせたほうがいい。
「ただ性転換して女になったのは……。あれ?俺、女になったなんて言ったか?」
確か俺は性転換って言ったはずだ。
「そそうね。勝手に男の人だと思っていたみたいね。」
「ああそう。」
納得はできないがまあいいだろう。
「まあ。とにかくその先輩とつぜん女になっちゃってさあ。」
「クスッ。そうね家族も友達も信じてくれないだろうしね。その人昨日はどうしたのかしら?」
「それが昨日は友達の家に何とか上がり込んだんだけど……?昨日?その先輩が女体化したのが昨日だって言ってないよな?」
「と、とにかく!その人はどんなシチュエーションで女になったのかしら?」
?????
「それがなあ。実はその先輩ってのが彼女とデートしていたらしいんだよ。」
緒花はふんふんと鼻息荒く聞いている。
「それでその彼女の部屋で……。」
「女になったのね?。」
とんでもない食いつき方をする。
俺は慌ててコクコクとうなずく。
「それでもしかしてその人はかなりの女好きじゃないのかしら?」
手元のなにかのノートをパラパラとめくりながら緒花はそう言った。
なんなんだあのノートは?
「ああよくわかったな。その先輩はかなりの女好きだよ。」
「なるほど嫉妬をエネルギーにする系統の呪いのようね。」
しっとをえねるぎーに?
話はよくわからないが緒花はどうやらこの呪いについて何かわかっているらしい。
「どういうことだ。説明してくれ。」
「いい?その人は女遊びが好きならきっといろんな女性に恨みを買っているはず。呪いというのはね、善蔵君。人の感情をエネルギー源にして行使されているの。特に嫉妬や妬みのような感情は強い力を持つ。まさに呪いにはうってつけね。」
なるほどそういうことか。さすがはオカルトマニアだぜ。
「本当にこの呪いは組むのに苦労したわ。」
「苦労した?」
「この呪いを作った人は相当苦労したでしょうねってこと!」
流石の俺もだんだん怪しいと思い始めていた。
この女何か怪しくないか?
何で知らないはずの情報を知っている?
呪いを組むのに苦労したってなんだ?
「おい緒花。さっきからお前が見ているそのノートは何だ?ちょっと見せてみろ。」
「やめて!人のものを盗み見しようなんてこの変態!」
がばっとノートの上に覆いかぶさってノートを見せまいとす。
怪しすぎる!
俺は緒花につかつかと歩み寄っていく。
「おいお前いい加減にしろよ。何を隠してるんだ?見せろよ。おい。」
「やめなさいよ。やめてこっちに来ないで!」
「そのノートを見せないとお前のデカい乳を揉みしだくぞ。」
緒花の耳元でささやいた。
緒花は顔を真っ赤にして自分の胸を隠すようにしてがばっと起き上がった。
「変態!最低!それ以上近づいたら大声出すわよ。」
緒花の声が俺の頭の上を通り過ぎていく。
俺の目はノートにくぎ付けになっている。
『美少年の女体化量産計画』
ノートの表紙にはそう書いてあった。
親友が女体化するという訳の分からない珍現象の真犯人が見つかってしまった。
なんだこのご都合主義は。
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