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10.チョットダケヨ、アンタモスキネ

保健室には人がいなかった。

俺は柏木を警戒しながらベッドに腰かけた。

先ほどこの女に尋問のように追いつめられたのを忘れてはいない。

こうして素直に保健室まで親切に付き添いしただけで素直に帰るとは思えなかった。


「あ~~。あ、ありがとうな。本当に感謝しているよ。」


今保険室の先生はいないつまりここでならいくらでも俺を攻撃することが可能なのだ。

俺は思わす身を縮こませる。


「キョドってんじゃねーよ。」


柏木はぶっきらぼうにそう言った。

しかし俺ははいそうですかと言う訳にもいかずどうやって逃げようかと考えていた。

柏木がはあっと溜息をつくと俺のほうにつかつかと歩み寄ってくる。

殴られるかと警戒した俺の胸倉をぐっとつかんグイっとねじ上げ、オレはベットに倒れこむ形になった。


「おとなしく寝ろよ。あたしも病人に何もしないし……。」


相手の顔をじっと見ると柏木はこちらをちらちらと気遣うようにうかがっている。

?……なんだろうこれ?これもしかして?


「何見てんだよ。」


じっと見つめていると柏木が言った。

心なしか顔が赤いように見える。

こいつもしかして俺のことを心配しているのか?


「柏木って結構いいやつ?」


「は?」


今度は柏木の顔がはっきりわかるぐらい赤くなった。


「バッカじゃないの。うざい!いやマジきもいから!」


なんかものすごい勢いで罵倒されている。

しかし不思議といつもの恐怖感は感じなかった。


「なににやにやしてんだよ。」


「いやなんでもない。それよりもありがとうな、付き添ってくれて。少し休んだらすぐ体調も良くなると思うから。もう教室に行ってくれていいぜ……。」


そう言いかけて窓の外を見たら言葉を失った。

思わずむせて激しくせき込んでしまった。


「げぼ!べべほっ!ゲホゲホ!」


「ちょお、アンタちょっとダイジョーブ?マジ無理すんなし。もう帰ったほうがいいんじゃないの?」


柏木が俺を気遣かってくれる、がしかしそれどころではない。

俺の意識は窓の外にくぎ付けになっている。

なんと窓の外に和也がいるのだ。

何これデジャブ?デジャブなの?

窓の外で和也がどや顔でぐっと親指を立てている。

なんだそのむかつく顔はマジで殴ってやりたい!


「じゃああたしはもう行くけどマジつらいならもう帰んなよ。」


柏木はそう言って立ち上がって帰ろうとする。


「あ?ああ。ありがとう。」


そうだこのまま柏木が帰ってくれれば

とその時窓の外でガタンと音がした。

ヤバい。背筋に寒気が走った。

柏木が後ろを振り返ろうする姿がスローモーションのように見えた。

俺はとっさに柏木の腕をつかんで引っ張った。

勢いで柏木がバランスを崩しベットに押し倒す形で倒れこんでしまった、


「ちょ!あんた何してんだよ!」


まずいと思ったがもう遅いこのまま押し切るしかない。


「柏木。」


俺はごまかす言葉を目まぐるしく考えた。

しかし頭を焦げ付くほど働かせてもこの状況をごまかす言い訳がなにも浮かばない。


「なんだよ。」


おびえたような顔をこちらに向ける。

いつもの強気な態度は消え失せて消え入りそうなか細い声を出す。

なんだかいけない雰囲気が漂ってくる。

もともと着崩した制服が倒れこんだせいで乱れている。

必要以上にボタンを外したワイシャツから胸の谷間がチラリと顔をのぞかせている。

短いスカートはもうぎりぎりまでまくれあがってもう少しで中が、見えそうだ。

ああまずい、なんかいい匂いがしてくる。

女の子特有のにおいに頭がくらくらしてきた。

俺の手と触れている手が、肩がほんの少しだけ震えている。


「蜂が!」


「は?」


「蜂が飛んでいた。」


時間が一瞬止まった。

恐怖にゆがんだ柏木の顔が一瞬ポカンとした顔に変わり、徐々に怒りにゆがんでいった。


ああまずい!殺される。


思った瞬間に胸倉をつかまれた。

言い訳をする間もなく……。

ガン

思い切り頭突きをくらわされた。

イテェ!


「死ぬかと思った。」


鼻を手で押さえ痛みに耐える。


「テメ!ふざけんな!マジ殺すぞ!」


ほんとに殺しそうな権幕だ。

しかし怒りと同時に相手の顔に安心の色が見て取れた。

ほっと胸をなでおろす。


「はは。悪かったよ。もうこんなことはしないから許してくれよ。」


「あったりまえだろ!マジで襲われるかと思ったし。」


「ははは。そうだろうな柏木生まれたての小鹿みたいにプルプルしてたもんなあ。」


「は?してねえし!マジどうやって殺してやろうか考えてただけだから。」


「いや。お前捨てられた子犬みたいに泣きそうな顔してたから。ちょっとかわいかったぞ。」


「は?マジうざいから!そんな顔してないから!お前マジしゃべんな。」


柏木が俺の口をふさごうと手をぐいぐいと押し付けてきた。

悪い悪いと言いながら柏木の上からどけようとしたその瞬間がらりと保健室の扉が開く音がした。

まずいこんなところを見られたらとんでもない誤解を受ける。

そう思って振り向いた。

開いた扉にいる女子を見て心臓が凍り付いた。


「何してるの?善蔵君。」


何か言わなくちゃいけないと思ったがもしかしたら肺まで凍り付いてしまったかもしれない。


「藤子さん。」


そういう言うのがやっとだった。

そう目の前にいたのはいこの状況を一番見られたくない相手、瀬川藤子さんその人だった。


「ごめんなさい。私何も見てないから。」


そう言って藤子さんは走り去ってしまった。

絶望感に石のように固まっていると下にいる柏木に突き飛ばされた。

そのせいで俺は床に勢いよく転んでしまった。

いてて

見上げると柏木がいつものクラスで俺に向けるような冷たい目で俺を見下ろしていた。


「あれウチのクラスの瀬川じゃん。マジ最悪!変な噂たったらアンタマジ殺すから。」


柏木がさっきまでと違って本気で怒った顔で冷たく言い放った。

そしてこちらを振り返りもせずに柏木が扉から出て行った。

くそ!最悪はこっちのセリフだ。

よりによって!よりにもよって!藤子さんに見られてしまった。

何でこうなるんだ?

俺は冷たい床にばったりと倒れこんだ。

本当に頭痛がしてきた。

もう何もする気力が起きない。

いやすることならある。一つだけ!和也の奴を殺してやる!

窓の外に目を向けると和也がこちらに申し訳なさそうな苦笑いを向けていた。


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