少女
「よう、ネェチャン。その重そうな荷物置いてけや」
「痛い目みたくねぇだろ」
盗賊は肩の荷物を掴もうとする。
「触るな!」
凛として声高に叫び、その手を振り払った。
「おいおい、やる気か、気丈だな」
男達は道沿いを歩いていた人物を取り囲み、ナイフや剣をチラつかせて脅迫する。
その人物はフードを深くかぶり、亮太達からの距離では顔はよく見えなかったが、細身で小振りな体形や身振りから若い女性でないかと思わせた。
「荷物を置いていけば、命だけは助けてやるぞ」
「……ここはいや!」
「はは、待てやー、うははは」
そう言って少女は亮太達が来た道とは反対の脇道の林の方へ逃げようと走り出した。
それを追う盗賊達。
「ジャス!!あの子襲われてるぞ。助けよう!!」
「……面倒だから、ほかっておけばいい。いちいち盗賊ごとき相手にするのも億劫だ。
それにな、きっとあの旅人は――」
「? そんなこと言っている場合か、お前が行かなくても俺はいくぞ!!」
亮太はたっと走り出した。
◇◇◇◇◇
「捕まえたぞ、さぁ、その顔をよく見せろ」
盗賊の一人が少女を捕まえて、かぶっていた頭のフードを振り払った。
少女はきっとその盗賊を睨み返す。
そこにいたのは、澄んだ瞳に銀色に煌めく長髪の美少女だった。
ただし、耳が少し尖っている。
「あ? エルフ?」
「こいつ、エルフだ」
「面白れぇ、これは高く売れそうだぞ、うひょひょ」
盗賊達は捕まえた獲物が美人のエルフである事に喜悦している。
「だまれ、下衆ども」
盗賊を振り払い、エルフの少女は勝気に言い放った。
「先ほどから聞いていれば、堪忍袋の緒がきれた。ここならいいわ。お前達、全員相手してやるからかかってきなさい!!」
エルフの少女は武器を持っていないように見えた。
得物を持つ盗賊達は自分たちの優位を疑わなかった。
「うははは、活きがいいな、小娘」
その瞬間少女は動いた、まるで舞うように盗賊達の間を駆け抜ける。
「え」
「なに?」
盗賊達の腕が、頭が、すげ落ちる。
「な、なんだ?!」
「どうした?」
盗賊達から動揺の色が走る。
「ふん、もう遅い!」
何が起きているか理解できない。
盗賊達は自分達がかかわってはいけないモノと遭遇したのだと気づき始めた。
「た、助けてく・・れ!!」
まるで、演舞するように少女の動きは妖艶だった。
顔を撫でる様に動くと顔が頭が切り刻まれて絶命していく。
たった数分で7人いた盗賊団は誰一人喋らぬ躯と化していた。
「こ、これは?」
亮太がその殺戮の現場についたのはその時だった。
少女は返り血すら浴びていない。
「?!」
見知らぬ少年の登場にエルフの娘は、気色ばむ。
それを見て、
「ま、待ってくれ!! 俺は君を助けにきたんだ!!」
亮太も何が起きたのか状況の把握が出来ずにいた。
それを聞いて少女は得心がいったのか、行動を控えた。
「これ、君がやったの?」
「そうよ、あなたは、こいつらの仲間ではないようね」
コクコクと頷くのがやっとだった。
「汚いモノを見せてしまったわね・・ここから出ましょう」
少女に促されるまま、亮太はここを離れ林道までついていった。
亮太は少女をしげしげと見た。
色白で涼し気な雰囲気のある、垢抜けた感じのある美人だった。
耳がちょっと立っているがその他は特に人と変わった所がない。
歳は亮太とさほど変わらなく見える。
「あなたは旅人なの?」
「うん、向うに見える街に行く途中なんだ」
「そう、私もあそこに住んでいるのよ。さっきはちょっと災難だったわ。女の一人歩きはやっぱり物騒みたいね」
「うん、本当に気を付けた方がいいよ、でも君強いんだね。盗賊達を一人でやっつけてしまうなんて」
「うーん、そうね。まあまあかな。相手が弱かったから」
「そ、そうなんだ」
俺はちょっと引き気味に話しをした。
少女はフードを深く被り直している。
でも、盗賊達をどうやって倒したのだろう?
見た感じでは鋭利な刃物で切った様にも思えるのだが……。
そんなことを考えているとジャスティンがようやく追いついてきた。
「よう、リョウタ頑張ったか?」
「……出番なかったよ、彼女一人で大丈夫だったみたいだ」
「この子供は連れなの?」
ジャスティンはその言葉に反応した。
「おい、小娘、俺を誰だと思っているんだ?」
聞かれて少女はにっこり笑い
「ごめんね、坊や。あんまり遊んであげられないんだ、また、今度ね」
「ぼ、ぼうや……だと、俺がジャスティン=クレーバー様だと知って言ってるんだろうな?」
聞いて少し驚きの表情を見せる。
「あなたが、ジャスティン=クレーバー……、驚いた。本物なのね? 本当にあの……」
そして、亮太の方を見て、
「あなたは彼の知り合いなのね? 名前は?」
「俺はリョウタ」
彼女は名前を聞くとコックリ頷いて名乗った。
「私の名前はフィーネ、面白い人物に面白い場所で出会えたわ。また、会えるかもね」
彼女は笑みを湛えながら、そういうと荷物を背負い僕たちと別れたのだった。