漆黒の隼
パルメザックは動揺していた。
目の前の緑髪の少年がジャスティンである事に。
亮太やフィーネに切られても余裕を見せていたパルメザックだったが、ジャスティンにはそうはいかないようだ。
「昔を思い出したか、パルメザック?」
「ほ、ほほほ。ジャスティン、久しぶりね・・。死んだと思っていたわ。こんなに若返っているあなたと会うとはね。あたしは昔のあたしと違って、今はもう、あなたの家来でもなくってよ。思えば色々いじめてくれたわね?その借りも返す必要があるわね」
「ほう、何ができるか見てやるよ」
「そうやって、余裕をかましているのも今のうちよ」
そう言うと、パルメザックは詠唱を始めた。
「……地に眠りし激震の巨人よ、今目覚めて我が矛となれ……」
地鳴りが起こると同時に土が盛り上がり人の形を形成し、4メートルを超す石の巨人が姿を現す。首が持ち上がり、目が怪しく光った。
「なんだ、あれは?」
亮太も地震が起きたのかとびっくりして、巨人の方を見やる。
「ふん、ストーンゴーレムを召喚するとはやるようになったな」
「ストーンゴーレム? 石人形って事なのね」
フィーネは油断なく身構えている。
ゴーレムは始め鈍く歩きだしたと思えば、徐々にスピードを上げてジャスティン達に襲いかかった。
右腕を振り上げ、ジャスティンに振りぬく。
ジャスティンはその軌跡から逃れて、横に転がる。
ドスンと大きくジャスティンがいた場所が陥没した。凄い腕力である事が伺えた。
スピードも結構速い。体格からは愚鈍に見えるのだが、見た目と違って俊敏に動く。
亮太はストーンゴーレムに切りかかった。
ガキンっと鈍い金属音がして、刃が通らない。
「固い! このストーンゴーレム」
フィーネも攻撃を試みる。
ストーンゴーレムに近づき、切り裂いてみる。
ゴゴゴンっと鈍い音をたてる。
体の表面を切り裂いたが、すぐ修復していく。
「なるほど、これは手こずりそうね」
フィーネもこの巨人を攻略するのに時間がかかりそうだ、とつぶやく。
ジャスティンはそれを見届けてから叫ぶ。
「ゴーレムには体のどこかに魔核という体を魔力で操っている中心の心臓部がある。
それを砕かないかぎり、再生するし魔力が尽きるまで動き続けるぞ」
「そうか、その魔核って何処にあるかわかるか?」
ジャスティンはお手上げのジェスチャーをして、地道に探していくしかないと返事した。
くそう、亮太達は巨人の攻撃を避け続けた。このままではジリ貧になる。
「ははは、どうかしらジャスティン?あたしの力は!! もっと遊んであげるわよ」
ちらっとパルメザックを見たジャスティンが魔法を詠唱する。
「炎弾よ、敵を貫け!! 『ボルガット』」
巨人に炎の弾丸が連弾で浴びせられる。
体にめり込むが巨人の動きを止める事はできなかった。
「ちっ、やっぱ全部燃やさないと駄目か!!」
そうつぶやいた時だった。
突然、巨人の前に数人の黒装束の男達が現れた。
それはあまりに唐突だった。
いきなりの登場に場は騒然となった。
4人いる。
その存在をフィーネは感じ取る事ができなかった。
亮太はなおさらだろう。
見事な気配の消し方だった。
「息吹を感じる事ができなかった……」
頭に黒頭巾、体は鎖かたびらを着こみ、黒づくめの集団。
背中に剣を背負い、そのいでたちを見て亮太が一言呟いた、
「絶対、忍者だ!!」
忍者達は刀を鞘から抜くと、剣を振るう。
連携を持って次々にストーンゴーレムを襲う。
衝撃波が飛び、腕を、足を切り裂きストーンゴーレムを切り刻んでいく。
ストーンゴーレムが初めて動きを止める。
それを見た忍者は『右の胸だ』と仲間に合図を送った。
右の胸に魔核がある事を見破る。
黒ずくめの忍者たちの中で、一人赤黒の頭巾をかぶった長身の男が、
ふんっとゴーレムの右胸を貫いた。
魔核を貫く事に成功したのだ。魔核はその力を失い弾けて砕ける。
その瞬間突風が吹き荒れ、ストーンゴーレムは崩れ倒れたのだった。
後に残ったのは、石と砂のみ。
それを見たパルメザックは悲鳴を上げる。
「ぎゃーー、あたしのストーンゴーレムが! お前達は『漆黒の隼』だわね。最近、あたしの商売の邪魔ばかりする連中!!」
『漆黒の隼』と呼ばれた集団の首領格の男がきっと睨み、パルメザックに近寄っていく。
「お前の野望はこれまでだ、これまでに捕獲したエルフや妖精達はどこだ?」
「う、うるさい! 今はお前達と遊んでいる暇はないのよう」
今までの状況の変化を眺めていた亮太達は、新たに現れた忍者達が敵でないことを感じとった。
どうやら、パルメザックの敵ではあるようだ。
かと言って俺達の味方とは限らないのだが。
「『漆黒の隼』って聞いた事があるわ」
フィーネが亮太の横に来て説明してくれた。
「忍者の集団で、私たちが行こうとしているブリジット王国の近くを縄張りとしている、傭兵集団だって聞いた事があるわ。諜報活動、破壊活動、謀術、挙句の果てに暗殺までなんでもやる、ならず者の集団だって……」
「でも、悪い連中には見えないよ。少なくとも俺達は彼らに助けられたよね」
そうねと肯定して今後の成り行きを見守っている。
すると、ジャスティンは忍者達に話かけた。
「おい、そのバンパイヤをどうするつもりだ、俺達が倒す予定なんだけど?」
その発言を聞いた、忍者の首領格の男は少し苦笑しながら、話してくれた。
顔は筋の通った顔立ちに、涼やかな瞳をした190センチはあろうかという美丈夫だ。
「そうだったか、助太刀して済まなかった。私はライオネルという。この軍団の頭領だ。戦いを見ていたが、苦戦してた様に見えたのでな。ちょっと助太刀に入った。そこのエルフの子が見えたので、またエルフ狩りをしているのかと思った訳だ。このバンパイヤは、エルフや妖精を捕まえて人身売買を行っている犯罪組織の一人なのよな。俺達はその犯罪組織の撲滅を依頼されていて、そいつは俺達の獲物でもある訳だ」
そう言って、パルメザックを見る。
パルメザックはこの場をどうやって切り抜けるか腐心していた。
「お前達、もうあたしに勝ったつもりでいるのかしら? ちょっと考えが甘いのでなくて?」
「ほう? どうやってここから逃げるつもりだ?」
ライオネルは刀を構え、一歩進めて近寄った。
「おほほほほほほほ」
パルメザックは乾いた笑いをこぼしを、周りを睥睨し、
「今回は見逃してあげるわ、でも、次回は皆殺しよ、覚えてらっしゃい!!!」
パルメザックが怪しく目を光らせると体が複数の蝙蝠に姿を変える。
その蝙蝠達が一斉に夜空に向かって飛び立っていくのだった。
「しまった、そうきたか!!」
ジャスティンはちぇっと舌打ちした。
ライオネルはその顛末を見ながら、仲間を一瞥して「追え!」と合図を送る。
忍者の数人がすぐその場から消えた。
物音もせず、本当に凄い移動術だ。
「では、我々も行く、君たちともまた会う事があるかもしれないな」
「助けてくれてありがとう」
亮太達は礼を言って、忍者達を見送ったのだった。




