ユニコーンに乗って
ベルンハルトのいる街を離れ、亮太、ジャスティン、フィーネの3人は大陸の西にある、ブリジット王国目指して旅に出た。
食料も持てる分だけ持ち、後は近くの村で補充する予定である。
移動に時間がかかる為、ベルンハルトから移動の手段として魔物を2匹借りた。
馬に似たユニコーンという白い魔物で、額にデカい角を生やしている。
立派な体躯をしていて、馬より少し大きい。
2、3人乗せても疲れを知らない馬力の持ち主なのだ。
長旅には丁度いい。ブリジット王国までユニコーンの脚力なら1週間ぐらいで着くそうだ。
この大陸には色々な魔物がいるが、危険な魔物は魔獣と呼ばれ恐れられている。
しかし、人間と共存している魔物も少なからず存在するらしい。
ちなみに魔人にも多くの種族があり、人間と敵対しているが、共存する種族なども存在する。
エルフ族やドワーフ族はその典型といえた。
魔人、魔物とは人間が忌み嫌う存在であり、魔力というエネルギーで生きている生物の事を言うらしい。
ただ、人間も覇気から魔力を作り出す事ができたり、人間から魔人になった例もあることから
魔人とはいったいなんぞや、という議論が活発化しているそうだ。
さて、このユニコーンに乗って旅をする事になったのだが、
「この馬に乗っても大丈夫なのか?」
ユニコーンに乗ったことのない亮太は恐る恐る聞いた。
かなり気性が荒いのか、フッフッと鼻息が荒く、首を何回も振って落ち着きがなく見える。
「見た目はゴツイし気性は荒いけど、人に優しい馬なのよ。私は5歳の時から乗っているし、大丈夫よ。
よく人を見ていて、乗り手を選ぶ所もあるけど、優しく乗ってあげてね。リョウタもきっと気に入られるわ」
「リョウタ、武人になろうと思うなら、ユニコーンぐらい乗りこなさないとな。この魔物は初心者向けだぞ」
ジャスティンは軽口をたたく。
「あら、君は大丈夫なのかな?」
「当たり前だ!俺は魔獣でも乗りこなせるぞ」
「凄いのね~!!」
「お前、絶対俺様を子供扱いしてるだろ!」
「だって、ねぇー、子供じゃない、ふふ」
フィーネはジャスティンをからかって笑っている。
亮太はジャスティンの肩をポンポンと叩いて宥めて、
「まぁ、見た目が全てだからさ」
とフォローになってない言葉をかけて旅路を促した。
亮太とジャスティンが1頭に乗り、もう1頭にフィーネが乗った。
ジャスティンが手綱をしぼり、快走する。
亮太は後ろでジャスティンにしがみついていた。
フィーネもそれに続く。
素晴らしいスピードで、ユニコーンは疾走した。
時速にすると60キロぐらいは出ているだろうか。
見る見るうちに街から離れていった。
道は途中から岩肌になり、かなり荒れている。
だが、ユニコーンは速度を落とさない。
亮太は馬でもこんなに揺れる事無く、快適なのかな。とふと考えていた。
森に入るとけもの道みたいな所を通る事になった。
太陽がジリジリと肌を焦がす。
夕方になり、休憩する事になった。
ユニコーンに水を飲まそうと、森の川辺で一度止まったのだった。
ユニコーンに水を飲ませている間、亮太はフィーネが浮かない顔をしているのに気が付いて、心配した。
「どうしたの、大丈夫かい?」
「あ、うん。そうね、ちょっとね」
思案顔をしてながら、言葉を続ける。
「私たち、もしかしたら……、誰かに付けられているかも……」
「え、僕達が?」
亮太は周りを気にして、神経を集中してみたが何の存在も感じなかった。
「何も存在を感じないよ?」
「今はそうね、でも、街を出てすぐぐらいの時と、先ほどちょっと気になる覇気を感じたわ」
その言葉を聞いて、亮太はジャスティンがどう思っているかと、彼を見た。
ジャスティンは亮太と目が合うと何故かぷいと目を逸らす。
あ、ジャスティンも何か知っていそうだぞ、と亮太の頭の中で警報が鳴る。
こういう態度をジャスティンが取った時は、何か知っているに決まっているんだ。
「ジャス、何か心当たりあるんじゃないだろうな?」
「いや、知らないぞ。獣人達が追ってきているなんて」
「……ジャス、何を知っているんだい」
亮太はズズイとジャスティンに迫った。
ジャスティンは亮太に迫られ、言い逃れも面倒くさくなったか、嫌そうに口を開いた。
「ちょっとな、亮太達に会う前に因縁をつけられ、相手した連中がいてな。
その連中が追いかけてきているんだと思うぞ」
髪をかきあげ、ふぅとため息をつく。
「因縁をつけられたって、何をされたんだい?」
更に問われ、やれやれ仕方ないという感じに首を振り、ローブから水晶を取り出し、
「この水晶を盗んだだけだぞ」
と開き直った。
「「お前が悪いんじゃないかーーー!!」」
亮太もフィーネもつい叫んでいた。
「じゃあ、なにか。水晶を取り戻しに俺たちを追跡している者達がいるって事か?」
「返してあげたらどう?」
ジャスティンは人差し指を左右に振り、これは大事な物だから無理っとのたまっていた。
「リョウタ、この水晶はお前の右腕の封印を解く鍵になるかもしれんのだ。解きたいだろ、封印?」
「え、右腕の刺青か? これ、解く事ができるの?」
「そうだ、その可能性はあると俺様は思っている」
「右腕の封印? 刺青の事? 気になってはいたけど、何か秘密があるの?」
フィーネも関心を持ったのか、亮太の右腕を眺めながら聞いてきた。
亮太は右腕の刺青に関する話をフィーネに聞かせた。
「ふーん、そうなんだ。そんな秘密があったのね」
ジャスティンは今度は雄弁に語りだす。
「そうだ、俺様はリョウタの為に、封印を解く為に、この水晶を命を張って取ってきたんだ。うんうん」
と、褒めて欲しそうに亮太を見る。
亮太は、しかし盗みは駄目だろと頭を振りつつ、ジャスティンに問いかけた。
「それで、追ってきている奴は人間じゃないって事なんだな?」
「そうだ、魔人や獣人たちだな」
「今、この近くにはいない?」
「うむ、今はいなさそうだ。ちょっと距離を置いてついてきているみたいだが。ユニコーンの速度についてきてるのを見ると、近いうちに相手する必要がありそうだ」
ジャスティンはにっと笑い、怖いか? と逆に聞いてきた。
はー、と息を吐きしょうがないかと覚悟を決める。
「魔人たちを相手にするのは、2回目になるな。でも、今度は負けないよ」
亮太はロングソードにそっと触れる。
フィーネも少し呆れた顔をしていたが、
「リョウタが戦うと決めたなら、私も力を貸すわ」
と言ってくれた。
戦うなら少しでも広い場所へ移動しよう、という事になって、森が開けた場所に移動し敵を迎え撃つ事になった。
亮太にとって『覇気』を身につけてから、初めての戦いになる。




