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後日談:リークアウト・スイートハート

 8月に突入し、仙台市内は七夕まつりへのカウントダウンが始まった。今日も朝から夏の太陽が起き抜けの世界を容赦なく照らしている、時刻は間もなく午前9時になろうかという頃。

 仙台市若林区にある、宮城県立仙一(せんいつ)高校・普通科・1年生の教室内にて。

 グラウンドが見渡せる窓側の自席に座って、本日の課外授業の教科書とノートを用意していた名波蓮は、教室の前方、黒板の上にかかった壁掛け時計を見て、本日の予定を脳内で思い描いていた。

 私服通学の高校なので、銘々が夏の暑さを凌ぐための服装で過ごしている。今日の蓮は白い無地のTシャツに、膝丈の黒い綿のズボン。ズボンの裾から飾り紐が出ており、デザインのアクセントになっているのだけど、歩いていると猫がじゃれついてくるのが難点だ。

 ここ最近はあまりにも強い日差しに、カバンの中には帽子も忍ばせているけれど……さすがに、エアコンのきいている室内では使う必要がないため、脱帽している。

 今日は午前中に教諭の都合で延期されていた課外授業を1コマ受ければ終了。それ以降は特に予定がない。アルバイトも休みなので、図書館などの自分が落ち着ける場所で好きな事ができる。

 『片倉華蓮』でいる時間は、常に気を張っているので……せめて『名波蓮』として、本当の自分で過ごす時は、穏やかな時間を過ごしたい。

 とりあえずあと1つ……蓮がそんな気持ちで窓の外をぼんやり眺めていると、教室にクラスメイトが駆け込んできた。彼女は周囲に挨拶をしながらキョロキョロと誰かを探して――

「――名波君!! いた!!」

 よく通る綺麗な声で指名された蓮は、まさか自分とは思わずに目を見開く。そして、他のクラスメイトをかき分けて自分を目指して突き進んでくる彼女に首を傾げた。

刑部(おさかべ)さん……?」

 やってきたのは、クラスメイトの刑部友実(おさかべともみ)。ショートカットがトレードマークで人懐っこい快活な少女であり、クラス問わず友人が多い。今日は白い半袖ブラウスにボーダーの膝下スカートを着用しており、背中には黒いリュックを背負っていた。

 蓮とはクラスメイトだから世間話くらいはするけれど、自分とは生きている世界が違うな、というのが、蓮の正直な感想でもある。事実、毎回彼女から話しかけてもらわないと、会話すら始められていないし。

 たった今登校してきたらしい彼女は、慌てて蓮の隣に立つと、挨拶をすっ飛ばして興奮気味にこう言った。

「なっ……名波君って、あんな格好良い人と知り合いなの!?」

「はい? か、格好良い……人?」

 彼女の言葉の意味が分からずに蓮が顔をしかめると、友実はそんな彼の机をバシッと叩いて、「凄かったよ!!」と力説する。

「髪の毛なんか綺麗な銀髪で、目の色は緑色の高校生なんて初めて見たから、留学生ですかって聞いちゃったんだから!!」

「銀髪に碧眼!?」

 友実が口にしたあまりにも(・・・・・)特徴的な外見に、蓮は思わず大声を出して、クラス中の注目を集めてしまい……慌てて視線をそらす。

「名波君……?」

「す、スイマセン……いや、その……えぇっと……」

 困惑が先行して上手く言葉を紡げない。だって、蓮の知っている『銀髪碧眼のイケメン』は、この高校にいるはずがないのだから。

 しかし、彼女の言っていることが事実だとすれば、蓮が比較的知っている人物がこの高校内にいるらしいのだ。何か仕事関連だろうか……でも、友実に蓮の名前を出したということは、蓮が気づくことを見越していたはずだ。仮に仕事だとすれば、どうしてこんなに目立つようなことを?

 蓮はもう一度、正面にある時計を確認した。今日の補講は9時15分からなので、後少しだけなら時間がある。

「……柳井君だとしても、一体どうして……?」

 このままでは授業に集中出来るはずもない。蓮は立ち上がると、彼の大声に驚いている友実を真顔で見つめ、静かに問いかけた。

「その人、どこにいたんですか?」

「え? えっと……事務室前の机で書類を書いていたよ。ついさっきだから、多分まだそこにいると思うけど……」

「分かりましたありがとうございます」

 蓮は早口と共に軽く会釈をしてから友実の前を後にして、目撃情報があった事務室前に向かった。すると……。


「――あ、名波君。やっばりこの高校だったんだね」


 首から『来客用』というネームプレートをぶら下げた柳井仁義が、ごく普通に座っていた。そして、彼を遠巻きにチラチラ見ていた複数人の女子生徒の視線も、一気に蓮へと突き刺さる。

 今日の彼は鮮やかな銀髪と碧眼、服装は黒い半袖Tシャツと紺色のジーパンという服装。足元にはアウトドアブランドのリュックを置いている。

 そこにいたのは、紛れもなく柳井仁義その人だ。誰からも何も聞いていないし、理由は全く分からないけれど。

「やっ……柳井、君……!?」

 蓮の掠れた声に、仁義は「おはよう、名波君」と笑顔で挨拶をして、ここにいる理由を説明した。

「事務室の場所が分からなくて困っていたら、刑部さん、だっけ、彼女が案内してくれたんだ。歩きながら聞いてみたら、名波君と同じクラスって言うから……」

 しかし実際は、何も確信的な説明になっていない。めまいを抑えつつ恐る恐る近づいた蓮は、仁義の前に棒立ちになり……引きつる口元で問いかけた。

「あ、あの……柳井君、い、一体、何がどうしたんですか……?」

 そんな、現状を理解出来ない蓮へと、笑顔の仁義が追い打ちをかける。

「これから編入試験なんだ」

「へ、編入……編入!?」

 もはや声のボリュームもバカになる。普段以上に大声で驚きを隠せない蓮に、仁義は「あれ?」と首をかしげる。

「もしかして……政宗さんや伊達先生から、何も聞いてない?」

「聞いてたらこんな反応しませんよ……!!」

 わけのわからない事だらけで頭を抱える蓮に、仁義が同情するような苦笑いを向ける。そして、周囲の目を気にしながら……とても端的に理由を告げた。

「実は色々あって、2学期から仙台市内の普通高校に編入することになったんだ。ここの試験を突破出来たら、名波君の先輩になれるよ。あ、でも在校歴としては名波君の方が先輩になるのか……ややこしいね」

「いやあの、その……ややこしい以前に、何が何だか本当に分からないんですけど……」

 蓮は思考がショートしそうになる脳内を何とか抑えて、椅子に座ったまま自分を見上げる仁義を見下ろした。

 正直、先日の石巻における一件が解決してから、自分の周囲で慌ただしく何かが変わっていく。現に、蓮もまだ全てを聞いているわけではないが、8月下旬から『仙台支局』で総務を務める新入社員が入社するという噂だ。ちなみにこの噂は心愛から聞いた。要するに、大人は何も教えてくれない。

 だから仁義に一体何があったのかまでは、まだ詳細に聞く時間が取れていないし、自分には関係ないだろうと思っていたけれど……どうやら、そんなことは言っていられない気配だ。

 何よりも目の前にいる彼に……今まで以上の余裕と落ち着き、そして、茶目っ気があるように感じて、蓮は肩をすくめるしかない。

 名波蓮の間は、なにもないと思っていたけれど。どうやらそれも許されないらしいのだから。

 蓮は何とか呼吸を整え、改めて仁義を見下ろした。そして……新しい環境へ挑もうとする彼に、彼なりのエールを送る。

「何が何だか分かりませんけど……えっと、とにかく、試験頑張ってください」

「ありがとう。名波君も補講授業、頑張ってね」

 仁義がそう言って蓮に笑顔を向けた次の瞬間、予鈴が鳴り響いた。


 時は進んで、時刻は11時を過ぎたところ。

 『仙台支局』の応接スペースにあるソファに白いワイシャツとネクタイ、黒いスラックという出で立ちで座っていた万吏は、ユカと政宗から提出された報告書に目を通して……息を吐いた。

 今日の政宗はクールビズのため、水色の半袖ワイシャツにノーネクタイのスーツ姿、ユカはいつものキャスケットに半袖のシャツワンピース、足元は7分丈のレギンスをあわせている。ちなみに統治は名杙の用事で外出中である。

 報告書にざっと目を通した万吏は、それを手元の封筒に片付けながら、2人へと深く頭を下げた後、改めて謝辞を述べた。

「ケッカちゃん、政宗君、まずは本当にお疲れ様。今回はとにかくありがとうね」

 この言葉にユカが「お疲れ様でした」と返した次の瞬間、万吏はユカを見つめて、恐る恐る問いかける。

「とりあえず……ミズの体にあった異変は、取り除かれたと思っていいんだよね」

 この言葉に、ユカは一度頷いたものの……その顔から緊張感が取れることはない。それだけ『生痕』について、確かなことが分からないのだ。

「正直……今はまだ分からないです。確かに原因は解明して処置を施しました。ですが、この現象は人の心次第でどうにでもなる可能性があるんです。だから……少なくとも年単位で様子を見る必要があると考えます」

「なるほど、それで『あの話』に繋がるってわけね」

 万吏の言葉に、ユカと政宗はほぼ同時に頷いた。


 あの植樹祭が終わったタイミングで、政宗とユカは一度、瑞希と仙台で食事をする機会を設けた。その日は仕事終わりに合流して、個室も有る地元の海鮮系居酒屋で、瑞希の体調や気持ちの浮き沈み、環のことをどこまで覚えているか、など、ヒアリングをしてカルテを作っていく。ちなみにこれは、質問が政宗、書紀がユカ、と、完全に分担していた。最もユカは大和煮――クジラの肉の煮物――に興味津々だったけれど。

 そこで、とりあえずは日常に戻っても支障ないという結論には至ったが、名杙としても、政宗個人としても、もう少し彼女の様子を見たいという見解で一致している。

 だから政宗は、こんな提案をしていたのだ。

「支倉さん、4月から今の会社で働き始めたばかりだとは聞いているんですけど……今後の経過を観察するために、『仙台支局』で総務として働いてくれませんか?」

「え?」

 政宗からの申し出を聞いた瑞希は、間の抜けた声を出して硬直した。そして、キョロキョロを周囲を見渡し、その言葉が自分に向けられたことを悟る。

「ええぇぇっ!? わ、私がですか!?」

 予想外のヘッドハンティングに目を見開く瑞希に、政宗は苦笑いで、『仙台支局』の現状を説明した。

「勿論、今後の支倉さんに万が一何かあった時、迅速に対応したいからという理由もあるんですけど……実は、うちの事務所、慢性的な人材不足でして……1人、事務作業や連絡調整をしてくれる正規職員を雇おうと思っていたんです。ちなみに、パソコンはどこまで使えますか?」

「パソコンですか? ワードとエクセル、あと、パワーポイントは少し……で、でも私、失敗も多いですし……!!」

 そう言ってうつむき、萎縮する瑞希に、政宗は優しく言葉をかける。

「支倉さんは1度しか会っていない森君とのことを細かく覚えていたので、とても記憶力が良い人なのだと感じました。俺達の仕事も多くの人と長期的に関わっていきますので、記憶力が良い人を探していたんです」

 彼の言葉に、瑞希がオズオズと顔を上げた。政宗はそんな彼女を真っ直ぐに見据えて、真摯に言葉を続ける。

「勿論、大きな仕事が終わったばかりですので達成感もあると思いますし、ようやく今の仕事に慣れてきたところで、また新しく仕事を覚えろと言うのは……酷な話だと理解しています。勿論、今の職場への説明も含めて、俺や他のメンバー全員でフォローしていきますから、少しだけ、考えてみていただけませんか?」

 彼の言葉に、瑞希は戸惑いつつも頷いて……手元にあるビールを一気に飲み干した。


 その翌日、政宗の元へ瑞希からその話を受けるという連絡が入った。

「私は……また、自分の知らないところで、誰かに迷惑をかけてしまうかもしれません。自分に何が起こったのかもよく分かっていませんし……だから、ちゃんと知って、同じことを繰り返したくないんです。私からもお願いします、佐藤さんのところで、働かせてください……!!」

 少し声を震わせながら、それでも最後まではっきり宣誓した瑞希に……政宗は背筋を伸ばして口元に笑みを浮かべ、明るい声で返答する。

「こちらこそ……改めて宜しくね、支倉さん」


 勿論、すぐに離職出来るわけではない。瑞希は瑞希で今の会社で残っている仕事があるため、実際に『仙台支局』で業務を開始するのは、お盆が終わった後からになるけれど。

 瑞希には書類関係や政宗のスケジュール管理などを徐々に任せていこうと考えている。今は書類関係の補助として片倉華蓮を雇っているが、彼女もずっとここで働けるわけではないので、いつか彼女がバイトを辞めた後も、ある程度混乱なく業務を進めていくためだ。

 ちなみに、政宗がこの話を、瑞希の雇い主であるなるみに告げた時、凄まじく嫌味を言われたことは余談である。


 と、いうわけであと半月で1人増えることになった『仙台支局』に、万吏は業務的な話を少しした後、政宗を見つめて、口元に笑みを浮かべる。

「しっかしまぁ……今年に入って女性ばっかり雇ってるねぇ政宗君。華やかになって羨ましいよ」

「……そうですね」

 政宗が露骨に視線をそらした次の瞬間、万吏はユカを見つめて、満面の笑みでこう言った。

「ケッカちゃん、政宗君がモテモテで焦ったりしないの?」

「へ?」

「万吏さん!!」

 政宗が動揺してワタワタする中、ユカはそんな彼をしばし見つめた後……万吏に真顔を向ける。

 そして、辛辣な一言を告げた。

「……むしろ彼女作って落ち着いて欲しいですね」

 その言葉に万吏は笑いを堪え、政宗は何とも言えない表情の後に、溜息をついたのだった。


 万吏を見送った2人は……自席に戻らず、応接用のソファに並んで座っていた。

 時刻は間もなく12時になろうかというところ。どうせ昼休憩になるので、このままここで、昼食を買ってきてくれる統治を待つことにしたのである。

「そういえば政宗、仁義君の編入試験って今日やったっけ?」

 ユカが手元のコップを手繰り寄せて麦茶をすすりながら問いかけると、政宗はコップを戻して「ああ」と頷いた。

「まぁ、仁義君なら問題ないと思ってるけどな」

「これ、名波君には言っとらんと?」

「決まってから言えばいいよ。流石に今日は会うこともないだろうからな」

 しれっと言い放つ政宗は、足を組み替えて返答する。


 謹慎中、名倉家に住むことが出来なくなった仁義は、聖人が所有している仙台市内のマンションの一室に引っ越してくることになった。ちなみにここは、蓮が華蓮になる時に使っている部屋でもある。

 そして、その部屋から最も近い高校が、蓮も通っている仙一高校だった。仁義は多賀城にある単位制の高校に在籍しているため、引っ越しをしたからといって学校を変わる必要はなかったのだが……今後のことを考えていた仁義に、政宗がこんな進言をしていたのだ。


 しばらくは『仙台支局』の仕事にも関われないから、これを機に、里穂や蓮のような、普通の高校生になってもいいのではないか、と。

 そして謹慎が解除されたら、里穂や心愛と同じように、スポットの『縁故』として『仙台支局』に関わって欲しい、とも。

「あ、勿論、暇だったら遊びに来ていいからね。ぶっちゃけ書類整理くらいは手伝って欲しいし……ってこれ、名杙には内緒でね」

 こう言って苦笑いを向ける政宗に、仁義は肩をすくめて、その提案を受け入れていた。それが、今日の編入試験に繋がるのである。


 色々なことが変わっていくものだと思いながら、ユカはスマートフォンを見つめて……「あ。」と、声を出した。

「そういえばこの間、植樹祭の時、写真撮っとったやろ? どげな顔なのか見せてよ」

「へ? あ、あぁ……」

 そういえばあの時、統治がわざと連写していたことを思い出した政宗は、机上のスマートフォンを手に持って指先で操作しながら、写真のデータフォルダを表示した。

 彼の手元をユカが覗き込む。普段より近い距離にいる彼女に、政宗は若干ドギマギしながら人差し指でスワイプさせて、写真を切り替えていった。

 そこにいたのは、焦って動きすぎてぶれている政宗と、その後ろで首を傾げいるユカの顔。あの時食べた石巻焼きそばは美味しかったなぁと、ユカが当時のことを思い出していると……写真がユカと政宗から、小さな苗木のみになった。これは政宗が自分で撮影していたものである。

 そして、政宗が機械的に画面を操作した次の瞬間――


「――え……?」


 画面に表示された『その写真』を見たユカは、掠れた声と共に大きく目を見開いた。



 一方その頃、統治は仙台駅から『仙台支局』に向かってた。その手には3人分の弁当が入った袋を持っている。

 あちこちで七夕飾りがなびく駅前を通り抜けて、足早に移動する。その表情にはあまり余裕がなく、むしろ若干苛立っているようにも感じられた。

 それは先日……統治の元に届いた、櫻子からのメールに端を発する。

 いつも通り、平仮名ばかりのメールには、こんなことが書いてあったのだ。


 せいやくしょはなくいさんにだしますか?


 意味が分からなかった統治が、自宅に帰って電話で聞いてみたところ、名杙から誓約書の提出を求められたとのこと。それは、名杙の仕事を口外しないということと、統治と付き合って、仮に破局したとしても名杙に損害を請求しない――等というような内容だった。実際はもっと生々しかったけれど、まだ男女の付き合いすら始めていない女性に書かせるには、失礼極まりない内容だと感じる、そんな書面。

 勿論、こんな書類の存在を統治は知らなかったため、櫻子には自分宛てに送ってもらった。そして改めて自分から連絡すると言付けてから……先程届いたそれを持って、父親と話をしていたのである。

 父親から話を聞いて一定の理解を示す内容もあったが、現代では到底受け入れられないような……そんな内容があったことも事実だ。


 分かっていた。

 自分の家は、とても――歪んでいる。


「これが……名杙だったな」

 自嘲気味に吐き捨てた統治は、『仙台支局』の入るビルの中へ足を踏み入れ、2人の前ではこんな顔を見せないようにと意識して切り替えるのだった。



 ユカの声と共に自分のスマートフォンを見た政宗は、自分が犯した失態に気がついて……目を見開いた。

 手の力が抜けて、持っていたスマートフォンが膝の上におちる。でも、今の政宗に、それを拾い上げる力はない。


 彼のスマートフォンに表示されていたのは、政宗と統治、そして『ある女性』の3人で撮影した写真だった。背景はおそらく政宗の部屋で、彼のスマートフォンに入っているということは、セルフタイマーなどを使って撮影したのだろう。

 楽しそうに笑う政宗と、穏やかな表情の統治。そして2人の間で笑う、髪の長い女性。

 ユカは彼女に見覚えがないはずなのに――『なぜか』、すぐに誰なのか分かった。


 だって、『覚えている』から。

 あの時……3人で写真を撮影したことを。


だって今、ここにいる『彼女(ケッカ)』は――


「なぁ……3人で、写真を撮らないか?」

 あの時、政宗がこう言って。

「電車の時間があるから、さっさと終わらせてくれ」

 統治がこう言って、肩をすくめて。

 そんな2人を見ていた『あたし』は、本当に嬉しかった。


 ちゃんと、『思い出せる』。

忘れていたって、『縁』はずっと、繋がっているから。


 だって、ケッカは――ユカなんだから。


「政宗、これ……あたしだよね……?」

「っ!?」

政宗が息をのんだのが聞こえた。ユカも自分で何を言っているんだろうと思う。

けれど、1度疑ってしまうと――どうしても、不安が消えない。

心臓が激しく波打ち、頼むから否定してくれと心の中にいる『誰か』が訴えた。

「ねえ、政宗……政宗……!!」

 指先の震えが止まらない。落ち着かせたくて……落ち着かせてほしくて、無意識のうちに、彼の手に触れる。

 あの時、石巻からの電車で繋いでくれた手は、握り返されないまま。

 そして、彼が何も言い返さないこと、それがユカにとっては確かな答えだった。

「政宗、お願いちゃんと教えて……ねぇ政宗、政宗!!」

「――っ!!」

 ユカの大声に政宗は慌てて我に返ると、狼狽したまま言葉を探す。

 しかし、何を伝えればいいんだろう。


 あの『優しい時間』と『残酷な時間』を、目の前にいる『過去の彼女を知らない彼女』へ、どうやって。


「ケッカ、その……これは……!!」

 すると、扉の向こうから足音が近づいてきて……部屋の扉をくぐり、3人分の昼食を携えた統治が戻ってきた。

 と、いうわけで第4幕も無事に終わりました!! お付き合いいただいた皆様、ありがとうございます!!

 ……え? 終わってます終わってます。第4幕は昨日の時点で終わってますので、今回は第5幕へのバトン受け渡し回でしたね。

 仁義が仙台に転校してきて、本物のリア充になり。

 瑞希は仙台支局に転職してきて、新しい仲間になり。

 ユカに第3幕の『ユカ』の存在がばれる、という。


 さぁ、どうするどうなる第5幕!!


 ……第4幕の話をしましょう。里穂と仁義に軸をおき、そこに新キャラの瑞希と既存キャラの環もおいて、色んなキャラが過去も今も頑張ってた、そんなエピソードになったかなーとは思います。

 この作品はキャラクターがとにかく頑張ってくれて成立しているので、里穂も仁義も現状に甘んじることなく、より良い関係を目指してくれたのはカッコいいなぁと思いました。名杙も名倉も気にしない、そんな2人になって欲しいっすね。(既になってる気がする)

 そして瑞希が転職してきたことで、環とも接点が増えます!! 多分!! 環ちゃんと修行してね!!


 さて、折角なので、里穂仁のイラストをご紹介しまっす!!


挿絵(By みてみん)

 まずは狛原ひのちゃんが描いてくれた里穂仁!! 厳密に言うとこの頃は仁義じゃないけどいいか!!

 この幼少期の心を開いていない仁義に対して、里穂の笑顔が眩しいっす……ノースリーブも眩しいっす……あ、そこじゃない? でもうっかり見ちゃうっす!!

 小さな頃の2人は書いていてずっと「尊い……」ばっかり言ってました。ありがとうございます!!


 そしてもう1枚!!


挿絵(By みてみん)

 こちらは成長しましたねー。今年の霧原の誕生日に、Twitterのフォロワーさんで霧原がただのファンでお馴染みの、八紡つづひさんから描いてもらったものです!!

 当然ですがこの第4幕の展開は一切伝えておりませんが、学校帰りの2人が仙台でデートしるように見えますよね!! もうこの公認カップル強い……ちゃんと手をつなげてよかったっすね。誰とは言わないけどねぇ政宗。


 エンコは他にもおがちゃんが毎回のように更新直後に挿絵を描いてくれたり、他にも多くの方がイラストを描いてくれるような作品になりました。本当にありがたいですな。

 この勢いをそのままに、第5幕も頑張って更新していきますので、引き続き、宜しくお願いいたします!! ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました!!

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