エピソード5:サヨナラ大好きな人③
このエピソードには、東日本大震災、及び津波を連想させる描写があります。
また、その後の避難所における描写も登場しますが、これらは全て事実を知った上で構築したフィクションです。実際の当時の避難所とは関係ありません。
これらの描写に嫌悪感を抱く方は、無理をしないでくださいね。
麻紀が消えたことを悟った瑞希は……その場に力なく座り込んだ。
ユカがそんな彼女を見下ろしていると、彼女の隣に統治が並び立つ。その手には、縁を切るためのペーパーナイフを携えて。
彼が瑞希と環の『関係縁』を切るつもりだと察したユカが、事態の終息を思って瑞希を見下ろしていた次の瞬間――2人の間に環が割って入ってくる。そして、座り込んでいる瑞希を見下ろした。
「森君、下がっていてくれ」
顔をしかめた統治が冷静に諌めるが、環は2人へ背を向けたまま、首を横に振って……両手を静かに握りしめた。
そして……瑞希を見下ろし、一度つばを飲み込んでから、意識して淡々と問いかける。
「……どうして俺が死んだと思ってたんすか?」
その言葉に、瑞希の両肩がビクリと反応した。彼女が狼狽しながらも言葉を探す様子を、環が静かに見下ろしていて……話が長引きそうだと思ったユカが、環の横顔に釘をさす。
「その話は、後で本物の支倉さんから聞かせてもらうんじゃいかんと?」
環は首だけを動かしてユカを一瞥した後、ユカに対してこう問いかけた。
「俺と支倉さんの『関係縁』を切ったら、俺も支倉さんも、互いのことを忘れるっすよね。そうなると、俺がさっき聞いたことの答えも忘れるんじゃないんすか?」
「それは……」
環の指摘通り、その可能性はゼロではない。ユカが答えにつまったことを確認した環は、反対側で自分を見つめる統治に視線を向けて、いつも以上に意思を込めて言葉を続ける。
「名杙先生、よく分からないことに巻き込まれてここまで協力してる俺に、さっきのことくらいは聞く権利があってもいいっすよね?」
「……」
統治は口をつぐみ、瑞希の様子を確認した。彼女は座り込んだまま両肩を震わせており、その表情を伺うことは出来ないが……長い時間、黙認するわけにはいかない。
ズボンのポケットからスマートフォンを取り出した統治は、現在時刻を確認した。そして、環に向けて精一杯の譲歩案を提示する。
「これ以上放っておくと、支倉さんの命に関わる。5分間……それが限度だ」
「分かりました」
統治の言葉に趣向した環は、その場によいしょとしゃがみこんだ。そして瑞希と目線を合わせ、彼女の顔を覗き込む。
「……大丈夫っすか?」
「え……あ……」
思いの外近くで声をかけられた瑞希が顔をあげると、至近距離から自分を覗き込んでいる環と、目があった。
あの時、一度だけしか会えなくて、話をした時間も……決して長くはないけれど。
でも、もう会えないと思っていた彼に、もう一度、生きて会うことが出来た。
瑞希は口元を引き締めて居住まいを正し、改めて、環を見つめる。
そして……肩をすくめて、苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい、少し立っているのが苦しくて……このまま話を進めてもいいですか?」
その言葉に、環は首を縦に動かす。
「把握しました。俺は理由が分かればそれでいいっす」
「ありがとうございます。えっと……私と森君が会って、さっきの子も、それ以降は姿を見かけなかったから……私も大事にはしなかったんです。そして……あの災害がありました」
瑞希はこう言って、地面の土を撫でた。
かつてこの場所にあったもの、その痕跡をたどるように。
「ここにあったお店も、隣にあった私の家も……ご近所さんも、知らない人も、全ての人の全てが流されました。きっと……さっきまで私と一緒に居てくれた森田さんも、災害で亡くなったんですよね」
「……そうっすね。とはいえ、俺も正直、詳しいことは知らないんすわ」
瑞希には先程の麻紀の声は聞こえていない。だから、麻紀が瑞希に悪意を持って接触したことも、瑞希を自分と同じ側へひきずりこもうとしたことも、何も知らないけれど。
でも……今はそれを知らせる必要はないと判断した環は、言葉を曖昧にしたまま、彼女に続きを促した。
「あの時、私の家には姉と私がいて、近所の人の助言で、祖母を連れて姉の車で日和山まで逃げました。そこで……」
ここまで言って、瑞希は言葉を切る。
4年という歳月が経過しているけれど、あの日のことを、あの時間のことを思い出すと……両手が震えた。
それは、どれだけ色があせても――忘れることの出来ない時間。
あの時、石巻市中心部にある日和山には、多くの人が、ほとんど着の身着のまま避難していた。現に涼子も瑞希も部屋着にすっぴんでガウンを着ているだけ。財布やスマートフォンなど、普段のバッグに入っているものはかろうじて持ち出せたが、今すぐ引き換えしてでも持ち出したいものは両手に余るほどある。
そして、北風が容赦なくふきつけ、粉雪が舞う中で……海と陸地との境界線が容易く破壊される様を、目の当たりにするしかなかったのだ。
それまで半信半疑で「避難指示なんて行政は大げさ」などと世間話をしていた人達を一瞬で黙らせるだけの現実が、容赦なく迫ってくる。
流されるはずのないもの――誰かの家や、車や、逃げ遅れた人が、灰色に濁った渦の中で助けを求め続ける。
果敢な人たちはありあわせのものでボートを作って、家の屋根などで助けを待っている人のところまで向かったりしていたけれど、サイレンの音に混じって四方から聞こえていた声が段々と減っていく様が、瑞希に抗えない現実を実感させる。
そこに広がっていたのは、大自然の驚異を見せつけるかのような――未来への教訓とするにはあまりにも代償が大きい、そんな地獄絵図だった。
そして瑞希は、あることに思い至ってしまい……顔面蒼白のまま涼子を見やる。
「お姉、ちゃん……お父さんと、お母さんは……?」
隣にいた姉の涼子が、ハッとした表情で瑞希を見た。2人の親は石巻市内で働くために既に家から出ていた。もしも、もしも沿岸に近い道を走っていて、車に乗っている状態で巻き込まれたら――!?
「っ……!!」
想像しただけで、胸が締め付けられた。
最悪の事態を想定した瑞希が、手で顔を覆って両肩を震わせる。涼子はそんな妹を慰める言葉を見つけられないまま……彼女を抱きしめて、町が消える音を聞き続けた。
その後、近所の人からの情報を頼りに、津波で被災しなかった道を通り……瑞希達姉妹と祖母は、難を逃れた小学校の体育館に避難することが出来た。
誰もが石巻に起こったことを理解出来ずに呆然と過ごしており、停電しているためテレビを見ることも出来ない。非常用のラジオから聞こえてくる声だけが、事実を淡々と伝え続けている。
石巻のみならず、三陸沿岸や仙台港など、とにかく広い地域でとんでもない災害が発生したのだということは分かったが……それが分かったところで、いつもの日常が戻ってくる気配などない。
その日は学校にあった毛布やダンボール、ゴミ袋をかき集めて暖を取る。毛布はなるだけ子どもやお年寄りに譲ったので、瑞希はダンボールを1枚下に引いて、もう1枚を肩から背中にかけて羽織り……体操座りのまま、ぼんやりしていた。
自分はどうして、ここにいるんだろう。
昨日までは――数時間前までは、全てが普通だった。
どうしてこんなに寒い場所で、こんなにみすぼらしい格好で……こんな目にあわなくちゃならないのだろうか。
そんな瑞希のところへ、立ち歩いていた涼子が戻ってくる。
その手には、袋に入った菓子パンが一つ握られてた。
まだ支援物資が届くような状況ではないが、近くにあるスーパーが避難所にいる人に対して、店の中のものをかき集めて分けてくれたとのこと。
「ミズちゃん、とりあえずこれを3人で分けて食べよう。ここで私達が倒れると、迷惑がかかっちゃうからね」
涼子の言葉に同意した瑞希は、数時間ぶりに食べ物を口にした。
普段は美味しいと思うはずの甘い菓子パンだったが……味がよく分からず、かえって喉が乾いただけ。
ただ、機械的に咀嚼しながら……これからのことは、あえて考えないようにしていた。
それから、約1週間後……水も引き、全国の人がこの地に起こった災害を認識して、手を差し伸べ始めてくれた頃。別の避難所にいた両親が3人を探しにきてくれて、家族5人はそれぞれの無事を確認することが出来た。
とはいえ……彼らに家がないことは変わらない。他の多くの人と同じように、暗黙の了解で決められた体育館の1区画をダンボールで間仕切りして、2~3畳ほどの空間に必要最低限の私物を置く。プライバシーなどないような空間だが、それでも互いに気を遣いあって、この苦難に耐え続けていた。
食事は支援物資が届き始めたし、電気も徐々に復活したが、水道機能の回復が遅れているため、避難所のトイレが詰まり始めたり、満足に体すら拭けない日々が続いていた。
そんな、段々と秩序と停滞が生まれてきた避難所の中で……瑞希は1人、代わり映えのしない1日を過ごしていた。
高校も当然のように休校になっており、4月になったら新学年が始まるのかも分からない。そもそも制服やカバン、体操服など、学校生活に必要なものも全て失ってしまったのだ。
これからどうやって、生きていけばいいんだろう。何度となく自問自答を繰り返しても、一向に答えは見えない。
高校の同級生や知人は、災害ボランティア活動でこの町に貢献していると言う。両親は浸水した会社の復旧作業に出ており、姉の涼子はその持ち前の優しさと気遣いが出来る点を評価されて、避難所の運営を支えるスタッフとして、避難所内を歩き回っていた。
祖母は避難生活で腰を悪くしてしまい、動き回ることが出来なくなった。祖母がいる間は話し相手になってあげたり、マッサージをしてあげることが出来たけれど、数日前、隣町の介護施設が一時的に預かってくれることになったため、今は一緒にいない。
自分はどうして、何も出来ないのだろう。
――否、何もしようとしないのだろう。
そんな自分に嫌気がさしたある日、瑞希は体を動かすことも兼ねて、避難所の入り口に設置されたホワイトボードに掲示された情報を見て回っていた。
そこには、行政からのお知らせや、炊き出し、自衛隊によるお風呂の情報、拡大された地元新聞などが掲示されている。そして、被災者同士が情報を交換するための掲示スペースもあった。
携帯電話の電波塔がダメになってしまい、固定電話もほぼ不通、そんな状態でバラバラになった家族が、「自分たちはここにいます」と書いた紙を各避難所に貼って、家族との再会を試みているのだ。現に瑞希の両親も、涼子が近隣の避難所に貼ったこの紙の情報を元に探し当て、この避難所で再会することが出来たのだから。
早く全員が会えるといいなと思いながら情報を見ていくと……その一角に、連絡が取れない人を探している旨の情報が掲示されていたことに気付いた。要するに、行方不明になっている人だ。
その全てがマジックによる走り書き。探している人がどれだけ焦っているのかを伺い知ることが出来る。
知り合いはいないだろうかと内心でドキドキしながら、記載されている名前を目で追った瑞希は……ある名前を見つけた瞬間に、目を見開いた。
そんな、まさか……最悪の事態が頭をよぎる。
確証は持てない、けれど、ここに記載されているということは……探している人がいて、自分たちではどうにもならず、警察に相談しているということだ。
そして、そういう人は大抵……逃げ遅れて、災害に巻き込まれてしまっている可能性が高い。
その場で立ち尽くしていた瑞希は、打ち合わせから戻ってきた涼子に声をかけられるまで、動くことが出来ずにいた。
ここまで話を聞いていた環は……恐る恐る自分を指差す。
「まさかとは思うんすけど……そこに、俺の名前が?」
その言葉に、瑞希は苦笑いで言葉を探した後……ゆっくり首を横に振る。
「確かにそこには『もりたまき』って書いてありました。でも、漢字じゃなくて平仮名で……性別も年齢も書いてなかったから、もしかしたら違う人かもしれないって……そう、自分に言い聞かせていました」
「名前が平仮名……」
環が呟いた言葉に、ユカと統治は顔を見合わせた。そして、2人のところに近づいてきた政宗が、自分たちを手招きしていることに気がついて、瑞希と環の様子を注視しながら彼に近づく。
政宗が持っていたのは、先程仁義から手渡された封筒だった。駆を通じて頼んでいたそれには、瑞希がいた避難所の入口付近の写真が入っている。
政宗はその写真を取り出すと、ある箇所を指さした。
物資を運ぶ人の奥、瑞希が見たであろう情報掲示板が写っている。
恐らくここに、瑞希の見た名前があったのだろう。
災害によって全てが混乱し、情報が錯綜している中で……少しでも多くの情報を集めるために、多くの人が奔走していた。
特に麻紀は、引っ越しをしてきたばかりだ。学校も自宅も流されたことで彼女の漢字が不明瞭な人物……例えば、通っていた学校の関係者が、一つでも多くの情報を得るために『もりたまき』という平仮名表記にして、掲示してしまったのではないか。
仁義を含む4人は顔を見合わせて、どこまでも続いてしまった偶然の不幸な連鎖に……何も言えなくなる。
政宗はそっと写真を片付けると、封筒から別の紙を取り出した。これは、当時の行政が把握していた、行方不明者のリスト。住民票と照らし合わせたもので、一般的には出回っていないものだ。
住んでいる地区ごとにあいうえお順で記載されているそこには、『森田麻紀 女』という記載はあるものの、環の名前はどこにもない。
瑞希が見た『もりたまき』は、麻紀を探す人が情報を求めて掲示したものだった。
そして恐らく、環もそれである程度のことを察したのだろう。座り込んだ瑞希に溜息をついて……言葉を続ける。
「それで……4年間、俺が死んだって思ってたんすか?」
「最初は、半信半疑でした。でも……私は森君と何も接点がありませんから、どうやって事実を確認すればいいのかも、分からなくて……」
瑞希はそう呟いて、手元にある土を握りしめた。
覚えているのは名前だけ。年齢も違う、住んでいる場所も知らない、たった一度だけ出会った男の子。
あの時、あの時間を一緒に過ごした彼は……本当に、生きているんだろうか。
「モヤモヤしたまま、時間だけが過ぎていって……あの日のことを口に出さなくなっていったから、何も言えなくなって……」
石巻は、沿岸部は、壊滅的な打撃を受けた。
しかし……それはあくまでも、沿岸部だけの話。仙台市中心部や内陸の大崎市、登米市などの他の町、そして、宮城や三陸沿岸以外の人々は、今も前と変わらない生活を続けている。
勿論、それが悪いわけではない。ただ、思い出や生きがい、大切な人を亡くした人にとって……そんな、災害を知らない人が楽しそうに生きているのを見るのが、少しだけ、辛いこともあった。
そして、災害を知らない人との認識格差が広がっていくことも感じていた。経験していない人にとって、それはもう『過去の話』。けれど、経験した人にとっては……『現在の話』なのだ。
会話をしていて、その認識のズレを感じてしまうと……どこか、冷めた目で諦めてしまうことがある。
そしてそれは、環に対しても同じだった。
「私が諦めずに、お姉ちゃんや、万ちゃんや、駆君や……里穂ちゃんに仁義君、色んな人に聞いてみれば良かったの。でも、私は……諦めちゃったから。自分が傷つかないように、環君を探すことを……諦めたからっ……!!」
諦めたくて、忘れたくて……でも、祖母と話をしたり、あの駄菓子屋のことを思い出すと、連鎖的に思い出して、心がモヤモヤしてしまう。
ボランティアにも、語り部にも、災害に関することに関わるのが怖くて。
でも、そんな自分を変えたいと思って……今の会社に飛び込んだ。
慣れないことに奮闘して、失敗ばかりを繰り返して……頑張っても頑張っても一人前の仕事をこなせない、自分が嫌になることばかり。
そして……ふとした瞬間に浮かぶ叶わない願いを、心の中に押し込めるのだ。
あの時の森君が、私の前に来てくれればいいのに。
そんなモヤモヤが蓄積された結果、形をなしてしまった。
それが……目の前にいる、『生痕』の瑞希だ。
彼女はフラリと環を探し始めて――そして、『遺痕』になった麻紀と出会ってしまった。
「森田さんを見た時……ちょっと、安心したんだ。森君が会いに来てくれたって思って嬉しかったの。申し訳ないくらい、人違いだったけど……」
瑞希はここまで口にした後、呼吸を整えて顔を上げた。そして、涙を隠すこともなく環を見つめると……心から安心した笑顔と共に、彼に向けて言葉をかける。
「――良かった……生きてて、くれたんだね……っ……」
環はそんな彼女に溜息をつくと……いつも通りの口調で、言葉を返した。
「……俺はずっと、飴食べながら生きてたっすよ」
2人の様子を見守っていた統治は、スマートフォンで時間を確認して……一度、息を吐いた。
そして、静かに2人の間に立つと……自分の目の前にある、瑞希と環の『関係縁』を見つめる。
もしも、このまま『関係縁』が繋がったままならば、2人は空白の4年間を埋めることが出来るのかもしれないけれど。
でも――それは『許されない』。もう二度と、同じことを繰り返さないために。
『生痕』は本体になっている人物の生命力を奪い、対象者となった相手にも悪影響を及ぼす。2人の命を守るためには……仕方のないことなのだ。
統治が自分の隣に立ったことに気付いた環が、視線だけを彼に向けて……すぐにまた、地面に戻した。
リミットだ。そんなこと分かっている。
けれど……もう少しだけ、話をしたかった。
彼女と自分から、これまでの記憶が忘れないうちに……もっと、色んな話をしたかったけれど。
環より先に立ち上がった瑞希は、統治の方へ向き直り、深々と頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました……宜しくお願いします」
「ああ、分かった」
統治は努めて冷静に返答してから、ペーパーナイフを取り出した。
そして、彼が『関係縁』を掴み、親指と人差指の間で輪を作ると、そこにペーパーナイフの刃をあてがう。
それを見た瑞希は、立ち上がった環を見下ろして……苦笑いを向けた。
「もしも……もしもまた、どこかで会えたら、一緒にラムネが飲めるといいね」
環が答える前に、統治が手を動かす。
2人の『関係縁』が切れた瞬間――その場に居た瑞希は、跡形もなく消失した。
これで、終わった。
ただ1人を除いて、その場に居た誰もがそう思っただろう。
「――仁義君!?」
次の瞬間、政宗の鋭い声が響いた。
統治とユカ、環が何事かと振り返ると……仁義が右手にカラフルなものさしを持ち、左手で何かを握っているように見える。
慌てて近づいたユカと政宗が、仁義の手元を見つめ――息を呑んだ。
彼の手元にあるのは、『瑞希と環の関係縁』。
正確には、仁義が元々持っていた2人との『関係縁』を切り、新たに結び直した――要するに『縁結び』をして生まれた『関係縁』だった。
2人の縁結びはしない、これは、必ず守らなければならない約束事。
現に名杙は、瑞希と環の『関係縁』を『切る』ことしか、認めていないのだから。
それを、時期当主候補筆頭の統治の目の前で破るということは――名杙への明らかな背反行為だ。
ユカが仁義の名前を呼ぼうとした時、統治が彼の前に立つ。
そして、自分を見つめる仁義を見据え――静かに問いかけた。
「自分が何をしたのか……分かっているな」
統治の問いかけに、仁義は真っ直ぐに彼を見据えて返答する。
「勿論です」
その言葉に迷いがないことを感じた統治は、溜息と共に視線をそらした。
「……分かった。名倉家についたら荷物をまとめておいてくれ」
「分かりました」
統治に対して臆することなく返答した仁義は、踵を返して車の方へ歩いていく。
その背中を見つめるユカは……統治に恐る恐る問いかけた。
「統治、仁義君……どげんなると?」
ユカの問いかけに「俺もまだ分からない」と言葉を濁す統治は、背中からも彼の強い決意を目の当たりにして……目を伏せる。
「名倉家との婚約解消も含めて……早急に処分が決定されるだろうな」
その頃、名倉家では……気を失っていた瑞希が、意識を取り戻していた。
「――ミズちゃん!!」
「……り、ほ……ちゃん……?」
自分を呼ぶ声の方を見てみると、里穂と、瑞希の知らないツインテールの女の子が、安心した表情でこちらを覗き込んでいる。
「私……何があったの……?」
少し掠れた声で問いかける瑞希に、里穂は優しい笑顔でこう言った。
「もう大丈夫、全部……全部終わったっす!!」
今年のバレンタインに、エンコ男子の学生メンバーが主役の小話を書きました。(https://ameblo.jp/frosupi/entry-12351517894.html)
この環編で書いた内容が、今回のエピソードに絡んでます。やっとここまで書けて良かったっす……!!
瑞希の災害直後や避難所における思いなどは、当時、ライフラインが何もなかった頃を思い出して書きました。霧原が震災後最初に食べたのは都昆布だったなぁ。当時の無力感と諦めを少しでも感じてもらえれば幸いです。
そして公開直後にも関わらず、ひのちゃんがイラストを描いてくれたので挿絵にしました!! 実はこの2人ってそこまで身長差がないので(いずれ仁義が抜きます)、にらみ合いが出来るんですよね。脳内にあったにらみ合いが目の前にあってニヤニヤしました!! ありがとうございましたー!!
さて、全部終わったと言っている里穂の笑顔が仁義の行動を知った時、どうなるのか……最後まで宜しくお願いしますー!!




