Ⅷ.神々の集結~思兼神とアメノウズメ~
八百万の神が集う、天安河原の集会に参加してみた。天照を岩戸より引き出す際に、有用な神をざっと探す。適当に見積って、後々面接に呼び出そうと思った。
(ふむ・・・・・・)
視ているだけで、頭の中での引き出し方・人材等具体的な案がみるみる膨らんでゆく。
思兼神は河上にある堅い磐に斧を突き立てて八百万の神を自らに注目させると
「天津麻羅!
伊斯許理度売命、玉祖命、天児屋命、布刀玉命、天手力男神、そして・・・」
ここで何故か、思兼神は溜息を吐いて、ためた。ちらと視線を変える。
「天宇受賣命!以上7柱、天照大御神についての大切な話がある!本日子初、ツクの現れし草原に来られよ!」
そう言って、突き立てた斧を今度は振り上げた。磐の破片が崩れ落ち、転がる。思兼神は其を拾い上げた。
思兼神が磐の破片を持って男のいた水鏡の草原に立っていると、ひたひたと裸足が水溜りを踏みつける音が聞えてくる。
間髪入れずに背後から、細く白い両腕が首へ回され、首から頬に掛けてひらひらと撫ぜられた。
女の妖艶な声が耳許で囁く。
「こんな処にあたしを呼び出して・・・何の用かしら?而も子の刻に」
「『天照大御神の件で』と集会の時点で言ったと思うのだが。聴こえなかったかな」
思兼神の遠回しな嫌みに、背後で彼を包む女神の筋が、ぴんと張るのがわかった。
「・・・ええ。聴いてるわよ、ちゃんと。でも、如何してあたし?女はそこが気になるものよ」
「他の神も呼んだと思うのだがな。其も男女混合で。聴こえなかったかな?」
反復する思兼神に、女神の艶やかな笑みが崩れかける。でも私は芸事を生業とする神。演技力が大事なの。
「ねぇ・・・あたしは何をすればいいの?天照大御神の為に」
「んーそうだな・・・裸で舞え」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあぁっ!?」
女神は愕いて遂に本性を顕わにした。
「どーしてあたしがそんな事をしないといけないのよっっ!!」
「君はAV女優だろう?場所を提供して遣るのだ。有り難く舞え」
「あたしは芸能の神よっ!脱ぐのが仕事じゃ無いわっ!!」
「煩いな。天照大御神の気を惹ければ其でいいのだ。見ないでおいてあげるから」
天宇受賣命。益々(ますます)訳が解らないといった顔をして、思兼神の首を絞めた。
「大体何でそうする事が天照大御神の気を惹く事になるのよ!!」
「・・・別に。裏心は無い・・・何か滑稽みたいじゃないか・・・!魅せられると謂うより皆爆笑してるぞ・・・!君の舞の後」
「滑稽ですってぇーーー!?」
あッ。突如天宇受賣が思兼の被っていた冠を剥ぎ取る。紐の切れる音がして、思兼の胸の長さまである長い髪が露呈した。
「・・・・・・!」
思兼が無様にも髪を大袖に埋まらせて顔を紅くさせる。天宇受賣は冠を持たぬ側の手で彼を指さし、声高らかに笑って遣った。
「いいざまだわ!之ぞ『大わらわ』よ!どう?解った?女が裸になるという事は、男が冠を外すのにも等しい恥だという事をね!!」
「かっ・・・返せ・・・・・・!」
無駄だと理解しつつも手で髪を隠そうとしながら言う。だが、羞恥心からくるのか威勢が全く感じられず、天宇受賣は
「え?何かしら。声が小さくて何を言っているのか全くわからないわ」
と、思兼の被っていた冠をひらひらさせた。紙で出来た冠は其ほど丈夫で無く、揺らす度に風を受けて右往左往する。女は恐い。
思兼がその場にうずくまる。落ち込んでいると、女性にしては低くしわがれた声が、しみじみと上空から降ってきた。