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お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~  作者: おきょう


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 今のエリー自身が持つ、技術と知識の全てを注ぎ込んだドレス。

 それを着た美湖は、本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「本当に有り難う、エリーさん」


 初めての大仕事をやり遂げた達成感に、エリーは満たされていた。

 肩から力が抜けて、口元が緩む。


「いいえ。こちらこそ、美湖様が指名してくれなかったら、私がドレスを任せて貰えるのなんて、きっと何年も先の話でした。凄く楽しかったし、凄く勉強になりました」

「そう、良かった。でもねぇ、ーーーーねぇ、エリーさん?」

「はい?」


 ぱちりと新緑色の目を瞬いて見た美湖は、まるで何かをたくらんでいるような、悪戯心を覗かせた顔していた。

 その様子に、エリーは首を傾げる。

 

「エリーさんに、素敵なドレスのお礼をさせて欲しいの」

「お礼? ドレスの端切れをいただきましたけど」


 あの端切れのおかげで、長いことの胸のつっかえが取れたのだ。


「本当に助かりました」


 お礼を言ったのに、何故か美湖は頬を膨らませだした。

 お姫様みたいな綺麗な格好をしてるのに、子供みたいに地団駄を踏む。


「もう!」

「美湖様?」

「あれが本当にお礼になるはずがないでしょう!? 私は何もしてないじゃない!」

「はぁ」

「ディノス!」


 美湖の声が向けられた方を振り返ると、そこには大きな箱を持ったディノスが居た。

 相変わらずの無精ひげに、伸びっぱなしの髪。

 いつも思うが、せめて前髪を横へ良ければいいのに。

 さすがに視界が狭すぎやしないだろうか。目が悪くなってしまう。


「ほら」


 ぶっきら棒に、ディノスに箱を差し出された。

 それは彼には似合わない、可愛いレースリボンで飾られたもの。


「あの、これは?」


 首をかしげるエリーの腕に、美湖が手を絡ませてくる。温かくて、いい匂いがした。


「私からの贈り物よ。ほとんどはディノスが作ったけれど、私も出来る部分は手伝ったの! 開けてみて?」

「…………」


 エリーは、大きな箱をテーブルに置かせてもらう。

 そして、そっと手を掛けたリボンの端を引いて、ほどいてから蓋を開ける。

 箱の大きさと重さ、形状から薄々さっしていたけれど。


「これ……ど、どれす……?」


 声が、震えた。


 一瞬息が、止まった。

 箱の中にはとても綺麗で繊細な、紺色のドレスが入っていたのだ。

 おそるおそる手に持って広げてみる。

 

「可愛い……」


 思わず呆けて呟いてから、はっと我に返った。

 さっきこれを、美湖はプレゼントだと言っていたではないか。


「あのっ、でもこれ……こんなの……」


 世界で一番の裁縫師が、一から仕立てたドレス。

 ありえないほど美しく、くらくらするくらいに見惚れてしまう。

 エリーが美湖に作ったドレスは、自分たちと同じ年ごろの女の子がぱっと見て「可愛い!」と思うようなものだが。

 このドレスは、おそらく男女関係なく、それどころか老人から子供までもが美しいと思う、いわば芸術品のようなものだった。


「喜んでくれたみたいで嬉しいなぁ」

「いや、え……いやいやいやいや、こんなの畏れ多過ぎます! そもそも着る場面なんて無いですよ!?」


 自分には不相応すぎる。

 こんなの貰えるわけがない。

 使う場面だって一生ない。

 慌てて箱に戻して返そうとしたが、それを美湖は阻止してしまう。

 エリーの手に手を添えて、ぎゅっとにぎって、満面の笑みを見せた。なんだかとっても迫力のある笑顔だ。


「そんなことないわ。だって、今日のパーティーに出席予定の国一番の裁縫師さんは、まだお相手が決まっていないと聞いているんだもの。ねっ?」


 美湖のしたり顔に、エリーは緑の瞳を瞬いた。

 貴族でもなく、地位のある役職にもついていない、そんなエリーに城のパーティーに出る資格があるはずもなかった。

 しかし、出席予定の『地位のある役職者』のパートナーとしてだったら……。

 美湖からディノスへと視線をずらすと、彼は小さく嘆息しながらも頷いた。


「まぁ、自分の作った作品が日の目を浴びないのは忍びないからな」


 ーーーーディノスのパートナーとして、エリーのパーティーへの出席が決まったのだった。




* * * *


 城の大広間の隅っこに、ドレスアップしたエリーは立っていた。

 完全に萎縮していて、必死に自分の気配を消そうと頑張っている。


「あーうー……。落ち着かない」


 この会場内にいるほとんどが貴族。

 エリーとは立場が違う人たちだ。

 もう仕草一つからして優雅で、自分でどれだけお行儀良くなるように気を付けても馴染んでない気がした。場違い感が半端じゃない。


「私、大丈夫かなぁ。変じゃないかなぁ」

「大丈夫よ。デビュタント仕立てでパーティーに不慣れな、初々しいお嬢さんにしか見えないわよ」

「え」


 会場の大広間の隅っこで一人呟いていたエリーに、誰かが親しげに話しかけてきた。

 振り返って見上げたけれど……知らない人だった。

 どこの誰なのか全く分からなくて、困惑してしまう。


(誰……?)


 ずいぶん華やかな人だ。

 金髪に、様々な色のメッシュが入っている派手な髪を一部だけ編み込みしつつポニーテールにしている。

 パンツルックではあるけれど、他の男性達とくらべて装飾もずいぶん多く、周りの誰よりも目立つ格好だった。

 こんな人、一度でも会っていれば忘れるはずがない。


 エリーは首をかしげながら後ずさりする。

 知らない人に話しかけられて、警戒しないでは居られなかった。

 それでもここに居るのだから、結構な立場の人であることは間違いないから、あからさまに逃げるのも駄目な気がする。


「あの、どちらさまでしょうか」


(女性? いや、声低かったし、体格もずいぶん大きめだし、男性だよね? でも女の人だったらめっちゃ失礼だし。っていうかこの人、なんで私に話しかけて来るの?)


 クエッションマークで頭が埋め尽くされているエリーに、その人は色香のある流し目を向けて口を開く。


「私はブロッサム。同じ服飾部の人間よ?」

「え、そうなんですか?」

「基本的に自分の作業室に居るから、大部屋のエリーちゃんとは会う機会が無かったのよねぇ」

「あぁ、なるほど」


 個人の作業室を貰えるくらいなのだから、そうとうな実力の持ち主なのだろう。

 そして独特のファッションセンスも、服飾部の人間なら納得できる。

 そらにブロッサムに、その格好は良く似合っていた。


「ディノスに貴方の描いたデザイン画を見せて貰ったけれど、こんなかわいいお嬢ちゃんが描いてたのねぇ」

「は、はぁ」


 すでに返して貰っているけれど、確かにデザインがをディノスに預けたことがある。

 この人に見せていたのかと納得するエリーを、ブロッサムは正面から見てくる。


「ほんとうに、すごく似合っているわね」


 その言葉に、エリーはむうっと眉を寄せた。


「あら、その反応、気に入らないの?」

「いいえ。ものすっごく好みです。可愛いです。素敵です」


 力説してから、少し声のトーンを落とす。


「でも、だからこそ悔しいです」


 ブロッサムが目を瞬いた。


「もううぅ、悔しいけどほんとぴったりだし! この藍色も絶妙に合う色なんですよ!」


(っていうか、見ただけでサイズが分かるっていうこと? 上司に事細かに身体サイズ知られてるってどうなの。でもでも、おかげでこんなドレスが出来たんだし!)


 エリーは眉をよせながらスカートをつまんで広げる。

 さらりと裾が流れるドレスは、濃紺色のオーガンジー。

 夜空に瞬く星をイメージしたのか、そこに小さなパールがちりばめられている。

 首元を飾るのは、服飾部から借りた真珠のネックレス。

 真珠をつなげて作られた髪飾りも良く合ってると我ながら思う。

  

(大人っぽい色使いだけど、鏡を見ても着られてる感は無いんだよね)

  

 エリーは髪が桃色という珍しい色である分、合わせる服が少し難しかった。

 明るい色のものを着ると全体的に派手派手しくなるし、地味な色を切ると桃色ばかりが目立ってバランスが悪い。

 本当に似合う服、というのは少ないのに。

 それを、ディノスはあっさりと解決して、エリーに似合う素敵なドレスを作ってくれた。


(こんなのを採寸もフィッティングも無くあっさり作っちゃうなんて、凄すぎる。しかもとてつもなく早い納期だったはず……)


 増々彼の実力に脱帽するとともに、可愛い恰好が出来て素直に嬉しいと思う。

 どこかは分からないけれど、美湖の手が入っていることも嬉しい。

 そしてやっぱり、同じ服を作る職人としてとてつもなく悔しいと思うのだ。


「……おい」

「あ、ディノス。こんばんは」

 

 声がしたので振り返ると、同時にエリーは目を見開いた。


「はあぁぁぁぁ!?」


 そして余りの光景に、思わず大声を出してしまう。

 周りの視線に気づいて慌てて口に手を当てて止めたが、周囲は明らかに眉を顰めている。やってしまった。この場でば絶対目立ちたく無かったのに。


(今日くらいはお淑やかにって、思ったのになあ。貴族の人って何か迫力があって怖いし……でもこれ、つい叫んでしまったのは、仕方がなくない?)


「ディノス」

「なんだ」


 大声をだしたエリーに冷たい視線を送ってくる彼に、エリーは負けじと眉を吊り上げた。


「なんですか、その顔」

「もともとこんな顔だ」

「そうじゃなくて! いやそうだけど! なんで顔だしてんですか! なんでそれを、その顔を隠してたんですか……!」


 エリーが身振り手振りでする抗議を、ディノスは面倒くさそうにため息で流す。

 ブロッサムはくすくすと笑う。


「凄いでしょ、これ」


 これ、とさしたブロッサムに、エリーはぶんぶんと首を縦に振って同意した。


 今日の昼間まで、もさもさのボサボサだったディノスなのに、今は髪を切って、髭を剃ってきていた。

 更に正装を纏った彼は、今までと全然違う。

 なんというか……とても悔しいことに、とてもいい男だった。

 相変わらず不愛想だが、それがまた良い感じに作用してしまってる。

 クールな大人のけだるげな色気むんむんな感じだ。

 

「有り得ない」

 

 エリーはかっと目を見開くと、頬を膨らませて抗議した。


「どうして普段あんなんなのですか! 服飾部の代表でしょう!? 代表らしくしゃきんとした恰好したらいいのに! 飾らせがいのある見た目じゃないですか!」

「めんどうだ」

「ふふ。ディノスは若い頃もてすぎて、自分が着飾るのは嫌になっちゃったのよねぇー」

「もてすぎてとか……なぐりたい」

「あはははは!」


 ブロッサムが大笑いしているのを傍目に、エリーはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 それでもチラリとディノスを見上げて、歯噛みする。

 こういう場で無かったら、地団太を踏んで抗議してやりたいところだ。

 何だか騙されていたような気分だった。



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