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お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~  作者: おきょう


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「でも美湖様、もう半年も神殿で生活してるのに、筋肉付いたままですよね? 陸上部ないのに、体型を維持してるの凄いです」

「うん、腹筋とストレッチはしてるからね」

「……ドレスで、ですか?」


 エリーの質問に、美湖は少し頬を膨らませた。


「だって、ズボンはこっちの女の人は履かないんでしょ?」

「庶民は動きやすさ重視なので、履く人もいます。けれど、巫女様にパンツルックは……さすがに良い顔する人いなさそうですねぇ。でも……」


 言いながら、エリーはドレスの入った箱とは別に持ってきていた紙袋を開けた。

 中に手を入れて引き出し、差し出してみる。


「だったらこれ、役立つでしょうか。おまけに作ってみたんです」

「何? あ! これ……!」

 

 美湖の黒い瞳がまた輝いた。

 エリーからそれを受け取った美湖が、上下に分かれたうちの上着の方を手に持ち、両手で広げる。

 さらりとした綿生地で出来た、普段着る服よりゆったりとしたつくりのTシャツ。

 そしてもう一枚、机の上で広げて見せたのはハーフパンツ。

 いわばパジャマだ。もしくはルームウェアと言ってもいいかもしれない。


「前に、ドレスは窮屈だって言ってたじゃないですか」

「うん。着るのも時間がかかるし、息苦しいしね」

「だから簡単に着られて、しかも窮屈じゃない服をと思って……。ドレスの方も気楽に着られるように気を付けてつくりましたけど、限界がありますし」

「だから、ルームウェア?」

「はい。やっぱりどうしても、Tシャツジーパンやジャージなんかで外を歩いていたら、この世界の高貴な立場の女性としてはひそひそ言われてしまうので。だから誰の目にも入らない、自室でだけ着るものくらいならどうかな、って思って。……作ってみたんです。話を聞く感じだと、室内でのストレッチの時間にも役立ちそうですかね」


 パンツタイプだけど、レースとフリルをふんだんに使ったので可愛く出来た。

 ちなみにエリーも自作のパンツタイプのルームウェアだ。


(でもこれ、頼まれたものじゃないし、出過ぎたことだったかな)


 ドレスの下に着るコルセットはドレスづくりの内に入るが、これに関しては完全にエリーの勝手にしたことだ。

 先輩たちのおかげでドレスづくりに思いのほか余裕が出来た。

 だからせっかくだからと、休憩時間や帰宅後に家での時間を使って、おまけで作ってみたのだが。


「ど、どうでしょう」


 心配しつつ、おそるおそる訊ねてみたエリー。

 そこを突然、ガシッと両手を引っ張られ捕まれた。

 怖いほどに真剣な目がエリーを見据えてくる。

 手を握る力はすごく強い。ちょっと痛い。


「あ、あの? みこさ、」

「もう一着、洗い替え用にお願いします……!」


 あまりの真剣な顔でのお願いに、思わず吹き出してしまった。


「畏まりまりました。神龍の巫女様」




* * * *



 美湖にドレスを納品したあと。

 美湖に勧められ、エリーはそのまま彼女とお茶をする流れになった。


 テーブルに並ぶのは、煌びやかで華やかなティーセットに、お菓子たち。

 ケーキの飾りつけ一つにもこだわっていると分かる繊細な見た目の品々に、エリーは目を輝かせた。


「かわいい!」

「神殿の料理人さん、お菓子作り本当に上手なの。私が向こうの世界にあったお菓子の話をしたら、実際に試行錯誤して作ってくれたりもして」

「へえ? だったら和菓子なんかも作ってくれますかね?」

「それいい! みたらし団子とかすごく食べたい!」

「私は餡子が食べたいです。餡子たっぷりのおはぎを、緑茶とセットで。ほっこり和菓子会したいですねぇ」

「素敵素敵! 和菓子囲んでお茶会! 女子会! 今度作って貰えないかお願いしてみる!」

「ぜひ!」


 餡子が食べたいといったものの、エリーの前世の記憶はかなりぼんやりとしたものなので、細かな味までは覚えていない。

 でもとりあえず美味しいものという認識はある。

 ぜひとも現実で食べてみたいところだ。


 とりあえずここには和菓子も緑茶もないので、目の前にあるフルーツタルトとクッキーをいただくことにする。


 可愛い花柄のティーカップを持って傾けると、鼻にすうっと爽やかな紅茶の香りが通って消えていった。


「おいしい」


 さすが巫女様にだされるお茶だ。

 何というか、味がすっきりしているのに濃い。

 香りが良くて、でも後に残らない爽やかさ。

 

「良かった。いつもお菓子も美味しいの、食べてみて?」

「はい。いただきます」


 艶々のフルーツがたくさん乗ったタルトに、エリーはウキウキでナイフを入れた。

 甘いものは大好きだ。

 一口サイズに切って口に入れる。

 とたんにほど良い甘さのカスタードクリームがとろりと口の中に溶けだして、さらにサクサクのタルト生地に、爽やかなフルーツも合わさって幸せすぎた。


「んんー!」


 タルトを考えた人は天才だと、エリーは本気で思う。

 続けてもう一口、と思って皿を見下ろすと、そのすぐ隣に神龍のシロがいた。

 机の上にいる羽の生えたトカゲみたいな生き物のシロは、美湖に分けて貰ったタルトの欠片を前足で抱えて夢中で食べている。

 ポロポロこぼれる生地の欠片に気づかず、カスタードクリームの部分に顔を突っ込んでいた。


(こうしてみると、普通に可愛いトカゲなんだよねぇ。いや普通のトカゲはタルトなんて食べないだろうけど)


 たまの行事ごとで空を飛ぶ大きな龍の姿とは違う、手のひらサイズに小さくなっているシロに、神様への畏敬みたいなものは徐々に薄れてきていた。

 なんだかだんだん、ただの可愛い小動物を愛でている気分になってくるのだ。

 こういうお菓子に無邪気になっているとろこをみると、余計にそんな気持ちが強くなる。

 とにかく可愛くて、エリーはつい好奇心に胸を疼かされる。


(お菓子に夢中だし、ちょっと触るくらい、気付かれないかも?)


 フォークをお皿に置いて、そっと、そおっと、……龍神に手を伸ばす。

 

(ツルツルの見た目だけど、堅いかな? それとも意外に柔らかい?)


 可愛い生き物にときめいたのも本当。

 そして龍という神獣に興味があるのも本当で、好奇心にその背中を撫でてみようとした。

 

(初対面ではははたかれたし。あれから何度も会ったけど、まだまったく触れてないんだよね)


 今度こそ触ってみたい。

 こっそり、後ろからなら指先ぐらいいいだろうか。

 でも、エリーの行動はばればれだったらしい。

 

 ペチンッ!


「痛っ!」


 また触れる直前に、尻尾で叩かれてしまった。


「あ! こらシロ!」


 気づいた美湖が、眉を吊り上げる。


「駄目でしょう」

「きゅー」

「いえ、すみません。仮にも神龍様に触れようとした私が悪いんです」

「えー? 違う違う、神龍だからとかじゃなく、シロはただやきもち妬いてるだけだよ」

「へ?」

「私とエリーが特別に仲良しなのが気に入らないんだって。同じ年頃の女の子ってエリー以外はほとんど近くにいないから、会える日は私、凄くそわそわしちゃってて、そのせいかも」

「え、私シロに嫌われてるんですか!?」

「きゅ!」


 きりりと目元をつり上げて、机を尻尾で床でペチペチたたいてみせるシロ。

 これは明らかに、好かれてるとは言えない態度だ。

 不機嫌そうな白い龍の様子に、エリーはしょんぼりと眉をさげた。


「神龍様に嫌われるって、何か祟りとかあったりします?」

「まさか。友達に何かしたら、私がシロのこと軽蔑するもん。ね? 悪い事しちゃだめよ?」

「きゅ!」


 白いトカゲは何度も大きく頷いた。

 しかしすぐに、まるで気まずいことから逃げるみたいに、そそくさと庭の方へ行ってしまった。

 

「……美湖様が今忠告してくれなかったら、確実になんかされてた気がします」

「あはは! まさかぁ」

 

 笑い声をあげる美湖に苦笑を返し、エリーはタルトをもう一口頬張るのだった。





 しばらくそんな閑談を続けて、ケーキも食べ終えて一息ついた頃。

 三杯目の紅茶を飲んだエリーへ、美湖が何やら改まった様子で口を開いた。


「あのね、エリー」

「はい」


 少し真面目になった空気に、エリーも背筋を正しつつ耳を傾けた。


「私、ほんっとうに嬉しいの。エリーという、向こうの世界の話を普通に出来る相手に出会えたことも嬉しいし、この世界に来て初めてファッションにときめけたことも嬉しい。エリーの作ってくれたドレス、可愛いって、心の底から本気で思えたわ」

「有り難うございます。そんなに喜んでもらえて、私こそ嬉しいです」

「ふふっ、それでね。何かお礼をさせて欲しいのよ」

「お礼?」

 

 瞳を瞬くエリーに、美湖はしっかりと頷いた。


「そう! 私、巫女のお仕事でそこそこ小金持ちだし! なんでも言って!」

「え、えーと……」


 エリーは眉を下げた。


(うーん……有り難いけど、ちょっと……困るかな)


「いただけません」

「……迷惑だったかな?」

「いえ、だって仕事ですし。良い勉強させてもらいましたし。私はあくまで、針子の仕事としてドレス作りを受けたんです」


 材料費も給料もしっかりと出る。

 さらにこんなに素敵なお茶会に誘って貰えた。

 有り難うと喜んでもらえて、心がぽかぽかと温かい。

 もう充分、色んなものを貰ってる。

 なのにこれ以上、何かをもらうのは良くないと思う。


 そう説明したけれど、美湖は納得してくれなかった。


「どうしても、嬉しいって気持ち、お返ししたいの。欲しいもの無い? 私にして欲しいこと無い? なにか、エリーさんが喜んでくれること、私もしたい……」


(うっ! そんなウルウルした目で見つめられたら……!)


 ドレスを作って欲しいと、エリーにお願いしてきた時と同じ目で見つめられる。

 可愛い女の子にこんなふうに懇願されて、揺らがないわけがない。

 しかもこの巫女様は、無自覚でしているのだ。

 この愛らしい仕草も言葉も、ただ真っ直ぐに、エリーに喜んで欲しいと思ってのもの……とことんお願い上手だと思う。

 甘えベタなエリーとしては、うらやましいくらい。

 ひるむエリーは、どうしようかと視線をさ迷わせた。


「うーん。……ぁ」


 そこで目に入ったのは、部屋の壁に掛けられている、エリーの作ったばかりのドレスだ。






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