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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
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ある心の願い

人は何時しか、

自分の愛と自分を取り巻く世界のどちらかを選択する時が来る。

愛は尊く美しいが世界には及ばず、世界は非情で冷たいが価値が有る。

だけど私はどちらも選べない…

愛も知らず価値も分からなかったから…

石英さんと優秘は今の窓から見える庭に生えている一本の木の下に何かあると気にしている。

だが俺には何かを埋めた記憶などない…俺に家のはずなのに、何も覚えがない…

「いや、特に何も埋まっていないはずだ…まさかさっき言ってたオーラとかいうのが見えるっていうのか?」

親父は少し驚いた表情出そう尋ねた。

「はい、今見えているオーラは…薄緑色の…ガラス光沢…エメラルドにしては色が薄すぎる、それにしては白っぽい…」

石英さんは少し判別に時間がかかっているようだ。

「ジェダイトだよ、麗美。」

優秘がそう答える。石英さんは驚いた。何故なら今優秘は、専門家である石英さんより早く判別したのだ。

「ジェダイト?なんだそりゃ?」

親父は何が何だか分からないといった顔で尋ねる。

「ジェダイトというのはケイ酸塩鉱物と呼ばれる鉱物です。環境によって色が変化する鉱物ですが代表的な色は薄緑色から白色です。その石の意味は安定、平穏です。」

石英さんはすぐ驚きを内に隠し、親父にそう説明した。

「つまりその鉱物とやらが埋まっていると?」

親父がそう尋ねるので俺は親父に教える。

「親父、埋まっているかもしれないのはその想い、だから安定や平穏の想い?みたいなのを込めた物とかなんだよ…何か心当たりとかない?」

すると、親父はもしかしたらという顔をして言う。

「…賢人。少し心当たりがあるがこれは母さんと話し合わなきゃいけないことだ。」

俺は困惑して言う。

「えっと、それはどういう…」

すると親父は石英さんの目を見て言う。

「石英麗美さん、とか言ったな。確かにお前さんの能力とかいうのは本物なんだろう。だけどあれはうちの家族の問題だ。一度俺は母さんと話し合ってから賢人に今見せていいものかを判断する。それまでは、あそこを調べるな。」

そう言うと親父は居間から出て行き母さんの所へ行った。

親父の顔は真剣だった。あんなに真剣な顔はここ数年見ていない気がする。

「…もしかして、俺の家には何かあるんだろうか?」

俺はふとそう思い口に出してしまった。石英さんは何かが埋まっているかもしれない木から目を逸らし言う。

「材架さん、多分あなたの家に対する秘密という訳では無いと思います。そこは安心していいと思います。…そしてあの木の下の事ですがあれは材架さんの両親の問題です。私はそこに踏み入れませんし、時が来たら話があるでしょう。」

どういうことだ?とりあえず、俺の家に関する問題ではないのは確かだろう…

もし、俺の家に関する事だとするなら何かしらの手掛かりがあるはずだし、

それに近い事象が起きているはずだ。

だが今はその事象すらも起きていない…親父の態度や言動が怪しいがあの木の下は許可があるまで調べない方が良さそうだ…

「石英さん、あの木の下にある想いって危険なものなんですか?」

これまでの経験から、福井の時のように想いを重ねた自分自身に悪影響があったり、

高山先生の時のように突然近寄ってきて他者に悪影響を及ぼしたりと、

何らかの悪影響があるのだとしたら早めに解決したい…

「いえ、現状は危険はないです。元々ジェダイトの様な安定や平凡といった想いは例え強すぎて歪んだとしてもそこまでの悪影響を及ぼしたりしたという事例はあまりないです。むしろ給料が最近安定しすぎているとか生活がなぜか同じような感じでも安定して平和だっていう、人によりますが比較的控えめな影響力ですよ。」

石英さんがそう教えてくれると、優秘が続けて言う。

「むしろアンモライトとかジャスパーとかラピスラズリやルビーの方が危ない。特にルビーは強くなりすぎるとなんか昼ドラみたいな事になるって麗美が教えてくれたし。」

少し困惑して俺は口を開く。

「…昼ドラって、石英さん…優秘に何教えてるんですか…」

すると、石英さんは笑いながら答える。

「んふふ、ちょっと例えやすい言い方がそれだったんでついそう教えちゃいました。悪気は2割しかないので大丈夫です。」

元気に親指を立ててそう言われても…あぁ、優秘がまた悪いことを一つ知ってしまった…

と、ふと気になった。何故さっきの優秘といいこんなに宝石に詳しいのか。

「あの、優秘ってさっき石英さんより早く木の下の特徴を言い当ててましたけど…やっぱり見え方が違うんですか?」

すると、石英さんは優秘を見ながら答える。

「そうですね…それもあると思います。ですが一番はこの子の恐ろしいまでの学習能力でしょう…」

確かにまだ一ヵ月程前に現れたばかりなのに、もう大分色々理解し普通の生活を送れるようになっている…

「…そういえば箸の使い方も、3回程教えただけでバリバリに使っていましたね…」

恐ろしいまでの学習能力、それは優秘がやはり普通ではないという事なのだろう…

「はい。どう見ても異常です。見かけは普通の子ですが、その学習能力とそれに対する対応時間が天才並みです。それは専門家の私ですら、後れを取る程に…」

石英さんはそう言いながら少し寂しい表情をしていた…だから、俺は言った。

「でもそれがどうしたというんです?優秘はただの子供で小さな女の子。色々とおかしな事はあってもそれは変わらない…俺はそんな風に寂しくなる必要なんかないと思います。」

言ってから気づいた。俺は今、石英さんの考えをちょっとばかりではあれ否定した事に…

「…」

あぁ、やってしまった…石英さんは少し怒っているような感じがする…余計な事を言ったのかもしれないと…

「材架さん。」

冷汗が出る。不安に駆られる…そして言葉が放たれる。

「…きっと、そうなんです…分かっていたのに恥ずかしいですね、私。」

少し微笑みながら石英さんはそう答えた。

「実は私、この特殊なオーラが見える体質を両親に怖がられていたんです…だからきっと、優秘ちゃんも同じように怖がられるのが仕方ない事だと…そう納得していました。馬鹿な話ですよね…」

怒られると思ったが、俺に言われたことは結果として良い事だったみたいで安心した…

「まぁ、少なくとも俺と石英さんは優秘の事を理解しているからこそ、この少女をただの何処にでも居る女の子として扱っていくべきだと思うので…」

言葉が続かなかった…と言うよりそんな簡単な事を改めて言うのは石英さんに申し訳ない気がした。

「分かっています。私の両親は理解してくれませんでしたが、私たちは理解している…今はそれだけでいいんです…これからもよろしくお願いします。材架さん。」

俺と石英さんはそんな風に話あっていたが、肝心の優秘は庭で元気にはしゃいでいた。

「賢人?お昼ご飯出来たからちょっと開けてもらえる?」

どうやら母さんが親父との話も終えて昼食を持ってきてくれたようだ…難しい話は、今はここまでにしておこう。


昼食も終わり、母さんと親父は一緒に買い出しに出かけて、

俺と石英さんと優秘はいい機会なので家の外で自然を堪能する事にした。

「それにしても本当に木々や山が多いですね。」

石英さんはそう言うとスマホのカメラで風景を撮影していた。

「風景とか好きなんですか?」

俺は石英さんにそう尋ねた。

「えぇ…そうですね、私の家はこんなに豊かな場所には無かったので。それより良かったんですか?

探し物、まだ見つかっていないみたいですけど…」

そういえば、幼馴染だった祥子の忘れ物が何かないかを探すために帰って来たんだっけ…

…優秘の手掛かりになるかもしれないし本文を忘れるわけにはいかないだろう。

「そうですね…夜、帰ったら探してみましょう。」

俺は、一応そう言っておいた。だが正直、母さんがさっき言ってた写真以外はほとんど手掛かりはないだろう…

恐らく、あってもあまり役に立つものではない。

「ねぇ、ねぇ、あそこ何?あの丘にあるところのやつ」

優秘が指差す丘には、小さな公園があった。

滑り台とブランコと、鉄棒程度しかない簡単な公園だが優秘にとっては見たことも聞いたことも無い物だ。

「あの丘にあるのは遊具で、あの場所は公園という所。まぁ、遊ぶ所な訳だけど…行ってみるか?」

俺は優秘にそう提案してみた。さっきも言ったが優秘は変な能力や才能が有っても結局はただの女の子で子供だ。

なら、遊べるものに反応して遊びたがるのはごく自然なことだ…

「うーん、行ってみたい!賢人は使い方とか分かる?」

優秘は無邪気にそう聞いてくる。

「まぁ、ある程度なら分かる。昔はよく二人で遊んでいたから…」

ふと、あの時の事を思い出す…ある夕暮れ時に、一人ふてくされていた時の事を…

そしてそこに来て、真剣に話をしてくれた理論派の幼馴染の事を…

「材架さん?…材架さん聞こえてます?」

あ!っとボーとしていたことに気が付く。少し考えごとにふけり過ぎていたようだ…

「すみません、ちょっと昔を思い出してしまって…」

しかし今更ながら後悔する。何故祥子の連絡先を聞いておかなかったのか…

「気をつけてください。もし疲れているなら、家でのんびりしていてもいいんですよ?」

それは何と酷い誘惑だろう…と思ったがそういえば最近、休息をあまりとっていなかった気がする…

「分かりました…ではお言葉に甘えさせていただき…」

そしてまた、言ってから気づく。

石英さんがここらの地形を全く把握していないことに…

「やっぱり駄目です!ちゃんと俺が案内します!」

無理をしないでも…と言う石英さんの顔は痛いほど心に刺さったが、今はそれ以上に二人が心配だった。

そしてその後、特に優秘にこき使われた…


暫く遊んで夕暮れどきになった頃、俺は優秘を背負って石英さんと実家に帰っていた。

「はぁ…はぁ…結局俺が…連れて帰りますよね…」

割と長い道のりだったので、ほんとにきつかった…すると石英さんが励ます。

「材架さん、あと少しです。その玄関をくぐれば居間の方で寝かせてあげられます!」

(それって居間の方までまだ運べって事じゃないですかー…)

そう思ったがまぁ当たり前だろう…寝かせてやるまでが今の俺の仕事なのだから…

「…ふう、よっと…えと、掛け布団はかけておくか…そこのお仕入れにあったな。」

俺はそう言いながら居間にあったソファーへ優秘を寝かせた。

「はい、材架さん。」

石英さんが気を回して布団を押入れから出してきてくれた。

「…ありがとうございます。ようやく一息つける…」

そう言いながら俺は掛け布団を優秘に掛けて、畳の上に横たわった。

「すみません…正直疲れきってて…」

俺がそう言うと、石英さんは座布団の上に正座で座った。

「いいんですよ、ここは材架さんの家ですので気にせずリラックスしてください。」

すると、親父と母さんの乗っている親父の車が帰ってくる音がする。

「本当に一息だったか…」

つい一言零してしまった…

「そうですね…!いい事思いつきました。材架さん、今から自室に戻って休んでください。」

石英さんはそう言いながら俺を見ていた。

「え?どうしてです?」

俺がそう言うと、石英さんは理由を答えた。

「材架さん、今日は結構無理してましたよね…せっかくの実家なんですしゆっくり休んで欲しいんです。お母さんとお父さんには私から探し物をしていると断っておきますので晩ご飯の時間までゆっくり休んできてください。」

(そういえば、今日はだいぶ疲れきっている気がする…少しでも休んでおかないといけない程に…)

「分かりました…それじゃあお言葉に甘えて部屋で休んできます…ありがとうございます…」


(とは言ったものの)

俺は部屋に戻るなり本当に手掛かり探しをしていた。

写真以外の祥子さんの手掛かりがあるとしたら、恐らく俺の部屋の可能性が高い…

そう思うと寝ている場合ではないと思ったからだ。

(んー流石に何年も前の話になるし簡単に見つかりそうにはないなぁ…)

そう思いながらも部屋の物入れやお仕入れ、机の中まで隅々まで探す。

1時間ほど探し回り、残すところは子供の頃よく使っていた玩具や

ノートが入っているダンボール箱だけになった。

(やっぱり、目星い物は何もないか…ん?)

ふと、見覚えのない手紙の入ったオレンジ色の封筒が入っていた事に気がつく。

「手紙…一体誰からのだ?」

よく見てもその手紙は差出人不明だった。

その時だった。

「材架さん、まだ寝てますか?」

石英さんだ。恐らく晩ご飯だろう…もう8時だしそりゃそうか…

「起きてますよ、すぐ行きます。」

自室のドアを開けると、目の前には真剣そうな顔をした石英さんが居た。

「あの…何かあったんですか?」

すると、石英さんは言う。

「材架さん。貴方に…いえ、貴方だけに両親からお話があるそうです。私達は失礼ながら材架さんの部屋で居ますので、話が終わったら呼んでください。」

よく見ると寝ぼけた優秘が石英さんの後ろに居た。

「…分かりました。」

そう言って、俺は居間へ向かった。

「来たか、賢人。」

親父が俺にそう言う。

母さんも親父も既に席についていた…だが、なんだろうか?

二人共とても、優しそうな顔をしていた。

「親父、母さん。話って何?」

俺はそう言いながら腰を下ろす。

「賢人、今から話すのはお前の生まれる前の事だ。俺は昔な、

材架家当主として割とでかい企業を背負ってた事があるんだ。確か何とか条グループとか言ったっけな…

まぁそんな所だ。」

確か材架家は昔、ものすごい富豪だったとは聞いている…この邸宅ですらただの別荘だったと…

「結果から言おう。賢人、俺はただ自分の為だけにそのグループと敵対したんだ。つまりだ、俺が俺のためだけに色々大事なものを捨てたんだ。」

すると、母さんが親父に軽く肘撃ちを加えて言う。

「全く格好つけたような言い方しても何も格好つかないからね?賢人、この人が敵対した理由は私なの。私はこの人と敵対してるグループの人間だったのよ。敵対してるグループの人間同士が何故か何時しか惹かれ合ってた…私の方の家はそこいらの平凡な家柄だったわ。ある1件が起きるまでは…」

「ある1件?」

俺がそう尋ねると親父が答えた。

「そう、舞冬さんのいた方のグループが悪い事をしたんだよ。だけど俺は舞冬さんを愛していたし放っておけなかった。俺は背負ってたグループの反対や策略なんかを無理やり振り切って、その代償としてこの別荘以外を屁理屈こね回されてカタに持ってかれたって訳だ。まぁバカな話だ、たかが人一人のために背負ってたもんを全部捨てたんだからさ…だからな…」

すると、母さんがソレを取り出しながら優しい声で続けた。

「せめて生まれてくる貴方だけは…平凡で普通な幸せな日々を送れますようにと…未来で育った貴方がこれを読んでいる時はきっと普通で平凡な幸せな日々の中に居るからと、

このボトルメッセージを未来に送り出したの…」

――そうだ、ジェダイトの想いは平穏、安定…そして果報。

未来は果報のはずだからと、想いを込めたのがこのボトルメッセージだったのだ…

「母さん、父さん。

申し訳ありませんが今の僕にはこれを開けられません。」

俺は過去からのメッセージの詰まったそのボトルを手に持ってそう言った。

何となく分かったからだ、想いの色が今現れたのは俺が県外の高校へ行って母さんと親父が不安で仕方なかったからだ…これは、愛されてるからこそ現れてしまったものなのだ…

だから、

「果報も持っていないのに、今の俺が開けるものではありません。

これは俺が平穏で安定した果報が出来てから、読ませて頂きます。

あと一つ言わせてください。」

俺はその一言に、母さんと父さんに対しての思いをすべて込めた。

「これ程の愛の中で俺を想って何時も気にかけて大事にしてくれてありがとうございました!」

片目から流れる涙は、二人の心からの願いに対する感謝だった。

それは16年程前の秋の日の出来事だ。

豊かで静かな自然溢れる場所の邸宅。その庭間で男女がゆったりと過ごしていた。

「ねぇ貴方、この子は幸せに生きれるかしら?」

女は言う、良く見ると女の腹囲は大きく、その男の子を、その身に宿していた。

「どうだろうな、でも俺たちはその子の為にここで暮らすと決めただろう?なら、きっと大丈夫さ。それに…」

そう言うと男はなにか紙の入ったペットボトルを取り出す。

「ふふ…そうですね、未来の私たちはきっと良き家庭であるはずですからね。」

女はそう微笑みながら言うと懐から何かを書き記した折りたたまれた紙を取り出し男に渡す。

「これは?」

男は気になって尋ねた。

「これは今の私が未来のこの子へ伝えたい想いです。一緒にお願いします。」

女のその優しそうな顔を見ると、男はそれを受け取りペットボトルの中に入れた。

それはとても暖かいごく普通の家庭の話だ…とても優しい物語…

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