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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
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沈められたモノ

高潔な想いは確かにあった。

けど、その重さは大きすぎるものだった…

深い物語があった。

しかしそれすらも沈められてしまった。

何故人は、一時の物語ですら苦悩するのだろう?

優秘が言う青く小さなオーラはまっすぐにゆっくりとこちらへ向かっているらしい…

「…これ、離れた方がいいんじゃないかな?」

今、冷静に考えると恐らく、見えない青のオーラに対する対抗手段は誰も無い。

そしてこのままじっとしていれば何をされるかも分かったモノではない。

「で、ですが!もし見えないオーラが何かの想いだというのなら対応する石で何とか!!」

石英さんはかなり気が動転しているようだ…確かに今までの出来事から対応する宝石があれば実体化させられるかもしれない…だが、

「優秘が対応する宝石を見分けられますか?」

そう、優秘は見分ける事が出来ない。だがもし、優秘と石英さんが協力すれば打開策はある、

「なら私が色を優秘ちゃんから聞いて!!」

が今の石英さんは恐怖に負けてしまっている…そもそも実体化させたとして、想いを生み出した根本が分からなければまた同じことの繰り返しにもなりかねない。

「…解決の糸口すらないのにですか?とりあえず、今この場は危険です…」

そう俺は避難を勧めるが…

「で…ですが!!」

分かっている、いや、分かっていた。石英さんは今何とかしたいのだ。自分たちの部屋に近いところでの問題だからこそ尚さら。

「気持ちは分かります。理論的にも分かります、生活の場が脅かされるのは誰であれ恐怖を感じるものです。ですが今すべき事は優秘を避難させる事。分かりますか?」

恐らく、優秘の事を今ようやく考えれたらしい。

「…分かりました。すみません、大分冷静さを失っていました。確かにそうですね、今すべき事は優秘ちゃんの避難…ですね」

いつもの頼れる石英さんに戻ってくれたみたいだ。

「はい、今回の問題に対する策は…まだ5時だし学校があいてるはずだ、そこで決めよう。…急ぐぞ」

俺は優秘の手をしっかり握り部屋を出た。


優秘にしか見えないその青いオーラは、学校までは追ってこなかった。

俺と石英さんは、警戒も兼ねて人にあまり見えないように優秘と自分たちのクラスの教室に入ることが出来た。

「とりあえず、落ち着けそうですね…鍵が開いていて良かったです。」

教室には誰もいなかったが何故か鍵は開いていた。恐らく最後に出ていった人が閉め忘れたんだろう…

その証拠に教室の鍵は、黒板の隣にある鍵掛けに掛けられていた。

「…では、そろそろ対策を考えましょう。材架さん。」

石英さんがそう言うと、それぞれ近くの椅子に座って会議が始まった。

「まず、前提としてアレが無害なものという可能性はありませんか?」

石英さんに見えないなら害あるものではない可能性もある。

「私の経験上、見えないということは接点を持っていないということです。そしてそれは互いに相互認識できていないことになります。つまり無害…ですが今回は優秘ちゃんが『見てしまった』。つまりその時点で無害という可能性はほぼなくなります。」

つまり解決しないといけないって事が分かった。なら本格的な対策が必要になる。

「石英さん。他者から聞いた特徴でオーラを見分けることは出来ますか?」

もしそれが可能なら福井のように、本人のオーラを見ることで特定し、解決出来る可能性がある。

「出来ないことはないと思いますが…本人自体のオーラも見えない可能性があります。これは本当に初めてのケースですので…」

とりあえず…優秘から石英さんにオーラの特徴を伝えるべきなのは明白だ。

すると突然教室のドアが開いた。

「もー、なんで閉め忘れてるのかなぁ…あ、材架くんと石英さん。何してるの?」

クラス委員長の橋本だった。どうやら教室の戸締まりをしに来たらしい。石英さんは落ち着いた口調で答えた。

「ちょっと忘れ物をしまして、二人で取りに来たんです。」

実際は正体不明の何かに襲われたんだけどな…

「ふーん、そうなんだ。じゃあすぐ帰る感じ?」

委員長は何も怪しまずそう聞いてきた。

「いえ、ちょっとまだ見つかっていませんのでもう少し探します。」

石英さんは自分の机の中を確認する演技をしながらそう答えた。

「分かった。じゃあ私もう帰るから戸締まりの方お願いね。…ところで、その子は誰?」

委員長が気づくまで完全に忘れていたが、優秘も連れて来ていたのだった。

「あ、この子は材架優秘って言って…俺の従姉妹です。」

一応設定はこれで合ってるはず…委員長は怪しむ様子はなく優秘に近づいていく。

「優秘ちゃん、初めまして。私は橋本清深、清深って呼んでね。」

委員長はそう言いながら手を差し出す。

すると優秘は清深の差し出してきた手を見て言った。

「清深?清深は何を忘れたの?」

あれ?もしかして話の流れ的に何か忘れ物をしてると思い込んじゃった?

「優秘、この人は教室の戸締りをしに来たんだよ。忘れ物じゃないんだよ?」

俺は優秘に委員長が教室に来た理由を教えた。

「…」

優秘は黙り込んでしまった…

「ありゃりゃ…嫌われちゃったかな私?まぁいいや、じゃあ戸締まりの方お願いね。」

そう言うと委員長は小走りで教室を出ていった。

「取り敢えずは少しは時間が稼げましたね…」

俺はホッとしながらそう言う。

「はい…それでは優秘ちゃん、さっきみた青いオーラについて分かることは他にありますか?」

石英さんは特徴を優秘にそう尋ねた。優秘は答えた。

「んとね…えっと、キラキラしてた。ダイヤモンドみたいな感じ!」

青いダイヤモンド…俺が知っている宝石ではひとつしか思い浮かばない…

「サファイアですね…高潔や深い海を意味する宝石です。」

割と一瞬で答えが明らかになった。

「確かに私はサファイアだけは使った事がありませんでした…まだ分かりませんが見えないという事が想いの特性なのでしょう…」

となると石英さんは認識できないという事になる。

「つまり現状、優秘に見てもらわないと分からないって事か…」

という事は…


此処になる訳だ。

「一番人が多いショッピングモールの見晴らしがいい場所から手当たり次第に探していけば見つかる可能性も高いはずです。」

結局ショッピングモールまで徒歩できてしまった…しかし兎に角人が多い。マジで多い。

「石英さん、この中から本当に見つけ出せるんですか?というか優秘の体力…あ」

優秘疲れてしまったようでウトウトしてほとんど寝ている…というか今寝た。

「いい作戦だと思ったのですが…ダメみたいですか…」

石英さんはそう言いながら落ち込んでしまった…

「いえ、確かに最適だとは思いますが…優秘は生まれたばかりの子供同然なわけですし…寝顔は可愛いけど…」

石英さんをフォローしようとするが上手くいかない…このままではまずい、解決策が見つからない…

と、突然スーツ姿のメガネを掛けた茶髪の男性に声をかけられる。

「材架と石英、こんなところで何してるんだ?」

担任の高山真矢(たかやましんや)先生だった。とりあえず俺はもう寝てしまっている優秘を背中におぶる。

先生には石英さんが話をしてくれた。

「高山先生、こんばんは。私たちはちょっと買い物中です。先生こそどうしたんですか?」

高山先生は答える。

「いやな、…ちょっと晩飯でも買おうかと思って来たらお前たちがいたんで声をかけたんだよ。」

すると高山先生は不思議そうな顔をして優秘を見て言った。

「ところでどうしたんだ、その少女は?」

石英さんが落ち着いて答えた。

「この子は材架優秘ちゃんと言って材架さんの従姉妹にあたる子です。訳あって今は材架さんの所に居ます。」

高山先生は少し疑ったような顔をしていたが大丈夫そうだと分かるとほっとして言った。

「成る程な、まぁお前たちが誘拐とかするとは思えんしな。迷子じゃないなら大丈夫だな。というかお前ら、もう夜の7時だぞ?その子の為にも早く買い物済ませて帰ってやれよ。」

…ピピピピ…

突然高山先生のポケットに入っていた携帯が鳴る。先生は携帯を取り出して電話をする。

「もしもし、高山です。…え?あぁ、例の件ですか?分かりました面談の申告書は今から持っていきます。はい、はい…すみません。」

高山先生は今は結構忙しいようだ。電話を終えて携帯をポケットに戻すと高山先生は言う。

「てな訳で先生はちょっと忙しくなった。あー唐揚げ弁当でも買っていくか…それじゃあ気をつけて帰れよ!」

高山先生はそのまま焦りながら人ごみに消えて行った。

…トン…

何かが地面に落ちた音がした。

「なんだこれ?ロケットペンダント?」

俺は落ちたロケットペンダントを拾う。

ペンダントにはTAKAYAMAと刻まれていることから先生の落としていったものだということが分かった。

「このロケットの中の写真、海かな?先生と誰か写ってるな。ありゃりゃ…月曜届けないとだな…」

石英さんは考え込んでいた。

「サファイヤ…海…海の近く?」

何か嫌な予感がする。嫌な予感というか更なる疲労の予感だ。

「材架さん、もしかしたらなんですけど海がキーワードかもしれません…」

恐らく石英さんの事だ、一人でも行くに違いないし今現状は帰る場所すらも危険な状態だ。

「…分かりました。海まではここから1キロ程北ですが大丈夫ですか?優秘の事もありますし、少し休んでから行きませんか?」

俺は正直週末で疲れてる上に今日は結構歩いてるから少しでも休みを取ったほうがいいと思った。

「分かりました。ではフードコートの方で何か食べましょう。」

勿論、優秘の食事代は俺もちだった。


食事も終えて、俺と石英さんと優秘は海へ向かっていた。

「海って楽しいの?青いの?」

そういえば、優秘は海を見たことがなかった。生まれてまだ一週間だし当然といえば当然か…しかし、食事を取った後は本当に元気になったものだ…

「優秘ちゃん、何か見えますか?」

石英さんが優秘にそう質問をした。

「ううん…何もないよー。麗美は海について何か知ってるのー?」

とても無邪気な質問が帰ってきた。石英さんは少し考え込みながら答えた。

「そうですね…海は、とにかく広い?感じです。あとしょっぱいです。」

(くふふっ…)

少し笑ってしまった。石英さんは聡明な人だと思っていたからだ。

結構子供みたいな意見にちょっと耐え切れず笑いが出てしまった。

「材架さん?どうかしましたか?」

笑ったとは思われなかったようだ。

「い、いや、何でもないです。そうですよね、広いししょっぱい。あと天気とかで変わるけど結構青い。」

俺は誤魔化しながらそう答えた。…が石英さんは少し不満そうな顔をして言う。

「…材架さん?もしかして少し小馬鹿にしてます?」

俺は目を逸らしながら答える。

「い、いえ、そんな事ないですよ…ハハハ…」

実際はほんと笑いそうでしたすいません。

「本当ですか?…分かりました、ならいいです。そろそろ着きそうですし…」

石英さんはまだ何か引っかかる顔をしていたが目的地が近いので話題を変えた。

「…そういえば、もう何年も来てなかったな…」

ふと、一言出てしまった。そうだ、もう3年程海には来ていなかった。最後に行ったのは親戚と海でキャンプをしたとき…だがその時はとても寂しかったような…

「…なんか臭い」

優秘が海辺の香りの感想を言った。海独特のあの香りだ、初めて来ると大体そんな感想になるだろう…

「そうですね優秘ちゃん、でも楽しいところですよ。最も、今日はもう夕暮れであまり遊べませんが…」

石英さんが沈んでいく夕日を見ながらそう言うと、俺は今の時間を確認した。

19:25…もう大分時間は経っていたようだ。もう辺りは夕暮れで、後ろの空は夜の色に変わり始めていた。

「これは着く頃にはもう完全に夜ですね…」

俺がそう言うと石英さんは真剣な顔をして言う。

「そうですね、もうあまり時間がありません。完全に夜になってしまえば危険が増しますし、なにより優秘ちゃんの実が危なくなる恐れもあります。」

確かにその通りだ。あまりぐだぐだしたり、のんびりしている場合ではない…今ある手掛かりを使って一秒でも早く解決しないといけない…

「分かりました。では今のうちに役割を決めておきましょう。…イレギュラーが発生した場合は優秘の安全を最優先します、どちらか一人が残らなければならない状況になった場合は…」

俺が、と言おうとしたが石英さんに遮られた。

「私が残ります。現状材架さんに優秘ちゃんはかなり懐いていますし材架さんの身に何かあれば優秘ちゃんに何が起きるかも分かりません。それに、ある程度のイレギュラーなら解決できる可能性は私の方が高いはずです。」

俺が残る、と少し格好をつけたかったが確かに冷静に分析すれば俺が残るのは最悪手だ。

となると俺の役目は優秘を全力で守る事、石英さんの役目は問題の解決を行う事。

やはり感情的になりやすい俺はもっと冷静に考える癖をつけた方がいいかもしれない…

「分かりました。では石英さんはイレギュラー時には解決の方をお願いします。」

それを聞いた石英さんは少し満足そうだった。

そして、海に着いた…

「…どうですか?何か感じますか?」

石英さんは優秘に優しく尋ねた。優秘は海風を一身に浴びながら答えた。

「うーん、なんかね、風が気持ちいいんだけどやっぱ少し臭い。あとね、色は見えないけどなんかいるような感じ?はあるような気がする。」

何か感じる、という事は少なくとも何かはあるかもしれないという事だ…ここからは少し気を付けていた方が良さそうだ。

「石英さん…少し、警戒はしておきましょう。」

俺は石英さんにそう声を掛ける。石英さんは辺りを見回して再度訪ねる。

「優秘ちゃん?あの岩の向こうからは何か感じますか?」

優秘は石英さんの指差す岩場の方を見る。すると優秘は不思議そうな顔をして言った。

「えっとね…ん?何あれ、何かうっすらとした…猫?」

猫?…だが何処にも動物の影なんてない。石英さんにも見えている様子はない。

「あ、あの岩の裏に隠れた感じ?多分。」

もちろん何の変化も感じない。だがあの岩の向こうに何かあることは分かった。

「材架さん、私が先に確認してきますので優秘ちゃんから目を離さないでください。出来れば手を握って離さないようにしてください。」

石英さんのその言い方は、福井の時に言われた言い方と全く同じだった。…笑顔など微塵もなく、ただ何かの役目を果たそうとする確固たる決意。いったい何が彼女をここまで突き動かしているのか、疑問になった。

「分かりました。でも後で教えてください、石英さんに何があってそこまで人の想いにそこまでするのかを…」

分かりました。という言葉以外、石英さんの耳に届いたかどうかさえ分からなかった。それ程に石英麗美という人は、確固たる決意を持って目の前の岩の向こうへ向かって行った。

「…」

あれから5分程たった…だが石英さんは戻ってこない。

「優秘、ちょっと行ってみるか?」

あまりにも遅かったので、俺は優秘に提案した。

「うん、行ってみる。変な感じはずっと消えてないし…」

優秘の答え方を見るに、何の変化もないようだ…俺と優秘は手を離さないようにゆっくりと岩場の裏へ向かう…

「…」

そこには岩の前でしゃがみ込み、ライトをあてて岩を調べている石英さんが居た。

だが何かおかしい…調べているというよりは唖然としているような感じだ…俺は恐る恐る声を掛ける。

「あの、石英さん?大丈夫ですか?」

石英さんは俺の質問に対し答えた。

「材架さん、もしかしたらですが…これは…」

その調べていた岩には、ある文字が刻まれていた…

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