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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
3/19

その出会いは突然に

そこには有るはずは無い。既に消え去ってしまった。

そこにはもう何もない、何も覚えてないように。

だけれども残り続けるのは何のため?

…私が残せた物は一つだって無いのに

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

材架賢人は目の前にいる少女の存在が現実だということを理解できなかった、というよりどうしてこうなっているのかが分からない。

「ん…なんだおふくろか?」

その俺の叫び声で、寝ていた福井が寝ぼけたまま起き上がろうとする。

俺は、考えた。

(今この状況を誰かに見られたら、というか福井に見られたら確実に誤解する!)

「…よし、お前その押し入れで隠れていてくれ。あ布団もあるから寒かったら羽織れ。」

俺が少女にそう言うと少女は軽く頷いて言う。

「じゃあ、後でご飯お願い。」

料理など昨日習ったばかりだが今は緊急事態だ。

「分かった、10分したら帰ってもらうから待っててくれ!」

俺は少女を押し入れに隠し、現状の説明をする為、福井のいる方に行く。

「…あれ?ここ家じゃない?お前は、確か!」

福井はやはり現状を理解していないようだ。

「材架賢人だ。昨日夜散歩してたらお前が公園で倒れてたから警察ざたになる前に運んできたんだよ…」

事実だ、俺は何ら嘘は言っていない。

「え?俺がか?…何してたっけ、なんか大事なことが…夢?」

福井の認識では昨晩あった出来事は夢になっているようだ。だが、それでも踏ん切りは付いているから起きたんだろう。

「おい、何ぼーっとしてんだよ。」

少し俺が考え込んでいると福井がそう言う。

「いや、何でもない。それよりお前、親が絶対心配してるぞ」

俺がそう言うと、福井の顔色は変わった、例えるなら真っ青に…

「そうだ…今日学校じゃねえか!」

少しアホ臭かったが俺は言ってあげた。

「学校は休みとっといたぞ、お互い高熱を出したってことでな」

手配は勿論石英さんだが…

「あ、じゃあおふくろに連絡入れねえと!てか帰るわ。急に色々迷惑かけて悪かったな、この恩はまた返す。」

別に返されなくていいと思ったが気持ちは受け取るものか…

「分かった。とりあえず忘れ物にだけ注意してくれ。」

その時、ふと昨日のことを覚えているのか気になった。

「なぁ、福井。昨日なんかあったのか?」

すると福井はこちらを見ると、少し安心したような顔ををして、そして言った。

「いや、懐かしいものを見たような気がしただけだ。多分疲労だな、最近あんまり寝てなかったし」

福井はそう言うと玄関で靴を履き、扉に手をかける。

「…そうか、分かった。じゃあとりあえず帰ってゆっくり休め、親にはうまく言っとけ。」

俺のその声に、福井は手を振ってそそくさと帰っていった。

(…さて)

そう、福井はさっさと帰ったが、もう一つ問題がある。

「もういいぞ、とりあえず押入れから出て来て。」

押し入れを開けながら俺がそう言うと、少女はゆっくりと出てきた。

少し長い青い髪は、朝日に照らされて尚綺麗に見えたがそんなことはどうでもいい。

「あの…何処から此処へ来たか覚えてる?」

俺がそう聞くと、少女は言う。

「…分からない。気づいたら居た。」

出てきた言葉は実に淡白だった。と言うか何も覚えていなさそうだ…

「じゃあさ?名前は覚えてる?君の名前。」

少女は答えた。

「ううん…覚えてない、私は誰?誰だと思う?」

うん、まぁ…質問に質問が帰ってきたのでもう何も分からないという事で判断して良さそうだ…

恐らくこの少女は、どうやって此処へ入ってきたのかさえ覚えていない…

「とりあえず、警察呼んだほうが良いかもしれないな…いや、呼ぶより連れて行かないとまずいよな…」

そう俺が言った途端、少女は言う。

「ご飯作らないの?」

まぁ、そうだな。とりあえず昨日の親子丼のあまりがあったな…アレでも食わせるか…

「…分かった、作るからそこで座って静かに待っててね。」

取り敢えず電子レンジに昨日の残りの具材をタッパーに入れてチンして、茶碗にご飯を入れて載せるだけの簡単な作業。約5分程掛かったが、それでも少女は静かに待ち続けていた。

(作り置きって便利だなぁ…てか滅茶苦茶行儀いいなこの子。)

「はい出来たよー」

少女の目の前に、石英さんに手伝ってもらって作った親子丼を置くと、少女は目をキラキラさせながらかぶりついた。箸など使おうとせず食べようとしている…

「あーコラコラ、ちゃんと箸を使って。」

注意するが少女は使い方を知らないようだ…

「んー…じゃあとりあえずこのスプーンは使える?」

少女にスプーンを持たせてみるが、持ち手の方で食べようとしている…

「ちょっと!?それ逆!…君ほんとどこから来たんだよ…」

少女は嬉しそうに答える。

「わかんない!」

食事を食べて元気が出てきているのは分かるが、小学4年生くらいの背丈でここまで物事を知らないということは…何処かの王室の子供?隠し子か?

「…食べ終わったら、お母さんとお父さんのいるところまでお巡りさんが教えてくれるから、交番へ行こうね。」

そう俺が促すと、少女は不思議そうな顔をして質問してきた。

「え?…おかあさん?おとうさん?それって何?」

え…

いやおかしい、子供には必ず親が居るし、仮にいなくても存在くらいは知っているはずだ。

それが何?というのは明らかにおかしい。なら…もしかして…

「…君は、人間なの?」

少し恐ろしかったが聞いた。聞かなければいけないと思った。少女は答えた…

「私?私は多分…人間なのかな?」

だが、何はともあれ交番へ連れて行った方がいい…


しばらくして、身支度を終えた俺は少女を交番へ連れて行く為、少女と部屋を出た。

「鍵は…よし、閉まったな」

部屋の鍵を閉め、少女を連れて行こうとしたとき、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「あら、材架さん、おはようございます。……その子は?」

白いコートを着て、青い手持ち鞄を持った石英さんだった。

だが、少女を見る石英さんの目は未知の物体でも見るような顔だった。

「あの、もしかして石英さん…この子を知ってるんですか?」

すると石英さんは真剣な表情で質問をした。

「この子は…『何時から』貴方と居たんですか?そして『何をした』んですか?」

言っている意味は全くわからなかった。だが何かは知っていそうだ。

「何時からと言われても先程目を覚ました時から居ました、福井は気づいてません。俺自身は何もしてません…」

俺がそう答えると、石英さんは言った。

「心当たりはあるかもしれませんが…とりあえず座って話せる場所へ行きましょう。…その子、その服のままではいけませんし。」


人が多く集まるショッピングモールのAONのフードコートに、賢人と麗美と少女はやってきた。

「とりあえず座りましょう。話は長くなります。」

そう言いながら石英さんは少女に自分のコートを羽織らせる。少しでも違和感を無くす為だろう…

「…分かりました。単刀直入に聞きます、この少女は一体何なんですか?」

俺は、一番気になっていたことを聞いた。

「…私にも分かりません。材架さんの近くに合った色…オーラと、この少女のオーラが同じということ以外…何も分かりません…」

意外な反応が帰ってきた、材架賢人の近くにあったオーラと全く同じ色?となると想いの実体化?

「じゃあこの少女は、実体化した俺に対する何かの想い?」

しかし、それも違っているようだ…石英さんの考え込んでいる表情が一向に柔らかくならない…

「いえ、昨日のように実体化させるとしても何年か積み重ねた想いで5分もつかどうかです…しかもこんなリアルに触れたり触れれたりは絶対にしません…」

つまり…

「本当の人間で間違いなく、何処かからひょっと迷い込んできた迷子?」

俺が思っている一番高い可能性だ、というか普通に考えたらそれしかないが…

「でもそれでは何故、名前を教えてくれないんですか?」

そう、この少女は何も覚えていないのだ…

「実を言うと…食事の仕方も箸もスプーンも、挙句の果てに自分の父と母という概念ですら分からないみたいなんです…」

ここが一番の疑問だった。そして石英さんはそれを踏まえて答えた。

「…実際私が知っている中ではあり得ない話ですが、材架賢人さん。貴方の近くにあったオーラの色は消えています。そしてそれはその少女自身が放つオーラになっています。色は薄紫色と黄緑色の光沢型…私の知る限り、『秘めた想い』を意味するアレクサンドライトという宝石が合致します。」

その宝石に、俺は心当たりがあった。

「それ、俺持ってます。昔幼馴染からもらったペンダントなんですけど…これです。」

俺は服の下に隠していたそのペンダントを石英さんに見せた。

「…確かに、アレクサンドライトです。ですがそもそも前提として、人間が想いのオーラをこれ程強く放つのは、本当に強い何十年も募らせた想いがあってこそのはずです…ですがこの少女は…幼すぎて、無垢すぎる…」

そうか、分かってきた。この少女は単なる迷子に見えるがそうでないのだ…何かしらの理由を持っているはずだが…俺と石英さんでは分からない…少なくとも今現在は、となると…

「では…こう考えていてもおそらく平行線ですし、今後の事について考えましょう。まず、この子についてなんですけど…」

石英さんは少女の顔をじっと見ながら質問する。

「貴方は、その人がいい?」

あれ?無視された?

そう思った俺だが直ぐに意味が分かった。

「私は『賢人』の所に居たい。」

賢人と、はっきり俺の名前を言ったのだ。

一度しか耳にしていないはずの、俺の名前を。

「だそうです、アパートの方には私の方から説明しておきます。」

石英さんは少女の表情などを確認し、そう言った。恐らくこの少女はお俺と何らかの関係があるのは間違いないからだろうし…

「分かりました。俺自身、まだ確認してみたいことが幾つかあるから、しばらくは俺の部屋で預かる事にします。ところで…服とかどうにかしましょう…」

少女は無邪気に笑いながらも、着ている服は賢人のものなのでぶかぶかだった。


6時間程かけて、衣服や必要物品を揃え、昼食なども終えた一行はマンションへ戻っていた。

「…まぁ、なんとなく分かってたけど、荷物持ちは俺なんですよね。」

俺はかなり重くなった荷物を両手に持ち、歩きながら言った。

「まぁ、この子も疲れてるみたいですし仕方ありません。」

そう言いながら歩く石英さんの背中には石英さんのセンスで見繕われたカジュアルな服を着た、眠っている少女が背負われていた。

「それにしてもよく寝ますね…やっぱり子供だからなんですかね?」

俺はすやすや寝ている少女を見て石英さんに質問した。

「それもあると思いますが一番は…まだ生まれたてだからでしょう…言葉を話せたり普通に活動することは出来ているみたいですが、恐らくそれ以外は全く分からないのでしょう…」

石英さんのその分析は恐らく当たっている。まだ生まれたてのこの少女には、入ってくる情報が多すぎるんだ。

「そうだ、そろそろ名前を決めないといけないですね…自分の名前も覚えていないみたいですし…」

いつまでも少女を名前なしで呼ぶのは色々と面倒がかかるし何より怪しまれる。とりあえずそれだけは決めないといけ…

「それ、材架さんが決めてはどうですか?」

いきなりの無茶振りである。

「いやいや無理です、そんなこと言ってると宝子?とか石子とかしか思いつきません!」

勿論、他にも綺羅とか魔子とか頭の中に候補はあったが流石に論外すぎると自分でも分かっていたので言えなかった。石英さんは少し笑って提案した。

「クス…分かりました、キーワードだけまず考えましょう。私的には…分からないことが多いから秘密?それをこの子に合わせるなら…えっと…」

「…優秘(ゆうひ)、とかどうでしょうか?優しい秘密と書いて優秘…んーやっぱり安直すぎますかね?」

つい思いついた名前を口に出してしまった…すると、石英さんの背中で寝ている少女はそれに反応するように寝言を言った。

「ゆうひ…私は…フフ…」

そのまま少女は再び眠りについた。

「決まったみたいですね、材架さん。」

石英さんは笑顔でそう言った。そしてその背後には、桜の花びらがちらちらと舞っていた。

「はい、では優秘ちゃんは俺が責任を持って預かります。あ、でも料理とかはマジでしばらく教えてください。」

今日の料理は昨日の残りで何とかしたがいつまでもそれでなんとかなるとは思えない。

「大丈夫ですよ、材料とかは昨日結構買いましたし。それに優秘ちゃんは女の子ですし私が手伝った方がいい事も多いです。ですから、しばらくは二人で協力しましょう。部屋も隣ですし。」

確かに優秘は女の子だ。お風呂とかの面倒はやはり俺より石英さんが見た方がいい事も多いだろう。

「分かりました。…なんだかすみません、厄介なことになってしまって」

俺はつい謝罪してしまった。正直な話これは俺個人だけの問題だったかもしれないのだ、

だけど石英さんは笑顔で言った。

「困った時は助け合いです。今回は色々分からないことが多いんです。一つ一つ、ゆっくり解決していきましょう。」

その笑顔の奥に、本当は何を隠していたのか、今の俺には分からなかった。


あれから一週間程たった。

学校は思っていたより上手く付き合いや勉学もでき、

その間は優秘には家でおもちゃやテレビなどを使わせて、なるべく自由にさせた。

優秘は飲み込みが早く、割と色々すぐに理解していった…

《…キーンコーン…》

今週最後の授業の終わりのチャイムが鳴った。

「なぁ、賢。今日ゲーセン行くか?」

福井が何気に声をかけてくる。

「悪い、この前話した通り親の都合でいとこと一緒に住むことになって時間があんまないんだ。日曜なら空いてるけどどう?」

俺は表向きはいとこと住むことになったと言う事で説明している。急に起きたら少女が居ただなんて言っても信じる人間は石英さんぐらいのものだろう…

「あーそっか…分かった。日曜なー昼の二時位からならバイトないから行けるぞ。二人ぐらい連れて行くわ!」

「おけ。それじゃあそれでお願い。じゃあ俺は帰るわ、また日曜な。」

俺はそう言うと席を立ち、鞄を片手に教室を出た。

「材架くん、ちょっといい?」

廊下で俺のクラスの委員長の橋本清深(はしもときよみ)から声をかけられた。

「どうかしました?委員長?」

俺は疑問に思って声をかけられた理由を聞く。

「材架くんは通学手段なんだっけ?通学手段の申請書出てなかったみたいだから、」

完全に忘れていた。そういえば入学式の時自分の通学手段について書かなきゃいけない紙があったのだ…

「すみません…えっと自分は徒歩です。」

すると委員長はバインダーに挟んだクラスメイトの記載表に書き込みながら言う。

「分かった。ありがと、これから気をつけてね。」

「すみません、次から気をつけます…」

俺は謝るとささっと帰ろうとする。

「あ、ちょっと待って。」

またなにか提出物を出し忘れているのかとヒヤヒヤしながら振り向く。

「材架くんは部活動とか入らないの?一応パンフレットにくらい目を通しといたほうがいいよ。じゃあまたね。」

そう言うと清深はパンフレットを俺に渡し、教室の方へ戻っていった。

「成程部活か…少しは考えておいてもいいかもしれないな…」

そう言うと俺はパンフレットを読みながら学校を出た。

「材架さん、お疲れ様です。」

石英さんが何時ものように話しかけてきた。

「あぁ、お疲れ様です。何時も教室出るの早いですよね石英さん。」

俺はそう何気なく話題を振った。

「そうですか?材架さんは福井さんとかとお話してるからですよ。」

石英さんはそう言うと俺の持っていたパンフレットに疑問を持った。

「それ何ですか?」

「あぁ、委員長から部活動のお誘いがあったんです。何かやってみなみたいな感じで」

そう言うと俺は石英さんにパンフレットを渡す。

「部活動ですか…うーん、どうなんでしょうか。私的には文化部的なのがいいですけど…」

そう、お互い優秘の事があるから時間をあまり使えないのだ。と言っても、楽そうな部活がない。

「まぁ何時でも入れるみたいですし今すぐ決めなくてもいいと思う。」

俺がそう言うと石英さんは不思議な顔をして言った。

「なんだかお父さんみたいになってきましたね、クス」

「そう言う石英さんはお母さんみたいですよね、優秘も最初に比べて主張が激しくなってきましたし。」

そんなこんなで俺と石英さんは他愛のない話を続けてマンションまで歩いて帰った。


「優秘ー。ただいまー。」

部屋に戻ると、優秘は窓の外を見ていた。なんだか何時もと様子が違った。

「優秘ちゃん?何見てるの?」

石英さんが少し様子のおかしい優秘に近づいて尋ねる。

何時もならテレビを見てるか本を読んでいるか寝ている筈の優秘が、

外を見たままずっと固まっているのはやけにおかしいのだ…

「あそこ、小さいけどなんか『海みたいに青い』。麗美分かる?」

石英さんと同じく優秘にもオーラを色として感じ取ることが出来るらしい。なので石英さんにも同じものが…

「何処…ですか?」

優秘が指差すゴミ捨て場には石英さんにも同じものが見えるはずなのだが…

「あ、動いて飛んできてる。こっち来るのかな?」

麗美には何も見えていない。

「えっ…」

見えない恐怖を、この時麗美は感じていた…

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