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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
17/19

儚い想いの物語

何故人は、辛い運命も笑うのだろう…

何故人は、悲しい事も乗り越えようとするのだろう…

私は思い出だけしか知らない…感情の薄い思い出だけしか知らない…

空へ飛び立つ自由も、意識して求める事すら出来ない程に…

「それがお前の答えだというなら儂は文句はない。元々儂はお前の守護霊じゃからな。

では皆の所へ戻るが…お前も残酷じゃのう…もっと皆に儂への敬意を払わせても良いのじゃぞ?」

幸楽さんがそう言うと俺は頭を抱えて答える。

「いや、そもそも幸楽さんが居る事自体だけでも親父と母さん驚きで倒れちゃうだろうし…

出来るなら全てが終わるというか…どうしてもって時までは優秘のままで居て欲しいんだよ…うん…」

俺のその言葉に、吹っ切れたように幸楽さんが答える。

「分かりましたーだ。じゃがお前の言うように丸く収まったのなら今度こそ儂を褒め称えるのじゃぞ?」

…そんな受け答えは何処と無く優秘らしいというか幸楽さんらしいというか。

「分かったよ…ちゃんと話させるよ…」

その時はその時で、とても恐ろしそうだ…

俺は、少し笑みを浮かべた後、この空間の空に顔を向けた。

…先程まで黒と白が混ざり合ってるような異様な光景だった筈のその空は、何時か見た夕方の景色が

薄っすらと広がりだしていた。

「…そうか、やっぱりお前か…『祥子』…お前が、この空間そのものなのか…」

俺はふと、少し寂しく思い、そう言った。

「そうじゃ。この空間は元は記憶じゃ、忘れ去られた祥子と言う少女が生きた記憶であり、考え方によれば

それはもう祥子本人、じゃがそれ故に意思は持たぬ…故に感情は無い。」

幸楽さんの言っている事は、なんとなく分かったような気がする…

この空間は、『祥子本人だけれど、本人に意思はない。』

それはつまり記憶が空間となっているだけで、意志は陽子さんにあるという事だ。

「じゃが、いくら意思は無かろうが、こうして記憶が意志を持つ陽子の指示もなく、

広がり続けておるのじゃから、無駄な感傷を起こせば自立を始めたこの空間に飲まれかねん。

今でこそ意志は無いが、確実に空間は自立しようとしておる。

…恐らくあと数時間で赤子のソレにはなるじゃろう。」

多分、幸楽さんの言う通りだろう…正直、俺や石英さん達が入って来てから空間の広がるスピードが

段々早くなっている気がする…少なからず俺を含む外部の人の干渉は、祥子の自立を促している…

すると、目の前に人影が現れる。

「あ、材架くん…その、大丈夫?」

委員長の清深さんだ、てっきり怒られると思ったが、どうやら心配されていたようだ。

「お疲れ様です、委員長。先程は急にパニックになり申し訳ありません…その後はどうなってますか?」

俺がそう言うと、委員長は少し思いつめた顔をして答えた。

「えっと…それが…どうも私のお姉ちゃんが身体の方に残った意識らしいんだけど…

『この世界ではこの子の記憶にある物は何でも自由に呼び出せるの』とケーキを作り出して…

それから…」

すると、幸楽さんが心の声を飛ばしてくる。

(賢人、それ以上は話させるな。その娘がそれ以上を語れば橋本陽子が飛んでくる!)

俺は幸楽さんに声を返す。

(わ、分かりました。けど何でさっき教えてくれなかったんですか?)

…幸楽さんは何も言わなかった、今すぐ止めろと言うような真剣な表情を俺に向けていた。

「委員長、ある程度理解できたので大丈夫です。」

委員長はそれを聞くと少しホッとして言う。

「…でも良かった~、材架くん急に居なくなるんだから

…万が一の事があればどうしようかと思ってたよ。」

(何とか山は越えたな、しかしまさかこういう方法を使うとはな…儂は不本意じゃが)

そんな風に少し不機嫌ながらも幸楽さんは俺に声を飛ばす。

…今の石英家には使用する事が出来ないが、兄弟や血縁者であれば賢浄者は

その対象に心の声を届ける事が出来、逆に受け取ることも出来る。

だからこれはその応用で、今の状況では一番いい方法なのだが…

(賢人ー!この娘ぐらい良いじゃろう?儂の事を教えても良いじゃろう?)

こんな風に駄々をこねるぐらい嫌らしい…

(今はダメです。お願いします幸楽さん。)

幸楽さんは俺のその声が届くと同時にまた不機嫌そうな顔をする。

「材架くんを見つけてくれてありがとう優秘ちゃん、

そういえばさっきの能力とかって何だったの?」

委員長は幸楽さんに話しかけると同時にそう尋ねてくる。

(幸楽さん、さっき何かしたんですか?)

俺はとっさにそう聞く。

(だ、大丈夫じゃ。少し戦っただけじゃ!)

…何でさっき教えてくれなかったんですかねぇ。

これは石英さんにもバレている可能性は大きいかもしれない…

少しパニックになる事を覚悟して置いた方が良さそうだ。

「優秘ちゃん?」

委員長が中々反応が無い幸楽さんに再度そう尋ねる。

「あ、ええと…アニメの真似です…すみません…」

(これで完璧じゃろう!?)

そう言いながら声を送ってきたが、完全に顔がバレそうという表情である事を理解しているんだろうか…

「…そ、そうなんだ…でも危険だからあんまり率先しては前に出ちゃ駄目だよ?」

上手く騙せたようだ。

少し嬉しそうに幸楽さんは答える。

「わ、分かったよ…く、黒いジェットのお姉ちゃん。」

(ほれ見ろ、上手く騙せたじゃろうが!)

果たして石英さんも上手く騙せるのだろうか…


俺と幸楽さんと委員長は、指定の集合場所へ向かった、

そこには既にここへ入って来た全員が集まっていた。

…高山先生はタバコを吸いながらベンチに腰を掛け、福井のお父さんは何かしら機器の調整をしていて、

福井と俺の両親は何かしら話をしていた。

「…材架さん。」

石英さんが帰ってきた俺にそう声を掛ける…けれどその表情は…

とても険しくそして、怒っているようだった。

「す、すみません…その、急にパニックになってしまって…」

…パン!

俺がそう謝ると同時に石英さんからビンタが飛んでくる。

「貴方は馬鹿ですか!?こんな得体のしれない場所でパニックになったからと言って、

出口でもない方向へ逃げ出さないでください!」

(ほう…流石は石英の血筋、肝が座っとるな)

すると、福井のお父さんが作業をしながら言う。

「石英、そこまでにしておけ。それ以上は…ただただお互いが辛くなるだけだ。」

それを聞いた石英さんは、俺から目を離し、幸楽さんに顔を向けた。

(…)

お互い何も言わず、3秒ほど見合った。

「…また何かの真似をしたのね優秘ちゃん、でもここは本当に危険だから、

もうあんな身勝手な事はしたらダメだからね?」

(…ふむ、流石は石英の血筋よ…じゃが、儂を見抜くことは出来んかったようじゃな!)

…今の言われ方を見るに何か察されたかもしれないと思ったのは俺だけのようだ。

「うん、分かったよ麗美…ごめんなさい…」

幸楽さんはそう可愛らしく謝ったが…

(何をぬかしとるかこの小娘め、あの時儂が手を出しておらねば皆死んで居たかもしれぬというに…)

心の声はこんな感じです…はい。

「さて、メンツも揃った事だ。これからどうする?」

福井のお父さんがその場に居た皆に聞く。

「逃げるのも構わないし戦うのも構わない。けれど人が敵う相手だという保証はない。」

石英さんが答える。

「ここから先は…私たち専門家の出番ですのでここは任せて皆さんは彼女には近づかないでください。

…万が一の脱出経路の確保の方が、どう考えても優先度は高いので。」

(まぁ、そうじゃろうな…じゃからいう事は分かっておるのじゃろう?賢人。)

あぁ、もう今しかない。

今言わなければ皆が辛い目にあう事になる…この俺も含め誰一人救われない…

「…あの、聞いて欲しいんです。祥子(かのじょ)の事を、」

俺がそう言うと、母さんが少し微笑んで答える。

「いいわ賢人、話して御覧なさい。」

皆が、黙り込んだ…いや、皆が聞く姿勢になったと言えるだろう…あの福井でさえも真剣だった。

「まず、陽子さんは…敬三祥子の望んでいたものをその身に宿しているだけです…

祥子は虹が好きだった、理由はとても自由だったから。

祥子はドレスが好きだった、理由はとても幸せそうだったから。

そして…祥子は翼が欲しかった、理由は自由で幸せだから。

俺は…気づいていたのに友として何も出来ず、彼女を見て見ぬふりをして、結果的に…殺してしまった。

だから…委員長、高山先生。彼女を人としてではなく、陽子さんとして…自由と幸せを…

いや、それらを得るための苦しみの積み上げ方を思い出させてください。」

(……)

…誰もが、理解した。

その場に居た全ての人が理解した。

俺が、とてつもなく残酷なことをした人間だという事を…

そして同時に分かった、陽子さんは人ではないけど陽子さんのままだという事が…

「…つまり、あの陽子の姿形は既に人ではないが、内面まではまだ陽子が残っているという事だな」

高山先生は、そう解釈した。

「だから、人としての生き方を思い出させる…?」

福井は言う。

「でも…それってすごく難しい事じゃないのか?そもそもアレにどう声掛けをするんだ?」

すると…石英さんが答える。

「それが、私たちの役目なんですね…材架さん?」

…そうだ、結局のところ委員長と高山先生が陽子さんに話をするにしても、そこに辿り着く前に

陽子さんに捕まったり、最悪命を落としてもいけない…

だから、専門家がそこまでをサポートする必要がある…そしてその専門家にもまたサポートが必要だ、

それが俺や福井、そして母さんや親父だ。

「はい、俺や福井や母さんや親父は石英さんと福井のお父さんのサポートに付きます。

だから、専門家としての指示をお願いします。」

俺がそう言うと、石英さんは少し微笑んで頷いた。

「ふふ…分かりました。では、その作戦で宜しいでしょうか?」

石英さんが福井のお父さんにそう尋ねる。

「…まぁ、これ以上良い作戦もないからね。恐らくそれが最善策だろう…

だからね、とりあえずはこれで行くけど各自で危険を感じたらすぐ脱出してください。

なんにせよ危険が付きまとう仕事だからね。」

その言葉を最後に、各自はそれぞれのチームに分かれ、そのチームの中で役割分担を決めた。


そして、この世界の中心…陽子さんのいる丘へと向かった。

その道中は俺にとっては懐かしい物ばかりが並ぶ異様な街で、

進むごとに空はあの時の夕日を思い出す夕焼けの空になっていった。

(まるで、ゲームの世界だな…)

俺がそう心の中で呟く。

(…お前から見ればそうなるじゃろうな、じゃが此処はゲームではなく現実。

とりわけ懐かしい世界という訳でもない。何度も言うが、飲まれるな。)

「……」

もうじき嫌でも相対するのだろう…だが、俺は逃げないと選択した。

過去の罪滅ぼしではない…自分の為に。

だから―――

「…成し遂げる。」


この空間の中心に聳え立つ丘の上に、陽子さんは居た。

「…まだ、私と(かのじょ)の世界から、優秘は消せてないのに来たのね。」

陽子さんは虹色の球状の物体に手を翳したままそう言った。

「あれは…そうですか、貴方は祥子さんを切り離して利用しているんですね…」

石英さんは、陽子さんにそう言う。

「えぇ、だって私が神だもの、だってこの世界は私のものだもの」

陽子さんは何食わぬ顔でそう返した。

「ですが、分からないんですか?貴方は今、祥子さんを利用していると言った。

けれどそれは表向きでしかない、貴方は今、祥子さんでも貴方でもない、

この空間の自立しようとする事象に利用されているんです!」

すると、石英さんの足元から火柱が立つ。

間一髪で後ろに飛び退くことで回避は出来たが…

「空間の事象なんて知らないわ…そんな物は勝手にさせておけばいい…あぁ…虫唾が走る、

どうして何時も私だけがこうなの!!どうして!!」

陽子さんが臨戦態勢に入った!

「各自それぞれの役割へ回れ!!」

福井のお父さんがとっさにそう指示をする。

…バシュン!バシュン!

予想通り、陽子さんは高山先生と委員長を狙って鎖を飛ばしてくる。

「おらおら!!」

「あらあら荒いわね!」

…ギィン!!ギィン!!

母さんと親父が、来る途中に拾っておいた模造刀で鎖を切り落とす。

「へぇ、意外と実用的なんだなぁこれ」

親父は不思議そうにそう言う。

「父さん、それは石英さんの宝石のお陰でしょう?」

母さんが親父にそう言う。

再会、繁栄の意味を持つマカライトを散りばめる事で、模造刀はこの空間での陽子さんの逆の意味の

過去を手放す想いの攻撃に対し、本物以上の切れ味と反発力を有する。

「さて、委員長!先生!!お願いしますよ!!」

福井が鎖を切り払いながらそう言う。

「おおっと!飛び道具にも気をつけろよ?」

福井のお父さんがそう言いながら目の前に迫っていた火の玉をエアガンで撃ち落とす。

「あ、ありがとうございます!!」

委員長がそう感謝を述べる。

「陽子!!お前は確かに人ではないかもしれない!!けれどお前は陽子でありそれ以外の何者でもないだろう!?」

高山先生がそう陽子さんに叫び語りかける。

「そうよ!!私は陽子!!けれど私はようやく自由を手にする事が出来…あれ?自由?」

陽子さんの様子がおかしい…

(まずいぞ賢人…あやつめ、空間に自我が侵食され始めておる…このままではあと数分と持たぬぞ!!)

幸楽さんのその焦りようから見て今、とても最悪な状況だという事が理解出来る。

「自由…そう自由!!私は全てが自由になるの!!ここは私の新世界!!私達の新世界!!」

どんどん様子がおかしくなる陽子さんを見て、俺は幸楽さんに言葉を送る。

(そんな!じゃあこのままだと陽子さんは!!)

幸楽さんは答える。

(あぁ、あやつはもう人の形すら無くなるであろうよ…そして主を失った空間に居る我らも取り込まれる…

全ては…無に還されるのじゃ…)

今すぐに何とかしないといけない…こう考えてる間にも、皆はそれぞれ戦い、呼びかけ、そして死力を

尽くしている…思い出せ、お前にはまだ出来る事がある。

…材架賢人にしか出来ない事が必ずあるはずだ・・!

「お姉ちゃん!戻って来て!!私は今までのままの方がいい!私達は家族でしょ!?

私は寂しかった!けれど耐えて耐えて言いつけを守った!けれどそれはお姉ちゃんの望みじゃない!!」

委員長も必死に声掛けをしている…何時、何処から陽子さんの攻撃が来るか分からない…

その恐怖にも、委員長は負けずに陽子さんを救おうとしている…

っ!

「材架さん?どうかされましたか?」

石英さんが、俺の表情を読み、そう尋ねて来る。

「…石英さん、この空間を一時的にだけれど、俺に対する関心だけで気を引くことは出来ますか?」

俺は真剣にそう言う。

(正気か!?お前がそれを行えばどうなるか分かっておるのか!?)

…幸楽さんは既に俺の守護霊としてではなく、一人の人間としての器を持っている。

「いけません!もしそんな危険な手段があるなら、絶対にしてはいけません!!」

委員長も高山先生も、そして他の人達も、ここへ来るのは怖かった筈だし、

ましてや命を賭して戦う事なんて、並大抵に出来る事ではない…

だからこそ、俺はあの時果たせなかった約束を果たさなければいけない…

「祥子!!王子様がお前のこのオレンジ色の手紙を受け取ってえ!!助けに来たぞ!!」

すると次の瞬間、陽子さんの動きが止まり、空間の拡大が止まった。

今この瞬間、この空間は俺への関心だけで、興味だけで、自立を止めたのだ…

「あれ…私の…私の自由?自由って何?」

それと同時に、陽子さんの目の色は虹色ではなくなり、ドレスの色も黒に戻り、翼は消え堕ちた。

(貴様…自分が何をしたのかは…いや、分かっておるのじゃろうな…)

そして…俺は虹色の球から出た腕に捕まれ、引きずり込まれた…

「材架…賢人さん!!!」

あぁ…最後に、石英さんのそんな叫部ような呼び声が聞こえた。

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