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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
16/19

それは、俺の罪

決して許されない罪があった。

決して忘れられない想いがあった。

そして、決して忘れ去れない後悔があった。

彼は、その重荷をどう背負うのだろうか…

…気付くと、俺は地面に倒れ込んで、意識を失っていた。

「ここは…」

俺は立ち上がろうとするが、上手く体が動かない…というより、此処はとても寒かった。

自分が今倒れ込んでいるこの床でさえ、恐ろしいほど冷たかった。

そして…俺は思い出した…自分が何から逃げてきたのかを…

「…まさか…」

俺は、恐る恐る顔だけを上げる。

「…あ…ああ…」

目の前には、とても大きな懐かしい顔…俺のよく知っている『敬三祥子』が…

「どうして、助けてくれなかったの?」

祥子の声が、俺にそう問いかける。それは怒りでもなく悲しみでもなく、ただ問いかけるだけの…

無機質な感情だけを放って…

「俺は…見てなかっただけだ!!見れなかったんだ!!仕方ないじゃないか!!」

俺がそう言い放つと、祥子の顔は暗闇に消えた。

「なら、貴方は私の何?」

その言葉は、その問いかけは、その質問だけは、無機質ではあれど何処か優しく、

『確かな何か』を込めているように聞こえた。

「…祥子、俺は…お前の…唯一の…と…」

俺は、最後まで言葉を繋げられなかった…何故なら…

目の前には、彼女の苦しみ続ける映像が…地獄のような炎に焼かれて助けを求める彼女が居たからだった…

「…やっぱり、分からないかな」

祥子の声は、無機質なものに戻っていた…

そしてその言葉を最後に、祥子の顔も声も、この場所で聞こえる事は無かった…

「…畜生…なんで…なんで…」

俺は、そのまま何もする事なく、泣き続けた…


「追わないのか?彼は貴方の唯一の友達ではないのか?」

福井修也は身構えたまま虹色の髪の彼女へ、そう尋ねる。

「?…初対面の人には自己紹介だよね?」

虹色の髪の彼女は少し微笑みながらそう答える。

「皆さん…気を付けてください、彼女の出すオーラの…想いの色は…既に人の持つソレではありません!

こんなのは、異例中の異例…信じられないと思いますが彼女のあの髪の一本一本は、

それぞれが高濃度で濃縮されたマカライトの想い…彼女は…既に人ではありません」

石英麗美はそう言いながら、少しでも被害を抑えようと福井修也の前に立った。

「自己紹介ぐらいいいと思うんだけどなぁ…それにしても大きくなったね、

お久しぶりになるかな?面白い本を持ってたお嬢さん」

虹色の髪の彼女は、石英麗美に適当そうにそう言った。

麗美は、その声と…その態度…そしてその在り方を知っていた…

一般人にとっては面白いはずがない本を、面白いと読んだ人を…

「あ…貴方は…でもそんな…」

石英麗美は、言葉に詰まり上手く質問できなかった…

そしてそれを察して、虹色の髪の彼女は答えた。

「私は、何処かの妖精だよ。と言っても、真也さんも居るしバレちゃってるかな?私の本名…

『橋本陽子』です。ごめんね、急に消えちゃって」

高山真也はそれを聞くと、恐怖など微塵も無い顔で陽子の方へ真っすぐ向かっていく。

「高山先生!危険です!彼女は確かに陽子さんではありますが、今はその在り方自身が!!」

石英麗美の必死の静止にも応じず、高山真也は歩き続けた。

「少し黙っていろ石英…いや、専門家。」

その言葉を発した高山真也の表情は、既に覚悟を決めている顔だった。

「あぁ…えっと、急に居なくなったことを怒っているならごめんなさい!!私も今は何があったのかはよく覚えてないんだけど…色々あったんだよ!多分!」

橋本陽子は、黒いドレスに虹色の髪を持つ異質な存在とは思えない程、人間らしく、高山真也にそう言い訳をした。

そして、高山真也は橋本陽子の目の前で止まった。

「…陽子、悪かったな。お前の事をほとんど理解できてなくて…」

その場に居た全ての人が、高山真也のその一言で緊張した。

「えぇっと…それは別に仕方ないと思うし!私は全然気にしてないよ!うん!…寧ろこっちが気にしてたのに…」

陽子は、本当に何の変哲もない人間のように、そう答えた。

「そうか…なら良かった。ところで聞きたいんだが…お前は一体此処で何をしている?」

一瞬、辺りの空気が凍り付く…高山真也のその言葉は…この場で一番リスクの高い物だったからだ…

…そして、橋本陽子は答えた。

「私は…此処で暮らしてるの。誰の思い出かは知らないけど、街みたいなのが出来上がってるでしょ?

それに居心地もほんとに良いし…それにほら!このケーキの映像あるでしょ!」

橋本陽子がそう言うと、橋本陽子の隣に映像が流れる。

それは、敬三祥子が何時かの誕生日に賢人と共に祝った日の映像だ。

「このケーキ食べたいな。」

陽子がそう言うと、陽子の目の前に全く同じケーキが現れる。

そしてそれを同時に現れたフォークを使って食べて見せる。

「こんな風に、この世界ではこの子の記憶にある物は何でも自由に呼び出せるの!

…でも人だけは、何をしてもダメだったんだよ…だけど」

辺りの空気が怪しくなる…何かが起こる事を空気が警告している。

「その『人』も、こうして来てくれた!私の愛した人も来てくれた!…だから、一緒に永遠に…此処で暮らしましょう?」

橋本陽子のその声は、嬉しそうではあったが、狂気を孕んでいた。

…バシュン!!

「何!?」

橋本陽子の隣から、鉄の鎖が現れ、それは真っすぐ高山真也を狙う。

「真也!どいて!!」

優秘が飛び出し、間一髪で高山真也を突き飛ばす。

…ジャララララ!

だが、そのせいで優秘は捕まってしまった。

「ぐふっ…フ…愚か者が…この者は既に人では無くなっておろうに…」

優秘は陽子の鎖に締め上げられながらもそう口答えをする。

「優秘ちゃん!!」

石英麗美は、そんな優秘を見て臨戦態勢に入る。

そして、材架両親も福井修也もまた、麻酔銃を構える。

「待て!!貴様らはまだ撃つな!手を出すな!!」

優秘はそう言い、皆を静止させる。

「でも優秘ちゃんが!」

石英麗美はそれでも助けようと走って向かって行く。

「ええい!邪魔をするな!娘!!」

優秘がそう言うと、優秘を中心に白い光が溢れ、次の瞬間、優秘を縛っていた鎖は粉々になっていた。

「…!?貴方は…そうか…貴方がそうなのか…」

橋本陽子はそんな優秘を見て何かを理解し、そう言いながら表情を変えた。

「今じゃ!戦場の火蓋を上げよ!!撃て撃て撃て!!」

優秘がそう言うと、自然と何故か皆が攻撃を行った。

…バババババン!ドン!ドン!ドン!

「っぐ…きゃあああああああああ!!!!!!」

地獄の業火に焼かれるような悲鳴を、橋本陽子があげると、皆が攻撃をやめた。

橋本陽子は、地面に座り込む。

「…やっぱり、私は望まれないのね。」

橋本陽子はそう言いながら無理やり立ち上がる。

「…馬鹿な、人間では既に指すら動かせない程の麻酔量だぞ!?」

福井修也は橋本陽子の化け物染みた動き方を見てそう言う。

「皆さん、下がってください!!あの方は既に人ではなく…別の何かと成りかけています!

恐らく、身体能力も…既に人ではありません!!」

石英麗美はそう言いながら注意勧告を行う。

「あああああAHHHHHHHHHHHH!!!」

もはや人でないような声を上げ、橋本陽子は空に向かって叫び声をあげた。

辺りには猛烈な強風が荒れ狂い、彼女を包んでいく…

「母さん、俺はこれまで生きてきたがあんなもの初めて見たぞ…」

開いた口が塞がらない賢人の父が、賢人の母にそう言う。

「こら!そんな言い方しないの!…とは言え本当にとんでもない事になったわね…元々とんでもなかったけど…」

賢人の父は、それを聞くと情けない声で呟やいた。

「今晩は、母さんの夕食食べれるかなぁ…」

賢人の母はそんな自分の夫を見て、真顔になってしまった。

そして、強風が収まり、橋本陽子はその姿を現した。

髪の色だけでなく目の色まで虹色となり、黒いドレスは白く変わり、そして背中には…人にはあり得ない白銀の翼が…

「…優秘、とか言ったわね、…貴方殺すわ。私の世界に邪魔。けれど貴方もきっと私…だから貴方も手放すわ…私と(かのじょ)の記憶から…」

そう言うと、橋本陽子は何処へ飛び去ってしまった…

「そうだ!賢人は何処行った!?」

福井翔太がそう言うと優秘が答える。

「…私が探しに行く、多分賢人もかなり危ないと思うから。」

すると、石英麗美が優秘に質問する。

「優秘ちゃん、ちょっといいかな?さっきの言動というか能力というか…あれは一体何?」

優秘は答えた。

「あぁー…それは賢人を見つけたら説明するから今は探そう?」

優秘は適当に、そうはぐらかした。


材架賢人は、真っ暗で何も見えない空間で、誰に話しかけるのでもなくただ座り込み、

…自分の罪を意識していた。

そして、一つ気づき…俺は呟いた。

「そうか、俺は自分のやるべき事を間違えてたんだ」

そう言葉に出すと急に辺りは更に寒くなったように思えた。

そしてその冷気の先に、一筋の光がある事に、俺は気づいた。…けれど、俺はその先へ進もうとは思わなかった。

「まったく、どうやったら間違わなかったんだろうな。俺にはもう、この先に進む権利も戻る権利もない。

ならこれはきっと…俺が気づけなかった…いや、後になって気づいてしまった俺の罪なんだろう…」

…コツコツ…

一筋の光がある方の逆方向、俺の真後ろから誰かの足音が聞こえてくる。

「なんだ?ようやく裁きに来たのか…えらく遅かったな…祥…」

俺がそう言いだしかけるが、目の前に現れた『誰か』は、見たことも無いスーツ姿の青年だった。

「お前はここで果てるのか?それがお前の積み上げてきた年月だったのか?」

青年は俺にそう質問した。俺はため息をつくと青年に皮肉を放つ。

「はぁ…なんだ、全然知らない人か。そうだな…俺は間違えすぎた、何も分かっちゃなかった。

もう流石にやり直しでもできない限りどーしようもないさ。六年前ぐらいにな。」

6年前、彼女…敬三祥子が俺の地元を去った時だ、あの時既に彼女は何食わぬ顔をしていながらも、

本当に救いを求めていた…それに気づけなかった唯一の友が俺だ。

だから、俺はこの青年からでもいい、『ある一言』を誰かに言われる事を期待した。

「なら、『ここで死ぬのもあり』だろう。」

そうだ…ただ一言『死ね』と言われたかった…だが青年は話を続けた。

「でもそれで良かったのか?お前のやりたいことはもうこの結末で良いのか?」

ただ一言『死ね』、と許されたと一瞬だけだが安堵した俺にとってそれはとても残酷な一言だった。

だからこそ言い放った。

「やりたい事はもっとあったさ!だが俺は何一つとして正解を出せなかった!!もううんざりだ!!」

そうだ、結局俺ではなく誰かが正解を導き出した…福井の時も、優秘の時も、先生の時も、母さんと親父の時も、委員長の時も…そして石英さん自身の時だって、別の誰かが正解を導き出した…

ただの一度も、俺がつかみ取った正解なんて無かった。

「なら、最後に何かやればいい。ボクからはそれだけだ。」

青年の気配は、その言葉を最後に消えていた。

俺はどうしたいんだろうか、どうしたかったのだろうか。

そう考えているうちに体はどんどん冷たくなって行った。

何も出来ず、間違いしか起こせない自分に一体何をしろというのか…

そう思っているうちに寒さで何も感じなくなる。

「俺は…」

ついには意識すら遠くなっていく…

「馬鹿者が!!そんな所で貴様が没してしまえば折角現界出来た儂まで消えてしまうであろうが!!」

そんな誰かの声が、一筋の光の先から聞こえてくる。

「え?誰?」

俺はつい素で、そう反応してしまう。

「そこから動くでない!賢人!貴様には少し話がある!!」

俺はその声の指示通り、一歩たりとも動かず待ってみた。

…タッタッタッタッタッタ!

誰かが走ってくる音だ。そして現れたのは…

「全く、他の連中は別の所を探しに行ったが儂の勘の方が当たるのぉ。

この現世に現界しても、儂の勘は鈍っておらぬようじゃ。」

…は?

それは姿や服装こそ優秘だったが…身のこなしや話し方が、

優秘とは全く違っていた…ましてや祥子ですらない…

「なんじゃ…あぁ、そうであったな、お前に直にこうして話をするのは初めてじゃったな。

それは失敬失敬!わはははは!!」

優秘?はそう笑いながら俺に言う。

「あの、優秘さん?ですよね?」

俺は恐る恐るそう聞いてみた。

「どうした?かしこまりおって。どう見ても儂はお前の妹、材架優秘であろう?…だがまぁ、

急に受け入れろというのも酷なものか。仕方あるまい、やや気は乗らぬが儂の正体を教えてやろう。

儂は『材架幸楽(ざいかこうらく)』!お前も名前ぐらいは聞いた事が有ろう?何を隠そう材架家の、

つまりお前のご先祖様じゃ!!それも一番最初の材架の家紋の一人娘じゃ!!」

俺は、開いた口が塞がらなくなってしまっていた。

材架幸楽…名前は聞いた事があるどころの話ではない、材架家の最初の一人娘であり、

どの世代と比較しても一番材架の家紋の名声を大きくさせ、

後に鎖国の真っ只中の江戸時代でありながら、

常識外れの挑戦力と好奇心だけで世界を三周したと言われる伝説の人。

…正当な材架家の人間なら知らない筈が無い。

「まぁ儂の名前はこの現世ではそんなに知られておらんようじゃ、闇に消えた人物の一人という事じゃ。」

功績と比例しても、何故か材架幸楽の名声は全くと言っていい程無い…

まぁ、要約したらやりたい放題やった人だからなのが一番大きな理由だと俺は思うが…

「あの…もしかして最初から幸楽さんは材架優秘の振りをしてただけだったんですか?」

俺は、幸楽さんにそう質問する。

「あぁ…それも言わねばならんのぉ…一度しか言わぬからしかと耳に入れるんじゃぞ?」

俺は唾を飲み込む。

「実はの…儂はお前の守護霊じゃったんじゃ。」

しゅ…守護霊…?

更に俺はポカーンとしてしまう。

「という事は…その、祥子の秘めた想いが実体化した訳じゃない…?」

すると、幸楽さんは腕を組んで言う。

「あぁ…いや、それはそうなんじゃけど…なんというかな、儂はお前の守護霊じゃったがなんというかな、

遊んでみたかったんじゃ。それでとりあえず儂の生前知ってた方法の中に想いの実体化というやつがあっての…」

想い…に関する情報は石英家しか持たないはず…俺は質問する。

「あの、その想いについてって石英家しか知らない文献じゃないんですか?」

すると、幸楽さんは何食わぬ顔で答える。

「何言っとるんじゃ、『儂も賢浄者』なんじゃぞ?」

…え?

「というより完全に天然の賢浄者だったようじゃ、じゃからよく石英家の連中にはよく遊びに行ったのう…あ、ちなみに儂の夫、材架郎前(ざいかろうぜん)は元は石英郎前(せきえいろうぜん)と言っての、

儂が石英家から無理やり引き抜いたのじゃ。」

…衝撃的過ぎるが、過ぎるがだ、幸楽さんならあり得ると認識してしまう俺がいる。

「じゃから話を戻すぞ?つまり儂はこの現世に現界して遊びたかったんじゃ。

それで生前の知識を生かして、いい感じの状況に儂は限界してみたのじゃ…まぁその結果、

この空間に入るまで代償として何も分からんなってしまったがな。」

あぁ…実に…幸楽さんらしい…

「分かり易く言うとじゃな!儂は生前賢浄者で、現世ではお前の守護霊で、

お前が想いの存在を認識した時に、ダイヤモンドとアレクサンドライトで作られたペンダントの中の

敬三祥子の想いを使って現界してみたら、何も分からず成り行きで材架優秘になっていたという事じゃ。

つまり儂は幸楽であり、敬三祥子の一部であり、材架優秘であると言えるじゃろう。」

滅茶苦茶な人だが、確かにこの人ならあり得ると思ってしまった。

「じゃから…どうするのじゃ?お前は既に全てを思い出し、手紙の内容も知った筈じゃ。

それでお前は今から何をする?あのキザな青年の奴の言いなりになるかもじゃが…

お前はどう自分の罪と向き合うのじゃ?」

幸楽さんのその目は、世界を見てきたからこそ、優しく厳しく俺に向けられていた。

だから…俺は答えた。

「…俺は────」

スーツの青年は誰一人居ない街の中を歩いていた。

「…彼はともかく」

青年は、そう一言呟くと頭を抱えた。

「あの物腰…あの口の利き方…間違いない…いや、例え地獄に落ちても忘れるものか…

アレは最悪のボクの嫁、『幸楽』…一体何時から正体を隠していたんだ?」

するとふと、青年は後ろを見る。

「誰も…居ないか…本当に何の縁なんだろうかな、アイツもボクも。

…兎に角今は誰にもバレないように麗美の元に戻らないと。

一応今のボクの本業は『石英郎前』としてではなく、石英麗美の守護霊な訳だし。」

青年はそう言うと、先程より歩くペースを上げる。

「本当に、何の縁なんだろうね…」

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