表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えない想いの幻想  作者: マテリアル
13/19

それぞれの勉強不足

誰も彼も、知らないことは存在する。

知っているはずなのに知らなくて、

見ているはずなのに見落としてしまう…

人は皆、始まりから終わりまできっと

勉強不足のままなのだ。

俺は帰ってきた期末テストを見てとりあえずは安心した。

「81点か…まぁ悪くないし良くもないけどアイツよりはましか…」

俺は、福井の方をゆっくり向く。

「ッッッッッシャアアアアアアアア!!!欠点回避ィ!!」

福井の点数は、61点。そしてこの学校の既定の欠点は60点以下、つまりギリギリで福井は欠点回避なのである。

「おい福井、お前今回は追試なしだが課題の提出が無いと補講だぞ。」

高山先生がそう言うと、福井は何食わぬ顔で答える。

「え?はーい、分かったよ。てことで委員長、この課題教えてくれ。」

委員長は少し頭を抱えて福井に言う。

「教えるのはいいけど…答えだけ丸写ししないでよ…あ、勿論材架君も手伝ってね」

勿論、という意味は分からないがコイツが果たして勉強をちゃんとするのだろうか…

「分かりました…とりあえず放課後また家でやりましょう…」

俺は少し溜息をつきながらそう言う。

そういえば、今更だがなぜ何時も家が使われるんだろうか…確かに委員長は寮生だから仕方ないとしても福井は…

「どうした材架ー、お前嫌なのか?」

福井は少し心配そうな顔でこちらを見てくる。

「いや、そんな事は無いが…たまにはお前の家でやるのもいいかなって…」

すると、不思議そうな顔で福井は言う。

「何言ってんだ?優秘ちゃんもめっちゃ賢いしめっちゃ教えてくれるじゃん?」

俺は…少し言葉を失った。

今コイツは、堂々と小学生に高校の内容教えて貰っていると言ったのだ。

「どうしたんだよ材架?」

無邪気な福井に、俺は言う。

「福井…お前ちょっと考えた方がいいぞ…優秘は小学生だぞ…」

それを聞くと、福井は苦笑して言う。

「だって俺バカだもん、仕方ないだろ?…ぷくく…お前も教えてもらってるくせに…ぷくくく」

(コイツは…)

確かに俺もたまに教えてもらう事もあるが極稀にだ。

コイツのように何時も何時もは教えて貰ってはいない。

「はい、んじゃ盛り上がってきたところ悪いが授業進めるぞー、静かにしろー」

高山先生がそう言うと、皆それぞれの席に戻る。

とりあえず、期末テストは皆追試はなかったので先生も少しは気が楽になっただろう…

あれから早一ヶ月も越え、夏休みが始まろうとしている。

こんなくだらない事を真剣に考える時間と、笑い合える時間も、

もしかしたら短いのかもしれない…

「材架さん、次に当てられますよ?」

隣の石英さんがそう勧告してくれた、少し、ボーっとしてい たようだ。

「どうしたんですか?何か思うところでも?」

石英さんが小声で尋ねてくる。

「まぁ…はい、例の件は大丈夫なんだろうかって…特に福井のお父さんとか…」

俺は、小声でそう答えた。

「よーし、材架、ここの問題解いてみろ」

石英さんの言う通り、俺が当てられた。

「大丈夫です。彼等は彼等、私達は私達のやるべき事をやって行くんです、今は信じていましょう。」

石英さんは少し残念そうな顔でそう言ったが、俺はそれを、

ごく当たり前で、一番難しい事だと思った。


帰り道、俺と石英さんと福井と委員長は、少し他愛のない話をしながら俺の部屋へ向かっていた。

「それでさ、親父が母さんにげんこつくらってんだよ!社長でめっちゃ偉い人なのに家ではめっちゃ弱いんだよ」

福井が自分のお父さんの事を少し悪く言って笑い話にしていると…

「おっと、誰がげんこつくらったって?なぁ翔太?」

福井のお父さんが顔をひきつらせて福井にげんこつしながら現れる。

「福井さんのお父さん、こんにちは」

石英さんが福井のお父さんに挨拶をする。

「痛ってえな!親父!どっから湧いて出た!」

福井がそういきりながら福井のお父さんに聞く。

「何処からも何も、さっきそこで楽しそうに語ってたから付いてきたんだよ。いやまぁまさか自分の事だとは思わなかったなぁ、」

顔が笑っているのに目が笑ってないとはこういう事だろう。

「痛っててて!痛えって!やめろ親父!グリグリするなぁ!!」

福井のお父さんは福井の頭を両手をグーにしてグリグリしている。

「…さて、みんな揃ってるし丁度いい。材架くん、今から少しお邪魔してもいいかな?」

福井のお父さんは、真剣な表情で俺にそう尋ねた。

「いいですけど…少し散らかってますよ?」

俺がそう答えると、福井のお父さんは言う。

「大丈夫だ、…アイツなら大丈夫じゃなかったけどな…それにとても賢いとはいえ子供を育ててるんだから散らかるのは仕方ないぞ」

アイツ…とは恐らく福井のお母さんの事だろう、一瞬だが目が死んだ目になっていたのを俺は見逃さなかった。


家に着くと、そこでは優秘がテレビを見ていた。

「あっはははは!!おっかしい!あははは!あ、賢人おかえりー麗美もーあ!みんなも来たんだ!ゆっくりしていってね!」

えらく明るく無邪気に優秘は歓迎するが、俺は一つだけ文句があった。

「優秘、この部屋は…だ~れ~の、へ~や~だ?」

俺がそうにっこりして言うと、優秘はとっさに指さして言う。

「あ!ムカデ!!」

…!

びっくりして俺が振り向くと…

「あはは!賢人ひっかかったー!」

…殴っていいだろうかこの生き物。

「さてと、家族で燥ぐのも良いけど生憎と俺は手短に済ませたい。」

福井のお父さんがそう言う。

確かにその通りだ、福井のお父さんにとっては、今は何より霊のビー玉の調査の時間が必要だ。

その時間を割いてまで来たという事は、とても大事な話があるという事だ。

「すみません、そしたらあちらの席に座ってください」

俺はそう言いながら一同をリビングへ案内し、一同は丸いテーブルを囲むように席に着いた。

「…さて、ようやく落ち着いたので本題を話します。まず、例のビー玉の様な物についての調査結果から、まぁ原理は全く分からないし、石英の提供してくれた書物を見て影響の出ない範囲で色々試したり考えた結果だが、端的に言うとこれは、『心そのもの』だ」

福井のお父さんがそう言うと、委員長が質問する。

「心そのもの…とはどういうことですか?」

福井のお父さんが答える。

「良い質問だ。ここでいう心そのものとは、簡単に言えば自己を形成する人格とそれを繋げる感情、

それらが『形を持っているもの』という前提で、あのビー玉の様な物は、その形が実体化したものだ。」

すると、石英さんが尋ねる。

「では、陽子さんの身体は抜け殻のように眠り続けているのでしょうか?このケースなら眠り続ける身体に、それらの形を戻すことで解決が可能ですが…」

福井のお父さんは少し思いつめた顔で答える。

「それが…文献では眠り続けているなら何の動きも観測できないはずと書いてあるんだが、俺とスタッフが確認した感じでは、どうも色が変わったり模様が変わったりと、中は変動しているようなんだ」

すると、福井が尋ねる。

「それって、陽子さんは眠っていないって事?」

福井のお父さんは腕を組んで言う。

「いや、はっきりとは分からん…だが他に説明がつくような文献が無く、今は動いているとしか…」

それを聞いた優秘は、テレビを見るのをやめてリビングにやってくる。

「やっぱり動いてたんだ、それもそうか、だってあの中二人いるもん」

優秘のその言葉に、福井のお父さんは唖然とした。

「…!そうか…こう言っては病気の一種に成り得るかもしれないが、橋本陽子は記憶を失い未来から来る前は啓三祥子だった、二人いるという事はつまり人格が二つに分かれ、片方が空間に、片方が身体に残っているんだ…あぁそうか…そういう事だったんだ……」

それを聞いた委員長は質問する。

「え?じゃあお姉ちゃんと過去のお姉ちゃんが完全に別れちゃってるって事ですか?」

石英さんが答える。

「簡単に言うとそういう事になります。ではこれでやるべき事は決まりました…とても難しいかもしれませんが…福井修也さん、残りの問題の空間内の安全面はどうでしょうか?」

石英さんの真剣な表情は、これまでのような問題に望んできた物とは少し違って見えた。

「…石英、安全面についての問題は一番最初に検査した。結果は入るだけならば現状は問題はないようだ…橋本陽子か啓三祥子のどちらかではあるが、身体自身がどんな事をしてくるかまでは分からんが…」

それはいい報告のはずなのに福井のお父さんと石英さんの表情は曇っていた…

「それで…何か問題があるんですか?」

俺がそう質問すると、石英さんが答えた。

「…問題は、賢浄者が二人必要という事なんです」

福井のお父さんは、現在浮上した問題についてを説明する。

「まず、石英がビー玉の様な物に触れて見えた、空間に入るための扉だが…これは通常であれば人格一つが入っているので扉を開けるには賢浄者が一人必要となる。帰ってくる際は持ち込んだ水晶を破壊すれば帰る事はできる…だが今発覚した問題、人格が二つだと仮定する場合は……賢浄者も二人必要になるんだ」

そういう事なら…確かにそうだ…現状賢浄者足りえるのは石英さんだけ…他の賢浄者を探そうにも昔だったらまだしもこの現代に石英さんのように残っているとは考えにくい…

「それだけど、多分私が麗美の片方やればいいでしょ?」

優秘がそう言う。確かに、優秘は純粋な賢浄者では無いにしても石英さんと同じかそれ以上の能力はある…だが同時にそれは…

「確かに、それをすれば解決ですが…それをすると…優秘ちゃんは取り込まれる可能性があるんです」

なんとなく分かる、優秘は恐らく祥子の俺に対する何かの『秘めた想い』が実体化したものだ…

そして祥子の生み出した空間と祥子自身のどちらかが、空間内では同じような存在である優秘を取り込んでしまうかもしれない…

「えっとつまりだな、この写真を見て欲しい。これは材架賢人から預かった啓三祥子の写真だ…そして顔立ち等を見てもらいたい…青い髪と薄い紫の黒髪、確かに髪色は違うが形や顔はほぼ同じだ…そして材架賢人の話から啓三祥子のなんらかの想いが材架優秘を構成していると考えられる…」

福井のお父さんはそう言いながら祥子の写真を机の中心の置く、

委員長と福井はその写真を見て優秘と見比べる。

「うわ、マジだ!双子レベルで似てるぞこれ!!」

福井はそう言いながら驚く。

「…殆どがお姉ちゃんと同じ、確かに…お姉ちゃんに取り込まれるかもしれないですね…」

皆が納得して、皆が浮上したその問題に頭を抱えた…

優秘が手伝うなら、祥子(陽子さん)は助かるかもしれないが優秘は取り込まれるかもしれない…

優秘が手伝わないなら祥子(陽子さん)は助からないが優秘はこれまで通りの生活を続けられる…

答えは、とても簡単だった。

「…諦めるしかないだろう、急に出てきたとはいえ、優秘ちゃんとて今は人間だ。それを侵す事は出来ない…」

福井のお父さんがそう覚悟を決めて言うと、優秘は無邪気に尋ねる。

「え?何で諦める必要があるの?私消えないよ?麗美と賢人が繋ぎ止めてくれるから絶対消えないよ?」

俺は、話の根本を理解してなさそうな優秘に現状を伝えようとしたが…

…パン!

それは、石英さんの手が、優秘の頬を叩いた音だった…

「いきなり何言ってるんですか!優秘ちゃん、貴方はもう理解してるはずでしょう?自分が消えるかもしれないって!」

…パン!

優秘は石英さんのその言葉に、怒りながら石英さんの頬を叩き、答えた。

「麗美達こそさっきから何言ってるの!私が取り込まれるとか解決できないとかなんとか!そもそも私は身体があるんだし消えるわけないでしょ!!それに私は私!材架優秘!!陽子でも祥子でもない!!とりあえずこれ!心配なんだったらちゃんと私の事も調べてよ!」

それは、優秘が昨日読んでいた石英の本だった。優秘はそれを叩きつけるとこの前母さんが用意した、優秘の部屋に閉じ籠ってしまった。

「…この本は?」

福井のお父さんはその本を開いて中を確認する。

そしてそれを覗き込むように委員長と福井も見ていた。

「それは…確か人が想いによっておこる一般的な副作用と対策について記されている本です…ですが優秘ちゃんは…人なのかが怪しいですし…」

石英さんは正座してそう言う。

「ん?この項目そうじゃないの?想いに飲まれて消えてしまわないようにするって書いてるし」

委員長が項目を発見し、福井のお父さんと福井に指し示す。

「なんだ、石英。あるんじゃないか…対策」

福井のお父さんがそう言うと、石英さんは少し俯いて言う。

「…確かに人が消えない対策はあります、ですが彼女は人なのか…それがあやふやな以上私は…」

それを聞いた俺は、真剣な表情で言った。

「俺も、その案には同意しかねる」

一同は真剣な表情で、俺の言葉を聞いていた。

「俺は優秘の兄として、アイツを危険な目に合わせる事は容認出来ない…対策があったとして、それが立証できるのは何時だ?今すぐできる事ではないはずだ…なら今は…」

…ダン!!

扉が力一杯開けられる音がする。

「なんで賢人も分からないの!?私は人だよ!?検査だってして兄弟だって証明されたよ!?それに検証だって私もしたし!!その本の通りにやって近くの怖そうな黒い廃墟も一人で突破したもん!怖かったけど」

優秘には後で色々説教が必要だが、今の発言で大事なことは、この本の通りに優秘が対策して無事であったという事だ。色々と状況は違うが、これで本の信憑性と、優秘は普通の人であるという事が保障されたのだ。

「…優秘ちゃん、無理はしてない?」

福井のお父さんがそう尋ねる。

「うん、大丈夫」

お互いに、目と目を見合わせて偽りがないかを確認する…

「…分かった、石英…お前の負けだ、こいつは放っといても勝手についてくる気満々のようだ…それでは流石に危ないし、どうせ付いてくるなら対策させた方がいいだろ?」

福井のお父さんがそう言うと、石英さんは謝った。

「…はい、すみません…」

福井のお父さんは少し笑顔を見せて言う。

「はは、まぁお前も少しは信じる事を覚えろ、初めて会った時の疑い深さの角も大分丸くなってきたしな」

福井のお父さんは荷物をまとめ始める。

「あれ?親父もう帰るのかよ?」

福井がそう尋ねると、福井のお父さんは言う。

「まぁ、今得た情報もかなり重大な情報なんでね、今から忙しくて俺は死にそうだよ…さて、

翔太、お前はお前で委員長殿に勉強を教えてもらえよ?勿論優秘ちゃんからでもいいぞ?」

福井は少し馬鹿にされてることを理解し、反発する。

「何言ってんだ親父、親父も早く帰らねぇと母さん怒るぞ?」

福井のお父さんは荷物をまとめ終わり玄関へ背を向けて言う。

「…石英、お前はよく聞いておけ、恐らくこれだけ情報が揃ったから夏休み前には突入する準備が出来るはずだ…追って連絡するがそこは覚悟を決めておくように…勿論我々も同行する、子供だけでは危険なのでな…以上だ。時間を取らせたな…ゆっくり勉強会をしてくれ……というか是が非でも翔太には教え込んどけ!!」

そう言って逃げるように福井のお父さんは出て行った。

「待て!この親父今何…!?」

福井は自分のお父さんを追いかけようとするが、優秘と委員長に捕まる。

「さて、福井くん…お父様の期待に答えなければですね…」

委員長が笑みを浮かべてそう言う。

「今日は数学一杯教えるね?」

優秘も悪乗りして便乗していた。

「おおい…マジかよ…材架ァ!助けてくれ!」

福井の助け声が聞こえる。

「さて、石英さん…俺達も夕食の準備を始めますか」

俺が石英さんにそう笑顔で言うと、それを見た石英さんは暗い顔をせず、少し笑って答えた。

「はい、今日はカレーにしましょう!」

無視された福井は、その後手酷い教育を受けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ