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消えない想いの幻想  作者: マテリアル
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新生活と追想

少年は絶対に忘れない。その想いは胸に残り続ける。

私はきっと分からない。その感情は理解できない。

だからこそ、この間違いは起こったんだね…

そこは、真っ暗で何も見えない空間だった。

確かに壁はあるし先だってある、だが何一つとして見えない。そして俺は気づく。

『そうか、俺は自分のやるべき事を間違えてたんだ』

そう言葉に出すと急に辺りは寒くなったように思えた。そしてその冷気の先に、一筋の光を俺は目にした。

『まったく、どうやったら間違わなかったんだろうな。俺にはもう、この先に進む権利も戻る権利もない。』

俺は一筋の出口の光しか差さない、冷えた暗闇の空間に座り込む、地面は恐ろしく冷たい。

これは罰だろう、そう思った時、

光指す出口ではない逆方向、つまり俺の真後ろから1人のスーツ姿の青年の様な人が歩いてきた、だが、俺はこの青年を知らない…

「お前はここで果てるのか?それがお前の積み上げてきた年月だったのか?」

青年は俺の真後ろで歩みを止め、俺にそう問いを投げた。

『俺は間違えすぎた、何も分かっちゃなかった。もう流石にやり直しでもできない限りどーしようもないさ。六年前ぐらいにな。』

俺は皮肉を口に出した。だけど何故だろうか、

俺は青年に期待している、いや、青年の答えを求めている。あぁ、そうだ、何故なら…

「なら、ここで死ぬのもありだろう。」

そうだ、この言葉を、この裁定を下されたかったからだ。だが、青年は発言を続けた。

「でもそれで良かったのか?お前のやりたいことはもうこの結末で良いのか?」

既に死んでもいい、と許されたと一瞬だけだが安堵した俺にはとても酷い一言だった。だからこそ言い放つ。

『やりたい事はもっとあったさ!だが俺は何一つとして正解を出せなかった!!もううんざりだ!!』

青年は俺の放った言葉を最後まで聞き届けると、後ろを向き、来た方向へ戻り始めた。

「なら、最後に何かやればいい。ボクからはそれだけだ。」

青年の気配は、その言葉を最後に消えていた。

俺はどうしたいんだろうか。

どうしたかったのだろうか。

そう考えているうちに体は冷気で冷たくなる。

そう思っているうちに寒さで何も感じなくなる。

『俺は…』

ついには意識すらも遠くなっていく…


そこは緑の山々、豊かな自然溢れる田舎なら何処にでもあるような普通の住宅街だった。いや、街というには少し家が少ないような、そんな田舎に、少し忙しそうな、一家があった。

「ちょっとー?これは必要なものなの?」

彼の母親の声が響く。

「それ多分必要なものだから詰めといて、てか大体必要なものは昨日まとめてるはず…」

家の前に止まっている車に荷物を積み込みながら彼は言う。

「まったく、過保護な母さんなんだから…」

そう、俺は今年で高校生になるのだ。だがこの近辺の高校ではなく少し都会の高校を専攻した為、彼は引越しをすることになったのだ。

即ち、俺にとってこの日は、長く過ごしたこの故郷を去る日なのだ。

俺の名は、材架賢人。このあたりでは珍しい苗字だ。

母さんの話では一昔前はかなりの富豪だったと聞いているが見ての通り今ではただの平凡な田舎の学生だ。

「さてと、とりあえずこれとこれは必要なもので…えーっと、」

賢人がそう荷物を確認すると、ひとつ気になることを思い出す。

(そういえば以前、なにか大事なものをもらったような…どこに置いたっけな?)

ふと気になったその大事なものを探して俺はもうすぐ離れる家へ入った。

「母さん、ちょっと部屋で探し物してくるから何かあったら呼んで」

俺はそう作業中の母さんに言伝をした。

「いいけどあと30分で出ないと電車間に合わなくなるよ」

母さんがそう忠告してくれたので、すこし慌てて俺は自室へ向かう。

自室に着くと、そこは結構片付いていて、少ししんみりしていた。

「さて、たしかアレは引き出しの中の入れ物に入っていたはず…」

賢人は引き出しを漁る…そしてそれを見つけた。

「あーあったあった、何時ぞやにもらったペンダント。」

意外とあっさり見つかったそれは、薄紫色のアレクサンドライトを中心にダイヤモンドを円周に作られたペンダントだった。

「確か小学校の時に幼馴染からもらったんだよな、あいつは元気してるのかな…」

少し昔のことを思い出そうとするが、賢人は今時間がないことを思い出し、ペンダントを首にかけて服の下に隠した。

「これでバレないし落とすことはないだろう。よし、それじゃあ行こうか。」

賢人は自分の部屋を出る。もうしばらくここへは戻らないだろう…


荷物も積み終わり、知り合いの叔父さんに車を運転してもらいながら俺は駅へ向かっていた。

「賢人くんも早いもんだね、つい最近までちっちゃかったのがこんなに大きくなって」

「えぇ、まぁそこそこ運動もしてましたので…」

俺はおじさんの話になんとなくそう返した。

「でもまぁ都会デビューだなんて大きく出たねぇ、知り合いとか友達とか向こうにいたりするのか?」

「いえ、向こうには友達とかそういった人はいません、こちらでもあまり居ませんでしたしその辺りは不安ですね…」

そうだ、俺は正直人付き合いが苦手だ。正直高校だって楽しみで行くのではなく自分の道を確信のある道に変えるため、要するに学生の本文だけで頑張るために行くようなもんだ。

「そっかー、賢人くん昔からあまりいろいろな子と遊ばなかったからねー。そうだ、ひょっとしたら向こうに小さい頃いつも遊んでた幼馴染の子がいるんじゃないか?」

「さぁ、どうでしょうか…その幼馴染だってもっと別の道を選んでると思いますよ」

そりゃそうだろう、同じ場所に昔いたからといって世界は広い、同じ高校になるなんてそれこそ奇跡だろう。

「まぁ色々頑張れば道は開ける!なぁ材架さんよ!」

叔父さんは意気揚々に母さんにそう話を振る。

「まぁ、この子次第ですよその辺は。そういえばこれ、この前大阪のお姉さんからいただいたお菓子なんですけど受け取ってください」

母さんはそう言いながらお土産袋を差し出す。

「おお、それわしの好きな奴や!有難く頂くで!そこ置いといてくれ。ええとなんの話ししてたっけな…まぁいいか、ほな駅つくでー」

既に駅は目の前に見えていた。


母さんとのしばらくの別れとおじさんへのお礼も終わり、俺は電車の中で景色を見ながら都会の街への到着を待っていた。都会といっても東京というわけではない、少し遠い、電車で2時間もあれば着く所だ、向こうについたらまずこれから住むマンションの住所へ向かわないとな。

(しかし携帯も進化したよなー。これ一つで住所のところまでナビしてくれるんだから。)

彼の手にある携帯はスマホだった。つい最近買い換えたのだ。

(しかし、海も綺麗だなぁ…)

窓から見える海の景色は晴天の空に照らされとても綺麗に写っていた…

(少し寝るか…時間もあるし…)


何時からだろうか、俺は丘の上で緑の山々に沈んでいく夕日を見ていた。

「ねぇ、そうやって逃げたの?」

青いワンピースを着た薄い紫の黒髪の少女はその肩幅まであるような長い髪を風に揺らしながらそう尋ねた。

「いや、逃げたんじゃないよ。俺は感情的になっちゃいすぎたんだ。」

俺はそう答えを返す。少女は笑顔でそれを聞いた。

「そうなんだ。じゃあ私も感情的なのかな?」

少女は無邪気にそう俺に問いを投げてくる。俺は少し怠かったがその問いに答えを投げた。

「お前は感情的でないだろ、むしろその逆。何時もヘラヘラして人を観察しているだけ。その分対策だけは天下一でさ、問題を解きまくってるじゃん。どっちかっていうと理論派だろ?お前。」

理論派。少し前に覚えた言葉だ、偶然テレビで感情派と理論派のクイズバトルの番組があって知ったのだ。

「りろん?なにそれ?ふふ!少し勉強したんだ。賢はそういうところあるからね」

少女は無邪気に俺に言葉を返す、理論の意味なんて恐らくコイツは知っているんだ。だったらと思い俺は言葉を投げた。

「そうそれ、難しい言葉を知ってるなら勉強してるだろうという予測、感情なんて一切ない理屈。それを理論的って言うんだよ。」

俺は気が立っているせいもあって少女に強くあたってしまったが少女はそれすらも笑顔で聞き流した。

…だけど、夕日もとっくに沈み、薄暗くなったと同時に少女の笑顔は消えていた。

「でもね、賢がどうやったって、こんな考えじゃなんとかならない事もあるんだよ、だからちょっと羨ましいんだ。そういう所。」

俺は、どこが羨ましいんだと思い少女に背を向け地面に座り込んだ。

「感情ってね、凄いよね。自分が絶対悪くなるー絶対自分が勝てないーってなっても諦められないんだから。だから私は賢とね――――」


《えー次は――》

電車の車内アナウンスが聞こえ、俺は目を覚ました。

どうやら深く寝てたみたいだ、既に1時間30分は経っていた。

「さてと、そろそろ降りる準備をしないとな、てか思ったより早いな。この分だともう昼にはアパートに着くか。」

そういえば、少し夢を見ていた気がする。まだ子供の、小学正の時の思い出の一部を。

「あの頃も今も、俺はまだ変わらないんだろうな。本質は多分。」


駅を降り、スマホのマップを頼りに目的地のこれからお世話になるマンションへキャリーバックに入った重い荷物を引きずって少しずつ足を進める。

「そういえば、大きな荷物とかは既に運んでるんだっけ。流石に電車に乗らないものもあるだろうしな。」

少しクスッと笑って、俺は周りを見渡した。

「てか、あのド田舎に比べたら、多少は建物が多いな。まぁ大都会って訳ではないからこのぐらいが当たり前か。となると多分あそこだな。」

辺りには少しの民家やビルが有り、近くには山があったりと割と都会でもなく田舎というわけでもない住宅街だった。そしてスマホのマップが示す目的地と思いし所はすぐ目の前にあった。

「えっと、ここの606号室ね。3階の右端かな?エレベーターもあるみたいだし使わせてもらおう…」

少し足取りも軽やかになってマンションに入り、エレベーターに乗り込み、3階へ向かう。

3階に着いて、右端の方へ部屋番号を確認しながら進んで行く…

「604…605…606、ここだな」

「608…607、ここね。」

気づくと隣に同じ年代と思しき白いコートを着た女子が居た。向こうもこちらに気づいたようだ。

「あ、こんにちは。多分…隣の材架です。」

俺はそう挨拶をした、女子はそれを聞くと不思議な顔をして挨拶を返す。

「あら、お隣ですか?これは奇遇ですね。私、今日からここに住むことになった石英麗美(せきえいれいみ)といいます。宜しくお願いしますね。」

お互い挨拶が済むとどちらも少し笑顔で新しい扉の鍵を開けた。


部屋は2LDK程の部屋だった。学生一人暮らしからすればとても豪華、と思えるかも知れない。

そのあたりの知識は結構浅いので俺はよくわからない。

とりあえず荷物を部屋に置き、ソファに横になって親に連絡を入れる。

賢人:今着いたよ。結構広くて安心した。

母:お疲れ、まぁ学校は明日からだし、とりあえず明日の荷物を準備してゆっくりしなさい。

(とりあえずか、まぁやっとくか…)

そういえば、ふと気づいた。

「…飯どうしよう」


4月10日、多くの学生の春休みが終わり、ある者は新品の学生服に身を包み、ある者はスーツを身に付けそれぞれの行くべき場所へ向かっていく。俺もまた、その一人だ。

「…とりあえず、近場にスーパーがあって助かった。」

新品の制服に身を包み、新品のカバンを手に俺はそう零した。

結論から言うと、昨日今日だけの飯は何とかなった。母さんに、近場にスーパーがあるという話をしてもらっていたのを思い出したからだ。

だが、そんなことを続けていては仕送りだけでは一ヶ月は生きていけないのだ。

「とりあえず、今日料理できる人を探そう…」

新しい季節、新しい空気のはずだが、材架賢人は食の心配をしていた。


マンションから10分程歩けば、俺が通う事になるこの私立高校に辿り着く事が出来る。

まぁ、割と近いのだ。これからお世話になる教室に入室し、指定された席に着くと俺は昨日の女子に会った。

「あら?ここでもお隣ですか?奇遇ですね、フフッ…」

本当に奇遇である。と言ってはいられないのだ。俺には明日明後日とそれ以降を生き延びる為に…

「あの、石英さんって料理とか出来ますか?」

我ながらかなり恥ずかしい、と言うか無能を晒してる気分だがやむを得ない。

石英は、そんな俺に何だ、そんなことかとクスっと笑って答えた。

「そう言えばお互い、一人暮らしでしたね。私は簡単なものなら出来ますよ。でも、料理屋さんのように上手くはいきませんが…材架さんは経験あります?」

勿論俺は経験など皆無だ。だがこれで生き延びるチャンスを手に入れられた。例えるなら、サバイバル生活が始まった途端空からすべき事のマニュアルが降ってきたようにだ。

「いえ、あまり経験がないので近くのスーパーでどんなものを買ったりしたらいいのか知りたいなーって…後料理の仕方とか…分かるならお願いします。」

とんでもなくみっともないと俺は思っていたが石英さんはかなり優しかった。

「いいですよ。それじゃあ今日の帰りに材料の買出しに行きますのでご一緒しましょう。料理は材架さんの家でも大丈夫ですか?ちょっとまだ私の所は荷物が上手く片付けられてなくて…」

神は恐らく存在するのだろう。少なくともこの時の俺はそう思っていた。

「分かりました、俺は昨日片付けれてますので全然大丈夫です、よければ荷物の仕分け、手伝いますよ。」

《…キーンコーンカーン》

学校のチャイムが鳴る。教師が教室に入って来て人数確認を行っている。恐らくこの後入学式だろう…

俺は料理教師も得られたので、ものすごく落ち着いていた…


入学式も無事終わり、担任の自己紹介も俺自身の自己紹介もうまくいき、今日の学校は終わった。

今更ながら俺が選考したのは情報ビジネス科というものだ、ここではいわゆる情報社会やIT企業等に有効な資格取得やそれを使っての就職活動を目的とした専門学校のようなものだ。とはいえ就職できるかも、努力次第なのだが…

「材架って珍しい名前だな、俺は福井翔太。よろしくな!」

そう言いながら手を指し伸ばしてきたのは前の席の福井だ。俺はその手に握手をして挨拶する。

「あ、あぁ。宜しくな。俺は材架賢人…ってもう知ってるか。」

もうかえっていい時間らしいので俺は荷物をまとめ始める。

「そういえば知ってるか?この辺の公園付近で最近不審者がいるって話」

福井は俺にそんな話題を吹っかけてきた。俺は大したことのない話題だと思ってそれを簡単に流す。

「そんなの多分ヤバイ奴ってわけじゃないよ。まぁ気をつけとく、んじゃ俺帰るわ」

おう、また明日会おうぜっと福井は去り際の俺に挨拶したので俺も手を振って挨拶しておいた。

とりあえず、いい友人もできただろう…そういえば、石英さんはどこへ行ったのだろう…


校舎を出ると、校門のところで石英さんは待っていてくれた。

「新しい友人とのコミュニケーションは上手くいきましたか?」

少し微笑んで石英さんはそう訪ねてきた。

「まぁ、何とか新生活も上手く行きそうかなーって感じです。石英さんはどうでしたか?」

すると、石英さんは道路の先にある公園の方を見ながら言った。

「私は…そうですね、なんとか上手く行きそうです。」

俺は石英さんが見ている方の公園を見て福井に言われた話題のことを思い出した。

「そういえばあの公園、不審者が出るらしいですよ。前の席の福井が騒いでましたし…」

すると石英さんの口から恐ろしい言葉が放たれた。

「そうですね…多分アソコにずっと居るんですね…彼、誰かを探して招いてるんでしょう…」

石英さんの言っている意味が、その時の俺には全く理解できなかった。



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