第44話 高みへ。
「なぁ、出来ないとは言わせないぜ?」
にたりと笑う顔。俺は恐怖に震える。
「ーーはっ!はぁ、はぁ、はぁ。」
汗がびっしょりと出ていた。
「くそ、嫌な夢を見た。」
俺は洗面を済ませ、用意をし、朝食へと向かった。
「カザカミはーん!おるかー!」
朝飯を食っていると元気な声が外から聞こえてきた。
「ねぇ、リュウ呼ばれてるよ?」
「まじかよ、朝からヘルダとか、疲れるじゃん。」
と会話をしているとバーンとヘルダがやって来た。
「なんや、疲れるとか言わんといてや。ええやん、ええやん、あっ!嬢ちゃんー!コーヒーとモーニング1つなー。ほれ!色々やったでー!」
おい、なにドサクサに紛れてモーニングの注文をしてんだよお前は。
「ほれ、これが、赤い服な、で、こっちが白鬼や、少し強化しといたで!次がこの刀や!」
ヘルダがパーカー、ガントレット、刀と順に出す。
よし、返ってきた、俺のアイデンティティのパーカーよ!
「いやー、この刀ほんまに凄いな!まさかの神天武器の一つやとわ、驚いたわ!」
「神天武器・・・?何だそれ?」
「神天武器っちゅうのはな、この世に四つしかない天使が宿っとるっちゅう武器や。わいも初めて見たで。」
まじかよ、そんな凄いもんだったのかよ、確かにかの魔将様も凄いとか言ってたような?
「ええ武器を持っとるのカザカミはん!お陰で凄いもんを拝ませてもろたで。」
「ねっ、あのさ!具体的にどう凄いの?天使が宿っとるって言われてもボク、ピンとこないよ?」
あー、確かに、よく分からんわ、ぶっちゃけノリで驚いてた。
「しゃーない、説明したるわ。この武器の特徴はやな、持ち主によって変化するんやで。カザカミはんは刀の形やけども、前の所持者はハンマーとか、弓とか、槍とかいたらしいんや。ほんま面白い武器やろ?」
確かにな、持ち主によって変化ね、俺は刀が1番だと判断された訳だ。なんかテンション上がるな!
「も1個の特徴としては天使の力を使えるらしいんや。確かカザカミはんのその刀は『神天・裁キノ力』やったな、裁キノ力は炎を操る力があるで。」
炎・・・そう言えば初めて持った時も熱が凄かったな。しかし、なんで発動しないんだ?なにか条件があるのか?
「へー、炎ねー、でも、1回も出たことないよね?」
「ああ、よく分からん。」
「たぶん条件を満たしてないとか、そこら辺やろ。わいもよう分からんかったからな。まっ、色んなことを試すといいで。」
せやな、まっ、気長に待ちますかね。
まぁ、こんな感じで武器についてヘルダと話をしていると俺らを送ってくれた初老が宿にやって来た。
「失礼します。SSランク昇格の準備が整いました。カザカミ殿をお迎えにあがりした。」
「なんや、もうそんな時間かいな。」
「ヘルダ殿をこちらにおりましたか、では、ご一緒に。」
えっ?なに、ヘルダも呼ばれてんの?
「ほな、行こか!」
「お連れ様もご一緒に。」
「だってよ、行こ!リュウ!」
俺はノアに手を引っ張られ、それについていく。
「ああ、分かった。」
俺らは初老の男性についていく。
「いやー、カザカミはんの昇格楽しみやわー、なっ、ケコリアはん。」
「そうですね、自分も久々に昇格を見ます。」
「そうやったな、ケコリアはんは天候が悪い時は呼ばれるんやったなー、」
「ヘルダさんは、いつも仕事が来ますもんね、ずるいです。」
神同士で会話している。これってスゲー豪華なんだろうなー、実感がわかん。
「しかし、ケコリアはんはカザカミはんと一緒にいたときはビックリしたわ!」
「ええ、リュウさんについていくと沢山の人を救うことが出来る気がするんですよ。獣の勘って奴ですね。」
「そうかいな!わいもカザカミはんは、面白い人やなーなんて思っとったでー。」
うわー、なんか恥ずい!とても恥ずかしい。俺にひかれる要素なんて無くない?
「うんうん、分かる。リュウは面白いし、なんかやってくれそう。実際に助けてくれたしね。」
ノアさん、小声でなにを納得してるんだよ。やめてくれよー!
なんて会話をしていると目的地に着いたみたいだ。
「着きました。では、カザカミ殿はこちらに、お連れ様はここで暫しお待ちを。ヘルダ殿は予定通り準備をお願いします。」
「分かったでー、ほな、カザカミはん、数時間後会おうなー、」
ヘルダは手を振り、この場を去っていった。
「じゃっ、後でな。」
俺はノアとケコに手を振り、初老の男性について行った。
ついて行った先はなんか豪華な部屋だった。
「ここで、こちらにお着替えください。」
と出されたのはなんか騎士みたいな鎧だった。めっちゃキラキラしていて、スゲー目立つ。マントとかついてんじゃん。これほんとに着るの?
「こちらはSSランク昇格時に着る礼服でございます。」
心を読むなよ、もっと地味なのがいい。目立ちたくない。でも着替えんといかんのだよな。
俺は渋々、その鎧に着替える。
でも、何だかんだで鎧を着るのははじめてだな。重そうで着なかったし、パーカーが、強くなっちゃったし、なんか新鮮。
「お召になりましたら、お連れ様とお待ちください。では、」
初老の男性は一礼をし、その場を去っていく。俺は言われた通り、ノアたちの所へと戻っていく。
「おかえりー、っておお!なんかすごい格好してる。なに?何なの?コスプレ?」
「ちげーよ。動きずらいし、脱ぎたい。」
「それはSSランク昇格時の衣装ですね。なんかいつものリュウさんじゃなくて新鮮ですね。」
「へー、そうなんだ。まぁでも結構似合ってると思うよ、なかなか様になってる。」
「ああ、ありがとう。褒められるとは思わなかったな。」
俺らがしばらく待っていると再び初老の男性がやって来た。
「では、カザカミ殿、こちらに。お連れ様はあちらの方に移動してください。」
さてさて、今からですかね、さて、気を引き締めていきますか。
俺が初老の男性についていくとそこには沢山の人がいた。凄い歓声が聞こえる。マジで?
「SSランク昇格するもの、カザカミ リュウト、前へ!」
突然巨大なファンファーレと共に俺の名が呼ばれる。俺はゆっくりと前に進んでいき、なんか偉そうな人たちの前にたどり着いた。
なんだよこれ、こんなの聞いてないぞ。いつぞやのギルドマスターもいるし、なんか王冠被ってる人いるし、やばい、超帰りたい!
そして、ギルドマスターが喋り始める。
「昇格試験合格につき、冒険者カザカミ リュウトをSSランク昇格とする!彼の強さは本物である。」
堂々の宣言である。恥ずかしいと思う反面、やはり嬉しいものもある。強さは本物、俺の力が認められたという事だ。
「では、王よ一言お願いします。」
王も喋るのか、なんか予想以上に大きなイベントなんだな、これは。
「うむ、冒険者カザカミ リュウトよ、日々精進をし、世界の為にその力を発揮せよ。其方の活躍期待しておるぞ!」
膝をつき礼をする。
「はい。」
わーと歓声が聞こえる。
「では、SSランク昇格に至り、『鍛冶神』ヘルダ殿からの武具の贈呈。」
えっ!そんなのがあるのかよ。なるほど、仕事ってこれか、ヘルダも大変だね〜。
スーツっぽいビシッとした格好で、髪も、なんかガチガチに固めた、ヘルダが、登場した。
ぶふっ!やべぇ、超似合ってねぇ、やばい、笑っちゃいかん、だけど、わ、笑いが、ククク、
「これが私が作りました。カザカミ殿への贈呈品です。」
関西弁のないヘルダが手に持っていたのは白いグリーブだった。とても綺麗なものだった。
「名は『白虎鋼足』。霊獣が1匹白虎の素材を使用しました。きっとカザカミ殿を守ってくれることでしょう。」
俺はそれを受け取った。
贈呈品を受け取り、俺のSSランク昇格は幕を下ろした。俺はSSランクへと、冒険者最強ランクへと足を踏み入れた。
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「いやー、凄かったねー、いっぱい人いたねー、どう、緊張した?」
「分かりきったことを聞くな。あれだけの大人数が見ていて、王様やギルドマスターがいたんだぜ?もうやばかった。めっちゃ体が震えた。」
「でも、見た感じそうでも無かったよ?堂々としてたし、カッコよかったよ!」
「お、おう、そうか」
なんか照れるな!普通にカッコよかったとか言われると照れる!
「いやー、リュウも遂にSSランクかー、なんか違いが分からないね!」
「まぁーでも、なったばかりだし、これからだろ。」
「そう言えばさ、ヘルダさんのあの格好は笑えたね。全然似合ってなかった。」
「そうだな、笑いこらえるの必死だった。アレが仕事なんだろ。」
「はい、そうです。ヘルダさんは毎回SSランク昇格に来て新たなSSランクの方に武具を渡しているんですよ。」
「リュウもスゴイの貰ってたね!白いの!」
「おう、」
俺はズボンを捲り、グリーブを見せる。
「いいもん貰ったわー、しかも文字付きらしい。」
「へー、文字って言うとリュウのパーカーにもついてるやつだよね。」
「そう、今回は『速』『硬』の文字が入ってるってさ。」
「そうなんだー!」
俺らが何気なく、食事処で、SSランク昇格時の話をしている時。不意に扉が開かれる。これは普通のことだ。
だが、とても嫌な予感がした。俺は何気なく扉の方を見た。見てしまった。そこには見覚えのある男を先頭に数人の男達がいた。
「ーーーーっ!!!」
ブワッと冷や汗が出る。
こいつとは一生会いたくないと思っていた。なのに、何でこんな所にいるんだよ。
「どうしたの?リュウ?」
「いや、何でもない。」
男達はゆっくりと歩き出す。
気づくな、気づくな、気づくな。心臓がバクバクと大音量で鳴いている。
そして、ピタリと男は俺の前で足を止めた。
「おやおやおやー、まさかのまさかだな。こんな所で出会えるとはな驚きだな?」
こいつ、俺がここにいると分かって来ているな。
「いやー、懐かしい奴に出会えたな、感動の再会ってやつだ。俺は嬉しいぜ。なぁ、リュウト。」
「俺はお前には、お前だけには絶対会いたくなかったよ。軍上 雷牙!」
俺はこの世で1番嫌いな奴、敵に、出会ってしまった。




