6話
「きゃっ!」
突然引っ張られ驚いたのか、腕の中で小さな悲鳴が聞こえた。
俺に殴られた男は気を失なったのか、白目をむいて動かない。
変わりと言うわけではないが、最初に蹴りをいれた男が脇腹を押さえ、睨みつけるように俺を見据え立ち上がっている。
「調子にのるなよてめぇ……不意討ちで動揺したがここまでだぜ」
男は蹴られた時に落とした銃を拾い構える。
残るは4人、魔導銃を持っているから最悪刀を抜くことも考えていたが、魔装術式を見る限りたいしたことはない。
懸念があるとすればやけに
大人しく腕に収まってるこの子だが、魔導銃相手に庇いながら素手で戦うには厳しい。
ここは少し協力してもらうしかない。
そう判断して、男達に注意を払いながら小さく呟く。
「悪いが君を庇いながら戦うのは厳しい。君はさっき魔装術式を使えたよな?俺が合図したらここから離脱してくれ」
「……」
おかしいな返事がない。
小さくは呟いたが、けして聞こえない大きさではなかったはずだ。
もしかして怖くて声が出せないのか?
だとするとまずい。
そんな状況で、魔装術式を発動させて単独で離脱するは無理だろう。
「穏便に済ませる気はあんたらにはないのか?」
「寝言は寝てるときに言え!俺を蹴り飛ばした挙げ句、仲間を殴り飛ばしたんだ。ただで返すわけないだろうが」
この様子だと時間稼ぎも限界、いつあいつらが射ってきてもおかしくない。
ここはなんとしても動いてもらうしかない。
俺は仕方なく危険ではあったが、腕の中で動かない子に向けて顔を下げた。
視線がぶつかり合った。
俺は思わず目を見開いて驚いてしまう。
怯えていると思ったら、呆けた顔で顔を赤くさせて固まっていた。
この状況で何を呆けてやがるんだ。
こっちは命懸けで助けに入ってやったってのに、頭にきた俺はかなり強めにデコピンをかましてやった。
コツンッ!
乾いた音ではなく重い音が鳴る。
我ながらかなり痛そうな音がなったな。
「いっ!……なにするのよっ」
ようやく乾いてきた涙を再び浮かばせ、抗議をする美少女。
「なにするのよじゃないだろ。状況わかってるのか?なんでアホみたいに呆けてるんだ?」
「アホみたいにって……!呆けてたのはあんたのせいでしょ!」
敵のことなど気にしていないのか、大声でぎゃーぎゃーいい始めやがった。
耳が痛いし勘弁してほしい。
「なんで呆けたのが俺のせいになるんだよ、うるさいから近くでそんなに叫ばないでくれ頼むから……」
「なっなんでって、それは……その……しっ知らない!ともかくあんたが悪いの!」
助けてもらっておいて俺の何が悪いのか、助けたのは失敗だったかもしれないな。
うるさいし文句は言うし美少女の無駄遣いだな。
「あんた……なんか失礼なこと考えてない?」
「全然まったくこれっぽっちも考えてない、随分可愛い顔してるんだなって思ってただけだ」
顔がよくても中身がそれじゃプラマイゼロだけどな。
口には出さないけども。
「かっ可愛いってばっバカじゃないの!変な目で見ないでよね変態!」
「誰が変態だ誰が……そんなことより彼方さんがそろそろキレそうなんだけど、合図したらここから離れろよ」
「言われなくても変態の近くになんかいないわよっ!ふんっ!」
「いつまでぐっちゃべってやがる!馬鹿にするのも大概にしやがれ!」
自分達が無視されていたのがよっぽどムカついたのか、今にも噛みついて来そうな勢いで息を荒くしている。
「馬鹿にしていたわけじゃないんだけど、戦いは避けられないみたいだから骨の数本は覚悟してくれな」
「はっ!その前にてめぇを殺してやるよ!」
男達が引き金に指をかける。
「今だ!走れ!」
それを合図に美少女は魔装術式を発動、俺の近くから離れていく。
それを横目に俺も魔装術式を発動、足に魔力を集中する。
バンッ!バンッ!バンッバンッ!
最初の銃撃とは違い。
何発も銃弾が一斉に放たれる。
(これだから魔導銃はやっかいなんだよ!)
魔術を一度記憶させれば、着弾ど同時に記憶されている魔術が発動する。
しかも、魔力が切れない限り弾は無限だ。
いきなり正面突破は難しいと判断。
俺は銃弾の雨を避けるために横へと走る。
危険を感じた野次馬が散りじりに逃げていく。
「どうしたどうした!避けてるだけが!」
自分の圧倒的有利を確信したのか、嘲笑うかのように挑発してくる。
たが、男は大きな勘違いをしている。
使い手がこんな奴じゃ魔導銃が可哀想だな。
俺が銃弾の雨を避けられている時点で気づかなくちゃいけなった。
なのに、それに気づいている素振りはまったく見せていない。
これなら容易に避けられそうだ。
あいつらが俺と同じように魔装術式を自在に扱えるなら話しは別だけど、それか出来ないのは既に確認済み、だからと言って油断はしない。
それが誘いで騙しの可能性もないわけじゃない。
俺は油断なく隙を伺う。
「くそっ!なんで当たらねぇんだ!」
明らかに男は苛ついていた。
それが致命的なミスをもたらす。
魔力を込めるのに失敗したのか、一瞬男の銃撃に遅れが生じる。
どんなに銃撃の雨を降らそうが、少しでも隙間が出来てしまえば十分だ。
急所以外は犠牲にするつもりで、俺は維持できるだけの全ての魔力を足に集中させて、出来た隙間に飛び込んだ。
「なっ!はやっぐはっ!」
一瞬で間合いを詰めると、俺の膝蹴りが男の顔面を打ち抜いた。
急所以外は当たる可能性も考えていたが、俺の身体に痛みはなく、上手く切り抜けたようだ。
間違いなく鼻の骨が砕け散っただろう男は、そのまま力なく地面に倒れた。
けれど、これで終わりじゃない。
残り3人、実力は既に倒れている男達より格下、一気に片付ける。
(既に間合いは"俺の領域"ここからは1発の弾丸もらうつもりはない!)
3人は焦ったように俺に銃口を向けようとするが、反応が遅すぎる。
「うぐっ!」
その間に1人、俺の蹴りを首にもらい転がるように倒れ伏した。
残りは2人……。
ようやく向けられた銃口から銃弾が放たれる。
けれど、銃口の先に俺の身体のどの部位もありはしない。
俺は"撃たれる前から"既に避けていた。
片方の男の後ろに回り込んだ俺は、背中に回し蹴りをきめると盛大にその男は衝撃で飛んだ。
「ぎゃはっ!」
その先には最後の1人が立っていた。
反射的にだろう、男は飛んできた男を受け止めた。
けど、それは悪手だ。
飛んだ男の背中に隠れるようにして、俺がすぐそこまで移動していたからだ。
男は気づいたが何も出来やしない。
男を受け止めたことで、両手はふさがっている。
絶望に顔を染めた男の顔面目掛けて拳を振り抜いた。
「ひぃぃぃっ!」
俺の拳は顔面には届かなかった。
鼻先ギリギリで止まっている。
男は抱えていた男もろとも地面に倒れた。
「倒れた奴らを連れてここから消えろ、領主が俺を捕まえるつもりなら相手になってやると伝えておけ」
男は何度も頭を振って頷いていた。
かっこつけて啖呵を切ったものの、領主相手に喧嘩を売って果たして無事で済むのかどうか、頭が痛い知恵熱がでそうだ。
嘆きたいのはやまやまだが、やってしまったことは今更どうしようもない、
なるよにしかならないだろうし今は後回しだ。
それよりも、この問題の渦中にいたあのじゃじゃ馬はどこに行った。
俺はそう思い周囲を見渡した。
野次馬は既に逃げているので視界を遮る物は少なく、あっさりと視界に捕らえる。
少し遠くから心配そうな顔をして、様子を見ていた。
正直面倒だが放っておくわけにもいかないし、力なく片手を上げて終わったことをアピールした。
すると、途端に笑顔になって小走りで近づいてくる。




