表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアムニション  作者: ななし
47/48

47話

「……でもっ!」



これだけ言ってもまだ納得いかないのか、ナーレは尚も食い下がろうとする。

その理由が推測できるだけに、連れていってやりたい思いもあるが、そんな偽善はナーレのためにも捨てなければならない。

再度、偽善を捨て厳しく言おうと決意を固めた時だった。



「だめって言ってるでしょ!ナーレには関係ないんだから、お姉ちゃんに任せて、大人しく待ってたらいいのよっ!」



「アイリスちゃんっ!」



俺が言うよりも先にアイリスが、同行を拒絶する言葉を口にした。

二人が争いにならないように、ここは俺が間に入って再度言った方がよかった。

イザベラもそれを察してか、アイリスを諌めようとしたようだが、時すでに遅かった。


案の定ナーレは怒ったのか、涙ぐみながらアイリスを睨みつけた。



「お姉ちゃんのばかっ!勝手に行っちゃえばいいんだよっ!」



怒鳴り付けるように、その言葉を吐き捨て、ナーレは飛び出すように部屋から出ていってしまった。



「アイリス、関係ないなんて言い方はないんじゃないか?」



「そうね。蓮ちゃんの言う通り、今のはママも容認できないわよ。アイリスちゃん?」



アイリスなら、ナーレがついてきたい気持ちがわかったはずだ。

他人ならまだしも、アイリスとナーレは姉妹だ。関係ないなんてことはない。

冷静であれば、あんな言い方をすれば、ナーレが傷つくことは、予測できたはずだ。


それでも、俺は部外者だから俺の言葉は単なる注意でしかないが、イザベラはそういうわけにもいかないだろう。

笑みは消えて怒りの感情が表にでていた。

でも、その怒りは他人にぶつけるものとは違うような気がした。

これが、母親が子に怒り叱る顔なのかもしれない。



「わかってる……ごめんなさい」



アイリスは、落ち込んだように顔を伏せていた。

アイリスのことだから、感情に任せて勢いで言ってしまったんだろう。

俺やイザベラが何も言わなかったとしても、本人は反省していたに違いない。



「謝る相手が違うでしょ?後でちゃんと謝りなさい」



「うん、ちゃんと謝る」



アイリスは反省しているようだし、後はナーレが許してくれるかどうかだな。

すぐに謝らせに行かせるのもいいが、熱したフライパンと同じで今は怒りが熱い状態だろう。

下手に触って火傷するよりは、覚めた頃に触れる方がいい。

それに、急を要する依頼もあるし、ちゃんと謝るのは依頼を完了した後になるだろう。



「ごほんっ!……よいかね?」



重苦しい雰囲気を打ち消すように、咳払いが部屋に響いた。

そちらを見ると、ナギールが紙を持って立っていた。

どうやら依頼書が書き終わったようだ。



「悪いな、任せたままこっちでごたごたして」



「ナギール様、ごめんなさい……」



俺が軽く頭をかきながら謝ったのにたいして、アイリスは深く頭を下げてナギールに謝った。



「なに構わない。もとはといえば、私が依頼したことが発端だからね。アイリスも私のことは気にすることはない」



ナギールは、特に気分を害した様子もなく、むしろ謝られたことに困っているようだった。



「ナギール、さっそくなんだが依頼書を確認させてもらってもいいか?」



「蓮様、それは失礼かと」



ナギールが返事をするよりも早く、ドナスが会話に割って入ってきた。

何気なく言ったつもりだったが、貴族にたいしては失礼になるのかもしれない。


依頼を確認するのは、相手を信頼していないに等しい、とはいえ、一般的に行われている行為でもある。

ナギールは、貴族らしくないとはいえ、貴族であることは間違いない。

俺の言動はよくなかったようだ。



「ドナス、何も失礼なことはない。むしろ普通であることが私には嬉しいのだからね」



「これは余計なことを、失礼しました」



ドナスは深く頭を下げて一歩下がった。本来ならドナスは間違ったことをしたわけではないだけに、申し訳ない気持ちになりつつも、話しを進めることにした。



「なら、確認させてもらうがいいか?」



「もちろんだ。好きなだけ確認してくれたまえ」



そう言ったナギールから依頼書を受けとり、内容に目を通す。

特におかしなところがあるようには思えないが、気になる項目があった。



「この追加報酬ってのはなんだ?」



「おお、それか、この地域では珍しくはない。今回の依頼は群れの討伐ではあるが、知っての通りこの地域は魔物が多く生息する。依頼を1つに絞ってしまっては、無駄な戦闘は避けてしまうだろう。そこで、対象外の魔物であってもそれに応じた報酬を支払うのだよ」



「そういうことか、理解した」



本来なら道中遭遇するの魔物を考慮にいれて、依頼金は決められているが、その場合、当然ながら関係ない魔物との戦闘は誰もが避けてしまう。


ナギールのように、追加報酬という形を設ければ、討伐に余裕があれば狩ってくれるかもしれないわけだ。

魔物が多い地域ならではのやり方ってことか。



「それで良ければ、契約に進みたいがよいかね?」



「ああ、問題ない」



「よし、ではドナス、後はよろしく頼む」



「はい、畏まりました」



ドナスはナギールの言葉を受け、どこからともなく魔導銃を取り出した。

どこにも所持していなかったように思えるが、空間魔器をもっているということか。



「では、こちらをどうぞ」



そう言うと、細い針をドナスは渡してきた。

俺はその針で自分の親指の腹を軽く刺すと、滲み出てきた血液ごと、依頼書に親指を押し付けた。

ナギールも俺と同じ行程を踏んで、依頼書には俺とナギールの血液が赤い染みを作っていた。

正規の冒険者ギルドで軽いものであれば、書名のみの契約もあるが、それには法的な制約はあっても、魔術的な制約は存在しない。


そして、魔物の討伐だと血の契約と呼ばれる、この方法が用いられることが多い。



「では、契約を進めさせて頂きますがよろしいですか?」



改めて、ドナスは俺とナギールに確認を取る。

それにたいして、俺とナギールは軽く頷くことで同意を示す。

それを合図に、ナギールから渡された契約書をドナスは持ち、それに銃口を向ける。



「破れぬ誓いをたてし者よ。その血を証しとし、ここに記す。血の契約」



魔術が魔導銃に記憶され、ドナスは発動の弾丸構築し引き金を引いた。


バンッ!


狭い室内での発砲だったために、かなりの銃声が部屋に響いた。

同時に、銃口から放たれた光の弾丸が、契約書に命中する。

光の弾丸が、契約書を撃ち抜くことはなく、まるで水が紙に染み込んでいくかのように、紙に光が広がっていた。

やがて、紙全体に光が広がると、紙は光の粒子となって粉々に空中に飛散した。

そして、飛散した光の粒子は、俺とナギールの体を包み込み、徐々に光を弱めながら体の中に流れ込んできた。

全ての光が体の中に流れ込むと、何事もなかったかのように、部屋には静けさだけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ