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ゼロのアムニション  作者: ななし
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46話

また二人の言い合いでも始まるかと思って、止めようと思った矢先、ナーレは俺に何か訴えるかのように、真剣な顔でこちらを見た。



「あのねお兄ちゃん。魔導術式だって私の方が上手く使えるんですよ?」



「そうなのか?」



アイリスだって充分な才能をもっていると思ったが、ナーレはそれ以上と言うことか、見てみないとなんとも判断できないが、アイリス以上となると、天才の域に達しているのかもしれない。


こんな辺境な街で、これだけの才能をもった人間がいるなんて、世界は広いようで狭いのかもしれないな。



「ナーレ、あんたまさかっ」



「お姉ちゃんは黙っててっ!私は今お兄ちゃんと話してるの」



いったいどうしたんだ。アイリスが何かに気づいたような反応をしてる。

何か今の会話の中にあったかと考えてみるが、何もわからない。

俺は、怪訝な表情を作ってナーレを見て口を開く。



「何かあるのか?」



「何かあると言うよりお願いかな。お姉ちゃんの代わりに私を連れていってほしいんです」



一緒にではなくアイリスの代わりにか、その様子からして魔物の討伐に興味があるとは思えないし、だとすればそんなことを言い出す理由も限られてくる。

だからこそ、何となくナーレが考えていることがわかったのかもしれない。



「何言ってるのよ!そんなのだめに決まってるでしょ!?」



何て言おうか答えに迷っていると、アイリスが先に話に割って入ってきた。



「なんでだめなの?私の方がお姉ちゃんより上手く戦えるし、お姉ちゃんが行くより私が行く方が、お兄ちゃんだっていいに決まってるよ」



現実的に考えれば、ナーレの言ってることは正論で間違いはない。

それが、アイリスにもわかっているのか、悔しそうに顔を歪めるが、一歩も引く気配はない。



「だめったらだめなのよ!魔物の討伐なんて危ないんだから、わかってるの!?」



アイリスは、必死にナーレを説得しようとしているが、効果があるようには思えない。



「それはお姉ちゃんだって同じだよね?同じなら私が行った方がいいって言ってるんだよ?」



「だからって……だめっだめなものはだめよ!」



正論という刃がアイリスに振られ、反論できる言葉が見つからないのか、幼稚な子供のようにいやいやと拒絶する。

ナーレの言うように、魔物の討伐において、戦闘力は直接戦いに影響を及ぼす。

魔物討伐の安全を考えれば、より強い者同士が組む方がいいだろう。

だけど、誰かと魔物を討伐することにおいて、一番大切なことはそれじゃない。

小数での魔物の討伐の場合、多少の戦闘力の差よりも重要視しなければならないこと、それは、仲間同士の信頼だ。


この信頼ってのは、相手を信用していると言うよりも、如何に相手の性格や戦いかたを理解しているかかが大切だ。


個々の力が秀でていても、信頼がなければ危険を背負って歩いてようなものだ。


それはなぜかは単純明快、戦いにおいてリスクを減らすことは基本中の基本。

相手のことを理解していなかったから、不足の事態が起こる可能性も高くなるし、対応もできなくなる。

アイリスは、戦闘力においては十分とはお世辞にも言えないが、ある程度の性格は把握できてきているし、何より戦いの動きも少しだが見ている。不十分ではあるが、不十分であることを把握できているだけでも大きい。

それに比べて、ナーレのことはアイリスに比べると何もわからない。

戦闘力も未知数でどんな行動を起こすか予測もできない。


もちろん。ナーレの言ってることは正論で、もし出会ったのがナーレの方が先だったら、何の異論を抱くことなくそれを承諾しただろう。

でも、そうにはならなかった。ここはアイリスに助け船を出してやるべきだな。



「ナーレ、悪いが今回の依頼にはアイリスを連れていく」



「蓮っ!」



「……どうしてですか?」



嬉しそうに反応したアイリスに反して、ナーレの言葉が、冷たく感じたのは、おそらく気のせいじゃないだろう。

その気持ちがわかるだけに、それを不快に思うことはない。むしろアイリスの行動を止めることができなくて、申し訳ないくらいだ。



「それは単純だ。俺はナーレのことを何も知らない。今回は5人での行動になるからな。それも3人はおそらく面識もない人だ。その点アイリスのことなら少しは理解しているつもりだからな。だから、ナーレを連れていくことはできない」



「それなら私も一緒にっ!」



代わりに行くのが無理と思ったのか、なんとかついて来ようと尚も食い下がろうとする。

だけど、それに頷くわけにはいかなかった。



「悪いがそれもだめだ。二人を連れていくにはリスクが大きすぎる。正直に言えばどちらを連れていくにしても足手まといでしかない」



「「……」」



足手まといと厳しい口調で言うと、二人は無言で顔を伏せた。



「それでもついてきたいと言うなら、俺には安全を保障する義務があると考える。今回の依頼で俺が安全を保障できるのは一人までだ。それ以上素人を連れて歩くつもりはない」



厳しいようだが、命を預かることになる身としては、言わなければならないことだ。

自分の行動がいったいどんな影響を及ぼすのか、アイリスもナーレもまるでわかってはいない。

素人であれば危機感が薄いのも頷ける。俺だって最初はそうだった。

知識としては危険だと理解していても、初めて本物を前にした時の体を押し潰されるかのような圧迫感は、今でも鮮明に思い出せる。


例え自分より弱い魔物であったとしても、命のやり取りに軽さはない。

常に、重石を背負わされているような気分だ。

回数を重ねれば、少しずつ重さは解消されていくが、それに慣れすぎてしまうと簡単に命を落とすことになる。

常に、怯えることなく程よい緊張感を持つことが大切だ。


まったくの素人を連れて行くからには、その辺りの補助もしてやらないといけない。


素人が魔物を前にして、恐怖心でパニックになることは珍しくない。

正直に言えば、そんな事態に陥ったとしても、ナーレがいたからといって特に支障はない。

それというのも、衛兵がついてくることを考えれば、二人の補助は衛兵に任せてしまえばいい。


それは可能ではあるし、そう考えて実行する奴もいるかもしれない。

だが、今回は俺が個人的に依頼を受けた。つまり、アイリスを連れていくのも、ナーレを連れていくのも俺の判断に任される。

そこで何かあった場合は、全て俺の責任だと俺は考える。


そう考えた時、最悪のケースを考えて、衛兵のことは想定から除外しなくちゃならない。

今回の依頼における、考えられる最悪のケースとは、衛兵が何らかの理由で、アイリスを守ることができなくなったと想定した場合だ。

もし、俺だけしかアイリスを守れなくなったら、ナーレがいると想定すると、安全を保障できるとは言えない。


その理由は、万が一の場合俺が使う武器が刀ということだ。魔導銃なら広い範囲をカバーできるだろうが、刀じゃ守れる範囲が限られてくる。


師匠の刀が唯一記憶している魔術を使えば、その問題は解決されるが、それも今は使うことができない。


切り札が使えない今、どうしようもなくなった場合の撤退を考えると、人一人を抱えて逃げるのが、身動きを縛られないためにもそれが限界だ。


俺一人が保障できる守れる範囲がある以上、ナーレをアイリスと一緒に連れて行くことはできない。

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