表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアムニション  作者: ななし
42/48

42話

「許してくれるか?謝罪で足りないと言うのなら、多くはないが賠償もしよう」



平民に頭を下げた次は金まで出すつもりなのか、このことにたいする口封じともとれるが、ナギールの場合それはありえない。金を出して口封じするなら、初めからやらなかればいいだけだ。

つまり、裏表なく謝罪の意味を込めた賠償ってわけか、これはどうあっても受けとるわけにはいかないな。



「そこまでしてもらわなくても充分誠意は伝わった。許すか許さないかに関しても、初めからナギールにたいして悪く思うところはない」



ナギールの態度を見るに、傭兵が好き勝手にやったと考えるのが妥当だろう。

街の警備の関係上、傭兵にたいして強い態度にでれないのも理解できる。

多くの命を守るために、多少の悪事には目をつぶる。それが正しいのかはわからない。だが、合理的であるのは事実だ。



「そうか、そう言ってくれて安心した。街一つあんな奴等に頼らなければならないとは、我ながら情けない話しだ」



ナギールは、怒りにすら見える悔しげな顔を見せる。

領主としても、あんな傭兵を雇うのは本意ではないらしい。でも、だとすると気になることがある。

ナギールとの何かしらよくない癒着があるのなら、利益の少ないこの街の傭兵仕事を、奴等が請け負っているのも理解できる。

あんな傭兵連中が、善意で利益なしに、雇われ続けているとは思えない。

それに何より、あの傭兵達が来る以前の傭兵はどうしたというか。



「ナギール、それなんだが、あんな奴等が雇われている理由はなんだ?多額の金でも支払ってるのか?」



「ちょっと蓮っ!」



横からアイリスが制すような声が聞こえた。言いようが失礼だと思ったのか、確かに失礼かもしれないが、これはどうしても知っておかなくちゃならない。

奴等の裏が分かれば、アイリスの父親に、多額の違約金が発生する依頼を出した張本人に繋がるかもしれない。

アイリスに時間があれば、ゆっくり周囲から調べていくこともできた。

だが、アイリスはもう奴隷になることが確定している。

だから、悠長にやっている場合じゃない。

仮に、依頼を出した張本人を見つけ出したとしても、支払う金がない現状じゃ、アイリスの身の安全を交渉すりのも難しい。

最短の選択肢を取るのなら、雇い主であるナギールより詳しい人間は、傭兵自身以外いないはずだ。

失礼な発言をしたのにも関わらず、ナギールは考え深げに目を閉じて首を左右に振る。



「何、蓮君の言っていることは、もっともな話しだ。だが、誓って言うが奴等に多額の金を支払ってることなどない」



「なら奴等はなんであんたに雇われてこの街に居続けている?」



ナギールは、深く息を吸い込んで、それをゆっくりと吐いた。



「……わからないんだ」



「わからないだと?」



「そうだ。奴等がこの街に来た理由も、なぜ少ない金額で雇われているのかもわからない」



「ちょっと待て、ナギールは奴等の雇い主だろ?まさか素性もよくわからない傭兵を雇ってるのか?」



街を守られせるからには、素性を知るのは最初にやるべき行為だ。

傭兵のなかには、元盗賊なんて人もいる。それならまだいいほうだが、悪ければ暗殺者が傭兵に紛れていることだってありえる。

そんなんじゃ、いざというとき信用にも欠ける。

それなのに、ナギールはそれを良しとしたと言うのか。



「疑問に思うのも、不信に思うのも当然、しかし、仕方がなかったのだ」



「仕方がなかったってどういうことだ?」



「うむ、あれは奴等が傭兵としてこの街に来てすぐだった。昔からこの街を守ってくれていた傭兵が、何の断りもなく街から去っていったのだ」



「……それをわかっていて雇ったのか、おかしいと思わなかったのか?」



もしそれが本当なら、奴等がここに来たのは偶然とは考えられない。

奴等が来た時と傭兵が去った時とが重なっているのなら、そこに何かの関係性があるはずだ。

その可能性をナギールが見落としていたとは思えない。



「もちろん怪しいのはわかっていた。怪しいとは分かりつつも、街を守るためには雇うしかなかったのだ」



街を守るために、それは理解できる。だが、それは問題を先伸ばしにしているに過ぎない。

奴等の裏に何かがあるとわかっているのなら、その何かが済んでしまえば、簡単に裏切ることもあるということだ。

もし、そうなれば、どれだけの被害が街に及ぶかもわからない。



「……その様子だと、奴等の調べはついていないんだな?」



奴等が来てからそれなりの年月がたっている。なのに、ナギールは奴等に関してわからないと発言した。

これはつまり、これだけの年月があって、なんの情報も掴んでないということ、奴等が有能なのか、それとも……。



「恥ずかしながら蓮君と言う通りだ。奴等の素性を調べても何も出てこなかった」



「なら、アイリスの父親に依頼を出した奴が誰なのかもわからないんだな?」



「……残念ながらわからない」



「……そうか」



考えうる限りの最悪の結果だ。領主であり、雇い主であるナギールがわからないとなると、知っているのは傭兵達だけということになる。

けれど、ナギールが数年かけてわからなかった情報を、奴等が簡単に掴ませてくれるとは思えない。

ナギールに会って何か手掛かりでもと思っていたが、いきなり暗礁に乗り上げてしまった。

時間は残り少ない。なんの手掛かりもなしに、依頼人まで辿り着くのは不可能だ。

残された可能性としては、傭兵を締め上げて無理矢理情報を手に入れるだが、そんなことをすれば、街の警備がどうなるかがわからない。

下手に嗅ぎ回って刺激すれば、街に大きな被害が及ぶかもしれない。

拳を床に叩きつけたい衝動を、歯をくいしばって堪える。

出会いの遅さを後悔すればいいのか、ナギールに調べが足りなかったんじゃないかと不満を感じればいいのか、それとも、自分の力のなさを嘆けばいいのか、俺はどうしたらいい。これからどうするべきか、答えがあるなら誰か教えてくれ。



「顔色が悪いが大丈夫かね?」



「……ああ、大丈夫だ」



表情にでるくらい酷い顔でもしていたんだろうか、活路の見えないこの状況じゃ、それも仕方がないのかもしれない。だが、嘆いてばかりもいられない。

結果としては最悪の結果ではあったが、まだ最後の望みはある。

完全な奴隷堕ちまでに、依頼人を発見するのは絶望的だが、アイリスが奴隷になった後なら、必ず相手から何かしらのアクションがアイリスにあるはずだ。

狙うとすればその時しかない。それでも交渉が上手く行くかはわからない。

一番いいのは、交渉の必要がないくらい、待遇のいい相手ってことだが、こんな違約金をかける奴がまともだとは思えない。

最悪の場合実力行使も検討する必要があるかもしれない。

そんなことをしようとすれば、アイリスは止めようとするかもしれないが、味方でいると決めたからには、最後まで味方を貫かせてもらう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ