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ゼロのアムニション  作者: ななし
17/48

17話

「つまりこれは……神に近づきし遺産……神器ってことか」



アイリスは開いた口が閉じなくなったのか、氷像のようにフリーズしてしまった。



「よくわかったの?ほっほっほっ」



俺達の反応を見て機嫌が治ったのか、じいさんはつっかえ棒が外れたように笑った。



「わからないわけないだろ。通常の空間魔器ならさっきじいさんが放り入れた物を俺も取り出せたはずだ」



「その通りじゃ、その神器は人の魔力を認識して本人でしか出し入れできぬ空間を造り出す。驚いたかの?」



「確かに神器があることには驚いたが、これの効力は他の奴に自分の物を取られる心配がないってことなんだろう?あれば嬉しいが神器なんて代物買えるほどの金は持ち合わせちゃいないぞ」



「じゃろうな。この神器でも値段は580金貨はする。お主が欲している通常の空間魔器ならば25から30金貨が相場じゃ」



神器は代えのきかないものなだけに、金額はどうしても高くなってしまう。

どこかの金持ちなら喜んで買うんだろうが、俺には通常の空間魔器で十分だ。



「悪いが俺にはそんな金額は払えない。それしかないなら今回は諦めるよ」



荷物はかさばってしまうが、ないものは仕方ない。

次に大都市にでも行った時に買えばいいだろう。



「何か勘違いしておらんかのお主、わしはこれを初めから売るつもりなんぞない」



「どういう意味だ?」



「それは若い頃のわしがあるオナゴに借りた物での、自分に一撃でも攻撃を当てられるようになったら返しにこいと言われた物なんじゃ」



「一撃ってじいさん戦えるのか?」



見たところかなり体も小柄で、一撃どころか少し激しく動いたら骨でも折れそうな感じだ。



「戦えはするがもう若いときのようにはいかん。最近は強くなるどころか衰えていく一方じゃよ」



「それじゃそれは返せないってわけか、そんな代物誰に借りたんだ?」



神器なんて代物をおいそれと人に貸すなんてまともな奴とは思えない。

それこそ借りたまま逃げるなんてこともできてしまう。

このじいさんは理由は違えどこの歳になるまで借りたまま

なわけだしな。



「自分より弱い者に名前は名乗らないと言われてな。名前まではわからんのじゃ、ただ綺麗な金髪に幼いながらも妖艶な姿が印象じゃったの」



「幼い?じいさんは子供に負けたのか?」



「信じられんかもしれんがの、わしが負けたのは12歳くらいの少女じゃった」



じいさんが当時どのくらい強かったかは知らないが、12歳の少女が戦いに覚えのある大人を倒せるんだろうか、想像すると凄い光景だな。



「じいさんが言ってることが事実だとして、売り物じゃないなら何で出したんだ?」



「お主の態度が気に入らなかったから驚かせてやろうと思っての」



「性格の悪いじいさんだな」



じいさんの思惑にまんまとのせられてしまったわけか、まさか神器が出てくるとは予想できるはずもない。



してやられてしまったのは不本意だが、いい物を見れたんだからよしと思うしかないな。



「褒め言葉として受けとるかの、それよりそこで固まっとるアイリスをいいかげんなんとかせんかい」



じいさんにそう言われてアイリスを見ると、時が止まったかのように固まったままだった。


やけに静かだと思ったら驚きすぎて脳が処理しきれていないのか。



「おい、アイリスしっかりしろ」



アイリスの目と端の先で左右に片手を振る。

だが、それでも現実に戻ってきていないようだった。

俺は仕方なくアイリスの額にデコピンをかます。



ゴスッ



「いたっ!なっなに!?」



我ながら鈍くて痛そうないい音がしたな。


アイリスは何が起きたのかわからないようだが、額の痛みは襲っているようで、額を手で押さえて涙目になっている。


アイリスの姿に完全に気を抜いていた瞬間、ふと心臓を鷲掴みにされるような悪寒が全身に走る。



「ん?……そんなとこで呆けてないで用は済んだから出るぞ」



俺は嫌な予感を感じて慌てて神器をじいさんに返して、アイリスの返事も待たず店の扉に手をかける。



「ちょっちょっと待ちなさいよ!」



店を出た瞬間全身を支配していた悪寒が緩和された。


けれど、間違いなく誰かに見られている視線を感じる。


俺は警戒しつつ背後からアイリスが呼び止める声に外から振り返って見ると、ちょうどアイリスがじいさんに頭を下げているところだった。



「早くしないと置いていくぞ」



「待ってって言ってるでしょ!?」



アイリスは慌てて駆け寄ってきた。



「そんなに慌てて出なくてもいいじゃない。どうしたのよ急に」



「いいかそのまま俺だけを見ていろ。絶対に辺りを不自然に見回すな」



「なっ何よ急に、俺だけを見てろなんて言われても困るわよ……いっいやってわけじゃないのよ?でもほらなんて言うか……」



何でこの状況でアイリスが真っ赤な顔になっているのかは理解できないが、どう見ても冷静には見えない。



「なんだか知らないが落ち着け、誰かの嫌な視線を感じる。どんな状況でも魔装術式を使えるように覚悟しておけ」



「……!わっわかった。それ以外で私にできることはある?」



そんな不安そうに俺を見上げなくても、今は見捨てたりするつもりはないんだけどな。



「ともかく自然振る舞うことを心掛けろ、これからあの先にある細道に入って誘い出す。アイリスは俺の背中について離れるな」



「わかった。蓮無理はしないでね?」



「誰の心配をしてるんだ。アイリスは自分の心配だけしてろ」



「べっ別に言ってみただけよ!勘違いしないでよねっ!ふんっ!」



なぜか怒ったようだが緊張は取れたみたいだな。

本当ならアイリスを逃がしたいところだけど、相手の人数がわからない以上一人にさせるわけにはいかない。


だいたい相手が俺とアイリスどちらが狙いなのかもわからない。


下手に別行動をとって狙いがアイリスだった場合は、最悪の結果になる可能性がある。



「よし、細道に入るぞ」



細道に入ると人通りはまったくなかった。

これなら相手がこの土地の地理に詳しい場合は、人気がないことは知っているはず。


アイリスを庇うように前に出て、誘いに乗ってくるのを待つ。


悟られるのを避けるためにギリギリまで魔装術式は発動させない。


気配が着実に近づいてくる。



(来る!)



気配に混じった殺気を敏感に肌が感じとる。

輪せい体制をとり魔装術式を発動……。



直後、嘘のように気配が拡散して消え去った。



「……気配が消えたな……尾行がバレたことに気づいたか?」



土地勘のある奴かはわからなかったが、こちらの意図に気づいたからには、素人じゃないのは間違いない。


それどころか俺の一瞬の魔装術式に感ずいたとするなら、並みのやつではない。



「蓮……もう大丈夫なの?」



「ああ、少なくとも目の前の危機は脱したみたいだな」



何が目的だったのかはわからないが、遠ざかったことは間違いない。



「よかった……はぁ……」



アイリスは胸を撫で下ろして両手を膝についてしまった。


深い息まで吐いて余程緊張していたんだろう。


自分の感覚で行動してしまい少し配慮が足りなかったかもしれない。



「緊張して喉が渇いたろ?買い物は後にしてどこかで飯にしないか?」



「……蓮言いにくいんだけど、私そんなにお金もってないんだよね……」



申し訳なさそうにアイリスはするが、これは俺が無神経だった。



「ごめん。お詫びと言っちゃなんだが、俺に奢らせてくれ」



「そんな蓮に悪いわよっ……それにつけられてたばかりなのに大丈夫なの?」



「いつもより警戒はするが、気配は感じないし大丈夫なはずだ。金に関しては気にするな、元々俺の金でもないし一人で飯を食うのも寂しいからな。付き合ってもらえるとありがたいんだが駄目か?」



俺が困った顔でアイリスにお願いすると、たぶん俺より困った顔をアイリスは見せた。



「そんなお願い卑怯じゃない……わかったわよ……付き合えばいいんでしょ?」



「そうだ。寂しい俺に付き合ってくれ、とは言っても俺はこの土地には詳しくないから、美味しい店なんかに案内はしてやれない、出来れば案内も頼む」



「はいはい、じゃあ少し遠くなるけど美味しくて綺麗なお店があるからそこに行かない?」



「聞かれても俺にはわからないからな。任せる」



アイリスの店で食べられないかとも考えたが、あの様子だと食材が用意されているようには見えなかった。


そりゃお客さんが来ないのに、食材だけあったって腐らせるだけだから仕方ないだろう。


俺達はしばらく街の様子を眺めながら歩いた。

時折俺が気になる店があったりしてなんの店なのか聞いたり、たわいもない話をして歩いてるだけなのだが、それなりに充実した気分だった。

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