14話
「なによ、教えてくれたっていいじゃない」
アイリスは拗ねたように口を尖らせる。
「話すようなことじゃないんだ」
「まっ別にいいけど、ならさ蓮のことを教えてよ」
「俺のこと?何も面白い話なんてないぞ」
俺のことなんか知ったって何も面白いことなんてないと思うが、いったい俺の何が興味を引いたのかわからない。
「蓮に面白い話しなんて期待してないわよ。蓮は名前からして東から来たの?」
「さらっと酷いこと言ってないか?まぁいいが……アイリスの言う通り俺は東の火ノ国から来た」
「火ノ国!?随分遠くから来たのね……なんでそんな遠い国からこんな場所に来たの?」
「ここにいなくなった師匠が居るかもしれないと思ったからだ」
「さっきから聞いてると蓮の師匠はどこにいるのかわからないの?」
アイリスは不思議そうに首をかしげる。
無理もない俺だって不思議なくらいだ。
「ああ、突然何も言わずに居なくなってしまった。俺にとって師匠はこの世で唯一全てをさらけ出せる大切な人なんだ」
親であり師であり俺に進むべき道筋を示してくれた恩人でもある。
自分のことに精一杯で、何も返せていなかったことに、師匠がいなくなって初めて気づかされた。
受けた恩を返すまでは、探さないわけにはいかない。
それに、努力することしか知らない俺は、師匠なしじゃ自分が何をしたいのか、何をするべきなのかもわからない。
師匠は、いずれお前にも暗闇でもがぐだけじゃなく、生きることの意味、そして大切なものが見つかるって言っていたが、未だにそれがなんなのかは見つかっていない。
「ふーん……そうなんだ。ねぇ蓮その師匠って女の人じゃないよね?」
なんでそんなこと聞くのかはわからないが、アイリスはなんで不安そうな顔をしているんだろうか、特に不安にさせるようなことは言ってないはずだ。
「いや、男だぞ?名前からして女はないだろ」
「そっそうよね。なら蓮は師匠を探してここまで来たのね」
「ああ、だから領主に会えるなら師匠のことを聞いてみようと思ってる」
「そうね。領主様なら何か知ってるかもしれないし、見つかるといいわね」
「だといいんだがな。まぁそれには領主が俺に敵意を向けていないのが絶対条件だが」
会えたはいいが捕まえようとされたり、最悪殺されそうになるなんてのは勘弁だ。
「それは大丈夫だって言ってるでしょ?蓮は心配症ね」
アイリスはそう言って呆れた顔をするが、あんなことをしたんだから心配するなと言うのが無理な話だ。
「直接見ているアイリスのことは信用しているが、領主は信用していないからな」
人から見た印象ほど信用ならないものはない。
そのてんアイリスは敵意がないくらいの信用はしている。
「わっ私のことは信用してるんだ……そっか……」
何か気にさわることでも言ってしまったのか、アイリスは顔をうつ向かせてしまった。
下を向いているから顔色はうかがえないが、怒ってる感じではなさそうだ。
「まぁどちらにしても明日領主に会えないことには始まらないな」
「それは私に任せておけば大丈夫よ!ねぇ、それより火ノ国にってどんな国なのか教えてよ」
アイリスは自信満々に腰に手をあてて胸を張るが、すぐに前のめりになって質問してくる。
さっき胸に注目されたことをすっかり忘れてやがる。
「火ノ国?そんなこと知ってどうするんだ?」
「何かするわけじゃないけど、私いつか冒険者になりたいのよ。でもここから出たことないから、他の国のこととか知っておきたいの」
やけにキラキラした目で語っているとこを見る限り、本当に冒険者になりたいんだろう。
見た目からするとまったく合ってない職種に思えるが、あれだけの魔装術式が使えるなら、武器さえもてば冒険者としてもやっていけなくはないだろう。
「火ノ国か……もし冒険者としていつか旅に出るつもりなら期待を壊すようで悪いが、遥か昔なら違いもあったかもしれないけど、他種族との交流が当たり前になってるこの時代に文化てきな違いはあまりないぞ」
「そうなの!?東って木造の家が建ち並んでて、未だに刀を持った人達が沢山いる国なんじゃないの?」
「なんだその偏った知識は、いつの時代の話をしてるんだ。この時代に刀を好き好んで使ってるやつなんかいるわけないだろ?現存している刀は殆んどないに等しいぞ」
刀を使っていた時代なんてのは数万年も前の話だ。
東の国は最も遅く刀から銃へと移り変わった国ではあるが、遥か昔の話だ。
この時代に刀を持っているやつなんてまずいない。
どこかの変わり者がコレクションで飾ってくるくらいのことはあるかもしれないが、わざわざ敵に近づかなければならない危険を犯してまで、実戦で使っている人間はまずいないだろう。
俺と師匠は例外としての話だがな。
「そうなんだ……なんだかがっかりね。なにか違いはないの?」
「そうだなぁ……違いがあるとすれば食の違いはあるな」
「なになに、何か珍しい食べ物でもあるの?」
ついさっきまでがっかりしたふうだったのに、途端に笑顔になって切り替えの早いやつだ。
「こっちの地域じゃ小麦粉を使ったパンが主食だと思うが、東に行けば主食は米を使った白飯ってのが主食なんだ」
「白飯?聞いたことない食べ物ね。どんな食べ物なの?」
「どんなってそうだな……あっ、なんなら東からもってきた米があるんだが食うか?」
密閉した容器に入れておくと腐りにくいし、パンばかりだと米がほしくなると思って、革袋に栓をして持ってきたんだが、興味津々のようだし食べさせてやろう。
「いいの!?ねぇ見せて見せて!」
アイリスは嬉しそうにしながら、こちらに飛びかかりそうな勢いで、身を乗り出して来る。
「わっわかったら少し離れろ。これだよ」
俺はそう言って腰から下げていた革袋を取りだし、栓を抜いて手のひらに米を少し溢す。
「これが米?……言ったら悪いけど固そうで美味しくなさそうなんだけど……」
期待が大きかったぶん見た目が期待を下回ったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「このまま食うものじゃないんだ。水でといてから鍋入れた水に浸して火にかけで蓋をして炊くんだ」
「水で炊くだけ?そんなので美味しくなるの?」
疑いの眼差しを向けられているが、炊けたらびっくりするだろうな。
「美味しいかどうかは好みによるだろうが、少し調理場を借りたいんだが後鍋はあるか?」
「私のとこがお店ってこと忘れてない?鍋くらいあるわよ。調理場を使うならこっちに回ってきてくれる?」
「そっちにか?わかった」
俺はアイリスに言われるままカウンター裏に入っていく。
「熱を出す魔器ならそこにあるから好きに使って」
アイリスはそう言って四角い魔器を指差した。
この魔器は火を出すタイプではなく、これそのものが上部のみ熱をもち、上に乗せたものを熱する魔器だ。
火を出す魔器に比べて火事を起こす心配はないんだが、割高なため使う人は少ない。
「いい魔器を使ってるんだな」
「それはパパがママと結婚した時に、冒険者仲間にプレゼントされたやつらしいわよ」
「なるほどな。まぁ遠慮なく使わせてもらうよ」
アイリスが用意してくれた鍋に俺は米をいれ、水を出す魔器を使い水を入れ米を洗った後、水に浸けて四角い魔器の上に乗せ蓋をする。
「これでしばらく待てば炊き上がる」
魔器に触れて魔力操作で熱量を操作する必要があるんだろうが、上手い炊き方の知識なんて俺にはないから、そんなことはしない。
そんなこだわりもないし炊き上がりさえすれば問題ない。




